銀座線、丸の内線など都心部の地下鉄9路線、195.1キロを運営する東京地下鉄株式会社(東京メトロ)は2月25日、路線延長の85%を占めるトンネル部分の検査にドローンを活用する様子を報道陣に公開した。ドローンの導入は検査の効率、安全性、質の向上を目的としていて、すでに半蔵門線で導入。2020年度に丸の内線に拡大し、順次9路線に拡大する。活用するドローンは独自開発のマニュアル操縦機で、運用は専門業者に委託するのではなく、東京メトロが社内で運営者を育成する。
説明会とデモフライトは、東京・新木場にある東京メトロの研修センターで行われた。センター内の訓練用トンネルでドローンを飛ばし、機体に搭載したカメラがとらえた映像を確認する様子を公開した。
東京メトロは、今年2月6日に半蔵門線でドローンによる点検を導入した。ドローンが活用されているのは、トンネルの維持管理に必要な「検査」「計画」「補修」の工程のうち「検査」のプロセス。特に、換気用の通気口となる「開口部」やトンネルを掘削するシールドマシンの発着箇所となる「立坑」、シールドトンネルの頭上にあたる「トンネル上部」といった、肉眼での確認がしにくい場所の検査がドローン活用の対象だ。4月からの新年度には丸ノ内線にも活用範囲を広げる。
検査では、ドローンを飛ばして、搭載したカメラの映像で劣化、損傷の有無を確認する。肉眼で見る必要があると判断した個所に限り、足場を組んで、追加で点検する。これにより経費節減、安全確保のほか、検査対象データの質的向上が期待できる。時間の短縮も期待されるが「現時点では検査に限れば、ドローンのセッティングなどを含めると時間短縮ができているとはいえない。それでも後工程のことまでを総合的には短縮されると見込んでいる」(東京メトロ工事部土木課の今泉直也課長補佐)という。
検査で使うドローンは、市販の完成機ではなく、パーツのすべてを独自に選定して組み立てた。カーボンやカメラ固定用パーツなど一部は、独自に設計して3Dプリンターで出力したものを用い、これに市販の球状に覆うプラスチックのガードを取り付けた。ドローン本体の対角寸法は22センチ、フレームを含めると直径40センチ、フレームを含めた重さは1.15キログラムになる。GPSは非搭載でマニュアル操縦が原則だ。電波は1キロメートルまで届き、1回の充電で最大5分の継続運用ができる。開発費、製作費は約30万円だ。
東京メトロの今泉課長補佐は、「ドローンの活用にあたり、市販機を含めて何を使うかを比較、検討した結果、価格や性能などから今回の方法になった」と話している。
検査へのドローン活用については2018年12月から検討を開始。2019年4月から課題を洗い出し、実験をやドローンの試作を繰り返してきた。機体開発や運用にあたっては、ベイシスコサルティング株式会社(東京)、東京大学大学院情報学環ユビキタス情報社会基盤センターが協力した。
ドローンの操縦者は、東京メトロが社内で育成する。2019年度に5人の社員をパイロットに認定し、2020年度以降に増やす。育成にあたり、日本を代表するFPVドローンレースパイロットで、株式会社GJMの後藤純一代表が研修を請け負う。後藤さんは「社内でパイロットを運用することを決めたことは東京メトロの本気度の表れ。今後、ドローンの運用を社内で担う事業者が増えれば、ドローンの産業利用がさらに進むと思う」と話している。
同時に、トンネル検査以外での活用も見越して自律飛行ドローンの開発も進めている。自律飛行ドローンの開発には、本郷飛行機株式会社(東京)が協力している。さらに巡回警備などへの活用法も模索している。
地下鉄でのドローン活用については、御堂筋線、四ツ橋線などを運営する大阪メトロも株式会社アイ・ロボティクス(東京)とマイクロドローンを活用した点検に乗り出している。屋内、地下、狭小・狭隘空間でのドローン活用は徐々に広がりを見せている。