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  • 2022.10.9

    福井・敦賀市で「SkyHub」サービス開始 エアロネクスト,セイノーHDなど山梨・小菅村,北海道・上士幌に続き3例目

    account_circle村山 繁
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     福井県敦賀市で10月8日、ドローンを組み入れた新スマート物流「SkyHub」の住民向け配送サービスが始まった。敦賀市、セイノーホールディングス株式会社(岐阜県)、KDDIスマートドローン株式会社(東京)、株式会社エアロネクスト(東京)、株式会社NEXT DELIVERY(山梨県小菅村)が、一帯の配送拠点となる「ドローンデポ」を置く愛発(あらち)公民館で出発式を行い、第一便が飛んだ。エアロネクストなどによるSkyHubサービス提供は、山梨県小菅村、北海道上士幌町に続き3例目となる。

    デポをSkyHub Storeとして地域のコンビニに 地元住民でなくても利用可能

    愛発公民館に設置されたドローンデポを飛び立つAirTruck

     敦賀市でのサービスは、JR敦賀駅から東南の一帯に広がる中山間地、愛発(あらち)地区で始まった。11ある集落のうち、「疋田」、「奥野」、「曽々木」、「杉箸」の4集落が対象だ。3集落にはドローンの停留所「ドローンスタンド」が整備されている。利用者は専用の電話番号に電話で注文をする。早ければ注文から30分で、最寄りのドローンスタンドに注文の品物が届く。トラックで自宅に届けるサービスも併用する。注文できるのは、ドローンデポに在庫のある食品を詰め合わせた「おかしセット」、「朝食セット」、「洋風朝食セット」で、商品群は順次拡大する。デポはSkyHub Storeとして地域のコンビニに育てる計画で、今後、配送拠点にとどまらず、立ち寄ればその場で買えるようにもする。

     注文方法も不慣れな初心者も使いやすいアプリを開発したうえで、タブレットから注文できるようにする。サービスは、対象地域にいれば住民でなくても利用できる。配送料は1回あたり300円で、祝日をのぞき、原則火、水、木、金曜日の午前9時~午後5時が営業時間だ。

     この日の出発式では、敦賀市の渕上隆信市長が「便利になるととても喜んでいます。ゆくゆくは地域の防災にも活用できないか考えたい」と期待を表明した。セイノーHD事業推進部新スマート物流推進プロジェクト課の須貝栄一郎課長は「愛発モデルとして今後展開させたい」と明言。KDDIスマートドローンの博野雅文代表取締役社長は「このサービスでは遠隔物流のシステムと物流専用ドローンの統合を図りました。今後、地域配送のひとつの形になると考えています。われわれは『叶えるために、飛ぶ』を掲げており、このサービスを全国に広めていきたい」と抱負を述べた。

     エアロネクスト代表取締役CEOで、NEXT DELIVERY代表取締役でもある田路圭輔氏は、「この地域では2年前にコンビニが撤退してから買い物に不便を感じる住民が多いと伺いました。アンケートでも8割の方が不便を感じていると回答しています。このサービスを導入することでその不便の解消につなげて参ります」などと決意を表明した。

     出発式のあと、第一便が注文の品を積んだドローンがデポを飛び立ち、5.2キロ離れた杉箸集会所に置かれたドローンスタンドに向かった。ドローンは10分ほどで杉箸のドローンスタンドに到着し、注文者や近所の住民が見守る中で荷物を下ろすと、周囲から拍手が起きた。注文者は「このあたりはコンビニがなくなってから買い物が不便になっていました。ドローンのサービスはこの地域をもう一度便利にしてくれるのではないかと期待しています。荷物もほら、ぜんぜん傾いたり傷んだりしていません。今後、クスリなんかも運んでもらえるとうれしいです」と喜びをかみしめていた。

     ドローンが荷物を届ける様子を見ていた敦賀市の渕上市長は「便利ですね。冬には雪が降る地域ですが、実証実験のときに雪が降る中を飛んだこともありまして可能なこともあるのかなと期待しているところです。それと、キャンプ場に注文した食材をドローンで運んでくれるとなると、それを楽しみに足を運んでくれる観光客が増えくれるかもしれないですね。期待は高まるばかりです」と話した。

    KDDI運航管理システムと統合後第一弾 SkyHubはStoreからDeliveryにも,Eatsにも拡充へ

    出発式で事業概要を説明するエアロネクストの田路圭輔代表(左)と出発式の出席者

     3例目となった敦賀市での新スマート物流のサービス開始は、KDDIスマートドローンにとっては、運航管理システムを統合させて初のサービス提供となった。エアロネクストがセイノーHDなどと開発、提供を進める新スマート物流は、今後需要も広がりに応じて事業規模が拡大する見通しで、管理業務のシステム化を進めていて、敦賀市でのサービスは、運航管理システムを組み込んだことで、新スマート物流にとって新しい一歩を踏み出した節目の船出となった。

     KDDIスマートドローンとエアロネクストは9月20日、ドローン配送サービスの社会実装に向けた業務提携契約を締結している。KDDI株式会社(東京)も、新事業共創を目的とした、「KDDI Open Innovation Fund 3号」(運営者:グローバル・ブレイン株式会社)を通じてエアロネクストに出資するなど関係が緊密化している。

     エアロネクストとKDDIスマートドローンの業務提携の内容は、第一が、ドローン配送サービスの自治体導入と導入のための実証実験の共同実施、第二が、ドローン物流に必要な機体・モバイル通信・運航管理システムの販売・導入での連携強化だ。すでに2022年3月に新潟県阿賀町でドローン配送の実証実験を実施し、2022年6月にエアロネクストがACSLと開発した物流専用機「AirTrack」とKDDIスマートドローンが開発した運航管理システムなどツールをセットにした「スマートドローンツールズ」を組み合わせたドローン配送パッケージ「AirTrack Starter Pack」の提供を始めている。

     敦賀でこのシステムと統合したサービスを提供することで自治体での運用例ができたことになり、今後地方での導入にはずみがつくことが予想される。

     また、敦賀市のSkyHubサービスは順次、拡充する。当面はデポのストック商品を電話注文で届ける。専用アプリの開発も進めている。11月には、デポにない商品も、提携先スーパーから取り寄せて届ける買い物代行サービス「SkyHub Delivery」を始める。株式会社出前館(東京)が運営する、宅配ポータルサイト「出前館」のアプリを活用し、提携先の飲食店の食べ物をドローンスタンドか自宅に届ける「SkyHub Eats」も追加する。閉校して商品ラインアップの拡充も進める。

     11月にも始めるアプリ注文に対応し、スマホ操作に不慣れな高齢者を想定して、スマホ講習会も実施する。講習は11月以降も随時実施する計画で、利用者からの意見をサービスの改善につなげる仕組みもつくる。このころには愛発地区にある11の集落すべてにドローンスタンドが整う見通しだ。

     田路エアロネクストの田路圭輔代表は「SkyHub Store」愛発は、地域のコンビニとして機能することを目指します」と宣言し、ひとつひとつ着実に積み重ねていく。

    荷物を受け取った杉箸集会所で住民を囲む関係者。左からセイノーHD事業推進部新スマート物流推進プロジェクト課の須貝栄一郎課長、エアロネクスト代表取締役CEOの田路圭輔氏、住民をはさんで、敦賀市の渕上隆信市長、KDDIスマートドローンの博野雅文代表取締役社長
    出発式後に関係者全員で記念撮影
    杉箸集会所に設置されたドローンスタンドをはさむ(左から)KDDIスマートドローン博野氏、セイノーHD須貝氏、エアロネクスト田路氏
    飛んできたドローンを歓迎する杉箸集会所に集まった住民
    事業の概要を説明するエアロネクストの田路圭輔代表
    出発式を終えてコメントする敦賀市の渕上隆信市長
    届いた荷物を受け取る住民

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。