ドローンポートに待機させた2機のドローンを、離れた場所にいる1人の運航者が飛行させる実験が1月18日、東京都北区の荒川下流にある岩淵水門の周辺で行われた。国土交通省関東地⽅整備局荒川下流河川事務所が、河川巡視にドローン活⽤する有効性を確認する目的で行ったもので、合同会社ソラボット(横浜市)がドローンポート「DroneNest」の運用を、株式会社ロジクトロン(東京)がドローン運航を担った。
実験では荒川下流河川事務所3階の災害対策室にドローンの運航管理拠点を構え、河川事務所の屋上と、河川事務所から約400m離れた荒川河川敷の「荒川岩淵関緑地バーベキュー場」にそれぞれ、ドローンを待機させた。バーベキュー場にはソラボットが展開する「DroneNest」を置き、ドローンはその中に格納した。DJIのMAVICシリーズを使った。
ドローンには、河川事務所に構えた運航管理拠点から飛行指示を出した。河川事務所屋上の機体は、飛行指示を出すと飛行を始めた。運航管理拠点の大型ディスプレイの地図に、ドローンの現在地が示され、ドローンの機体のカメラがとらえた映像が映し出された。河川事務所から1.3㎞下流の芝川水門のあたりまで、荒川にそうように迂回しながら飛行し、巡回して河川事務所屋上に帰還した。DroneNestで待機していたドローンも本来は飛行させる計画だったが、DroneNestのフードは開いたものの、待機しているドローンにDroneNestから飛行許可が出ず、飛行をしなかった。この間、ディスプレイ上には2機の位置が表示され、運航管理拠点から2機が管理できる状況は確認できた。
一方、運航管理者が機体に指示を出すためのPCを持って、河川事務所からDroneNestの近くに移動して再度、飛行指示を出すと今度はスムーズに進行。DroneNestのフードが半回転して開き、運航管理者が画面でチェックボックスを確認すると、DroneNestはドローンに離陸許可を出し、ドローンは無事、離陸した。機体は荒川上空を旋回し、しばらく空中で静止したのち再び戻り、DroneNestのポート上にぴたりと着陸した。着陸時には様子を見守っていた見学者から拍手があがった。
なおDroneTribuneは2022年6月に、DroneNestが北関東のエネルギー関連施設で、夜間警備のために遠隔での出動指示に対応し、ドローンが離陸し巡回の役割を果たす様子を取材している。このエネルギー関連施設は運営会社の私有地のため、一般の立ち入りはないことが前提だ。しかしこの実験のときには、侵入者をドローンで警備し、ドローンの搭載したスピーカーから警告音を出しミッションが課された。実験ではドローンは、遠隔操作により飛行し、ライトを照らしながら夜間に侵入者を検知し、警告を発生させるなど、与えられたミッションをすべてこなす様子を目の当たりにした。
ソラボットの奥村英樹代表は、「ドローンを運航させる現場がふだんの居場所から離れていることが頻繁に起こります、また全国に拠点を構えている事業者の場合、拠点ごとに操縦者を育成するのが大変だという話もよく伺います。事業者の地方事業所の夜間警備などの場合、その時間の外出そのものが少なからずリスクです。ドローンにまかせられるとそのようなリスクが軽減できます。ルンバのように自動充電してくれるシステムがあっていいという話も伺います。ソラボットはこうした、飛行現場まで行かずにすむ方法をDroneNestの活用で模索しています。最終的には日本全国のドローンを1か所の拠点で運航管理できる態勢を見据えています」と話した。
国土交通省は3月7日、物資輸送にドローンを活用する実証を、東京・荒川下流の臨海緊急用船着場(東京都江戸川区)などで実施した。行政用途向けドローンの標準的性能を規定化する国交省の取り組みの一環で、民間のドローン2機がそれぞれ、首都高速道路の高架下をくぐるルートを自動飛行し、近隣の中学校の校庭に飲料水を運んだ。実証の様子は渡辺猛之国土交通副大臣も視察した。渡辺副大臣は、国交省幹部が「国交省は港湾、道路など多くのインフラがありますので総動員して参ります」と説明したのに対し、「これからも大いにやりましょう」などと応じた。
実証の会場となった臨海緊急用船着場は、災害が発生した時に周辺地域の復旧活動に必要な資機材や救援物資の積み下ろしなどの活動拠点とするために国交省が整備している緊急用船着場のひとつ。荒川の下流の中洲の南端にある。関東地方整備局荒川下流河川事務所が管理している。
実証は災害の発生を想定し、緊急船着場に船で届けられた飲料水を、直線距離で530m離れた江戸川区立清新第一中学校まで届けるシナリオで実施された。清新第一中学校は江戸川区の一次避難所に位置付けられている。周辺は、東京メトロ西葛西駅から直線距離580mの場所にあり、集合住宅が立ち並び賑わいのある商店街もあり、人通りも住民も多い地域。江戸川区も防災に力を入れている。
実証の現場には、渡辺国土交通副大臣が視察に訪れた。渡辺副大臣は臨海緊急用船着場に到着すると、江戸川区の担当者から地元の防災の取り組みやドローンの活用状況などについて説明を受けたほか、この日の運用を取り仕切る民間事業者の代表から、ドローンの運用計画や、ドローンの防災や物資輸送での活用の可能性、ドローンの安全な自動飛行を支えるドローンポートシステムの概要などについて説明を受けた。その後、この日の実証に使われる機体を間近で確認し、1機目のドローンが、2リットルの飲料水6本を詰めた収納容器を積んで離陸する様子を見届けた。国交省の髙田昌行技術総括審議官、伊藤真澄技術政策課長、斎藤輝彦技術基準企画調整室長が同席したほか、地元江戸川区の担当者や関係機関も参加した。
臨海緊急用船着場を離陸したドローンは、川をまたぎ、首都高中央環状線の高架下をくぐり、送電線、鉄塔、変電設備の影響を受けないルートをたどって、届け先となる中学校の校舎の上空を超え、校庭に設置されたドローンポートに着陸した。飛行ルートは約800m。離陸から着陸まで、オペレーターが手動操作をしない自動飛行で運用された。
渡辺国土交通副大臣は、物資の届け先である中学校の校庭でもドローンが着陸する様子を視察した。渡辺副大臣は同席していた国交省幹部に「災害活動が自動で運用できることは、人手をほかの活動にあてられる意味でも、活動に従事する作業員の安全確保の意味でもとても心強いです。精度の高い自動飛行はさらに重要になると思います。ドローンの防災利用は、陸路が寸断されたり、一帯が水没したりした場合の救命、救難活動に重要だと考えます」などと話した。
実際、緊急船着場から自動車で届け先まで向かう場合は、交通量の多い道路を含めて約2㎞を走行する必要がある。またこの間、いくつかの右折や信号があり、混雑状況次第ではひとつの右折のために、信号の切り替わりを何度かやり過ごす必要が生じる。災害時には混雑が予想されるほか、災害により道路が寸断したり、水没したりすると、陸路が機能不全に陥るリスクがある。陸路以外の選択肢を持つことが防災活動の成果を高める方法として検討されており、ドローンは有効な選択肢となる可能性がある。
また渡辺副大臣は、隣りの髙田技術総括審議官が「ドローンの物資輸送では料金設定も課題になります」と話したのに対し、「民間事業者にとってきちんとビジネスとして成立する仕組みを作ることが大事です。技術開発だけでは民間事業者が事業を継続することができない」と応じ、採算がとれる環境づくりへの問題意識を示した。さらに髙田技術総括審議官が「国交省は港湾、道路など多くのインフラがありますのでドローンの実証に、これらを総動員して参ります」と説明すると、渡辺副大臣は「これからも大いにやりましょう」などと応じた。
国交省は実証で得られた知見を、行政用途向けのドローンの仕様の規定化に役立てる。今後も実証を重ねる方針だ。