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  • 2019.12.16

    第1回JDCフォーラムで安全、点検、防災など議論 4省庁登壇のパネルディスカッションも

    account_circle村山 繁
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      一般社団法人日本ドローンコンソーシアム(JDC)が開催した「第1回JDCフォーラム」では、ドローンの事業、研究に関わる事業者、研究者、行政担当者らが、点検、安全、防災などテーマごとに意見を交わす分科会的なセッションと、内閣府、総務省、国土交通省、経済産業省のドローンに関わる責任者、担当者が登壇するパネルディスカッションが行われた。

    長岡技術科学大・木村哲也氏「安全は基本的人権」

    長岡技術科学大学の木村哲也教授の講演には多くの参加者が耳を傾けた

      テーマごとのセッションのうち、「安全推進/技能検定」のセッションでは、システム安全の社会啓発に取り組む長岡技術科学大学の木村哲也准教授が、生活支援ロボットのISOに携わる経験などをもとに「持続的発展に必要な国際安全規格から見たドローン安全」でスピーチした。

      木村氏は、機械に取り付けられているプロペラの回転が指を切断するリスクについて検証した実験映像を見せながら耐切創性について説明。そのうえで、「安全は基本的人権の一部と言って文句は言われないと思う」と位置づけ、「持続的なビジネスにも必要だ」と強調した。

      安全の基準となる安全規格について、木村氏は蒸気機関の誕生、普及に伴い生まれたと説明。具体的には、かつて蒸気船が発明されたとき、火災を起こす危険性の高い、技術の低いボイラーを採用した船の入港を制限しなければならず、そのため入港できる船として認める最低基準を定め、事業者がその基準を守りあった経緯があったという。また技術開発費は、持続的経営の必要性の中で理解され、事業主が吸収してきたと解説した。

      認証機関については民間が担うのが世界の大勢であると紹介。「日本では公共的なものは国や行政に担ってもらおうとする空気が強いが、世界的な考え方はそうではない。民間が自由にビジネスをしたいから、自らを律する基準をさだめるという考えがある」と述べた。

      一方でドローンについては、「経験のない技術が世の中に出てこようとしているの。このため、蒸気船のように、経験的から安全確保策をつくるのではなく、論理的に組み立てていく必要があるのではないか」と述べた。

      さらに、安全規格は「社会をコントロールする重要なツール」と指摘。「価格、性能と異なり安全性、環境対応などユーザーに分かりにくいところ、メーカーが手を抜けるところは、第三者的な規格を作っておく必要がある。クルマでいえば、型式認定を受け、個々に車検制度があり、保険にも入ることになっている」と説明を加えた。そのうえで、「規格をめんどうなもの、やっかいなものと受け止める声も聞かないことはないが、もともとの発想は反対。研究者にとっては、技術開発を自由にやらせてほしいから、規格をつくり、それを守るから、それ以上の指図をしないでほしい、というメッセージだった」と繰り返した。


      安全に「絶対」が存在しない状況での規格策定については、どこまで許容範囲かを探る作業になると言及。木村氏は「生活支援ロボットでも町の中で動かす話になると、子供にぶつかったらどうなるのか、とか、“絶対に安全でないと困ります”という発言をされる方がいらる。そこが生活支援ロボットを社会に展開するうえでの課題となっています」と紹介した。

      一方で、「追求しすぎるとコストがどんどん上がるのが安全。むやみやたらにコストをかければいいというものでもない。いい塩梅で成り立つ安全を考える必要がある」と、そのバランスの重要性を指摘した。

    内閣府、経産、国交、総務がドローンの利活用推進表明

    球体ドローンELIOSを使った点検について報告をしたジャストの角田賢明取締役

      このほか施設点検セッションでは、三信建材工業株式会社、株式会社日立システムズ、山九株式会社、株式会社ジャストなどの代表者が取り組みを報告。株式会社ジャストの角田賢明取締役は、球体ドローン「ELIOS」を使って構造物調査に取り組んだ事例などを紹介し「安全や効率などで成果があった。今後も改善、向上に向けて取り組みたい」と意気込みを語った。

      パネルディスカッションには、内閣官房小型無人機等対策推進室の長崎敏志内閣参事官、総務省総合通信基盤局移動通信課の荻原直彦課長、国土交通省航空局安全企画課の英浩道課長、経産省製造産業局産業機械課の玉井優子課長が登壇。JDC制度設計委員長で慶應義塾大学教授の武田圭史氏がナビゲーターを務め、会員向けのアンケート結果を紹介しつつ、登壇者の意見を促した。

      登壇した4人はそれぞれ各賞の計画や取り組みを披露し、「規制でドローンの発展を阻害することはしたくない」など、そろってドローンの利活用推進の立場を表明した。

      国交省航空局安全企画課の英課長は「飛行申請は年々増えている。用途をみると、空撮が一番多く、測量、インフラ点検の順番だ。業務上必要なものとして使われているという印象を持っている」と現状を分析した。

      総務省の荻原課長は「通信インフラの利活用は地域の活性化などにとって大切であり、ドローンにとっても大切。どう使いやすくするか。そこにいま力をいれているところ。幅広く要望、意見を聞き、取り組みに反映させたい」経産省の玉井課長は「役人にとって“改正する”という業務は珍しくないが、制度をどう設計し、産業をどう育てるかということはあまりない経験することではなく、いまはたのしく仕事をしている」

      ただ、社会にはドローンの利活用を歓迎する声ばかりではなく、長崎参事官は「かかってくる電話にはクレームが多くまだまだ賛成ばかりではない。ドローンの利便性をどう伝え、安全性をどう確保し、それをどう理解して頂くか。これからも取り組みを加速させて、当たり前にドローンが飛ぶ世の中になると期待している」と述べた。

      最後にJDCの野波健蔵会長は、「2016年が産業用ドローン元年といわれ、昨年2018年は物流ドローン元年といわれた。2022年には第三者上空飛行元年になり、2020年代後半にはわれわれが想像しているような、どこでもドローンが飛ぶ社会になると展望している」としめくくった。

    左から内閣府の長﨑参事官、ナビゲーターを務めた慶大の武田教授、総務省の荻原課長、国交省の英課長、経産省の玉井課長

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。