大阪府枚方市は3月2日、中国の空飛ぶクルマメーカーEhang(イーハン)の2人乗り機体「Ehang216」のデモフライトを実施した。デモ飛行では人は乗せず、かわりに人の体重に近い80㎏のコメを積んで飛行させた。時折、風速7m/秒を超える風が吹く中だったが、機体はあおられることもなく安定した飛行を見せた。2025年に開催される大阪・関西万博の主会場を抱える大阪府内で、空飛ぶクルマの飛行実験が行われたのは初めてだ。デモフライトに続いて開催したセミナーでは、枚方市の伏見隆市長が「“空飛ぶクルマのあるまち・枚方”を実現させたい」とアピール。セミナーに登壇したDRONE FUND最高公共政策責任者の高橋伸太郎氏は、「枚方市は空飛ぶクルマの京阪奈における輸送ネットワークの拠点としての可能性がある」と枚方が空飛ぶクルマに取り組む重要性を指摘した。
デモフライトは3月2日、市内を流れる淀川の河川敷に広がる公園の一角で行われた。機体はドローンやAAV(Autonomous Aerial Vehicle、いわゆる「空飛ぶクルマ」のひとつ)開発で知られる中国の億航智能(英語表記Ehang、イーハン)が開発したEhang216で、一般社団法人MASC(岡山県倉敷市)が保有している機体だ。飛行は座席には誰も乗らない無人の状態で2度、行われた。1度目は地上30メートルまで上昇後、しばらく空中で静止し、機体の向きを180度転回させて、着陸させた。2度目は人のかわりに80㎏のコメを乗せて離陸したあと、淀川の河川上空を約930mにわたり、5分間飛行した。
デモンストレーションの間は強い風に見舞われ、一時、風速7.6m/秒の風も吹いたが、機体はやや揺れる程度で風にあおられることもなくゆったりと上昇、すいすいと飛行した。また、離陸時は飛行時の音については、周囲からは「30mまで上昇してしまえば、機体がそこにあることが確認できる程度の音」「離陸時にまったく静かというわけではないが、ヘリとは比べると圧倒的に小さい」などと話す声が聞こえた。伏見市長も「音は気にならなかった」と、デモフライトのあとのセミナーの中で話した。
枚方市は 2025 年に開催される大阪・関西万博に向けて、万博開催をきっかけにした地域経済の活性化と地元への愛着の向上を目的に、幅広い取り組みを実施する「ひらかた万博」を推進している。中でも空飛ぶクルマを重視していて、社会実装による地域の人々の生活の質の向上や新しい事業の開拓を期待している。昨年12月11日に市が開催したセミナーで伏見市長は「枚方は京街道の枚方宿として東海道で56番目の宿場にあたり、淀川で物資の運搬も盛んで歴史的にも交通の要衝。万博会場となる大阪中心部と京都の中間点でもあり、空飛ぶクルマが離発着する拠点としてふさわしい」などと猛アピールをしていた。
デモフライト後に開催されたセミナーでは、DRONE FUNDの高橋伸太郎氏、空飛ぶクルマを開発する株式会社SkyDrive(愛知県豊田氏)の金子岳史氏、デモフライトを担当した一般社団法人MASC事務局長の坂ノ上博史氏が登壇し、枚方市の可能性などについて見解を披露した。
DRONE FUNDの高橋氏は「万博の成果を大阪湾岸エリアだけでなく、関西地方・日本・世界全体に広げるためには、今の段階から社会システム・産業エコシステムの視点から、空飛ぶクルマについて議論を進めておくことが必要。そのためまずは京阪奈エリアへの広がりを考えることが重要だ。枚方市は立地、歴史、資源において京阪奈を結ぶ重要拠点となり得る。このため、空飛ぶクルマの京阪奈における輸送ネットワークの拠点としての可能性がある」と分析した。また「今から10年後、15年後の未来を見据えた都市計画を進めるか気にしないかで、結果は大きな差として表れる」と述べ、未来を見据えた都市計画を今から進めることを提案した。
SkyDriveの金子氏は、動画をまじえて機体を紹介しながら「裏側では大きな壁にぶつかりながら開発を進めている」と知られざる苦労の一端を披露。「空飛ぶクルマが実現することは、それにふさわしい都市デザインの考え方にも波及する。そしてもっとも大事なのは、空飛ぶクルマは、ありさえすればいいことがおっこるような、魔法の杖ではないということ。何に使いたいのか、どう活用するのかをどれだけ具体的にイメージするかが試される」と、創造力、想像力の結集を呼び掛けた。
MASC事務局長の坂ノ上氏は、セミナー前に開催されたデモフライトの様子や、フライトさせた機体について、8本のアームがあり、それぞれ2組のプロペラが上下に取り付けられ、合計16組のプロペラがあることが、機体名の「216」の由来であるなどの紹介をしながら報告した。途中、デモフライト実現に協力したEhangセールスディレクターのダレン・シャオ氏を壇上にあげて紹介すると、シャオ氏は「Ehangはすでに3万3,000回、人を乗せた飛行実験を実施している。安全性が高く、環境負荷も低減できるので、安心して空の移動のあるシティライフを楽しめる。特に枚方は京都、大阪、奈良の中継点になり得る、導入するには最適な都市」と分析を披露した。
枚方市の伏見市長は、いち早く空飛ぶ車の事実上の誘致に名乗りをあげた理由について「空飛ぶクルマには大きな魅力がある。ただ、魅力があることが広く伝わると、どの自治体も一斉に手をあげることになる。その前に手を挙げておきたかった。それによって実現を近づけたい」と話している。枚方市は今後も、活動を積極化する方針だ。
大阪府は実用化に向けて官民を挙げた取り組みが進むいわゆる「空飛ぶクルマ」について理解を深める「空の移動革命シンポジウム」を、2月23日(木・祝)に大阪・堂島のエルセラーンホールで開く。参加は無料だ。ビジネスをテーマにした第一部と、生活面をテーマにした第二部の二部制で、それぞれ第一線で活躍するキーパーソンや著名人、有識者らがパネルディスカッション形式で意見を交わす。第一部にはDRONE FUNDの大前創希共同代表パートナーや、空飛ぶクルマ関連事業を手掛ける住友商事株式会社、兼松株式会社、丸紅株式会社の商社3社の担当者が登壇する。第二部ではテレビプロデューサー結城豊弘氏がファシリテーターを務め、株式会社SkyDriveの川田知果氏、フリーアナウンサーの薄田ジュリア氏、タレントRaMu氏、経済ジャーナリスト須田慎一郎氏、経済ジャーナリスト井上久氏ら多彩な顔ぶれでステージを彩る。DroneTribuneの編集長、村山繁は第一部でファシリテーターを、第二部でパネリストを務める。
シンポジウムは、2025年の大阪・関西万博の開催地として、AAMの実現に向けた取り組みを加速している大阪府が主催する。大阪府はAAMの実現をより確実にするために、より多くの人々が受け入れる社会受容性を重視していて、シンポジウムは大阪府が進める空飛ぶクルマの社会受容性向上策の一環だ。
第一部は「空飛ぶクルマで大阪は儲かりまっか?~空飛ぶクルマが起こす大阪経済の活性化~」をテーマに、関連産業の範囲や展望、参入機会の探索を行う。
登壇する大前氏が率いるDRONE FUNDは、「ドローン・エアモビリティ前提社会の実現」を掲げる関連産業特化型のベンチャーキャピタルで、スタートアップへの資金供給、政府への提言など幅広く活動している。兼松は空飛ぶクルマの離着陸場となるバーティポート(Vertiport)の開発を手掛ける英Skyports社と資本業務提携するなど、空飛ぶクルマ事業に取り組む。丸紅は子会社の丸紅エアロスペース株式会社とともに、乗客が乗れるeVTOL(電動垂直離着陸)の機体を開発する英Vertical Aerospace社と業務提携し、今年2023年1月に25機分を前払いした。同社はすでに南海電鉄などとともにヘリコプターを使った空飛ぶクルマの模擬体験ツアーも開催するなど、社会実装を視野に入れた取り組みを加速している。住友商事株式会社も米Bell社(Bell Helicopter Textron)と業務提携し、日本などで無人物流やエアタクシーのサービスの提供を検討している。
第二部は「ほんまに暮らしが変わるの?空飛ぶクルマ」がテーマで、空飛ぶクルマの実現により生活がどう豊かになるのか、独自の視点を持つ多彩な顔触れが話しあう。
ファシリテーターを務める結城豊弘氏は政治、経済から芸能までの話題を掘り下げる人気バラエティ番組『そこまで言って委員会NP』のチーフプロデューサーを担当するなどの経歴を持つ名物テレビプロデューサー。著名番組のディレクターを務めたほか、自身も取材に飛び回り豊富な情報を持つ。著書も多く、近著『オオサカ大逆転!』(ビジネス社刊、1600円+税)では、大阪・関西万博について「その先では、さらに大阪が飛躍するための可能性に満ちている」と、本人は鳥取県生まれながら、大阪にエールを送っていて、AAMが起こす生活の変化をパネリストから引き出す。
結城氏の進行に応じる登壇者も多彩だ。須田慎一郎氏、井上久男氏は独自の情報網と切れ味鋭い評論で知られる。タレントのRaMu氏は『そこまで言って委員会NP』の出演時に機転の利く発言で出演者をうならせた。フリーアナウンサー薄田ジュリア氏、AAMを開発するスタートアップSkyDriveの開発担当の川田知果とパネリストの半分が女性で彩り豊かな話題が示されそうだ。
■シンポジウム概要
・日時:2023年2月23日(木・祝)、12:30開場、第一部13:30~、第二部14:45~
・会場:エルセラーンホール(大阪市北区堂島、ホテルエルセラーン5F)
・参加:入場無料。公式サイトから申し込み
公式サイトはこちら:https://soratobu-kuruma.jp/symposium.html
第一部予約フォーム:https://pro.form-mailer.jp/fms/63083dfc273991
第二部予約フォーム:https://pro.form-mailer.jp/fms/79f9b157273992
懇親会の予約は、第一部の予約フォーム内で。