古河電工グループの古河産業株式会社(東京)と測量、空撮などオペレーションの実力者集団として知られる有限会社KELEK(ケレック、東京)、機体技術、開発で豊富な実績を持つ五百部商事有限会社(栃木県)で構成するドローン開発チーム「FDS」は9月29日、49㎏までの荷物を運ぶドローン試作機のバージョン3(第三世代機)を完成させた。バージョン3は8ローターを水平に配置した回転翼機で、旧バージョン機からモーターを変更し、積み荷の運び方も見直した。完成当日には、工業用の塗料の入ったスチール製の一斗缶を模擬した砂充填一斗缶2つをくるんだうえで機体に吊るして浮上させるなど、要求されている性能を備えていることを確認した。今後、苗や塗料の運搬など主に山の中などの現場向けに向けて運用試験に入る。現場への商用実装を目指しながら、さらなる性能向上を目指して開発を続ける。
機体は栃木県鹿沼市の五百部商鹿沼工場(栃木県鹿沼市)で9月29日に完成し、午後に試運転を実施した。向上敷地内のフライトエリアで、初飛行を実施した。1辺2.5メートル四方の躯体に回転翼8つを水平に配置した機体を、初めは無積載で、次に約20㎏の一斗缶ひとつを積載し、そして積載するものを一斗缶ふたつに増やして飛行させた。
荷物は機体から吊り下げる方法で持ち上げた。荷物であるふたつの一斗缶をくるんでワイヤーをくくりつけ、機体に取り付けられた吊り具にかける。機体が浮上するにつれてワイヤーがピンとはり、そのまま荷物をぶらさげるように吊り上げて浮上した。この間、機体の飛行は滑らかで、まだ十分な余力があるように見えた。試運転を終え機体が着陸すると「バージョンアップ、完成!」「イケますね!」などの声が上がった。
機体は、この日の実験のような塗料の運搬や、林業での苗木運搬など、山の中での重労働を強いられる現場での運用を想定している。塗料運搬は電量会社の点検作業方面から要望があるという。また山荘への物資運搬も視野に入る。今後、自治体などと実証実験を重ね、実用を目指す。来年度には、「濃密な」実験も予定されているという。
49㎏運搬ドローン開発は古河産業が企画した。同社新規事業統括部門共創プロジェクト推進部の佐々木慶部長は、「山の中で重いものを運搬しなければいけない仕事があって、かなり苦労をされています。林業として苗木を運んだり、電力会社が塗料を運んだり。力自慢の作業員に頼ってきた作業も、高齢化が進み難しくなりました。ヘリに運搬を頼むこともあるのですが、コスト面で折り合いにくい。そんな話を聞いていたので、機体開発の五百部商事に相談をしたら、機体は作れるという。オペレーションのKELEKとも話をして、重いものを運ぶ運搬機のプロジェクトを始めることにしました。この3社がFDS(Future Drone Systems)として活動しています」という。
試作の初号機は、ワゴン車で運搬できるようにプロペラを上下に重ねるようにした8発機だった。しかし山特有の風が飛行に影響を与えがちなため、機体の安定性を高める必要性があると確認できた。このためプロペラの配置を水平に変更するなどして揚力を高めた。荷物も当初は、中央に抱えるようにしていたが、長さのあるものを運ぶと揺れが制御に影響することが判明し、吊り下げる形へ変更した。荷物を取り付けたり切り離したりする吊り具を工夫したり、モジュールの位置を見直したりと改善を重ね、この日完成したバージョン3は、高出力モーターも搭載した。
バージョン3の飛行の様子を見た佐々木さんは、「機能を十分に発揮できると思います」と現場での運用に期待を寄せた。
古河産業など手掛ける機体は、山の中で重いものを運ぶ場面で活躍することを見据えている。佐々木さんはその理由を「運搬のボリュームゾーンはBtoCであったり長距離配送であったりするとは思います。でもそこにはAmazonや楽天が取り組まれると聞いています。一方で、ボリュームゾーンではなくても、山の中には明確なお困りごとがあります。そのお困りごとを解決して、本当に喜んで頂ける機体を作るほうが、数ある選択肢のひとつになるよりも私には充実感があるようです」と笑う。
そして「これは仲間がいて初めてできること。やりたいことが共有できる仲間がいることがとてもありがたいこと。この機体で成果を出しつつ、さらに改善していきます」と次の展開を見据えている。フル積載時の飛行時間の拡大など、望みは高い。