一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)と千葉県は11月29日、「災害時におけるドローンによる物資輸送等に関する協定」を結んだ。両者が同日、それぞれ発表した。JUIDAは同日、東京都内で開催した「JUIDA認定スクールフェスタ」の中で協定締結を参加者に報告した。JUIDAはフェスタの中で、「ドローン防災スペシャリスト教育」の導入方針や、災害対応委員会の創設計画など、防災の取り組みに力を入れる姿勢を示した。
協定は、災害時に医薬品、応急用敷材、食料などの応急物資をドローンで運搬することが内容だ。また協議のうえ必要と認められたドローンによる支援活動も可能になることも盛り込んだ。
千葉県は「災害時におけるドローンによる物資輸送等に関する協定」の協定により、「災害時にドローンを活用した物資輸送等ができるようになり、支援物資を運搬するための多様な手段を確保することで、今後も迅速な災害対応を実施してまいります」と説明している。
JUIDAは自治体との防災協定を進めていて、すでに大分県などと結んでいる。東日本の自治体とは千葉県が初めてとなる。JUIDAは「この協定に基づき、JUIDA は災害時にドローンを活用した物資輸送等において千葉県での支援活動が可能となります。支援物資の運搬等の手段としてドローンを活用し、迅速な災害対応を実施して参ります」と抱負を述べている。JUIDAは締結当日に東京大学山上(さんじょう)会館で開催された会員向け交流、情報提供ミーティング「JUIDA認定スクールフェスタ」で協定の締結に言及し「平時でのドローンの活用も検討いていくことになります」と説明した。
JUIDA認定スクールフェスタでは、災害関連として千葉県との防災協定に加え、「ドローン防災スペシャリスト教育」の導入方針や、「災害対応委員会」の設置計画、被災地への派遣チーム「JUIDA D³(ディーキューブ=JUIDA Drone Disaster Dispacher)」の創設方針などが伝えられるなど、防災への意気込みを強く印象付けた。
JUIDAの鈴木真二理事長も認定スクールフェスタでの冒頭のあいさつで「毎年スローガンを発表していて2024年は『ドローン社会貢献元年』でした。年明けの能登半島地震で防災活動に取り組んだことが背景にあります。この取り組みで齋藤健前経済産業大臣から感謝状も頂きました。JUIDAはドローン活用の提言、国や自治体との連携、民間防災協力、防災教育のたちあげに取り組みます」と述べ、防災を重視している姿勢をみせた。
このほかフェスタでは、経済産業省製造産業局次世代空モビリティ政策室の滝澤慶典室長、 国土交通省航空局安全部無人航空機安全課の齋藤賢一課長が来賓としてあいさつした。JUIDAの熊田知之理事・事務局長は防災関連とともに、会員サービス、グローバルの取り組み、国際標準化の取り組み、JapanDroneなどビジネス機会に関する取り組み、学術振興の取り組みなど重点施策を説明した。経営企画室室長の田口直樹氏も登録更新や監査システムについて、岩田拡也常務理事も情報収集などについて報告した。
認定スクールの表彰も行われ、恒例のスクールアワードはゴールドにSKY FRIENDS ACADEMY、シルバーにサイワークスドローンスクール、ブロンズにドローン合宿岡山校を選出。取り組みを社会貢献や独自性などの視点で評価する理事長賞には、スマート林業講習に取り組んだFALCON DRONE SCHOOLを選出した。
親切した「優良登録講習機関賞認定証」は14法人に贈られた。表彰されたのは、株式会社スリーアイバード、田中電気株式会社、双葉電子工業株式会社、株式会社東北高速道青森、株式会社ミラテクドローン、株式会社スカイフォトサービス、株式会社ドリームモータースクール、有限会社オーシャン・クルー、株式会社札幌篠路自動車学校、日本DMC株式会社、株式会社ナスコ、丸山建設株式会社、株式会社ラパン・トルテュ、一畑工業株式会社の各法人だった。
自動制御技術のブルーイノベーション株式会社(東京)は、一宮町(いちのみやまち、千葉県長生郡)が同社の開発したドローン自動巡回システム導入を決めたと発表した。機体、ポート、ソフトなど2セットを町役場と町内の小学校に設置する。一宮町は年間60万人のサーファーが訪れるサーフィンの町で、津波注意報が出たときなどドローンが自動で出動し、7.5㎞にわたる海岸線の上空からスピーカーで避難を呼びかける。一宮町は仙台市が導入した事例を参考にしたといい、「長い海岸線があっても迅速に対応し被害を最小限にしたい」と話している。11月15日の発表後の東京証券市場ではこの決定を好感して同社株は急反発した。
ブルーイノベーション株は一宮町へのシステムの導入が決定した週明けの11月18日、前週末15日の1株あたり719円から71円高い790円で始まり、一時121円高の850円をつけるなど終日、前日終値を超えて取引された。18日の終値も808円で、翌19日の取引も812円と続伸で始まった。
一宮町が導入を決めたシステムはブルーイノベーションが開発した「BEP(ベップ)ポート|ドローン自動巡回システム」だ。ドローンと格納庫になるポート、それを稼働させるソフトウェアで構成される。BEPとは異なるIT機器同士を連携させて果たしたいミッションを遂行させるブルーイノベーションのプラットフォームで、Blue Earth Platformの略称だ。「BEPポート」はBEPを組み込んだドローンの離発着用ポートをさす。
主な機能は監視や警戒が必要な地域、施設、現場などでの自動広域巡回だ。必要なときにドローンが自動で離着陸し、各農事には自動で充電できる。Jアラート(全国瞬時警報システム)と連動していて、津波注意報などが発令された場合にドローンが離陸する。一宮町はこのシステムは2組導入する。2機のドローンは海岸まで飛行し、7.5㎞連なる海岸線を分担して飛び、上空から海岸や波の上のサーファーらに自動音声で避難指示を伝える。設置場所は一宮町役場屋上と町立東浪見(とらみ)小学校屋上を想定している。一宮町役場には非常用電源も備えている。
一宮町は長い海岸線と地域特産のフルーツなどから「緑と海と太陽のまち」を標榜する。海岸へは鉄道駅の玄関口、JR外房線の上総一ノ宮駅から自転車で10分、徒歩なら30分強。バス便もあるが、駅のバス停留所の発車は平日が15時ちょうど、16時ちょうどの2本のみ。休日の運航はなく、年末年始など運航しない時期も設定されている。
約7・5㎞の海岸線には絶好のサーフポイントが多く点在する。トラブル回避のため、禁止行為、エリア分けなどルールも作られている。この恵まれた環境が年間60万人のサーファーを引き寄せている。11月現在も、一宮海岸の駐車場は多くの車とサーフウェアに身を包むサーファーで賑わっていた。県外ナンバーも多い。
一方、街中では「津波注意」と注意を喚起する張り紙や「ここの海抜は〇メートル」と書かれた表示板が目立つ。海岸から広い範囲で海抜の低い平地が広がるため、津波発生時の避難場所も記されている。避難場所は小学校などの公共施設であったり、海岸から離れた丘陵地側にたつ寺院であったりする。町役場は海岸から約2㎞内陸だが、隣接する中央公民館には「この付近は海抜3.4メートル」と示す表示板がある。巨大地震発生時には数メートルから10mの津波も想定されていて、役所の4階より上階に避難することになる。
一宮町は津波が身近だ。さかのぼると1677年10月の延宝房総沖地震(えんぽうぼうそうおきじしん)では、各地で多くの津波被害をもたらしたといわれる。全体像を示す記録はないが、延宝5年(1677年)から享保4年(1719年)までの一帯の出来事を記した『万覚書写(よろづおぼえがきうつし)』には、一帯で住宅52軒が押し流され、137人の男女と子供が死亡し、その後1か月でさらに14~15人が死亡したとする記述が残る。町内には元禄7年(1694年)に建立された供養塔も残る。消防団の施設の玄関前には、延宝地震が再来した場合に想定される津波の高さを示した表示板もある。
システムの導入を決めた背景には、2011年の東日本大震災の津波で避難広報活動中の職員2人、消防団員3人を失った仙台市の事例が教訓となっている側面がある。仙台市は防災担当者自身の安全確保を検討し、2022年10月にブルーイノベーションの津波波避難広報ドローンの運用を始めた。運用にあたり、仙台市はシステムの主な利点を、道路寸断時でも空から俯瞰できるなど災害時におけるドローンの有用性を活用できること、防災担当者の安全確保や広域確認の迅速性確保など東日本大震災からの教訓をいかせること、行政無線やメールなどとあわせた津波避難広報の手段を多重化できることの3点をあげた。一宮町も海岸が広域で、行政無線の設置に限界があるなど、課題が重なっていた。
一宮町は「万が一のときでも被害を最小限に食い止めるため、導入を検討した。仙台市の事例も聞いていて、実験もして有効と判断した。DXを推進しつつ、まかせきりにはせず対応の強化につなげて町を活性化したい」と話す。
ブルーイノベ―ションの発表内容は以下の通り。
~Jアラートと連動し、自動飛行でサーファーに避難誘導を実現。令和7年度より運用開始~
ブルーイノベーション株式会社(本社:東京都文京区、代表取締役社長:熊田 貴之、以下 ブルーイノベーション)は、千葉県一宮町において当社の「BEPポート|ドローン自動巡回システム」※1を活用した津波避難広報ドローンシステム(以下、本システム)の導入が決定したことをお知らせします。本システムは令和7年度より運用を開始し、一宮町の防災力を大幅に強化します。さらに、津波リスクが高い他地域への導入を拡大し、全国的な防災力向上に貢献することを目指します。
■ 新たな防災の形として
本システムはJアラート(全国瞬時警報システム)と連動しており、津波注意報以上が発令された際に、一宮町役場および東浪見小学校の屋上に設置されたドローンポートからスピーカーやカメラを搭載したドローンが自動的に発進。指定された海岸エリア(海岸線延長約7.5km)を飛行し、上空から自動音声でサーファーや海水浴客、周辺住民に対して避難指示を伝達します。これにより、迅速かつ効果的な避難指示・誘導対応が可能となり、地域の安全を強化します。
■ 導入の背景
一宮町では、大規模地震に備え、津波災害への防災対策を整備していますが、現状の防災無線だけでは、海岸線延長約7.5kmの沿岸地域に対して充分な避難指示・誘導を行うことが難しい状況です。また、一宮町は全国有数のサーフィンスポットであり、東京2020オリンピックの正式競技会場にも選ばれており、海上にいるサーファーへの迅速な情報伝達が求められています。
このような課題を解決すべく、一宮町は、当社が開発サポートした宮城県仙台市の津波避難広報ドローン事業※2の事例に着目し、本システムの導入を決定しました。この取り組みにより、一宮町はサーファーや海水浴客、周辺住民の安全をより一層強化する体制を整えます。
■ 用語説明
※1 BEPポート|ドローン自動巡回システム
施設内・建設現場・河川・ダムなどの点検や監視、警報などの広域巡回を、現場で人が介在することなく定期的に実施が可能。自動離着陸・充電が可能なドローンおよびドローンポートシステム。
https://www.blue-i.co.jp/solution/logistics/port_04.html
※2 仙台市津波避難広報ドローン事業
2022年10月より運用開始。Jアラートと連動しドローンが自動離着陸・飛行し、避難広報と状況撮影の全自動化を実現しています。