広島県神石高原町(じんせきこうげんちょう)は10月3日、ドローンを活用して地域の生活を自然災害から守るため、ドローンに詳しい研究者、専門家、関連企業で構成する「神石高原町ドローンコンソーシアム」の設立を発表した。同町の防災アドバイザーである国立研空開発法人防災科学技術研究所の内山庄一郎氏が提唱する「ドローンによる災害対応の迅速化・合理化」に沿って、地域住民が中心的な役割を担う「地産地防」を目指し、初期対応、復旧、復興のそれぞれの段階で必要な活動に取り組む。具体的には、状況把握や地図化、物資配送、担い手育成などの検証を重ね、必要な技術、知見を身に着け、モデルとして確立することを目指す。
発表は神石高原町の自然体験型テーマパーク、「神石高原ティアガルテン」で開催され、入江嘉則町長、同町の防災アドバイザーである、防災科学技術研究所の内山庄一郎氏、慶応義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムの南政樹副代表のほか、油木協働支援センター、株式会社アイ・ロボティクス、ドローン・ジャパン株式会社、パーソルプロセス&テクノロジー株式会社、楽天株式会社などが参加した。多くの報道陣や来賓がその様子を見守った。
入江町長は冒頭、「昨年の豪雨では大変残念なことに町内で1人の方がが関連死で亡くなり、500か所を超える災害が発生した。安心して町内で暮らすために必要なことや課題は何か、という教訓を得た。いま『地産地防』を掲げて取り組んでいる。地域の安心安全を地域で守る、という意味だ。そのためにドローンを活用する。地域の方に中心的な役割を担って頂き、緊急時に活躍して頂きたい。コンソーシアムには専門的な知見を持つ企業、研究者が参画していて、交流、研究を深められる。そしてこの成果は、全国で機能すると確信している」とあいさつし、地域主体のドローンを活用した防災体制の構築に意欲を示した。説明会では地域で担い手となる予定者も紹介された。
コンソーシアムは「災害対応の高度化と迅速化」を目的としている。同町の防災アドバイザー、内山氏は、「自然災害の情報は市町村、都道府県、国に集約されるが、災害の個別の状況を把握するのは、9月9日に千葉県に上陸した台風15号の影響をみてもわかる通り、容易ではない。ドローンを使い、それも公的機関だけでなく、地域中住民が情報収集活動をすることで迅速化できる」と説明した。コンソーシアムは内山氏の提唱を検証する初の試みでもある。
内山氏は「地産地防」を実現するための災害対応を「初期対応」「復旧」「復興」の3段階で説明。初期対応では、災害発生前後の状況を把握するためのマッピング(地図化)システムを開発したうえで、地域住民らがドローンで収集した情報を補正し、マッピングアプリで発災前後の状況を重ね、状況を共有できるようにする。またスピーカーを搭載したドローンで避難誘導を音声でサポートする。復旧段階では、初期対応で特定した孤立集落や、避難所に緊急物資をドローンで配送する。
復興段階では、ドローンを農業など災害対応以外にも活用することで、日常的に使えるようしてノウハウを蓄積するほか、現在の電波、バッテリーなどの技術的な課題、ルールなどの社会的な課題の解決に取り組む。
2019年度は初期対応の状況把握、避難誘導や、復旧のための物資輸送、担い手育成を開始。11月に誘導や物資輸送の実験に入り、12月には地域主体の実験に切り替えて、来年2月には公開実験を開催する計画だ。内山氏は「これらを知見や検証を体系化して“神石高原モデル”とすることで、他の自治体にも発信することを目指す」と話し、2020年度からは日常活用や他地域への展開にも踏み込む方針だ。
コンソーシアムは、ドローン技術を活用した「いつまでも安心して暮らせるまちづくり」を進めるとともに、活動を通じて神石高原町をドローン技術の開発や活用拠点に育て、ビジネス創出支援、雇用創出なども目指す狙いがある。
説明会では、一通りの概要を説明した後、屋外でもデモフライトも実施した。ドローン・ジャパン株式会社の勝俣喜一朗社長や、株式会社アイ・ロボティクスの我田友史氏らが、ドローンの機体やシステムについて説明しながらフライトを披露した。この日はDJIの「MAVIC2Enterprise」と、ACSLの「PF-2」をフライトさせた。