ドローンの知識、技能の習得に力を入れている神奈川県立海洋科学高等学校(神奈川県横須賀市)の生徒が、ドローンを活用した環境調査に乗り出した。地元、横須賀市の漁場で進行する磯焼けと呼ばれる現象を、海中環境の撮影などで調査する。磯焼けの原因のひとつとされるムラサキウニなどの食害生物の有効活用も模索する。6月16日には同高の所有する実習船で沖合に出て、技能を習得中の水中ドローンで海中の撮影に挑んだ。今後10年間にわたり地元の海を守る課題に取り組む方針だ。
海洋科学高校が参加した海中調査は、ドローン研究、人材育成、社会実装に力を入れる慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム、長井町漁業協同組合、横須賀市の取り組み。横須賀市はドローンを課題解決に役立てる実験に協力的で、6月10日には牛丼の注文デリバリー実験の市内での開催に関わった。今回は、調査員が潜水することなく水中を調べられる水中ドローンの有効利用にも範囲を広げた。
調査当日は海洋科学高校の情報通信系列3年生4人が、慶應SFCの研究員らとともに午前中に、同校が所有する小型実習船「わかしお」(19トン、定員38人)に乗りこみ、沖合約1キロメートルの地点まで航行。ここで水中ドローンを使い海中の様子を調べた。磯焼け対策を検討する生物系列の生徒4人も同行した。
この日使った水中ドローンは筑波大学発のスタートアップ、株式会社 FullDepth(フルデプス)の水深300メートルまで潜れる産業機「Dive Unit300(ダイブユニット300)」と、中国・深圳に本社を構える水中ドローンメーカー、QYSEA Technology(キューワイシー、テクノロジー、中国名:鰭源科技)社の「FIFISH V6S」。調査地点までたどり着いたところでドローンを海に投下。学校のプールとは異なり、流れのある海での操作にてこずりながら、機体が少しずつ潜る。水深11メートルほどの海底にたどりつくと、ドローンのカメラがとらえた海底の映像が、ドローンの居場所の水深などのデータとともに、モニターに映し出された。磯焼け対策を講じるにあたり、現状を把握するための重要な映像だ。
生徒たちは、操縦と映像の観察を1時間ほど行った。一行は磯焼けの象徴でもあるムラサキウニなどを採取し、長井町漁港に帰港した。ウニはさっそく研究機関に持ち込まれた。環境の状況を知るためのデータを取得するほか、ウニそのものを食材として活用する方法も探る方針だ。今後10年間、地元の海洋環境の保全に、地元の高校生が身に着けたドローンの知見、技術を生かす。
神奈川県立海洋科学高等学校(横須賀市)で6月2日、水中ドローンを学ぶ授業がおこなわれた。情報を学ぶ生徒16人が、教室で水中ドローンの利点、仕組み、操作のポイントを学んだ後、学校のプールで水中ドローンの操作を体験した。授業はドローンの研究で知られる慶應義塾大学SFC研究所の所員、下田亮氏らが講師を務めた。海洋科学高校では「海に囲まれた地域の海洋科学高校として、強みをいかした人材を育成したい」と話している。
授業では下田氏が水中ドローンの利点を解説した。この中で人が特別な準備をしない場合は、水に潜れる深さは39mで、活動できる時間は最大10分に限られることを説明。そのうえで水中ドローンであればさらに深く潜り、さらに長く留まれると述べた。
また水中ドローンを使った取り組みを動画で紹介しながら、水の中への太陽光の届き方が場所により差があること、ドローンの活動にはプログラミングが深く関わること、水中で行いたい作業のために道具を自作することもあること、など活動の特徴を整理した。
下田氏は「水中ドローンを使うときに大事になるのは、潜れるかどうか、よりも、潜って何をするのか。水中ドローンは潜れて当たり前。それを前提に、水の中でやりたいことをするためのプラットフォームです」と好奇心を刺激した。
このあと水中ドローンの実物の機体を見せながら操作方法などを紹介。持参した水中ドローンは中国・深圳に本社を構える水中ドローンメーカー、QYSEA Technology(キューワイシー、テクノロジー、中国名:鰭源科技)社の「FIFISH V6」で、機体の特徴、電源の入れ方や装備、機体にできる動き機体操作とテザー管理の2人1組で操作すること、機体は水に潜れる一方で送信機は水に濡れないように扱うべきであることなどを解説した。
教室で基礎知識を学んだあとはプールに移動し、生徒たちが実際に操縦を体験した。生徒を2グループに分けてそれぞれ2人1組となった。機体を水に沈め、モーターが回り実際に機体が動き出すと、操作している生徒も、見ている生徒も身を乗り出して機体の動きに視線を送った。前後移動、左右移動、点検などを想定した角度調整などを繰り返すうちに徐々に慣れた様子で操るようになり、中にはインストラクターのアドバイスを受け、機体の進む方向にあわせて体の向きを変えるなど工夫をする生徒もいた。
水中ドローンの授業が行われた神奈川県立海洋科学高校は、海に囲まれた横須賀市にあり、「海を知り、海を守り、海を拓く」を校訓に設定する海洋科学のスペシャリスト養成を掲げる県立高校で、実習船も持つ。3年間の過程を終了した後に、専門性を深める2年間の専攻科も備える。水中ドローンの授業を受けた生徒16人は、水中ドローンを中心に学ぶ班、飛行するドローンを学ぶ班、映像の編集や作品づくりを学ぶ班に分かれている。また生物環境を調査する班の生徒4人も含まれ、水中ドローンを専門に生かす。今回はすべての班が水中ドローンの基礎に触れた。この日の授業の様子を見守っていた学校関係者からは「生徒が生き生きしていることがうれしい」という感想が聞かれた。今後、飛行するドローンの操作も学ぶ方針だ。