AAM の記事一覧:4件
  • 2023.11.6

    Japan Mobility ShowでAAMやドローンが表舞台に トヨタ、ホンダ、SUBARU、米Joby、ドローンエンタメも

    account_circle村山 繁
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     東京・臨海部の大規模展示会場、東京ビッグサイトで10月26日から11月5日まで開催されたJapan Mobility Show2023は、AAM(次世代エアモビリティ、いわゆる空飛ぶクルマ)の、社会受容性を格段に引き上げた催事として記憶される可能性が高い。トヨタ、ホンダ、SUBARU、スズキなど大手自動車メーカーは空の移動を表舞台に載せ、今後の展望を来場者に印象付けた。米Joby Aviation、日本のSkyDriveはAAMの知名度や認知度を愛好家やマニアの水準から市民、生活者、消費者に拡大し、期待を引き上げた。期待先行の印象が強いAAM開発はまもなく、米アドバイザリ大手、ガートナー社が提唱する「ハイプサイクル」で指摘される「幻滅期」への準備も併行させる時期にさしかかる。

    トヨタ社長背後のスクリーンに出資先米Jobyの映像、Joby実機も  SUBARUはサプライズでコンセプト機体

    トヨタ佐藤恒治社長のプレゼンテーションではスクリーンに投影された映像の中でトヨタが出資するJobyS-4の映像が投影されトヨタの空への意気込みを印象付けた(10月25日)

     Japan Mobility Show2023は公開前日の10月25日に行われたメディア公開以降、メディアの報道、SNSでの拡散などで多くの市民の「行きたい展示会」に躍り出た。東京モーターショーの刷新で展示範囲を自動車関連から乗り物に拡大し、主役の自動車に加え、AAM関連のプロダクト、技術にも光が当たることになった。自動車産業そのものもAAM関連への関与や展望を打ち出し、来場者に近未来を強烈に印象付けた。

     トヨタ自動車の佐藤恒治社長は10月25日午前8時半、同社が設置した巨大ブースにステージに立ち、国内外からつめかけた人垣ができるほど大勢の報道陣を前に、「トヨタのブースで伝えたいのは多様性あふれるモビリティの未来です」と、バッテリーEV、IMV 0(アイエムブイ ゼロ)、KAYOIBAKOの3つを中心にプレゼンテーションをした。AAMへの直接の言及はなかったが、佐藤社長の背後の大型スクリーンに映し出されたコンセプト映像に、同社の出資先、米Joby AviationのeVTOLエアクラフト「S-4」の映像が投影される場面があり、トヨタのエアモビリティ分野への関心を印象付けた。

     JobyのS-4は、原寸大のモックアップが、トヨタのブースとは別の会場内のブースに展示され、来場者がスマホで撮影するなど存在感を放った。JobyはANAホールディングス株式会社とチームを組み、2025年4月に開幕する大阪・関西万博で、利用者を載せて飛行する4つの事業者グループのひとつに決定している。「S-4」はトヨタが駆動系の開発に参加しているほか、型式証明の交付を日本の航空局に申請がされていて、日本での飛行を待ちわびる視線を集めた。

     日本発AAMの現時点での代表格のひとつ、株式会社SkyDrive(豊田市<愛知県>)も型式証明を申請している「SD-05」の5分の1サイズモデルを展示し、来場者の足を止めた。展示された場所はスズキ株式会社(浜松市<静岡県>)が展開しているブースの一角だ。SkyDriveは6月にスズキとの協力関係について基本合意書を交わしていて、スズキグループの工場を活用して2024年春ごろに機体の製造に着手したい意向だ。SkyDriveは代表の福澤知浩氏の出身企業であり、SkyDriveへのスポンサーでもあるトヨタと縁が深いが、Japan Mobility Showではスズキとの連携を印象付けたことで、自動車業界をあげたエアモビリティ支援体制構築の進展が期待される。

     メディアの間で当初、最大の話題のひとつとなったのが、株式会社SUBARU(東京)のエアモビリティ発表だ。トヨタから1時間後の10月25日、午前9時30分にスバルのブースのステージに登壇した大崎篤社長CEOは「自動車業界は100年に一度の大変革期を迎えていると言われ数年がたちます。本日は次世代モビリティとしてふたつのコンセプトモデルを披露します」と宣言。軽快な音楽とともに最初のコンセプトモデル「SUBARU SPORT MOBILITY Concept」が紹介された後、音楽が切り替わると、背後のパネルが中央からふたつに開き、奥からリフトアップされた機体がせり出した。メディアがいっせいにフラッシュをたくなか、せり出した機体はステージでファッションショーのモデルのように右左に動いたり、正面を向いたりして、洗練されたデザインをアピールした。

     大崎CEOはこの機体を「SUBARU AIR MOBILITY Concept」と紹介。「電動化、自動化技術が進歩し航空機の世界でも空の移動革命を実現する新たなエアモビリティへの期待が高まっている中、スバルが目指すより自由な移動の未来を示したコンセプトモデル。現在、自動車部門と航空宇宙カンパニーが協力し飛行実証を進めています」と紹介した。6つのローターを持つ電動機だが、スペックは今後詰めるという。

    公開前日の10月25日に開催されたプレスデーの午前8時半、トヨタのブースにはこれだけの人垣ができた。全員メディア関係者だ。注目度の高さがうかがえる(10月25日)
    ステージ奥のパネルがわれ、中からせり出すように登場したSUBARUのエアモビリティコンセプト(10月25日)
    SUBARUのブースは一般公開日にも多くの来場者がカメラを向けた(11月2日)
    エアモビリティにも言及したSUBARUの大崎篤CEO(10月25日)
    トヨタのプレゼンテーション中の動画に登場したJobyのS-4はトヨタとは別のブースで実物大のモックアップが公開された。ANAホールディングスと連携し大阪・関西万博での飛行が期待されている
    スズキブースの一角に展示されたSkyDriveの「SD-05」の5分の1スケールモデル。米JobyのS-4とともに、大阪・関西万博での飛行が期待されるモデルのひとつ
    SkyDriveブースを訪れた同社の福澤知浩代表(10月25日)
    来場者の期待感を刺激する装飾も効果的だった(10月25日午前8時)
    一般公開後は入口前からスタッフが来場者の往来整理にあたった(11月2日午前11時)
    一般公開期間の午前中は入口にたどり着くまでに行列ができ、入場前に人気ぶりを実感できる(11月2日)

    ホンダ東氏「時短価値提供に向けターゲットレンジ400㎞へ」

    空モノへの力の入れようが伝わるホンダのブース(11月2日)

     本田技研工業株式会社(ホンダ、東京)のブースは、見る角度によっては自動車より飛ぶ乗り物が目立つほどに空への展開をアピールした。小型ビジネスジェット「HondaJet Elite II」の搭乗体験モデルの隣に、8つの揚力用ローター、2つの推進用ローターを搭載する開発中のAAM、「Honda eVTOL」の縮小モデルを展示した。

     Honda eVTOLは名称に電動を示す「e」が入るが、ガスタービンを搭載している。シリーズ式ハイブリッドと呼ばれる方式で、ガスタービンは電力の生産に使われ、その電力はバッテリーに溜めて機体を動かす。ガスタービンで得られた力を推進力には使われない。機体が電気で動くのでガスタービンを搭載していても「e」がつく。

      ホンダはHonda eVTOLの安全性、快適性、静粛性を前提としていて、利用者が感じる価値はその先にあると考えている。重視しているのは時短価値だ。

     開発プロジェクトリーダーを務める株式会社本田技術研究所(和光市<埼玉県>)先進技術研究所新モビリティ領域チーフエンジニアの東弘英氏は、DroneTribuneの取材に、「空港に行かなくてもより身近に空を体験して頂けることが新しい価値だと思っています。身近であるためには安全や静粛性は前提です。利用者が『いいね』と感じる価値はさまざまあると思いますが、われわれはその中でもまずは、時短価値が大事だと考えています。そのためにはショートレンジでは価値が出しにくい。たとえばクルマを使えば10分で行けるところにHonda eVTOLでは5分で行けたとしても時短価値は少ないと考えられます。ひょっとすると降りてから乗り換えるとさらに時間がかかる可能性すらある。ある程度のレンジがないと時短価値が出せない。ガスタービンの搭載もそのためです。ターゲットレンジは400㎞です」と話し、出発点から目的地までの移動時間の短縮に挑む。 

    縮小スケールで展示されたHONDA eVTOL。ガスタービンの搭載で400㎞航続を目指す(10月25日)
    HONDA eVTOLについてDroneTribuneの取材に応じる本田技術研究所の東弘英シニアチーフエンジニア(10月25日)
    HONDA JETも呼び物展示のひとつ。「東京モーターショー」から「Japan Mobility Show」への衣替えを象徴していた
    HondaJet Elite IIは内部の快適性やステイタス感がウリのひとつ。搭乗体験モデルには行列ができた

    「ドローンツアー」のFPVの臨場感体験に感激の声続出

    ドローンの操縦席に乗ることができたらどんな体験ができるか。そんな願いを叶えるために登場したドローンエンタテインメントとトムスのブースはFPVの臨場感に満足の声が続出した

     Japan Mobility Showの「飛ぶもの」はAAMにとどまらない。株式会社エアロセンス(東京)やブルーイノベーション株式会社(東京)などドローンに力を入れている企業や、気球で宇宙旅行を企画しているか株式会社岩谷(いわや)技研(札幌市<北海道>)、自律航行技術で知られ、ストレッチャーロボットが海外メディアでも取り上げられた株式会社アトラックラボ(三芳町<埼玉県>)なども数多く登場している。ブルーイノベーションはトヨタが開発したドローンポートシステムをUCCホールディングス株式会社(神戸市<兵庫県>)などのスペースで実演。ドローンから届いたコーヒーをポートに降ろしたのち自動走行のAGVに乗せ換えて届け先まで走行する様子を再現している。

     連日行列を作っていたのは、マイクロドローン関連事業を展開する株式会社ドローンエンタテインメントが株式会社トムスと連携して展開していた体験型ブース、「ドローンツアー」だ。球体型スクリーンの手前にシートが用意され、そこに座ると同社代表でドローンレーサー元日本代表の第一人者で横田淳氏が撮影した全国の名所の映像が流れる。映像にあわせてシートが振動したり傾いたりして、まるで映像の中を自分が飛ぶ感覚を味わえる。よりリアルな体験を楽しむ方法として、横田代表がその場で飛ばすFPVドローンのとらえた映像を浴びることもできる。球面スクリーンの隣に設置された特設フライトスペース内をドローンが飛ぶと、シートに座った来場者はそのドローンの操縦席にでもいるかのような臨場感が味わえる。

     一般公開期間中は連日、午前の予約開始直後に埋まる盛況ぶり。会場にはキャンセル待ちのレーンも用意され、そこにも連日、来場者がつめかけていた。

     一般公開日に3人組で参加した女性の一人は「報道で見て、知人から聞いて参加しました。期待していたよりも、ずっと楽しかったです。なにより、よく言われる臨場感ってこういうものか、と感じました」と感激した様子で話した。いっしょにいた女性も「有料でも乗ります。ほかで味わえないから。あの映像を味わえるようにドローンを操縦したくなりました」と話していた。

     Japan Mobility Show2023はAAMへの期待を高め話題性を作ることに成功した。社会実装にむけて実用局面に移行する。米ガートナー社が提唱する期待の増減を示すハイプサイクルによると、新しいテクノロジーは話題性とともに登場すると、一気に期待値があがるが、その後、期待と現実との落差を目の当たりにすることで一時的に急降下することになる。その後、真価の適切な評価を経て社会システムに採用され、実装に至る。AAMも急上昇した期待の社会実装への道筋を構築する局面に入ることになる。

    行列ができたドローンツアーの前で説明する株式会社ドローンエンタテインメントの横田淳代表
    連日、予約開始とともに席が埋まったドローンツアー。キャンセル待ちレーンも設けられた
    ドローンレースの元日本代表でもある横田淳さんがその場で操縦(右端)。横田さんのドローンにまるで乗っているかのような体験も満喫できる。
    UCCのコーヒーが無人で運ばれてくる体験。ドローンがポートにおり、荷物がAGVに渡され、AGVが運んでくる。ポートはトヨタが開発しブルーイノベーションが開発を支援した
    岩谷(いわや)技研が展示した宇宙旅行体験のできる気球のモデル
    雷からドローンで電気をとる実験の様子も再現

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    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
  • 2023.3.20

    豪Swoop Aero社のVTOL機、飛行を国内で初披露 加賀市、兼松が実証実験

    account_circle村山 繁
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     空の利活用を推進する兼松株式会社(東京)は3月15日、オーストラリアのドローンメーカーSwoop Aero(スウゥープエアロ、メルボルン)の固定翼と回転翼を併用したVTOLドローン、Kookaburra MKⅢ(クッカバラ・マークスリー)を使った実証実験を公開した。兼松が包括連携協定を結んでいる加賀市(石川県)とともに実施した輸送実験の一環で、運用は兼松が資本業務提携を交わしている英Skyportsが担った。日本国内でSwoop機の飛行が公開されたのは初めてだ。機体はときおり強い風が吹く中で安定した飛行を見せ、立ち会った関係者からは「緊急時の医療用に使えそう」などの声が聞かれた。

    加賀市・宮元陸市長「スピードと迫力に感動」

     JR加賀温泉駅に近い加賀市医療センター6階のルーフバルコニーで公開された。直線距離で3キロ、陸路で6キロ離れた加賀温泉ケアセンターを離陸したドローンが医療センターのルーフバルコニーまで血液を運び、待機していた加賀市の宮元陸市長が受け取るというシナリオだ。この日は保冷バッグなどを血液のかわりに運ぶことにし、会場に用意されたパネルにも「Advanced Air Mobirityプロジェクト VTOLドローンによる血液輸送実証実験」と掲げられた。

     実験には加賀市の宮元陸市長、兼松航空事業部長の津山幹規氏、NTTコミュニケーションズ株式会社北陸支社ソリューション営為業部門・部門長の川上浩生氏、Skyportsの日本法人、Skyports株式会社(東京)の代表取締役、岡田惇史氏と、それぞれの担当者が参加したほか、加賀市医療センターなど医療関係者、自治体関係者、報道陣らが見守った。

     実験では宮元市長が出発地に離陸の合図を出すと、Kookaburra MKⅢが垂直に離陸した。離陸の様子は設置されたモニターで映し出された。上昇した機体は上空で水平飛行に切り替わり、その後はグライダーのように空中を自動航行した。医療センターで待機する関係者たちは、機体が離陸から2分を過ぎたところで上空に機影を確認し、口々に「もう来た」、「早い」と、声をあげた。医療関係者からは「災害時や緊急時によいのではないか」と期待の声があがった。飛んできた機体は医療センターの上空で着陸態勢に入り、バルコニーにあらかじめ設置してあったマーカーのはいったランディングパッドの上に垂直に着陸した。所要時間は約4分だった。機体が着陸すると、見守っていた関係者からいっせいに拍手があがった。

     Kookaburra MKⅢの機体中央は、バッテリーと荷物室がパッケージになっている。運航を担ったSkyportsのスタッフが着陸した機体中央の天井部を開いて荷物を取り出し、宮元市長に手渡し、関係者への公開は終了した。

     公開終了後、機体中央のバッテリーはとりはずされ、バルコニー側で充電していた別のバッテリーが装着された。充電済みのバッテリーを装着した機体は、再び離陸地の加賀温泉ケアセンターに向けて飛んで行った。

     Kookaburra MKⅢはオセアニア、アフリカなどで、数多くのフライトをこなしていて、Skyports社も運用実績を持つ。最高速度は124㎞/hでペイロードは3㎏、航続距離は90㎞だ。2023年度に導入予定の新モデルは航続距離が最大175㎞とさらに延びる。

     公開終了後に報道陣の取材に応じた宮元陸市長は「スピードと迫力に感動した。生産性、効率性を高めるためには自動化、機械化が必須だ。積み残している課題は残るが、ドローンには期待している。我々は空の産業集積を進め、移動革命の先駆けとして名乗りを上げていく」と述べた。

     加賀市はドローンやいわゆる空飛ぶクルマを含むエアモビリティの普及、利活用にIoT普及とともに力を入れていて、市内全域の3Dマッピングに取り組むなど、ドローンの飛行環境を先進的に整備している自治体として知られている。

    飛行の様子が日本で初めて披露された豪Swoop Aero社のKookaburra MKⅢ
    充電中のバッテリー。ここに荷室もある。Kookaburra MKⅢの「顔」にあたり、顔を取り換えると元気が戻る子供向けアニメのヒーローを思い出した
    バッテリー交換中。子供向けアニメでは新しい顔を投げれば自動装着されるが、ここは手作業だ
    新しいバッテリーを積み替えて再び離陸するKookaburra MKⅢ
    Kookaburra MKⅢの充電器
    実験後に記念撮影におさまる関係者からは笑みがこぼれた
    公開前にあいさつをする宮元陸加賀市長(左)。兼松航空事業部長の津山幹規氏(市長の右隣)、NTTコミュニケーションズ株式会社北陸支社ソリューション営為業部門・部門長の川上浩生氏(右端)も列席した
    報道陣のインタビューに応じる宮元陸・加賀市長
    出発地を離陸してからわずかで上空に姿をあらわしたKookaburra MKⅢを見上げて迎える関係者

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    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
  • 2023.2.22

    住商、VolocopterのシリーズEラウンドに出資 3月8~12日に大阪でVoloCityの実物大モデルを初展示

    account_circle村山 繁
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     住友商事株式会社は2月21日、AAM(アドバンストエアモビリティ、いわゆる“空飛ぶクルマ”)開発の独Volocopter GmbHに出資したと発表した。Volocopterも住商からシリーズE資金調達ラウンドでの資金を調達したことを公表した。またVolocopterは国土交通省航空局が、同社が開発する「VoloCity」の型式証明(TC)の申請を受理したことも公表。国土交通省もVolocopterからの申請を受理したと発表した。Volocopterは3月8日~12日に、大阪でVoloCityの実物大モデルを初展示する方針だ。Volocopterは、提携する日本航空株式会社が大阪・関西万博での空飛ぶクルマ運航事業者のひとつに決定したことから、同社のVoloCityが万博で利用者を乗せて運航する現実味が高まっている。

    「AAMは騒音も小さい、環境にやさしい次世代航空機」

     Volocopterは、AAM開発を早くから手掛け、日本のエアモビリティ関連の事業者の間で知られてきた。日本企業では2020年にMS&ADインシュアランスグループホールディングス傘下の三井住友海上火災保険株式会社が業務提携に合意して以降、連携も加速している。住友商事も2018年からAAM分野への取り組みを加速させている。

     住友商事の発表は以下の通り

    電動垂直離着陸機を開発・製造する独・Volocopter社への出資について~Advanced Air Mobility市場の創生を目指す~住友商事株式会社

     住友商事株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役 社長執行役員 CEO:兵頭 誠之、以下「住友商事」)は、Advanced Air Mobility(以下「AAM」)の分野で電動垂直離着陸機(electric Vertical Take-Off and Landing、以下「eVTOL」)を開発・製造するドイツのVolocopter GmbH(以下「Volocopter(ボロコプター)」)に出資しました。

     AAMはeVTOLおよび無人航空システム(ドローン)を用いた航空交通・物流システムの総称です。eVTOLは、既存の民間航空機と比較し、電動のため駆動時の温暖効果ガス排出量が格段に少なく、滑走路が不要で離着陸時の騒音も小さい、環境にやさしい次世代航空機です。また、維持管理が必要な部品点数が少なく、将来的には自律飛行が可能で、運航費用を大幅に節減できると期待されています。eVTOLを活用することで、環境負荷が小さく、安心・安全・安価で手軽な空の交通・物流サービスを実現できます。日本国内おいては「未来社会の実験場」をコンセプトとする2025年大阪・関西万博を皮切りに、eVTOLの社会実装と商業運航開始が計画されています。

     Volocopterは2011年にドイツ・Bruchsal(ブルッフザール)市で設立されたeVTOL開発・製造会社であり、開発中のVoloCityについて既存航空機と同基準の安全要求値を実現すべく、500名以上の体制で開発に取り組んでいます。世界の競合企業に先駆けて2024年に欧州航空当局(EASA)からのVoloCityの型式承認取得と運航開始を計画しています。翌2025年には本邦国土交通省航空局(JCAB)からの型式承認取得と大阪・関西万博での運航開始を目指しています。また、機材開発と並行して、航空業界・自動車業界・物流業界のグローバルパートナーとの連携も進めており、eVTOLによる交通・物流サービスの提供、離発着場の開発・運営・整備を含めた全体エコシステムの構築を通じてAAM業界をリードしています。さらに、搭乗可能人数が多く航続距離の長い次世代機材の開発にも着手しており、将来の市場拡大を見据えた取り組みを行っています。

     住友商事は、航空業界におけるネットワークや多角的な事業活動を通じて培ったノウハウを活用し、2018年からAAM分野における事業化を検討しています。2020年にはAAMの社会実装に不可欠な無人機管制システムを開発する米国のOneSky Systems Inc.に出資し、日本で市場開拓を行ってきました。同時に物流課題・地域課題の解決に向け、国内外で小型ドローンを用いた各種実証を通じて、AAMと既存物流を組み合わせた持続可能な物流システムの実装に挑戦しています。本出資を通じ、Volocopterとの連携を図り、新たな空の交通・物流手段として期待されるAAMの日本国内の普及浸透と持続可能な新しい社会インフラの構築を行うことで、地球環境と共生しながら地域と産業の発展へ貢献していきます。

     国交省航空局の発表は以下の通り

    ドイツ Volocopter 社からの空飛ぶクルマの~型式証明の申請受理について

    本日、国土交通省は、ドイツの空飛ぶクルマの設計製造者である Volocopter社 が開発中の機体について、同社からの航空法に基づく型式証明申請を受け付けました。空飛ぶクルマとしての型式証明申請の受理は、我が国で3件目となります。国土交通省としては、今後、開発の進捗に合わせて、航空機の安全性及び環境適合性に係る審査を適切に進めることとしております。

    ○ 今般、ドイツ・ブルッフザールに所在する Volocopter 社において開発が進められている電動・垂直離着陸型の航空機、いわゆる“空飛ぶクルマ”について、同社より航空法に基づく型式証明※1の申請があり、国土交通省は本日付けでこれを受理しました。
    ※1 型式証明とは、機体の設計が安全性及び環境適合性に関する基準に適合することについて国が
    審査及び検査を行う制度のこと。国は、機体の開発と並行して審査及び検査を行う。
    ○ 空飛ぶクルマとしての型式証明申請の受理は、我が国で3件目※2となります。
    国土交通省としては、今後、開発の進捗に合わせて、欧州航空安全当局(EASA)とも連携し、航空機の設計・製造過程等に係る型式証明審査を適切に進めることとしております。
    ※2 空飛ぶクルマとしての型式証明の申請をこれまでに2件受理。
    ・㈱SkyDrive (本社:東京都)から、令和3年 10 月 29 日付で受理
    ・Joby Aviation(所在地:米国・カリフォルニア州)から、令和4年 10 月 18 日付で受理

    【Volocopter 社の会社概要及び機体概要】
    設立: 2011 年
    所在地: ドイツ・ブルッフザール
    人数規模: 500 名以上
    CEO: Dirk Hoke
    事業内容: eVTOLの開発/設計/製造
    日本航空等が出資

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    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
  • 2022.11.30

    SkyDrive の「SD-05」,ベトナム企業が購入予約 2026年にも納品、最大100機

    account_circle村山 繁
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    いわゆる空飛ぶクルマなどを開発する株式会社SkyDrive(愛知県豊田市)は、ベトナムのインフラ開発を手掛けるパシフィック・グループ(Pacific Group Co Ltd、ベトナム・ホーチミン市)から、SkyDriveが設計開発中の空飛ぶクルマ「SkyDrive式SD-05型」の購入予約(プレオーダー)を受け、両者で覚書を交わしたと発表した。2026年以降にまずは10機を納品する計画だ。パシフィック社の事業環境などに応じ、最大100機まで納品するオプションが含まれる。SkyDriveの空飛ぶクルマの販売について、購入に関わる契約が公表されたのは今回が初めて。ベトナム都市部の渋滞問題への貢献が期待される。SkyDriveの空飛ぶクルマをめぐっては、国内外で複数の交渉が進んでいる。

    セールス関連の実績の公表は初めて コンテスト準優勝を飾り国内外で商談

     SkyDriveによると、覚書を交わしたのは11月28日。10機のSD-05をパシフィック社に販売することが盛り込まれた。SkyDriveは機体提供の形式を販売、リースなど複数の方法を検討している。パシフィック社に対しては「販売」で覚書が交わされた。価格もふまえた覚書になっている見込みだ。また覚書には、パシフィック社は90機まで増やせる選択肢を持つことが盛り込まれた。今後、SkyDriveに生産の申し込みが殺到した場合も、パシフィック社は100社までの追加できることになる。

     SkyDriveは、いわゆる空飛ぶクルマの開発する企業として世界的に知名度を高めている企業のひとつで、世界のスタートアップによるピッチコンテスト「Startup World Cup」に日本大会で優勝して世界大会に進み、10月に米サンフランシスコで開催された大会では決勝に進み、準優勝を飾っている。その後もドバイなど世界各地でプレゼンテーションが進み、現在、国内外から問い合わせを受けている。

     SkyDriveは、購入について①購入先との基本合意が成立している②購入先が公表に合意している、などの基準を満たしたケースについて、購入実績を公表する方針を決めている。今回のパフィシック社の購入予約は、この基準を満たして公表された初めてのケースとなる。

    ※「空飛ぶクルマ」は、手軽に空を移動する乗り物をさす場合に汎用的に用いられる。日本では、電気で動き、垂直離着陸が可能で、自動で飛ぶ乗り物が「ひとつのイメージ」と説明される。「クルマ」とは、手軽であることの象徴として便宜的に使われており、必ずしも道路を走ることが求められていない。また「自動」で飛ぶことが想定されながら、パイロットが乗り込んで操縦することも排除しない。諸外国では用途によって呼び名が使い分けられている。SkyDriveもFlying vehicle、Urban Air Mobility(UAM)、eVTOLなど場面に応じて使い分けており、プレスリリースでは、空飛ぶクルマの定義はない、と断っている。ほかに使われている言葉として、自動車が空を飛ぶことを強くイメージしたFlying carや、先端技術を意識したAdvanced Air Mobility (AAM)、Advanced Air Mobility eVTOL vehicleなどが使われている。

    SkyDriveの発表は以下の通り。

    SkyDrive社、ベトナムのディベロッパー・パシフィックグループと 「空飛ぶクルマ」の最大100機のプレオーダーを合意

     「空飛ぶクルマ」(※1)および「物流ドローン」を開発する株式会社SkyDrive(本社:愛知県豊田市、代表取締役CEO 福澤知浩、以下「SkyDrive」)は、Pacific Group Co Ltd(本社:ベトナム、会長兼社長 Le Ngoc Anh Minh、以下、「Pacific Group」)と、空飛ぶクルマ導入に関する覚書を2022年11月28日に締結したことをお知らせいたします。本覚書により、SkyDriveは、設計開発中の「空飛ぶクルマ」の商用機「SkyDrive式SD-05型」(以下、「SD-05」)の最大100機のプレオーダー(10機の確定、90機のオプション)を合意しました。

    ■ 本提携の背景と今後の取り組み

     SkyDriveは現在、小型で電動、2人乗りの空飛ぶクルマ「SD-05」の開発に取り組んでいます。2021年10月には、国土交通省が「SD-05」の型式証明申請を受理し(※2)、日本で初めての型式証明取得を目指して開発を推進しております。

     Pacific Groupは、ベトナムにおける鉄道や高速道路など、国から公共の仕事を受託し、インフラ開発を行っています。

     ベトナムでは日常的に深刻な交通渋滞が発生していて、社会問題として残っています。SkyDriveとPacific Groupは、本社会課題を解決するために、ベトナムで、空飛ぶクルマの活用が重要と考え、本プレオーダーに合意することとなりました。

     今後SkyDriveとPacific Groupは、ベトナムにおいて空飛ぶクルマの活用による社会課題解決を目的として、運航オペレーター、バーティポート(離発着場)や給電インフラなど、実現にあたり必要なあらゆるステークホルダーと共に協力して進めて参ります。

    ■ 各コメント

    株式会社SkyDrive 代表取締役CEO  福澤知浩

     ベトナムの名物とも言える、都市部のバイク、自動車がひしめき合う道路は、活気があり刺激的に感じます。しかし、一方で交通渋滞という社会問題を引き起こしているという現状、また排気ガスを多く排出するという環境問題を考えると、解決する必要がある重要な社会課題の一つかと思います。バイクや自動車の数は増加するばかりで、道路や駐車場の整備に時間を要する状況の中、空を使った移動手段「空飛ぶクルマ」をベトナムの新しい交通インフラの一つとして整備し、ベトナムの社会課題の解決に貢献できると嬉しく思います。国内に多種多様なビジネスネットワークを持つPacific Groupと提携し、Pacific Groupと共にベトナム市場に「空飛ぶクルマ」という新しい移動方法と、移動の楽しみを提供できることを楽しみにしています。

     

    Pacific Group Co Ltd 会長兼社長 Le Ngoc Anh Minh 

     ベトナム政府は、COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)で、2050年までに温室効果ガスの排出量を正味ゼロにすることをコミットしました。これにより、ベトナムの企業や地域は、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスや有害物質を極力排出しない、高い環境調和性を持った先進エネルギー(ゼロエミッションエネルギー)を使用する傾向にあり、今後、ゼロエミッションエネルギーを使用した移動手段は必須になると思います。一方で、ホーチミン、ハノイ等のアジアの大都市で、新しい交通手段を提供するためには、空飛ぶクルマが必要だと感じています。そのために、Pacific Groupは、SkyDriveやベトナム運輸省、ベトナム民間航空会社、ベトナム防衛省などの複数の当局と密接に連携し、空飛ぶクルマに関する動向や技術を説明し、航空許可と規制緩和をする必要があります。交通機関や規制、社会受容性等、障害が沢山ありますが、Pacific GroupはSkyDriveと共に一つ一つ解決していきたいと思っています。来年2023年はベトナムと日本の外交関係樹立50周年を迎えます。Pacific Groupのビジネスの為だけではなく、両国の化学と友好関係を強化するためにも、SkyDriveと共に活動を行っていきたいと思っています。

     

    ■「SD-05」の概要

     「SD-05」は、「電動」「垂直離着陸」といった特徴を備えたコンパクトな航空機です。2人乗り(乗客1名とパイロット1名)で、パイロットが操縦しますが、コンピュータ制御のアシストにより、飛行を安定させています。当社は、将来的に「空飛ぶクルマ」が、自動車のように日常的に空の移動手段として使われる世界を目指して、開発を進めてまいりました。

     この機体は、日本で初めての国土交通省の型式証明取得を目指しており(※3)、事業開始の皮切りとして、2025年の大阪・関西万博における空飛ぶクルマの飛行実現を目指しています。最大航続距離は約10km、最高巡航速度は100km/hで移動できるように設計しています。ただし、今後の設計開発の進捗によりデザインや仕様変更の可能性があります。

     

    ※1 空飛ぶクルマとは:明確な定義はないが、「電動」「自動(操縦)」「垂直離着陸」が一つのイメージ。諸外国では、eVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)や UAM(Urban Air Mobility)とも呼ばれ、新たなモビリティとして世界各国で機体開発の取組がなされている。モビリティ分野の新たな動きとして、世界各国で空飛ぶクルマの開発が進んでおり、日本においても 2018 年から「空の移動革命に向けた官民協議会」が開催され、2030 年代の本格普及に向けたロードマップ(経済産業省・国土交通省)が制定されている。

     

    引用元:国土交通省(令和 3 年 3 月付) https://www.mlit.go.jp/common/001400794.pdf  引用元:経済産業省(令和 4 年 3 月付)https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/008_01_02.pdf

    ※2 型式証明申請受理に関する当社リリース

     

    日本初、SkyDrive「空飛ぶクルマ」の型式証明申請が国土交通省により受理されました

    ※3 型式証明取得に関する当社リリース

     

    https://skydrive2020.com/archives/9238

    株式会社SkyDrive:https://skydrive2020.com/

     

    Pacific Group Co Ltd:https://pcgroup.vn/

    設立 2016年2月

    代表者:会長兼社長 Le Ngoc Anh Minh

    所在地: ベトナムホーチミン市

    事業内容: ベトナムにおける鉄道や高速道路など、国から公共の仕事を受託し、インフラ開発を行っています。

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。