農業用ドローンの株式会社ナイルワークス(東京、柳下洋社長)は5月24日、新型ドローン「Nile-T19」の出荷を開始した。機体を製造したPC企画、製造、開発、EMS事業などで知られるVAIO株式会社(長野県、吉田秀俊社長)で初出荷が行われた。ナイルワークスの柳下洋社長はあいさつの中で「この技術で世界の農家を変えたい」と意気込むと、生産拠点であるVAIOの吉田秀俊社長も「この日を迎えられて感無量」と応じた。
この日出荷された「Nile-T19」の機体はナイルワークスが「完全自動飛行型」を誇る自信作。圃場の形をタブレットに登録すると飛行経路を自動生成し、タブレット上の「開始」ボタンを押せば離陸から着陸までが自動だ。機体は作物の上空を30~50センチメートルの至近距離で飛行し、薬剤散布のさい飛散量を抑制する。8リットルの薬剤が積むことができ、1ヘクタールを15分で散布ができるなど、従来に比べ負担が大幅に軽くなる。
機体の大きさは幅1820ミリメートル、奥行き1410ミリメートル、高さ823ミリメートルで、重量はバッテリーを含めて18キログラムだ。アームを4本持つクアッドコプタータイプ。ただ、それぞれのアームには回転の向きが反対の2つずつ4組ついており、計8つのプロペラを備える。このプロペラが飛行と農薬や肥糧の散布を担う。プロペラ周囲は機体に固定されたプロペラガードが覆い安全性を高めている。
加速度3軸、角速度3軸、地時期3軸、気圧、ソナー、RTK-GNSSなど12種類のセンサーを搭載。独自に開発したナイルワークスフライトコントローラーが飛行を制御し、機体の実際の位置と目標地点との誤差を2センチメートル以内に細かく制御できる。薬剤の散布のON、OFFの切り替えのタイミングや散布吐出量は飛行速度と算出された薬剤の必要量に応じて自動調節できる。
生育状況を監視するカメラも搭載していて、至近距離から圃場データを収集。作物の生育状況を一株ずつ診断できる。角度の高い収量予測や精度の高い可変量施肥、除草剤や殺菌剤のピンポイント散布の実用に向けた準備も進めている。
基本セットは、Nile-T19本体(生育監視カメラ付きの機体)1機、バッテリー2個、充電器1台、基地局1セット、測量機1セット、基地局・測量機用バッテリー2個、基地局・測量機用バッテリー充電器1台、操縦者用タブレットだ。
この日の出荷式では、関係者が生産拠点であるVAIOの工場を見学し、製品が確実に組み上がる仕組みや、作業員による丁寧な作業ぶりを確認した。その後、出荷前に行われる飛行試験のデモンストレーションを見学した。デモンストレーションでは、関係者が見守る中、オペレーターがタブレットの「開始」ボタンを押すと、Nile T-19の機体が自動で高さ3メートルほどに浮上し、高度を維持したままあらかじめ生成されたルートをたどって着陸した。その後、初出荷の機体を収めたコンテナを積んだトラックが、引き渡し先にむけて出発した。
出荷式でナイルワークスの柳下社長は「“技術者魂”というものがあります。それは利用者に伝わるものです。私はかつて安曇野で生産されたNEWSといコンピューターを手にしたとき、開発者の利用者に対する思いをひしひしと感じました。ところで私はいつも『日本の農業を世界の最先端にする』と言っています。その思いに賛同して頂いたみなさんがNile-T19に関わって頂きました。これを手にする農家のみなさんに、その思いが伝わると信じています」とあいさつした。
また生産拠点となったVAIOの吉田社長も「昨年にこのお話をいただき、それから10か月で飛行する姿を見ることができました。この日を迎えられ感無量です」と応じた。
出荷式のあと、報道陣の取材に応じた柳下社長は、機体の生産計画について「2019年度が100台、2020年度が500台、2021年が2000台」と説明。2021年ごろには海外展開も視野に入ると展望を述べた。機体は現在、液剤の散布に対応しているが、粒剤への対応も進めている。また病気検出の即時性の向上、移動などの利便性のさらなる追求、小麦への転用などへの転用の実装にも取り組んでいて、「散布だけではなく、適時、適切に判断し、適切に自動で作業をすることこそドローンの仕事」と意気込みを語った。