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  • 2020.12.7

    「JUIDAプラント点検スペシャリスト」ライセンスの提供開始 RTFで実技講習

    account_circle村山 繁
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     一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は石油化学プラント点検へのドローン活用技能を備えていることを証明する専門ライセンス「JUIDAプラント点検スペシャリスト」の提供を開始した。ライセンスは所定の講習を受け、講習内で行われる試験に合格すると授与される。第1回の講習は12月2日から行われ、3人が受講した。12月3日には、福島ロボットテストフィールド(RTF、福島県南相馬市)で行われた実技講習の様子が公開された。講習はブルーイノベーションが担当した。受講生は3人で、受講者はこのライセンスの初の所有者になる見込みだ。また今回の受講者は、講習の評価、手順の確認も担う。講習はこれらのフィードバックもふまえ、第2回以降に反映される。第2回以降は、広く受講者を募り、プラント点検へのドローンの担い手養成事業が本格化する。

    プラント内を想定し後ろ向きでELIOS2を運用 外からMatrice210で確認

     提供が開始されたライセンス「JUIDAプラント点検スペシャリスト」は今後、本格運用に入る。12月下旬に第2回の講習を予定しており、以降、毎月開催される見込みだ。座学、実技のそれぞれが行われ、実技講習はRTFが会場となる。座学は動画が配信されるなどオンライン受講となる見込みだ。

     12月3日に公開された実技講習は、RTFの設備のうち、「試験用プラント」「試験用トンネル」などを使って行われた。

     「試験用プラント」は、径の異なる配管や模擬ボイラ、ポンプ、計器、表示機、模擬タンク、径の異なる煙突3本、垂直梯子などを備えた5階、高さ30メートルの模擬プラントで、内部にはSGP500A、300A、200A、100A、50Aの配管がはりめぐらされ、プラントで採用されているものと同じ計器、表示機が設置され、溶接部、サビなどが実物のように再現されている。

     実技では、試験用プラントを外部、内部からそれぞれドローンを使って確認をすること想定した操作法や注意点を学ぶ。外からの確認では、DJIのMatrice210を使い、サビの有無、ネジのゆるみの確認、ひび割れの有無などを確認する作業を学んだ。そのさい2人1組で、1人が飛行、1人がカメラを操作するオペレータに役割を分担。カメラ担当者が確認したい個所をカメラでとらえるために、ドローンを最適な場所に動かすようパイロットに指示する。パイロットは指示に従って位置をカメラオペレータに確認しながら微妙に位置を調整する。適切な場所にたどりつくと、カメラオペレータがカメラの向きを調整、ズーム使用の適否を判断するなどして、該当箇所をモニターにうつしだされた画像で確認する。

     実技講習の中で、煙突を上空から確認する作業を実施したさいには、煙突内にはれれた網に画像の焦点があたり、網の内部が見にくい状況が発生。講師が「マニュアルフォーカスに切り替えて、網の奥に焦点をあたるよう調整してください」などと伝授した。

     試験用プラント内部では、Flyability社のELIOS2で点検する運用を学んだ。配管のひび、サビ、傷などの劣化の有無の確認や、計器の読み取り、フランジ、ネジなどの劣化、ゆるみなど不具合の有無の確認をする作業をELIOS2で実施する方法だ。ELIOS2は、機体がガードで覆われ、確認したい個所に接触させて撮影することもできる。受講生は確認したい場所に機体を接近させる運用について指導を受けた。また、プラント内部では操縦者が機体の位置を目視で確認できないことが一般的であるため、講習でもパイロットが後ろ向きになり、機体を見ずに手元の画面をみて操作するFPV操作に慣れる練習も行った。

     講習ではこのほか、煙突内での点検や、試験用トンネルの出入り口をふさぎ、光のないところで点検作業などの講習を受けた。

     講習は最大4人1組で、1か月に2組まで受け入れる見込み。第2回は12月22、23日に予定している。

    関係省庁のガイドラインに準拠

     「JUIDAプラント点検スペシャリスト」は、JUIDAが9月に創設を明らかにしていた石油化学プラントのドローンによる点検技能を証明するライセンスで、日本の基幹産業である素材産業の生産を支える生産設備の保守、点検に関わる品質確保、効率性向上、作業員の安全性確保などを目的につくられた。創設にあたっては、公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構と連携した。講習はブルーイノベーション株式会社が担うが、ブルーイノベーションだけが担うものではなく、要件をみたしていれば他の事業者も講習側になれる。発表時には別名称だったが、その当時から提供時の名称変更の可能性を示唆しており、今回、提供を開始するにあたり「JUIDAプラント点検スペシャリスト」に整理した。

     講習内容は、JUIDAが公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構・福島ロボットテストフィールドから委託を受けてとりまとめた「プラント点検分野におけるドローンの安全な運用方法に関する実務マニュアル」、 「プラント点検分野におけるドローンの安全な運用方法に関するチェックリスト」 、「ドローンを用いたプラント点検事業者教育カリキュラム」が土台となっている。

     背景には総務省消防庁、厚生労働省、経済産業省で構成する「石油コンビナート等災害防止3省連絡会議」が3月27日に、カメラを搭載したドローンによる点検作業を「目視点検」の一部について代替ができるとガイドラインに明示した経緯があり、新ライセンスは3省の合意に基づいているといえる。

     受講には、JUIDA小型無人機操縦技能証明証、安全運航管理者証明証を取得している必要がある。

     石油化学設備の維持管理の方法は、高圧ガス保安法、消防法、労働安全衛生法、石油コンビナート等災害防止法の「保安4法」で管理されていているが、こうした動きを背景にr-ルの見直しがすすめられていて、高圧ガス保安法ではドローンを目視に代替することが可能となった。

    RTFも歓迎 空飛ぶクルマも

     「JUDAプラント点検ライセンス」は、RTFを実技講習の会場に指定している。RTFにとってライセンス授与の指定会場になるのは今回が初めてだ。

     RTF技術部技術企画課の持田佳広課長は、「試験や訓練も含めて教育のために役立てて頂けることがありがたいと思っています」という。また、「試験用プラントは実際のプラントを模していて、有事、平時を想定した試験が可能です。経済産業省、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催するWorld Robot Summit(WRS)では競技会場にもなります。研究開発、性能評価など人に近いものを作るさいに使って頂けるとありがたい。地元福島復興と発展に役立ちたいと思っています」とRTFの担う役割を解説した。

     また技術企画課担当の中村泰拓さんはRTFで利用希望の多い施設として滑走路をあげた。敷地内に500mの滑走路がある(ほかに13キロ離れた場所に400mの浪江滑走路がある)。「ドローンや空飛ぶクルマの研究開発などを目的とした利用とみられます。広いエリアを飛ばすことができますので、活用をご検討頂きたいと思います」と話し、ドローンや空飛ぶクルマの開発関係での利用拡大を呼び掛けた。

    試験用プラント内でELIOS2を飛行させる実技講習
    管がはりめぐらされあプラント内部を進むELIOS2
    フライト前に期待を点検
    FPVを想定しELIOS2を後ろ向きで操縦
    ELIOS2のカメラがとらえたプラント内部
    試験用プラントの外側からMatrice210で確認
    Matrice210から送られてきた煙突をのぞきこむ画像

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
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