最新鋭機の飛行姿を鑑賞できる「富士山UAVデモンストレーション2019」が9月22日、静岡県御殿場市の御殿場市馬術・スポーツセンターで開催され、富士山を背景に種類の異なる3種の機体のフライトが披露された。ドローン研究に力を入れている大学や機体、レンズ、バッテリー、運用など必要な技術を備える専門事業者が知見を持ち寄って製作した機体「キングフィッシャー」が初めて一般公開された。パラシュートを備えたセスナ型の機体や、条件次第では1回のフライトで80分間飛び続けることもできるバッテリー機が御殿場の空を彩った。
「UAVデモンストレーション」は、ドローンが最も真価を発揮する飛行風景の一般公開が目的で、2018年6月に湘南海岸で開催されたのに続き、今回が2回目だ。慶応義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムが組織する無人航空機デモンストレーション実行委員会が主催し、御殿場市が共催したほか、防衛省南関東防衛局が後援した。冒頭に慶大ドローン社会共創コンソーシアムの古谷知之代表が「目新しい機体や、これから開発に使われる最先端の機体が飛びます」とアナウンス。また会場に足を運んでいた御殿場市の若林洋平市長も「きょうご来場のみなさんはこの日の証人。新しい世界を目に焼き付けてどんどん発信してほしい。今後さらに便利で安心な社会に導き、夢を運んでくれる。応援していきたい」とあいさつした。
フライトに参加したのは、フジ・インバック株式会社(横浜市)、株式会社トラジェクトリー(東京)、キングフィッシャープロジェクトなど3チームだ。3チームの機体はいずれも個性が強く、来場者は日常生活の中ではなかなか目にしない機体のフライトを目の当たりにした。
最初に登場したフジ・インバックはコントロール可能なパラシュートを備えたセスナ型のエンジン機「W-T3型機」で参加した。スタッフが機体を運びこむと、緑の芝に、白とオレンジ色の機体が映え会場の期待を高めた。フライト前のチェックを済ませ、風向や強さを確認するなど準備を整え、エンジンを始動させると会場に小気味よい音が響いた。スタートの合図とともに機体が滑走するとすぐにふわりと浮き上がり、ゆったりと上昇。来場者はその様子を目で追い、機体が会場を旋回した。
同社の田辺誠治代表が「この機体はセスナのような固定翼機とマルチローター型の機の両方の長所を兼ね備えた機体。パラシュートで浮力を得ているので墜落のおそれが限りなく低い。物資輸送、イノシシ観測にも使われたこともあり、街の上を飛んだこともあるなど用途はさまざまだ。最大の特徴は、ほぼ自社製である、ということ。全自動で運用できる」などと機体の特徴を説明した。
二番目に登場したトラジェクトリーが持ち込んだ機体は、丸みを帯びたスタイルと、周囲の溶け込みそうなグレーの色が特徴の、バッテリーで飛ぶ4ローターのマルチコプター。イスラエルのドローンメーカー、エアロセンティネル社製の「G2」だ。スタッフがランディングパットで準備をして離陸させると、マルチコプターに特有のプロペラが風を切る音を軽やかに放ち、そのまま浮上した。上空から、機体に搭載したカメラで来場者を映して、会場のモニターに映し出すと、来場者が機体に手を振って応じた。
同社の小関賢次代表は「G2という機体は、イスラエルのメーカーが軍からの委託で作ったもの。音が静かだと気づいた思うが悟られにくい工夫でもある。空力設計、軽量デザインなど工夫をこらしていて長時間飛べることが最大の特徴。一般に使われるものと同じバッテリーを使っても80分飛ばすことができる。われわれの会社は本来、こういった機体などのハードウェアを扱うことが事業の中心ではない。ドローン向けの航空管制が中心。システムの検証には長時間飛行できる機体がよいため、適切な機体を探しているときにこの機体と出会った。もともと軍用だが東日本大震災のときには救援にかけつけてくれた機体でもある。災害の多い日本では防災などに活用できるのではないか、ということでわれわれで預かることになった。日本とイスラエルの友好の証としてしっかり平和利用したい」などと説明した。
最後に登場したキングフィッシャーは、慶応義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム、徳島大学、下田商会無人航空機開発班、Dアカデミー、D-eyes、マクセル、クイック、ドローンかまくら、シアンなど、研究開発や、機体製造、運用などそれぞれのドローンに関わる専門分野を持つ企業、団体の枠をこえて集まった専門集団の機体開発プロジェクトが作り上げた機体だ。6つのローターを持つマルチコプターで、機体をのぞくと参加各社、団体のロゴが見当たる。
ランディングパットに設置された機体は、慶大ドローン社会共創コンソーシアムの南政樹副代表の操縦で浮き上がると、安定した飛行を披露した。フライトの最中には空を覆っていた雲が薄れ、姿をみせた富士山を背景フライトするシーンも見られた。また、機体に搭載したズームカメラでとらえた映像もモニターに映し出し、来場者が見入っていた。
南副代表は、「開発のきっかけは汎用的に研究開発に使える機体が欲しい、と思ったこと。空撮機、農薬散布機など用途に分かれた目的を限定した機体は、それ以外の用途に使いにくい現実がある。汎用的に使えればドローンを活用したサービスの活発化につながると感じており、それをみなさんの協力を仰ぎながら、自分たちで開発しようと取り組んだ。やがて、パソコンのように、カスタマイズを加えることで自分用に用途を広げられるようになっていけばよいと思う。日本のドローン産業を成長させていく一助になればという思いで、ドローン事業に取り組むみなさんが実験などに簡単に使えるものを目指して作った。今回は映像をズームでとらえてお見せしたが、今後はそれ以外の、たとえばモノを落下させる、画像解析をしながら自律的に飛ぶ、などにも取り組みたい」と述べた。
会場ではこのほか、固定翼機、水中ドローンなどが展示され、来場者は展示されている機体も見入っていた。フライト後は来場者が興味津々で関係者に話しかけ、交流をしていた。参加チーム代表者が参加した公表会にも来場者が参加し、衝突回避策や、日本のドローンの展望などについて意見交換が行われた。
また、慶大SFCでドローンの研究、活用に取り組んでいる学生数人が参加し、体験会を開催。ドローンのフライト未経験の来場者や親子連れなどにトイドローンの操縦を体験してもらい、空間を自在に移動できる楽しさをアピールしていた。