水中ドローンの普及、産業振興を目指す一般社団法人日本水中ドローン協会(東京)は4月27日、事業、研究、行政などの第一線で活躍する関係者の話に触れることのできるオンラインセミナー「第1回水中会議(ミズナカカイギ)」を開催した。会議には、海上保安庁でウェブ情報サービス「海洋状況表示システム『海しる』」の開発、運用を担う吉田剛海洋空間情報室長、次世代潜水船の開発を手掛ける株式会社シーバルーンの代表、米澤徹哉氏が登壇し、それぞれの取り組みを披露した。発表後には水中ドローン協会の小林康宏代表をまじえてトークセッションが繰り広げられた。協会は今後も会議を開催し、海を経済の対象として扱う「ブルーエコノミー」の定着を目指す。
海上保安庁吉田氏は、海の事故、水面温度、藻場の場所などの情報を、海の地図上に表示する海洋状況表示シシテム「海しる」のおもしろさを紹介した。
発現の中で吉田氏は、海上保安庁の仕事を、戦場などで敵情を偵察する斥候になぞらえ「地図をつくること」と紹介、「まさに斥候部隊なんですよ」と話して興味を引いた。
日本の海の状況は、海外のほうが先に把握していた歴史や、日本海にある巨大な浅瀬、大和堆(やまとたい)は、それを発見した「特務艦大和」から名付けられたことなどの話題を次から次へと披露し、「海しる」が2019年に運用開始となるまでの経緯を話した。
海しるに掲載されている情報は海保独自の情報に限らず、気象庁、JAXAなど多くの他の情報機関からの提供を受けていることなどもあわせて紹介。「海の情報基盤として収集、連携を図り利活用に貢献したい。防災にも役立つので使って頂きたい。また、利用者の意見を寄せて頂きたい」などと話した。
また、水中ドローンの利用法について、打ち寄せた波が沖へ帰ろうとする離岸流によって起こる事故の予防などへの活用を提唱。「地元の人々が危険と知っていて近づかない岸に、それを知らない人が近づいて事故にあうケースが多い。水中沿岸部のデータをとりまくって提供したい」などと話した。
一方、シーバルーンの米澤氏は、海中旅行のすばらしさを一貫してアピール。深海に海中観光利用の潜水艇を開発している米トライトンと提携し、手軽に海中旅行ができる次世代潜水艇の開発と進めている取り組みを紹介した。
米澤氏は、トライトン社の潜水艇で改訂旅行を楽しんだ経験を「深くなるにつれて暗くなり海のグラデーションが美しく感動する」と説明。これまで特別な研究目的、資本家が特別なルートでしか楽しめなかった海中旅行が、一般に開放されることで、多くの人と感動を共有したいと期待した。
また潜水艇も、小さな窓からのぞきこむタイプではなく、透明なアクリルで覆われた視界が開けたタイプで、「海の魅力をコンテンツ化できれば一般利用が広がると思います」と展望した。早ければ2025年に、「安くはないけど手の届く価格」で海中旅行を提供することを目指している。「安全で快適な海中空間から、圧倒的な価値提供を通じてブルーエコノミーのひとつを形成したい」と抱負を述べた。
日本は領海と排他的経済水域を合わせた面積が447万平方キロメートルと国土の12倍の面積を持ち、世界第6位の海洋国家。技術開発の進展で海の利用に関心を持つ企業、研究者が増えていることから、今後海の利活用が、空域の利用のように進むとみられている。ドローン事業も手掛けている小林康宏代表理事は、「空のドローンは、何がどう撮影できるか想像できるが、水中ドローンは沈めてみないと何が撮影できるか分からない未知のものとの出会いがわくわくさせる。協会として海の豊かさを持続可能にし、ブルーエコノミーの普及、定着に向けて取りくみたい」と表明した。
第2回を7月15日に開催する予定で、国立研究開発法人、海洋研究開発機構(JAMSTEC)と、水中ドローンで調査などの事業を手掛ける株式会社ジュンテクノサービス(埼玉県川越市)が登壇を予定している。
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