KDDI株式会社(東京)、株式会社KDDI総合研究所(埼玉県ふじみ野市)、株式会社プロドローン(愛知県名古屋市)は2021年12月14日、水中ドローンを空のドローンで潜水場所まで運び、モバイル通信を使って遠隔操作するシステム「水空合体ドローン」のデモンストレーションを横浜市の海洋レジャー施設、「横浜・八景島シーパラダイス」で実施した。水中ドローンを抱えたプロドローン製の機体が自動で離陸、着水し、その後離陸地点まで帰還した。報道陣はその様子をカメラに納めた。雨天の中で安定して飛行し、水中ドローンの活動範囲拡大の可能性を示した。一方、バッテリー交換作業でトラブルが生じ予定の一部を取りやめており、人が関わる作業の重要性と改善余地を浮き彫りにした。
デモは、パークの海に触れ合う施設「うみファーム」で行われた。水際に設けられたポートから、水中ドローンを抱えたドローンが自動で離陸し、5mほど浮上して水面を10メートルほど進んで着水する様子が披露された。着水した機体はプロペラを停止してしばらく水面に浮かんだのち、再び起動、離陸し、離陸地点に帰還した。雨が降る中で安定して飛行した。
「水空合体ドローン」は空、水中の2つのドローンを一体化させた機体とそれを制御し、撮影した映像をリアルタイム伝送するシステムだ。プロドローンが開発した空飛ぶ機体と、QYSEA社の水中ドローンのカスタマイズ機を組み合わせた。字面で間違いやすいが、ひとつの機体が飛んだりもぐったりする水空両用機ではない。
開発の原点は水中ドローンの活躍範囲の拡大だ。水中ドローンには、生身のダイバーの代わりに水中の様子を確認する機体として、漁場、発電設備、ダム、上下水道の点検などで用途が拡大している。一方で、水中ドローンの操作はケーブルのつながっているコントローラーを使う必要がある、行動範囲に制約がある。沖合の水中を点検するには、船で目的地付近の水域までこぎだし、点検ポイントについたところで水中ドローンを潜水させる。潜らずに済むとはいえ、水域まで船で人が出向く手間を省くことが、水中ドローンの運用で課題となっていた。
水空合体ドローンはその課題解決を目指した。操縦者はドローンで点検したい水域までドローンを飛ばし、目的地で着水させる。着水後、水中ドローンが切り離され対象を点検する。水中ドローンの位置は音響測位装置の情報で確認できる。水面で待機する空のドローンとケーブルでつながっていて、水中でとらえた映像は空のドローンを経由して、操縦者の手元やモニターなどにリアルタイムに中継できる。水面で待機しているドローンとつながるケーブルは、たわみ過ぎないようきとれるウィンチを備えている。また水面で待機している飛ぶドローンも、潮の流れで位置がずれないように制御できる。このため原則、1人での運用が可能だ。
水空合体ドローンには、モバイル回線を利用して遠隔操縦と遠隔監視による目視外飛行を行うKDDIのスマートドローンの技術を使った。KDDIの松木友明氏(事業創造本部ビジネス開発部ドローン事業推進グループマネージャー)は、用途として養殖場の監視、洋上風力発電所の水中設備点検、海洋の二酸化炭素吸収量測定などを挙げ、「問い合わせも多く、ポテンシャルがある」と話した。
水空合体を可能にした技術として欠かせないのが空のドローンが水中ドローンを抱える仕組みだ。空のドローンは床下に水中ドローンを抱える専用のケージをつけた。このケージが着水後に開き、水中ドローンが潜水する。両機をつなぐ直径1.2mmのケーブルをウィンチでまきとることで水中ドローンの回収もできる。このケーブルには3本の電線が通っており機体操作、水中映像伝送の成功につながった。
なお空中ドローンは15分飛行可能で、8km航続飛行が可能だ。プロドローンの菅木紀代一副社長は「10km以上を目指す」と活動範囲のさらなる拡大に取り組む。
水中ドローンの位置確認のために搭載された音響測位装置は、水中ドローンが音波を出し、空中ドローンが受信して相対位置を計測する仕組みだ。KDDI総合研究所の川田亮一氏(イノベーションセンターイノベーション協創G研究マネージャー/工学博士)は「計測結果を空中ドローンのGPSによる位置情報と合成して水中ドローンの位置を特定する」と説明した。
機体の構成は、1960年代にイギリスで製作されたSF人形劇『サンダーバード』に登場する秘密救助組織、国際救助隊の特殊装備、サンダーバード2号とサンダーバード4号の組み合わせに似る。劇中では海の災害が発生すると、潜水マシンであるサンダーバード4号を、大型配送機のサンダーバード2号が輸送し、遭難者の救出に向かう。
一方、水空合体ドローンは無人で、操作者が搭乗しないうえ遠隔で操作できる。サンダーバードとは目的も機体の大きさも異なるが、優位性も認められそうだ。
一方、思わぬ落とし穴もある。デモンストレーション当日の雨の中、バッテリー交換時に水が機体内に入った。これにより、着水後の水中ドローン切り離しや回収、水中でとらえた映像の遠隔確認ができなかった。
技術的に一定水準に達したシステムにも、運用上のとくに人が関わる作業ではミスがはいりこむ余地がある。今後、機体、システム、作業工程などすべてを見直し、ミス発生の最小化やリスク管理まで含めた改良を進め2022年度中の商用化を目指す。