株式会社日本化薬(東京)が9月2日、マルチコプター向けのパラシュートシステム「PARASAFE」を運用する様子を神戸港で公開した。上空でプロペラの回転を手動で停止させると、ドローンに装着していたパラシュートが開き、空中を漂うように着地した。パラシュートを広げて降りてくる様子は水の中を漂うクラゲのようにも見え、見学者からは「これならプロペラが止まっても歩いている人をおくぁがらせずに済む」など好意的な声が聞かれた。実演は内閣官房小型無人機等と兵庫県が主催した「第1回ドローンサミット」の一環で、このほか対岸の商業施設が集まる神戸ハーバーランドからのアイスコーヒー運搬や、水上発着機の離着陸と飛行の様子も公開された。
パラシュートの実演は、神戸市中央区の神戸港内に作られた人工島、ポートアイランドの西側のウォーターフロントにある緑地公園、ポーアイしおさい公園(正式名称:ポートアイランド西公園)に隣接する神戸学院大学ポートアイランドキャンパスで行われた。実演したのは日本化薬が今年2月に販売を始めたことを告知した「PARASAFE」で、パラシュート本体が930g、パラシュートを展開させるための起動ッステム(トリガーデバイス)が120g。ドローンの着地部分のクッションとなるエアバッグも取り付けられた。それぞれをドローン本体にとりつけることで、回転翼が停止する緊急時に作動し、着地の衝撃を押さえる。理論値では、高度35mから落下したときの衝撃を6分の1に軽減する。
実演では4本のアームを持つ国産回転翼機が、パラシュートシステムを搭載して離陸。約30メートル上空で操縦者が手動で回転を停止させると、ほぼ即座に(実際は回転停止から0・5秒後)に回転翼が開き、エアバッグが膨らんだ。自力では飛んでいないドローンがパラシュートにぶらさがるように、風にながされながらゆるやかに下降し着地した。着地時には本来が着地したあとに、風にながされたパラシュートに引かれ、本体が横倒しにはなったが、衝撃を感じる落下音を認識することもなかった。
システムは最大離陸総重量25kg向けの産業用ドローンに対応し、火工品を遠隔作動させパラシュートを展開させる。誤作動防止装置も搭載している。機体重量9㎏、投下高度35mの場合、降下速度の理論値は6m/sで「使用しないと6倍の速度になる」という。実際の運用では自動で異常を検知することになり、今後も検知すべき異常をさらに洗い出して対応するなどの対応を進め、「ドローンの安全に貢献したい」と話していた。
またドローン配送を手掛ける株式会社TOMPLA(新潟県新潟市)は、ポーアイしおさい公園に、海を隔てた神戸ハーバーランドにあるイオンモール株式会社運営のショッピングセンター「umie(ウミエ)」のコーヒーショップ、スターバックスコーヒーからアイスコーヒーをドローンで届けるデモンストレーションを実施した。株式会社石川エナジーリサーチが開発した産業用マルチコプターが離陸から3分でコーヒーを運ぶと、臨席していた内閣官房小型無人機等対策室の高杉典弘審議官、慶應義塾大学の武田圭史教授らが試飲した。高杉氏は「氷もとけていません」と見学者に説明した。
同社は10月11日から11月3日の間、実験区間で、1日15便程度のコーヒー配送を実施する。2023年の定期運用を目指す。なおTOMPLAはそれに先立つ2022年9月中に、新潟市の水辺施設「万代テラス」で、宅配ポータルサイトの株式会社(東京)出前館と連携してフードデリバリーをテストマーケティングとして実施すると発表している。
飛行艇生産の新明和工業株式会社(兵庫県宝塚市)も8月に開発したばかりの無人飛行艇の運用をデモンストレーションした。ポーアイしおさい公園に近い水上に、ボートで機体を運んだあと、遠隔で起動させると、機体は水上を滑走し離陸し、上空で8の字を描いて着水した。
一連のデモンストレーションは内閣官房小型無人機等対策室(ドローン室)と兵庫県がが主催し、経済産業省、国土交通省などが共催、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)などが後援した「第1回ドローンサミット」のカリキュラムの一環として行われた。
政府主導のドローンの普及促進イベント「第1回ドローンサミット」(内閣官房小型無人機等対策室、兵庫県主催)が9月1日、神戸・ポートアイランドの神戸国際展示場で始まった。講演、展示、実演で構成し、社会実装を後押しする。初日は基調講演や自治体の代表者らが取り組みを披露した。ドローンの大型イベントは6月に千葉・幕張メッセで開催された「JapanDrone2022」以降、7月の「京阪奈ドローンフォーラム」や「国際ドローン展」、8月の「北海道ドローンフオーラム」と続いている。9月23日には静岡県御殿場市でドローンの飛行展示が主体の「富士山ドローンデモンストレーション」、12月には「JapanDrone/次世代エアモビリティEXPO in 九州(福岡)」が開催される予定で、ドローンのお披露目イベントは花盛りの様相だ。
第1回ドローンサミットは、内閣官房小型無人機等対策推進室と兵庫県が主催し、共催に経済産業省、国土交通省、公益財団法人新産業創造研究機構が名を連ねた。公式サイトには明記されていないが、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)、一般社団法人日本産業用無人航空機工業会(JUAV)、一般社団法人日本ドローンコンソーシアム(JDC)、日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)、神戸市が後援している。
初日の9月1日は、JUIDAの鈴木真二理事長が東京大学未来ビジョン研究センター特任教授として、JDCの野波健三会長・代表理事氏代表が基調講演をした。
鈴木氏は、世界各国がドローンの安全確保に向けてルールつくりに取り組んでいる現状を紹介した。基本的な方向性はいずれも、リスクベース、ユースケースベース、パフォーマンスベースで議論されており、日本もその方向での議論にシフトしつつある現状を説明委した。また今後の課題に事業者の定義や国際的整合性、運航管理、無操縦航空機との関係などをあげた。
野波氏は独自に調査している世界のアセンブリー事業者の実態について、ランキング形式で紹介した。事業者数のうえで5位の日本は、製造された機体の最高速度比較、航続距離比較、飛行時間比較ではいずれも上位に入っていないことを指摘し、「ちゃんといいものを作ることが原点」と国内の開発事業者の奮起を促した。
また、「国の取組説明」では、内閣官房小型無人機等対策推進室、国土交通省、経済産業省がロードマップなどを示しながら、現状を報告した。
「自治体会議」では、兵庫県、神戸市、北海道、福島県、三重県、長崎県、小菅村(山梨県)の各自治体の代表者が、それぞれの取り組みを発表し、武田圭史慶応義塾大学教授、中村裕子東京大学特任准教授がコメントした。小菅村は村内に集落が8地区ある一方で、商店が村内に2つしかない。登壇した舩木直美村長は、買物弱者対策として、村内で展開している「新スマート物流」の取り組みを紹介、「ドローン配送は270回、買い物代行は670件の実績を積み重ねて参りました」実績をアピールした。また、同様に買い物弱者などの課題を抱える自治体と連携する協議会を組織したことも報告。「小菅村の取組は小菅村だけでなく全国の希望になると考えています」と述べた。
地域の連携は、今回のサミットの開催趣旨で言及されている。「ドローンの社会実装を進めるためには、持続可能な事業形態の形成と、社会的受容性の拡大が必要です。現在、各自治体で行われている各種の実証実験等の取組を全国的に発信すると共に、自治体間の連携を強化し、より一層ドローンの社会実装を加速させるため、国と自治体で開催します」が開催趣旨だ。
自治体会議に登壇した中では、小菅村の舩木直美村長が、開催趣旨である連携強化に直接言及した。
サミットは、国際フロンティア産業メッセ2022(国際フロンティア産業メッセ実行委員主催)の同時開催企画として行われた。
兵庫県の斎藤元彦知事は、この日午前10時に国際展示場2号館1階ロビーで行われた国際フロンティア産業メッセ2022の開会式に登壇し「第1回ドローンサミットを開催します」とあいさつ。その30分後の午前10時半に、同じ会場の2階会議室で階差されたドローンサミットであいさつに立ち「市民、県民、国民にドローンの利便性を感じてもらいたい」と述べた。サミットの開会式には、里見隆治経産省政務官、清水真人国交省政務官、田中和德ドローン議連(無人航空機普及・利用促進議員連盟)会長代理、鶴保庸介ドローン議連幹事長らが登壇し、あいさつした。
展示会場には株式会社テトラ・アビエーション株式会社の空飛ぶクルマの原寸大の機体が目を引いたほか、ドローンメーカー、運輸事業者、団体、研究機関などがブースを構え、開発した技術や取組事例を展示している。
株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマークは、スイスに研究開発拠点を構えるサンフラワーラボのホームセキュリティーシステムを参考出品。自律航行するドローン「Bee」が敷地内を見回るシステムで、工場、研究所などの警備への市場性が見込める。ハイブリッド機製造の株式会社エアロジ-ラボ、国産VTOLエアロボウィングが話題のエアロセンス株式会社、狭所点検ドローンを独自開発したセブントゥーファイブ株式会社、ドローンポート開発やスイスFlyability社製球体ドローンELIOSの提供・運用、API連携技術などを手掛けるブルーイノベーション株式会社などが最新の取り組み紹介している。
ドローンサミットは9月2日も行われる。