福島県は7月30日、福島県南相馬市の福島ロボットテストフィールド(RTF)で消防担当者向けに水中ドローン講習を行った。会津若松消防本部、須賀川消防本部、喜多方消防本部など福島県内の担当者らが知識と技能を身に着けた。講習は一般社団法人日本水中ドローン協会を運営する株式会社スペースワン(郡山市)が担った。参加した消防職員は所属先で身に着けた技能を活用する方策を探る方針だ。自治体が主導した水中ドローンの講習は珍しく、激甚災害が増える中でこうした講習需要が拡大する可能性がある。
講習は、水中ドローンの機体や運用に関する知識を身に着ける座学と、目的に応じた運用方法を学ぶ実技に分けて行われた。座学ではスペースワンのインストラクター、井東恭彦さんが講師を務め、水中ドローンの種類、歴史、ルール、用途、整備、今に水中ドローンにできること、できないこと、開発の状況などを体系的に整理して伝えた。
水中ドローンは空を飛ぶドローンと異なり、運用にかかわる法律は存在しないが、海上衝突予防法、河川法など運用場所に応じた法律があり、運用者はそれを確認、遵守しないといけないことが伝えられると、参加者はさっそくメモをとったり、配布された資料に線をひいたりした。
また参加者が消防職員であることから、運用現場を想定して、水面より上の空間で使えるGPSと、水中で機能するソナーを組み合わせて水中の対象物の位置を座標で推測する方法や、水中ドローンに備わっている機能をそのほかの通信技術と組み合わせることで、操縦者と他の地点とで映像を共有することが可能になる事例などが紹介された。
水中ドローンの動きについても実践を想定。「新しく開発された機種の多くは、機体の動きを6軸で制御できることをため、どの方向にも向けることができます。たとえば要救助者を確認するために機体を対象物に向けたまま維持することもできますし、海底の捜索をするため機体のカメラを真下に向けたまま移動をさせることもできます」と話すと、受講者が大きく首をたてにふるなど可能性を感じた場面も見られた。
さらに運用については原則3人体制であることを推奨していると説明。3人は操縦、補助、監視で、「補助者が非常に重要、ケーブルの出し入れ次第でトラブルの原因になりえます。ケーブルさばきが運用の巧拙が決まるといっても過言ではありません」とその理由が説明された。
また運用時に必要な準備も紹介した。そのうちのひとつがレジャーシートで井東さんが「機体は砂鉄をまきこんで錆びるとモーターがあっというまにダメになります。機体は砂浜におくとそれだけで砂鉄を巻き込みます。レジャーシートがあると、それを防げます。私も壊したことがあるので、利用をお勧めします」と体験談をまじえて分かりやすく説明した。
トラブル事例として、水槽の点検で、水槽内の突起物にケーブルがまきついてしまったことなどを紹介。具体例として映像で水中ドローンが航行中に海底の障害物にケーブルがからまったときの映像を投影した。映像では、別のドローンがアームを搭載して遭難ドローンに向かわせ、ひっかかっていたケーブルをとりはずして、救出に成功した。このほか養殖場で沈んだ魚を取り除く作業にも活躍する様子が紹介された。
また後半はRTFの屋内水槽試験棟に移動し、30m×12m×水深7mの大水槽で水中ドローンの操作を体験した。参加者は3班に分かれ、各班にスペースワンのインストラクターがつき、電源の入れ方、コントローラーの扱い方などのほか、空を飛ぶドローンと異なり、水中ドローンはケーブルにつながれた機体として操ることになるため、ケーブルの出し入れを管理する補助者が、操船の巧拙や、目的の遂行を大きく左右することなどの説明がされた。
ひととおりの扱い方を学んだあと、機体を進水。水槽の底に向かって沈ませる潜行をし、一定の深さに到達したらその姿勢を維持したままスライドするように横移動、その後右旋回をしたり、船の底を潜り込んで点検するように機首を水面にむけて仰がせたり、また、その姿勢を維持して移動をさせるなど、実践を想定した操作を体験した。その間、機体の深さを読み取るなど補助作業の重要性も体験した。
電波を通しにくい水中で、障害物や対象物を探り当てるときに役立つソナーの使い方も体験。ソナーの特性として、表面の固いものと柔らかいものとで反応が異なることを学んだ。
参加者の一人は「河川や湖沼などの水難事故で捜索などに役立つのではないかと感じた。所属先に戻ったあと活用法などを検討したい」と話した。スペースワンは「日本は海洋国家でもあり海を含む水中移動は災害対策、産業振興などに重要度が高まる見通しです。水中ドローンの普及や、運用できる人材の育成を通じて課題解決などに貢献していきたいと考えています」と話している。