輪島市、珠洲市(ともに石川県)を中心に能登地震の被災地で災害支援活動を展開している一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は、輪島市でドローンを定期的に自動飛行させ氾濫リスクの高まっている河川の巡視を始めることを決めた。ブルーイノベーション株式会社(東京)の遠隔監視型ドローンポート「BEPポート」を設置し、株式会社ACSL(東京)のドローンPF-2を待機させる。輪島市内の牛尾川にできた土砂ダムを監視し、河川氾濫対策の定期巡視、監視、巡回にあたる方針だ。1月30日に輪島市内にポートを設置し、早ければ同日にも運用に入る。BEPポートは東日本大震災で被災した仙台市で、津波が警告されたさいに上空から避難を呼び掛ける仕組みとして設置されている。今回導入されるポートも同型のシステムで、被災地での災害支援活動として運用される初めてのケースとなる。もはやPoCではない。
JUIDAがBEPポートを設置するのは、輪島市役所から東北東に約20㎞の地点で鈴屋川の流域だ。設置したポートからドローンを自動的、定期的に飛行させ、鈴屋川の支流、牛尾川にできたいわゆる土砂ダムの状況を継続的に監視する。
土砂ダムは地滑りや土砂くずれで河川の水の流れをふさいでいる状態で、水がためきれなくなり決壊すると氾濫などを通じた下流や流域への被害が懸念される。国土交通省は1月23日時点で6河川の14箇所土砂ダムを確認している。このうち5か所が牛尾川関連で、監視カメラを設置するなど対応が進められている。JUIDAもドローンの運用で決壊の危険性の有無を把握する。
運用開始後は、ドローンは毎日、指定時間に自動飛行させる。対象箇所を動画撮影し、リアルタイムでJUIDAと輪島市、運用を担当するブルーイノベーションが共有する。ドローンは無線の到達範囲内で運用する。ポート、周辺センサー、管理PCは米スペースX社が運用する衛星インターネットアクセスサービス、スターリンク (Starlink) を使い、災害現場での通信課題対策についても確認する。
BEPポートにはドローンの安全、確実な離発着環境を支援するセンサー類が連携している。離発着の妨げになる人の往来の有無を確認し、離発着に不適切な状況と判断した場合に離発着の停止を指示する侵入検知機能を備えるほか、ポート風況観測機能、ポート周辺のリアルタイム映像伝送機能などを持つ。これらの情報を管理するドローンポート情報管理システム(VIS:Vertiport Information System)を連携させて一元管理する。システムは国際標準化機構(ISO、スイス・ジュネーブ)が2023年6月2日に発行したカーゴドローン向けバーティポート規格ISO5491に準拠している。
BEPポートは仙台市の津波避難を呼びかけるシステムに組み込まれている。仙台市が2022年10月17日に運用を始めたシステムで、2機のドローンが津波警報とともに自動でポートを出発し、海岸まで飛行して8㎞の区間で避難を呼びかける。ドローンが撮影した映像は仙台市の災害情報センターに伝送されリアルタイムで確認できる。仙台市は、東日本大震災で避難誘導にあたった市の職員2人が津波の犠牲になっており、避難誘導の無人化を目指してシステムを導入した経緯がある。
輪島市でも土砂ダムの危険性を現地に足を運ばずに監視することが目的だ。土砂ダムの状況把握のためとはいえ人が立ち入るには危険が伴う。それをドローンの運用で回避する。ブルーイノベーションの熊田貴之代表は、2023年6月のJapanDroneで行われた「BEPポート|VIS」の発表会で、「無人のドローンが業務を安全に遂行させるためには安全を確保する信頼できるシステムが重要になる。今後無人システムの需要は拡大する。『BEPポート|VIS』でビジネスのパスポートとしての役割を果たし無人離着陸の普及と安全確保に貢献したい」と話していた。千葉市(千葉県)、中津川市(岐阜県)など各地で実現に向けた検証(PoC)を重ねている。今回はBEPポートが被災地支援で具体的に起動することになる。
ドローンポートに待機させた2機のドローンを、離れた場所にいる1人の運航者が飛行させる実験が1月18日、東京都北区の荒川下流にある岩淵水門の周辺で行われた。国土交通省関東地⽅整備局荒川下流河川事務所が、河川巡視にドローン活⽤する有効性を確認する目的で行ったもので、合同会社ソラボット(横浜市)がドローンポート「DroneNest」の運用を、株式会社ロジクトロン(東京)がドローン運航を担った。
実験では荒川下流河川事務所3階の災害対策室にドローンの運航管理拠点を構え、河川事務所の屋上と、河川事務所から約400m離れた荒川河川敷の「荒川岩淵関緑地バーベキュー場」にそれぞれ、ドローンを待機させた。バーベキュー場にはソラボットが展開する「DroneNest」を置き、ドローンはその中に格納した。DJIのMAVICシリーズを使った。
ドローンには、河川事務所に構えた運航管理拠点から飛行指示を出した。河川事務所屋上の機体は、飛行指示を出すと飛行を始めた。運航管理拠点の大型ディスプレイの地図に、ドローンの現在地が示され、ドローンの機体のカメラがとらえた映像が映し出された。河川事務所から1.3㎞下流の芝川水門のあたりまで、荒川にそうように迂回しながら飛行し、巡回して河川事務所屋上に帰還した。DroneNestで待機していたドローンも本来は飛行させる計画だったが、DroneNestのフードは開いたものの、待機しているドローンにDroneNestから飛行許可が出ず、飛行をしなかった。この間、ディスプレイ上には2機の位置が表示され、運航管理拠点から2機が管理できる状況は確認できた。
一方、運航管理者が機体に指示を出すためのPCを持って、河川事務所からDroneNestの近くに移動して再度、飛行指示を出すと今度はスムーズに進行。DroneNestのフードが半回転して開き、運航管理者が画面でチェックボックスを確認すると、DroneNestはドローンに離陸許可を出し、ドローンは無事、離陸した。機体は荒川上空を旋回し、しばらく空中で静止したのち再び戻り、DroneNestのポート上にぴたりと着陸した。着陸時には様子を見守っていた見学者から拍手があがった。
なおDroneTribuneは2022年6月に、DroneNestが北関東のエネルギー関連施設で、夜間警備のために遠隔での出動指示に対応し、ドローンが離陸し巡回の役割を果たす様子を取材している。このエネルギー関連施設は運営会社の私有地のため、一般の立ち入りはないことが前提だ。しかしこの実験のときには、侵入者をドローンで警備し、ドローンの搭載したスピーカーから警告音を出しミッションが課された。実験ではドローンは、遠隔操作により飛行し、ライトを照らしながら夜間に侵入者を検知し、警告を発生させるなど、与えられたミッションをすべてこなす様子を目の当たりにした。
ソラボットの奥村英樹代表は、「ドローンを運航させる現場がふだんの居場所から離れていることが頻繁に起こります、また全国に拠点を構えている事業者の場合、拠点ごとに操縦者を育成するのが大変だという話もよく伺います。事業者の地方事業所の夜間警備などの場合、その時間の外出そのものが少なからずリスクです。ドローンにまかせられるとそのようなリスクが軽減できます。ルンバのように自動充電してくれるシステムがあっていいという話も伺います。ソラボットはこうした、飛行現場まで行かずにすむ方法をDroneNestの活用で模索しています。最終的には日本全国のドローンを1か所の拠点で運航管理できる態勢を見据えています」と話した。