一般財団法人総合研究奨励会・日本無人機運行管理コンソーシアム の記事一覧:1件
  • 2021.11.20

    JUTMがRTFで“航空運用調整ドラマ”上演 災害ガイドライン策定に向けた実証実験

    account_circle村山 繁
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     ドローン運航管理研究を手掛ける一般財団法人総合研究奨励会・日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)は11月19日、福島県南相馬市の福島ロボットテストフィールドで大規模災害の発生を想定した航空運用調整の“ドラマ”を上演する実証実験を行った。ドラマは災害時の航空運用調整班が、飛行要請への対応、未登録ドローン発見連絡を受けたさいの対応に奔走する内容で、JUTM会員企業の社員らが班長、航空運用調整員、安全運航管理員などの役割を演じきった。実験参加者はドラマの感想や有効性、改善点についてアンケートなどを通じてJUTMにフィードバックする。JUTMは公益財団法人福島イノベーションコースト構想推進機構(イノベ機構)から災害対応ガイドライン作成の委託を受けており、フィードバックを今後のとりまとめに生かす。

    不審ドローン発見発見! 迫真の演技で「調整業務」を可視化

    消防連絡員(手前)に指示を出す航空運用調整班の班長(右奥)

     実験にあたりJUTMの鈴木真二代表は「災害現場では複数ドローン、ヘリコプターが同一空域飛行する安全上の懸念が表れる事例も出てきています。JUTMは従来、ガイドラインも進め、運航管理システムの重要性も広く訴えてきました。今回は実際の作業を見て頂き、意見を頂ければと思っています」とあいさつした。

     内閣官房小型無人機等対策推進室の小熊弘明参事官は「内閣官房は政府全体のドローン政策のとりまとめを担当して、ドローンについては官民協議会を設置しています。この中で毎年ロードマップを作っています。ロードマップには三つの大きな柱があり、そのひとつ社会実装では、災害が重要なテーマです。政府の成長戦略の中でもドローンの災害対応実用化が示され、新しい資本主義実現会議の緊急提言でもドローンについて、物流、防災などドローンが活用できる環境を整備する、とうたわれています。その意味でも本日の取り組みに期待もしていますし、有意義な実験になることをお祈り申し上げます」とあいさつした。 

     実験はJUTMがイノベ機構から委託を受けた災害対応ガイドライン作成の一環として行われた。ガイドラインの目的は災害時のドローン活用促進で、「災害時のドローン活用に向けた調査および航空運用調整等のガイドライン・教育カリキュラム等の作成」が正式な事業名だ。JUTMは、現在とりまとめているガイドライン試案に基づいて台本を用意し、今回の実験で披露した。

     ガイドラインが目指すのは、災害時にドローンを安全に運用する環境づくりだ。災害が発生すると、被災地上空には物資輸送、人命救助などのためヘリコプターを中心とした有人航空機が飛ぶことが見込まれる。このため防災機関や指定公共機関が、迅速な情報収集を目的にドローンを飛ばすには、他のミッションを阻害しない運用や、優先順位に基づく調整が必要になる。ガイドラインで一定の目安を示すことで、ドローンの活用を促進する。

     JUTMは委託を受けたガイドライン試案を作るにあたり、その有効性の確認と問題点の洗い出しが必要と判断。ガイドラインに基づいて、個別ケースを盛り込んだ台本を作り、今回、配役をあててドラマ仕立てにした。

     ドラマが上演されたのは、福島ロボットテストフールド1階のカンファレンスホールだ。一角に大型モニターや端末、机を並べて航空運用調整班の指揮所に見立てた。

     ドラマでは福島県沖100㎞、深さ20㎞を震源とするマグニチュード8.0の巨大地震が発生したことを想定した。市町村消防や県警がドローンで被災状況の調査を進める中、電力会社、鉄道会社など指定公共機関も被災状況確認のためにドローンを飛行させる。こうした中、ドローンの飛行調整や空路搬送の要請窓口として、自治体の災害対策本部内に設置された、航空運用調整班がどう対応するかが、ドラマの見どころとなった。

     自治体の災害対策本部内に設置された航空運用調整班には、全体を統括する班長のほか、役割ごとに航空運用調整員、安全運航管理員が待機する。消防、警察、自衛隊など外部との連絡窓口となる連絡員が災害対策本部に加わり、班長の指揮下に入った。情報収集班も外部からの情報を航空運輸調整班に伝達に奔走した。

     発災直後は地域防災計画に基づき事前登録の飛行による状況確認や避難誘導を実施、その間にUTMによる航空運用調整の準備を進め、1時間後からUTMでの運用調整を開始することを、登録済み機関に通知すた。

     公共機関からドローンを飛行したいとする要請の連絡が入ると、班長が状況確認を指示、飛行が可能な状況であること判断すると、班長が飛行可能であることを伝えるよう次の指示を出した。ほかに、UTM登録ができなかった機関が分かるとその機関の代わりに代理登録したり、電力、道路、鉄道の各事業者が指定公共機関としてドローンを飛行させUTMで運用を管理したり、同一空域での飛行要請に対して優先順位に基づいて消防を優先する判断を下したり、不審ドローン発見連絡が入ったさいには消防、警察を通じて注意喚起や飛行自粛要請をしたりと、災害時に起こりそうなことを盛り込んだ進行に、参加者は息をのみメモをとっていた。実検では3機のドローンをRTF内で飛行させ航空運用調整班の指示に従った運用を行ったほか、6機の仮想ドローン、1気の仮想消防ヘリが運用された。

     また多数の要請が集中した場合に備え、予め定めた地域防災計画で指定する優先順位に基づいて判断することを想定した。第一優先から第四優先までが設けられ、第一優先として人命救助関連、第二は民生安定活動関連などとされた。ドラマの中でもこれに基づく判断が示された。

     ドラマ上演後、JUTM中村裕子事務局次長が「このシナリオは想定に基づいて一例として示したもの。参加者のみなさんが抱かれた疑問や現場との違いなどをご指摘頂き、現場で使える、現場での運航に貢献できるガイドラインに修正、仕上げていきたい」と述べた。

     参加者からは「(ドラマに登場した)班長、航空運用調整員、安全運航管理員の3人はとても上手に対応されていたが、実際にはこのような人材な何人いるのか。これから育てるのか」といった質問が出され、JUTMの秋本修事務局長が「人材育成はこれからの課題。能力がないといけないことは確かなので、国が担うのか、それとも地方か、民間か、なども含めて今後検討する。そのさい、教育が必要になるため、そのカリキュラムもつくっている」と見解を示した。

     またJUTMが評価委員に指名している参加者の1人は、「細かいことを言えば、そもそもこの想定はないだろう、というところもあった。しかし、ドローンを災害現場で使うシステムを活用するシナリオが作られたことそのものが今回の第一の成果。これが社会に根付き、実際の災害現場で活用される仕組みとして受け入れられなくてはならない。修正、訓練、議論を繰り返し、現実的なものに仕上がることを期待している。気づいた点としては、たとえば、平面だけでなくZ軸を含む立体管理と、時間軸も含む4Dとして取り入れて管理することで精密に管理できるし、そのためのシステムだと感じた」などの感想を述べた。

     ドラマの中で班長を演じた警備会社のコンプライアンス担当の女性は、「とても緊張しながら演じていました。事前に、この想定はありえない、こちらのほうがより現実的だ、などとみんなで意見を出し合いながら仕上げたので、思い入れがあります。もっと勉強をしたうえで参加したかったという思いもありますが、大きな経験になったことは間違いないので、演じたあとですが、これからも勉強します。これがお役に立てればうれしい」と語った。

     ガイドラインをJUTMが試案としてまとめ、イノベ機構が策定する計画だ。

    真剣な表情で任務にあたる
    確認もゆびさしで着実に
    RTFのカンファレンスホールに設けられた架空の航空運用調整班の指揮所。ここを舞台に迫真の演技が繰り広げられた
    不測の事態には緊急会議を招集して調整する
    事態の進行を時系列でホワイトボードに記載
    あいさつをするJUTMの鈴木真二代表
    RTFで実験の一環として飛行するイームズ製ドローン。ここでは市町村消防のドローン、県警のドローンなどの役割を担った
    ドローンの飛行を見守る参加者

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。