東日本電信電話株式会社(NTT東日本)、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)などは12月20日、埼玉県本庄市で地域に住む65~74歳のリタイヤ層を対象にしたドローンの教習の様子を公開した。NTT東の健康増進の実験の一環で、ドローンの操作に伴う思考、行動、感情が健康増進に役立つ可能性があることに着目した。参加した13人はインストラクターの助言に注意を傾けながら、和気あいあいと滑らかに動かす技を身に着けるべくスティックと格闘した。
この日の取り組みは「シニア受講生によるドローン操縦技術発表会」として公開された。実施したのはNTT東日本埼玉事業部、本庄市自治会連合会、国立大学法人筑波大学、一般社団法人日本UAS産業振興協議会。JR八高線児玉駅に近い民間企業の敷地を借りて行われた。教習機体はParrotのANAFI。ブルーイノベーション株式会社のインストラクターが講師を務めた。本庄市の吉田信解市長も会場を視察に訪れ、参加者が楽しそうに練習している様子に目を細めた。
参加者は、会場に設置された画像をドローンに搭載したカメラでとらえることを目標にドローンを飛行した。現在、この地域でボランティアにより人手で行われている防犯活動や、環境美化活動をドローンで代替することを想定したという。
参加者の一人で元市役所職員の加藤典義さん(70)は、「話を聞いて新しいことができるチャンスと思って参加しました。市役所では主に建築関係を担当していたのですが、たとえば外壁や屋根の点検をドローンですることができるといいですね。ただ、これまでの実感としてはまだまだ。対象物との距離を一定に保つのが難しい。点検するなら、そこまでいかないと。でも飛ばすのは楽しいです。大学のときにグライダー部に所属して、空を飛んでいたので、飛ぶことと高いところは大好きなんです。これからがんばります」と話すと、軽快な足取りで、真剣なまなざしを携えて再び練習に戻った。
一連のカリキュラムを終えると参加者には終了証が手渡された。目的は操縦の手ほどきで、12月に国家資格化された操縦ライセンスの取得とは直接には関係はない。このため地域貢献のために飛ばすとなると、必要に応じて個人で操縦ライセンスを取得するか、関係機関に必要な申請をして飛ばすかする必要がある。
この実験はNTT東日本が、健康長寿研究で知られる久野譜也筑波大学大学院教授に相談を持ち掛けたことがきっかけで実現した。久野氏から吉田本庄市長を紹介され、シニア人材の構成比が高い自治会組織とも連絡を取り合い本庄での実施が決定。11月9日にJUIDA、NTT東、筑波大、本庄市自治会連合会の4者で共同実験協定書にサインした。これに基づき自治会が65~75歳の参加を募ったところ、13人が参加を表明し、11月下旬から知識や操作技術の習得に励んできた。
NTT東埼玉事業部の林若菜主査は「注目したのは、ドローンを使う際にどこを飛ばすかを考える思考、飛ばすために外出する行動、操作のための手先の活用、目標を達成した場合の感情の動きなどが期待できる点です。これらが健康長寿に役立つと考え、今後分析を進めます。そしてドローンを飛ばせることで地域で課題解決のプレイヤーとなりうるかどうかも検証します」と説明した。
本庄市自治会連合会の岩上高男会長は「ドローンの実証実験をやりたいという話しが持ち掛けられたときには、なぜ自治会連合会にドローンなのか?と思いました。しかし考えてみると、リタイヤした人の集まりが自治会連合会でもあるといえます。NTT東として取り組むのは今回が初めて、という話も伺い、取り組むのであればなんでも一番がいい、という思いで賛同しました。今後地域にどのように役立てるのかが楽しみです」と期待を述べた。
視察に訪れた吉田市長は「会社でリタイヤされた方々の集まり、と言っても自治会の果たす役割は地域にとってとても大きいのです。本庄では防犯パトロール、街路灯の点検、見守り、ゴミ出しのほか、伝統行事を守ることも自治会が大きな役割を担ってくれています。自治体連合会の岩上会長も行事を守っておられます。地域をよくするベースが自治会です。ドローンを使うことで、自治会活動の革命が起きることを期待しています」と自治会の重要性を説いた。
JUIDAの岩田拡也常務理事は「ライト教育」と明記してあるパネルを示しながら、「JUIDAは全国にスクール網をはりめぐらしパイロットを輩出しております。基本的な教育やプロフェッショナル向けの教育を展開しておりますが、今後は、生活の中で役立つ使い方に関するレクチャーにも取り組んでいきたい。その取り組みの第一歩が本庄です」と今回の意義を強調した。
NTT東日本の佐々木達也課長は埼玉事業部には新しい技術を活用してビジネスモデルをつくることをミッションにしているチームを持っています。ドローンに限らず、こういうことができるのではないか、と仮説をたて、実験をつうじて社会実装、サービス化などを考えている。生活スタイルに変化はあるのか、などが仮設を少しずつ検証しています。分かってきたことを改めて報告したい」と話した。
シニア世代からドローンの担い手になる動きは全国で進んでいる。消防、警察、自衛官のOBや、農業従事者、測量経験者、森林事業者など、ドローンに期待される職務を現役のときに経験していたリタイヤ層が多い。NTT東の取り組みが軌道に乗れば、高齢者層へのドローンの普及を後押しする可能性がある。今後、筑波大と効果の検証を進める考えで、その効果に期待が寄せられる。