ドローン関連技術の研究開発を手掛ける株式会社ロックガレッジ(茨城県古河市)は、ドローン、AI、MRを組み合わせ、災害時の捜索活動で迅速、確実な遭難者発見を支援する技術を開発し、1月8日、福島県南相馬市の福島ロボットテストフィールドで実証実験を行った。実験では自動飛行したドローンが人影を検知すると、参加者が装着するウェアラブルディスプレイに人の形をした半透明の3Dオブジェクトの映像で浮かび上がる様子が披露され実験の見学者、参加者をうならせた。映像は複数のディスプレイに同時に投影することが可能で、複数の捜索隊員がディスプレイを装着すれば、見過ごしや伝言ミスなどの見逃しリスクの解消にも期待が高まる。
実験は、福島ロボットテストフィールドの市街地を再現した「市街地フィールド」で行われた。想定したのは、津波などで周囲に水があふれ、住民1人がビル屋上に避難し救助を待っている状況だ。ビルの外から屋上の避難者は確認できない。
実験開始後、ドローンがビルから離れた場所で離陸し自動飛行でビルに向かった。ドローンのカメラがとらえた映像はサーバーに送られAIで解析される。参加者とスタッフがウェアラブルディスプレイを装着しドローンを目視で追った。ドローンがビル上空にたどり着くとしばらくして、ドローンを見上げていた視界に、ドローンがとらえた画像と、人の形をしたオブジェクトが浮かび上がった。画像は枠で囲まれ、そこから延びる引き出し線が、ビルに伸び検知した場所を示した。また、表示には「倒れている」と検知した人の様子を文字でも表示した。情報は、ディスプレイ装着者全員が共有しており、隊員同士では「出ましたね」で通じる。視野を共有できれば捜索現場で「今、人影を検知しました」「あのビルのあそこです」など言葉で伝達する手間と誤解リスクを省ける。視野が共有できる安心感を体感できた。
試験は昼間に3フライト、日没後に2フライト行われた。日没後もドローンは自動飛行し、AIは人影を検知し、MRは検知結果を映像としてディスプレイに表示した。
ロックガレッジの岩倉大輔社長は今回の実験した技術について「コンセプトは“未来の捜索”です。未来の捜索では、捜索隊がウェアラブルデバイスを装着し、要救助者を肉眼で直接確認することができなくても、そこにいることを把握できるものと考えています」と説明した。
この技術が求められる背景について、岩倉氏は大規模自然災害では、足場が悪いなど捜索隊の現場入りが困難だったり、現場入りする捜索隊の安全を確保が難しくなったりすることがあることや、捜索を始めるとすぐに夜になり活動の中断を余儀なくされもどかしさを感じる声があること、ドローンが取得した情報を分かりやすく共有する必要があることなどを挙げ、「生存率が下がってしまう被災後72時間の壁があります。一人でも多く、一秒でも早く被災者を把握する手段としてこのシステムを提案しています」と説明した。
さらに、最近広がりを見せている捜索活動でのドローンの活用でも、「タブレットの映像を確認した人が、救難に向かわせる人や向かう人、責任者などに確認情報を伝える時点で情報のロスが発生する恐れがありますし、そもそも伝える手間も効率化できたほうがいい」と指摘する。
今回実験した技術について岩倉氏は「まだ発展途上」という。「近いうちにディスプレイが産業利用されたることが当たり前になり、それがレスキューにもつかわれると思っています。言葉による伝達をしなくても人間の視覚の拡張で、担当者全員が共有できるようになることが当たり前になっていくと思っています」と述べ、今後も研究を続ける。また、MR技術の現場利用についてトライアルや研究開発協力も募っていく方針だ。
株式会社ロックガレッジ:https://www.rockgarage.tech/
(以下、更新情報)
(更新情報1)株式会社ロックガレッジは1月12日、実験した技術開発を周知するプレスリリースを発表した。システムの名称は「3rd eyeドローンシステム」。プレスリリースはこちら。
(更新情報2)ソフトウェア開発などを手掛ける株式会社mofmof(東京都渋谷区)も1月12日、「3rd eyeドローンシステム」でMR技術開発に協力したことを発表した。株式会社mofmofのサイトはこちら。プレスリリースはこちら。