ロボット技術の集積を進める福島県で製品や技術を集めた毎年恒例の技術展、「ロボット・航空宇宙フェスタふくしま」2021が11月19、20日に、福島県郡山市にある複合コンベンション施設、福島県産業交流館「ビッグパレットふくしま」(福島県郡山市)で開催された。会場には出展者が話題の新製品、新技術を展示していた。中にはこれから社会に出る新製品や、隠れた新品もあり、関心層が次々とブースをのぞき込んでいた。
会場はJR郡山駅から南に約4㎞の場所に広がる、複合コンベンション施設、福島県産業交流館「ビッグパレットふくしま」で、会期の2日間は郡山駅との間でシャトルバスが運行された。新型コロナウイルス対策のため、入場者は事前登録者に限定され、過密にならない工夫がされた。
ロボットの技術の中でも目立ったのはドローン。機体そのものや、その個性を引き出す技術、飛行を支えるシステム、ドローンを使うための研究開発、ドローンを安全に飛行させるための運航管理を支える技術の研究成果、地域を活性化させる取り組みなどが展示された。また、飛行するドローンに限らず、地面を走る機体、水の中で活動する機体も展示された。会場内には大きな水槽が設置されてあり、子供たちが水中ドローンの操作体験ができるようになっていて、子供たちが周囲をとりかこむ場面もあった。
株式会社東日本計算センターと株式会社福島三技協の共同出店ブースにあったドローンは、機体の頭上にZ型のアームがついていた。隣に風力発電用の風車の模型もある。尋ねるとこれは、大型風力発電用ブレード(風車の羽のこと)を安全、確実、効率的に点検するためのソリューションという。ブレードは雷対策用接地線の断線確認が必須。一般的には特殊な資格を持つ作業員が、フルハーネスでロープに体をくくりつけてブレードの先端を見回り確認するという。危険が伴うが、必要な作業だ。この作業をドローンで行うためのソリューションが展示機だ。ブレードまで浮上し、機体のアームをのばし、先端についている装置で確認するという。頭上のZ型アームは折り畳み式で持ち運びを考慮した。実用化までもうすぐだ。
株式会社東日本計算センターは別の共同出展ブースで、救命具を届けるドローンも展示していた。機体の床下のウインチから延びたロープに救命具を吊り下げて届けることを想定している。注目したのは救命具を取り付けるアタッチメント。これはプラスチック製品開発、株式会社ニックスがドローンの個性を引き出すために開発したプロダクトだ。吊り下げた荷物が、地面に三度ほど触れると、取り付け部分のカギがカチャっと開き、吊り荷が切り離される。すぐに使えるように、機体を着陸させることなく、荷物が下せるよう工夫した。ドローンの周辺や小物に、こうした掘り出し物が見つかることがこの展示会の醍醐味でもある。会場にいたニックスの担当者は「見学者からフィードバックを頂き、よりよいものにブラッシュアップさせたい」と話していた。
会場中央には水槽が設置され、水中ドローンの動きを見せていた。株式会社スペースワンや、同社が事務局をつとめる一般社団法人水中ドローン協会、同社と連携して活動している株式会社SkyBee、福島ドローンスクールなどが、水中ドローンを持ち込み動く様子をデモンストレーションしていた。子供たちが操作を体験する時間もあり、水槽の中の荷物をドローンでつかまえるなどの体験を楽しんでいた。
一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)、一般財団法人総合研究奨励会・日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)、日本産業用無人航空機工業会(JUAV)のブースでも活動をパネル展示。国内でのドローン活動が普及したことを証明する。
JUIDAのブースでは初日、事務局をサポートするブルーイノベーション株式会社がAGVの走行デモを披露。近く、正式に発表される可能性がある。また、ブースにはJUIDA会員企業であるヒトロボ株式会社が同社の取り扱う製品を展示。その中には、DJIの新しい話題機、Mavic3が、おろしたての1フライトもしていないピカピカな状態で来訪者を歓迎していた。
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)も、手掛けるドローンプロジェクトのこれまでの成果を公開したほか、最近話題のドローンを解説するCGアニメーション『ドローンが活躍するミライ』を使った子供向けクイズ端末を展示。クイズは全3問で、不正解だと同じ問題が再び出題される。3問おわると必ず「全問正解!」と表示される、利用者に超絶やさしい仕様になっている。
イームズロボティクス株式会社は、産業用ドローンE6106FLMP(ASSY)とともに、高精度衛星アンテナ、SLAMを併用し屋内外をシームレスに自動走行する搬送用無人車両(UGV)を展示していた。「これが今回の目玉といえるかもしれません。屋内外自動走行、遠隔操縦、遠隔監視、非対面、非接触の車両で、スーパーシティ対応です」と担当者が話していた。
福島県田村市が慶應義塾大学ドローン社会共創コンソーシアムと連携協定を締結した一連の活動の中で、地元主導で設立された地域のドローン普及組織、「ドローンコンソーシアムたむら」もブースを出展。この5年でドローンの活動が飛躍的に進んだことを印象付けた。
このほか南相馬市で新工場の竣工を済ませたばかりの株式会社テラ・ラボ、南相馬市の株式会社eロボティクス、マグネシウム機体で独自性を発揮する株式会社石川エナジーリサーチ、水陸両用機開発の株式会社スペースエンターテインメントラボラトリー、橋梁点検ソリューションで定評のある株式会社デンソー、福島県いわき市に本拠を構えるメーカー株式会社DroneWorkSystem、有限会社ボーダック、株式会社リビングロボットなども独自機体やロボット、ソリューションを展示した。
会場のステージでは、地元在住のエアレースパイロット、室屋義秀さんの講演や、福島空港ダンスチームFLYERSのパフォーマンスなども行われた。なお、11月19日に福島県南相馬市の福島ロボットテストフィールドで取材をしたJUTMの運航管理に関係する実証実験で、実験の柱となったドラマの中で主役級の活躍をした警備会社の女性が、FLYERSのメンバーの1人と交流があると話していたため、パフォーマンス終了後にチームに話しかけてみたところ該当者と遭遇できた。警備会社女性が活躍されておられたこと、ダンスチームにエールを送っておられたことを伝えると、「とてもうれしいです」と喜んでいた。警備会社の社員と、福島空港のダンスチームメンバーとの縁を、ドローン関連の取材でつなげることができた縁は、ドローンの社会受容性拡大への期待を高めさせてくれた。
福島県は7月30日、福島県南相馬市の福島ロボットテストフィールド(RTF)で消防担当者向けに水中ドローン講習を行った。会津若松消防本部、須賀川消防本部、喜多方消防本部など福島県内の担当者らが知識と技能を身に着けた。講習は一般社団法人日本水中ドローン協会を運営する株式会社スペースワン(郡山市)が担った。参加した消防職員は所属先で身に着けた技能を活用する方策を探る方針だ。自治体が主導した水中ドローンの講習は珍しく、激甚災害が増える中でこうした講習需要が拡大する可能性がある。
講習は、水中ドローンの機体や運用に関する知識を身に着ける座学と、目的に応じた運用方法を学ぶ実技に分けて行われた。座学ではスペースワンのインストラクター、井東恭彦さんが講師を務め、水中ドローンの種類、歴史、ルール、用途、整備、今に水中ドローンにできること、できないこと、開発の状況などを体系的に整理して伝えた。
水中ドローンは空を飛ぶドローンと異なり、運用にかかわる法律は存在しないが、海上衝突予防法、河川法など運用場所に応じた法律があり、運用者はそれを確認、遵守しないといけないことが伝えられると、参加者はさっそくメモをとったり、配布された資料に線をひいたりした。
また参加者が消防職員であることから、運用現場を想定して、水面より上の空間で使えるGPSと、水中で機能するソナーを組み合わせて水中の対象物の位置を座標で推測する方法や、水中ドローンに備わっている機能をそのほかの通信技術と組み合わせることで、操縦者と他の地点とで映像を共有することが可能になる事例などが紹介された。
水中ドローンの動きについても実践を想定。「新しく開発された機種の多くは、機体の動きを6軸で制御できることをため、どの方向にも向けることができます。たとえば要救助者を確認するために機体を対象物に向けたまま維持することもできますし、海底の捜索をするため機体のカメラを真下に向けたまま移動をさせることもできます」と話すと、受講者が大きく首をたてにふるなど可能性を感じた場面も見られた。
さらに運用については原則3人体制であることを推奨していると説明。3人は操縦、補助、監視で、「補助者が非常に重要、ケーブルの出し入れ次第でトラブルの原因になりえます。ケーブルさばきが運用の巧拙が決まるといっても過言ではありません」とその理由が説明された。
また運用時に必要な準備も紹介した。そのうちのひとつがレジャーシートで井東さんが「機体は砂鉄をまきこんで錆びるとモーターがあっというまにダメになります。機体は砂浜におくとそれだけで砂鉄を巻き込みます。レジャーシートがあると、それを防げます。私も壊したことがあるので、利用をお勧めします」と体験談をまじえて分かりやすく説明した。
トラブル事例として、水槽の点検で、水槽内の突起物にケーブルがまきついてしまったことなどを紹介。具体例として映像で水中ドローンが航行中に海底の障害物にケーブルがからまったときの映像を投影した。映像では、別のドローンがアームを搭載して遭難ドローンに向かわせ、ひっかかっていたケーブルをとりはずして、救出に成功した。このほか養殖場で沈んだ魚を取り除く作業にも活躍する様子が紹介された。
また後半はRTFの屋内水槽試験棟に移動し、30m×12m×水深7mの大水槽で水中ドローンの操作を体験した。参加者は3班に分かれ、各班にスペースワンのインストラクターがつき、電源の入れ方、コントローラーの扱い方などのほか、空を飛ぶドローンと異なり、水中ドローンはケーブルにつながれた機体として操ることになるため、ケーブルの出し入れを管理する補助者が、操船の巧拙や、目的の遂行を大きく左右することなどの説明がされた。
ひととおりの扱い方を学んだあと、機体を進水。水槽の底に向かって沈ませる潜行をし、一定の深さに到達したらその姿勢を維持したままスライドするように横移動、その後右旋回をしたり、船の底を潜り込んで点検するように機首を水面にむけて仰がせたり、また、その姿勢を維持して移動をさせるなど、実践を想定した操作を体験した。その間、機体の深さを読み取るなど補助作業の重要性も体験した。
電波を通しにくい水中で、障害物や対象物を探り当てるときに役立つソナーの使い方も体験。ソナーの特性として、表面の固いものと柔らかいものとで反応が異なることを学んだ。
参加者の一人は「河川や湖沼などの水難事故で捜索などに役立つのではないかと感じた。所属先に戻ったあと活用法などを検討したい」と話した。スペースワンは「日本は海洋国家でもあり海を含む水中移動は災害対策、産業振興などに重要度が高まる見通しです。水中ドローンの普及や、運用できる人材の育成を通じて課題解決などに貢献していきたいと考えています」と話している。