ドローンの普及に取り組む慶應義塾大学は2月23日、神奈川県小田原市の相模湾を望む斜面に広がるミカン農園で、収穫したミカンをドローンでかごごと吊るし、トラックが待機する集荷場所まで運ぶ実証実験を行った。ドローンは着陸せず、上空でホバリングしている間に機体からワイヤーをおろし、地上の作業員がミカンのかごを吊るした。集荷場所でもドローンはホバリングしたままミカンのかごをウインチで下ろした。この間、ドローンは決められたルートを自動飛行した。関係者は今後、環境、機体性能、作業負担など実装に向けた課題と改善点を洗い出す。実験会場となった矢郷農園(小田原市)の矢郷史郎代表は「ドローンには作業負担の軽減を期待して、以前から注目しています。実験を間近で見て、現実味が高まったと感じます」と話した。
実験の場所は、相模湾から300mほど内陸の丘陵地の斜面に広がる矢郷農園の一角で、農園内にミカンを収穫して積み込むポイントを設けたほか、農地に接する場所にドローンの離発着場所、トラックが待機する集荷場所を設定した。
実験ではドローンは離発着場所を離陸したあと、収穫ポイントに向かって自動飛行。収穫ポイントでは上空でホバリングして静止し、ウインチでフックのついたワイヤーを地上におろした。地上の作業員が、収穫したミカンの入ったかごをワイヤーのフックに掛けると、ウインチ作業員がワイヤーを巻きあげた。一連の荷積み作業が完了すると、かごを吊るしたドローンはトラックの待機する集荷場所まで飛行。ここでも着陸せず、上空でホバリングしたままウインチを使ってかごを下ろし、みかんを届けた。収穫地からトラック待機場所までの距離は約120mで、高低差は約30m。ミカンを積んでから集荷場でおろすまでは、上空での待機時間を含めて数分で修了した。
ドローンが着陸することなく、ホバリングしたままで荷物の積み下ろしをする方法が実用化できれば、ドローンの運用で最も不安定な時間を減らすことができる。また、斜面の多い土地で着陸場所を確保する課題も解消できる。
ミカン農園では通常、作業員が収穫したミカンを足元に置いたコンテナに入れる。コンテナがいっぱいになると作業員は徒歩でトラックまで運ぶ。20㎏ほどのコンテナを運ぶのは重労働で、特に高齢の農業従事者にとって、農業の継続をあきらめる大きな要因になっている。
矢郷農園の矢郷代表によると、農園経営では収穫したミカンのほかにも、イノシシ対策の柵や、苗木など多くの運搬作業が伴う。「広大な敷地を持つ農園では、運搬用のモノレールを敷いているところもあり、みなさんそれぞれに工夫をしているのですが、悩みは尽きません。モノレールは保守、点検が必要ですし、レールが痛んでも車両が傷んでも使えません。レールの場所は一定なので、収穫場所が変わってもそこまで近づいてきてはくれません。ドローンであれば、収穫場所のポイントまで飛行できます。きょうのように着陸せずに運搬できるのであれば、負担軽減につながると思います。ドローンなら移設できない設備と違って貸し借りができます。理想をいえば、作物を収穫した場所から集荷場までの運搬をドローンに任せられればありがたいです。そうなると、農業をやめずに続ける方が増えると思います」と話した。
実験ではこのほか、農地内に収穫ポイントを複数個所設定し、ドローンが自動で集荷場を往復できるかどうかについても確認した。ドローンは最初の収穫ポイントから集荷場所に飛び、そのまま次の収穫ポイントに向かい、再び集荷場所に向かう、といった具合に、設定したルート通りに、設定した複数の収穫ポイントを経由して飛行し、最後は離発着場に帰還した。
実験は、一般財団法人環境優良車普及機構(LEVO)の事業で学校法人、慶應義塾が代表事業者として請け負った。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム(古谷知之代表)が遂行を統括した。また神奈川県が共同事業者に名を連ねた。実験で用いた試験機は徳島大学発のベンチャー、株式会社MMラボ(徳島市)が開発した小型電動ウインチを備えた物流機で、6本のアームを備え、機体の重さはバッテリーを含め9.5㎏。最大ペイロードは24㎏だ。また、RTK・GPS技術はジオサーフ株式会社(東京)が技術を提供し、同社の基地局ユニットを現地に設置した。
実験の全体を指揮した下田亮研究員は、「実験は多くの方の協力があってできます。せっかくの実験ですので、今回の実験から課題の洗い出しや改善を繰り返して、利用者が使いやすい方法を導き出したり、それに適したドローンの開発を進めたりして、ドローン前提社会の実現に近づく取り組みを進めていきたいと思います」と話している。