管理が難しい繊細な和牛の受精卵を、冷凍も冷蔵もせずにドローンで移植先の農家まで運ぶ実証実験が北海道上士幌町で始まった。実験を実施したのは北海道上士幌町、JA上士幌町、株式会社NEXT DELIVERY(山梨県小菅村)で、7月の実験では移植に耐える状態で受精卵を運搬することに成功し、乳牛への移植も無事に行われた。ドローンで受精卵を運ぶ試みは世界でも報告がなく、今後、運んだ受精卵が運搬中に受けた振動の影響などを検証するほか、気候の違う時期にも実験を行う予定だ。日本では和牛の飼養農家の戸数が年々減少続けている半面、産出額は右肩上がりで生産拡大が期待されている。牛肉の輸出額も2021年には537億円と、畜産物輸出全体の62%を占める主力品目となっており、2030年には輸出額を3600億円に引き上げる目標が掲げられている。旺盛な需要に対応するためにも、輸出目標達成のためにも、和牛生産の拡大と効率化は急務で、受精卵の安全な運搬は畜産業界に欠かせない技術のひとつとなっていて、国を挙げた強い期待がドローンに寄せられている。ドローン産業にとっても、繊細な管理が求められる資源の輸送に活用範囲を広げる一歩となりそうだ。
7月の実験では、JA全農ET研究所(上士幌町)で採卵した受精卵を、振動による損傷を防止するため検卵液層と空気層と設けた水筒に納めた。温度変化による悪影響にも備え、ウシの体内の温度である30~35度を維持するように調整して運搬用の容器に入れてドローンに積んだ。ドローンはNEXT DELIVERYが山梨県小菅村ほか各地でスマート物流に活用している揺れに強いAirTruckを使った。
AirTruckは移植するためのメス牛が待つ、7.1キロ離れた町内の熊谷牧場まで13分で飛んだ。到着先の熊谷牧場では、運ばれた受精卵を、受精卵移植操作の資格の保有者である家畜受精卵移植師が注入した。受精卵の移植は、家畜改良増殖法に基づき、この資格を持つ移植師か獣医師しかできないことが定められている。また移植を受けたのは肉用牛ではなく、乳用牛だ。和牛の生産拡大をめぐっては、子牛供給の計画的な拡大のため、乳用牛に肉用の和牛の受精卵を移植して生産する「借り腹」が期待されていて、政府も肉用牛生産基盤強化のため、乳用牛への和牛受精卵移植技術を活用した、酪農家由来の和子牛生産拡大の支援を打ち出している。この日の移植では、受精卵が牧場に到着から10分で終えることができた。
和牛の受精卵は、広域流通を可能にするため、移植器具であるストローに納めて凍結させる方法が知られている。凍結により遠方の牧場への運搬が可能になった一方、移植前の融解のさいに、受精卵が損傷を受けるリスクの高い温度をできるだけ速やかに通り抜ける技術が必要になるなど、作業には独自の技術が必要になる。凍結受精卵には融解の段階で、温度変化で損傷をきたすリスクもあり、畜産業界では受胎率を高める移植方法を模索し続けている。凍結リスクを回避するためにチルド冷蔵保存する方法も模索されていて、この方法だと1週間の管理が可能だ。
一方、移植までに冷凍もチルド冷蔵もせず、自然卵のまま運ぶことができれば、受胎率を引き上げられる期待があり、今回、新鮮卵のまま運搬する方法のひとつとして、ドローンによる運搬が試された。AirTruckは、特に飛行時に機体の進行方向の加減速に伴う揺れが、積み荷に伝わることを防ぐ4D GRAVITYと呼ぶ独自技術を使った機構が採用されている。今回の実証実験では温度管理、振動、配送後の移植に問題はなかったことが確認された。移植した牛が期待通り着床するかどうかは年内に判明する見通しで、今後も検証を続けることになる。
和牛は生産基盤の強化が大きな問題となっている。肉牛の飼養農家は、2014年の約5万7500戸から2022年の4万400戸まで8年間で3割減った。一方、肉牛の需要は急増しており、産出額は2010年の4639億円から10年間で、7385億円と59.2%増加した。このため一戸あたり飼養頭数も増加しており、買う、増やす、などの畜産事業を体系化し、育成部門を外部化するなど増頭を可能にする環境づくりを進めている。酪農家由来の肉牛の生産の拡大も、和牛生産基盤の拡大の重要施策で、受精卵移植に必要な技術として、ドローンの移動技術が期待を集めている。
8月10日には以下の発表資料が公表されている。
北海道上士幌町(町長:竹中貢)と JA 上士幌町(代表理事組合長:小椋茂敏)、株式会社 NEXT DELIVERY(本社:山梨県小菅村、代表取締役:田路圭輔 以下 NEXT DELIVERY )は、JA 全農 ET 研究所(北海道上士幌町、以下 ET 研究所)の協力のもと、7月1日(金)に上士幌町でドローンを活用した世界初の牛の受精卵配送の実証実験を実施しました。
具体的には、ET研究所で採卵された牛の受精卵(冷凍保存されない新鮮卵)をドローンによって上士幌町内の農家宅へ配送し、移植をする実証を実施し、成功いたしました。牛の受精卵のドローン配送は世界初の取り組みです。
なお、本取り組みは、国の「デジタル田園都市国家構想推進交付金」(※1)を活用した取り組みです。
<本実証実験の詳細>
1.背景と目的
日本の肉牛生産においては、生産基盤の縮小に伴う構造的な子牛供給不足が深刻化する中、和牛の子牛共有の手段として、乳牛を借り腹とした和牛受精卵移植(Embryo Transfer)による子牛生産の重要性が増しています。ET 研究所は、早くからこの世界に類を見ない受精卵供給体制を構築し、JA と一体となり和牛生産基盤を支えており、ET 妊娠牛を全国に供給しています。
一般的な受精卵移植は、凍結・保存した受精卵を使用しますが、凍結や解凍の過程で受精卵が損傷を受ければ、受胎率は低下すると考えられます。一方で新鮮卵は、冷凍受精卵よりも安定した受胎率は得られますが、採卵当日に移植を行う必要があり、採卵・流通・利用の関係上、広域流通は困難となっています。
本実証は、新鮮卵の受胎率や広域流通の可能性を検証するもので、ドローン配送による温度管理・振動・配送後の移植状況の評価と、従来のナイタイ高原牧場へ牛を運び新鮮卵を移植する方法、あるいは農家が自ら研究所まで受精卵を車で引き取りに行く方法と、ドローンを活用し農家庭先に輸送する方法を比較し、輸送にかかる農家の手間やコストなどを比較して、ドローン配送の有効性の検証を行いました。なお、今回の実証を含め今年度中に計4回の実証を予定しています。
2.実施概要と結果
■ポットに入れられた受精卵が、ET 研究所から熊谷牧場(熊谷肇さん経営)まで片道約 7.1km の距離を約 13 分でエアロネクストが開発した物流専用ドローン AirTruck(※2)で配送され、移植師に手渡された。受け取った移植師は、直ちに発情同期化させた乳牛(ホルスタイン育成牛)に移植処置を行い、約 10分後に移植を完了した。
■実証の結果、今回のドローン配送による温度管理・振動・配送後の移植状況は問題ないレベルであり、実用に耐えうることが確認できた。
■実験に協力した JA上士幌町の小椋茂敏組合長のコメント
「輸送時間が短く、振動が少ないほど、受胎率は向上する。運んだ受精卵が今後、どのような和牛や肉質になるのか追跡し、進めていければと思う。」
■受精卵が配送された熊谷牧場を経営する熊谷肇代表のコメント
「今は士幌町にある施設まで片道15分以上かけて受精卵を取りに行っている。ドローン配送は、迅速かつ安全に輸送でき、牛の供給不足解消や仕事の効率化にもつながると思う。家畜防疫上も良い。」
各分野においてデジタル・トランスフォーメーションが進行する中、畜産業界においても、少子高齢化による担い手不足という深刻な課題に直面しており、各テクノロジーの活用が求められています。
上士幌町では昨年 11 月にドローンを活用した牛の検体(乳汁)のドローンと陸送によるリレー配送の実証を日本で初めて実施し成功させ、乳汁に限らず、デジタルを活用した新たな配送の可能性も見据えたドローン配送を含む新スマート物流の社会実装に向けて推進しています。
この度、配送等の課題の多い畜産業界で、特に細心の管理体制での実施が必須である受精卵の配送において、新スマート物流の実装可能性を検証することができたのは大変大きな成果となりました。
今後実用化に向けて、今年度中に違う季節における複数回の実証を予定しており、引き続き、連携して検討を重ねる予定です。また、畜産業界のみならず、その他の産業界への応用、拡大の可能性も広がります。
内閣府が8月17日午前に発表した2020年4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比7.8%減、年率換算では27.8%だった。マイナス成長は3四半期連続。新型コロナウイルス感染症の影響が直撃し、これまで最大の落ち込みだったリーマンショック後の2009年1~3月期(前期比年率17.8%減)を超えた。減少率としては比較可能な1980年以降最大と、深刻な落ち込みを余儀なくされた。非接触、非対面社会への移行が必要となる中、ドローン関連産業のリーダーは、価値ある未来を手繰り寄せる役割を担うことになりそうだ。
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う緊急事態宣言などにより、経済活動が停滞したことが影響した。特に民間需要と輸出の落ち込みが強烈だ。
民間需要のうち民間最終消費支出は前期比マイナス8.2%(年率マイナス28.9%)で、3四半期連続の悪化となった。消費増税の行われた昨年10~12月期のマイナス2.9%を大きく上回る落ち込み幅だ。民間最終消費支出の内訳をみると、家計消費支出が前期比マイナス8.6%(年率マイナス30.1%)と急落した。緊急事態宣言を受けた外出自粛や休業要請で、飲食サービス、宿泊サービス、輸送サービスの落ち込みが如実に映し出されている。
外需も輸出が前期比マイナス18.5%(年率マイナス56.0%)と急減。米国の都市封鎖などで自動車輸出が大幅に減少した。インバウンド消費もサービスの輸出にカウントされるため、需要がほぼ消えたことになる。
西村康稔経済再生相は会見で「緊急事態宣言の下で経済を人為的に止めていた影響でこのように厳しい結果となった。(輸出は欧米のロックダウンの影響で急減したが)今後は中国や欧米の経済回復が輸出をけん引していくことを期待したい」と述べた。
4~6月期のGDPについて、SMBC日興証券株式会社金融経済調査部の丸山義正チーフマーケットエコノミスト、宮前耕也シニアエコノミスト、今村仁義エコノミストは、比較可能な1980年以降の、現行の「08SNAや簡易遡及データに加え、連続性はないが、1955年以降について係数を得られる68SNAデータから、「第二次大戦後における最悪の落ち込みと位置付けられよう」と分析している。
あわせて、リーマンショックやバブル崩壊など過去の景気後退と比べ、コロナショックには4点の違いがあると分析した。それぞれ、①突然に落ち込んだ②金融システムが原因ではない③迅速な政策措置を講じた④需要刺激策が十分に機能しないーがその4点だ。対策を講じるにも過去の経験からはじき出した対応だけでは不十分となる可能性がある。
さらにデジタルトランスフォーメーションの必要性にも言及。「今後の課題として、対面でしか生み出せない価値があることに疑いの余地はないにせよ、実態を反映しないルールやレガシーのために対面を余儀なくされているケースも多く、真に物理的な対面が必要なケースに労力を振り向けるため、ルールとテクノロジーの両面で政府、経済主体が対応を進める必要がある。それが真のDXでもあろう」と主張している。
ドローン関連の経営者、ビジネスマン、研究者、関連担当を受け持つ公務員、知見のある議員連盟所属議員は、他の領域よりも幸いにしてDXに近いポジションにいる。日本社会が対面依存からの脱出や、脱出までの時間の短縮に力を発揮するタイミングであるといえそうだ。