• 2021.11.18

    那須高原のコテージに食材や指輪を配送 VFR、藤和那須リゾート、Biが実験

    account_circle村山 繁

     ドローン開発のVFR株式会社(東京)、リゾート開発の藤和那須リゾート株式会社(栃木県那須町)、ドローン制御技術のブルーイノベーション株式会社(東京)は11月17日、那須高原の大規模分譲別荘地、藤和那須ハイランドでコテージの利用者などにドローンで食材を運ぶなどのサービスを提供する事業の実証実験を始めた。Z世代と呼ばれる若年層が主なターゲット層で、プロポーズの演出プランなどの提供を見込む。この日は那須ハイランドパークで事業概要の発表とドローン配送のデモンストレーションが行われた。取り組みは10月26日に発足した「Hello DRONE Project」の第二弾。また那須地域一帯を「リビングラボ」と位置づけて、価値創造の実験エリアに見立てた「ナスコンバレープロジェクト」の主要事業のひとつにも位置付けられ、那須エリアの再生と魅力発信が、ドローンをからめて大掛かりに動き出すことになる。

    Hello DRONE Project第二弾 広大な別荘地をドローン配送で魅力拡充、課題解決!

    VFRの湯浅浩一郎代表

     ドローン配送は、広大な敷地を持つ別荘地の課題解決を担う。大規模分譲別荘地として知られる藤和那須ハイランドは東京ドーム171個分にあたる約800万平方メートルの敷地を誇る。北関東最大級の遊園地、那須ハイランドパーク、温泉をそなえたコテージもあり、富裕層の象徴としての一面も持ち、あこがれのリゾートの色彩を持つ。その一方で、課題もかかえている。敷地が広大での配送の手間と維持が難しく、運用も非効率だ。最寄りに買い物拠点がないことや、社会的な高齢化に伴い免許返上者が増え別荘利用者が減少しているなども特有の課題だ。

     今回の取り組みではドローンの利用で、強みを増幅させ、課題の解決することを目指す。消費意欲が高いとされるミレニアル世代、Z世代などの若者層に向けて利用拡大を目指した取り組みにするため、「ハピネス体験」「ドローンでサプライズ」などをキーワードに「Z世代の心にぶっ刺さる」(湯浅浩一郎VFR代表)サービスを練りあげた。そのひとつが、コテージを利用するカップルに、指輪をドローンで運ぶプロポーズの演出や、バーバキューの食材がドローンで運ばれるサプライズ演出だ。

     発表会ではVFRの湯浅代表が「若い方たちに那須を訪れて頂き、新しい体験をしてほしいと考えています」と趣旨を説明。那須ハイランドを管理、運営する藤和那須リゾートの五十嵐弘樹常務が「グループが理念に掲げるハッピートライアングルを大事にしており、自然を活用し、お客様に喜んで頂き、地域に貢献することに取り組んでいます。一方で敷地が広く、標高550mから1050mまでと高低差も500mあり、配送が難しくなっています。ベテラン配送業者さんが配送先まで行くことができない、などの話も出てきています。Hello DRONE Project第一弾で、若い世代に関心を持ってもらうことに取り組みました。そこで第二弾では、こうした悩みを解決すべく、デリバリーに取り組みます」と解決への期待を説明した。

     またドローンの運航や、離発着場所の管理についてブルーイノベーションの熊田雅之専務が、同社の制御プラットフォーム「Blue Earth Platform(BEP)」について言及。「BEPには大きく分けて、飛行計画作成、離発着場のリアルタイム監視、ドローンのリアルタイム動態管理の三つの特徴を持ちます。画面に出ているのは右下が離陸場所、左側が着陸場所。紺色のマーカーがドローンの場所です。ドローンの離発着場所の管理はとても大切でISOでも議論が進んでいます。ドローンが身近になりにつれますます重要になる安全性の確保に役立ちたいと考えています」と説明した。

     賛同企業として那須ハイランドにも宿泊施設を建設した株式会社スウェーデンハウス(東京)の木村鉄郎主任があいさつにたち、大川保彦執行役員の「暮らしの維持、快適な生活の実現などを考える立場で、今回のプロジェクトは問題解決に発展すると感じ賛同しました。豊かな生活を安全に安心に続ける大きな挑戦だと感じています」という談話を代読した。

    ドローンの安全運航管理システム「BEPポート」について説明するブルーイノベーション専務の熊田雅之さん。画面右下の画像が離陸地点、左下の画面が着陸地点のリアリタイム動画。設定されたコースと機体の現在地は上半分の地図に表示される。

    テクノロジーをリアル社会に実装させる「記念すべき日」 DRONE FUNDの千葉功太郎代表があいさつ

    ドローン前提社会を展望する千葉功太郎さん

     またVFRを投資先に抱え、社外取締役として同社の経営陣にも名を連ねるDRONE FUND代表パートナーの千葉功太郎さんは「DRONE FUNDはドローンやエアモビリティの会社に幅広く投資をして、ドローン前提社会を実現させようと取り組んでいます。生活の中にドローンが飛び回る社会を作りたいし、空を飛んで移動する社会を作りたい。まんがの中で終わらせるのではなく、技術や法律など実現に必要なものをみなさんとともにつくっていきたいと思っています。今回の取り組みには技術系の会社、ソリューションの会社、リアルな場を持っている会社、住宅をつくる会社が参加しています。これはまさに、テクノロジーと社会が合体して別荘地向けサービスをスタートさせる取り組みです」とこの日の取り組みの意義を強調。

     そのうえで「きょうはその記念すべき日だと思っています。若い世代にドローンを楽しく使って頂くことが、ドローン前提社会の実現にはとても重要です。ドローンがお肉を運んだり、ワインを運んだり、ピザを持ってきてくれたりする体験が誰でも味わえることは画期的です。こうしたサービスが、ここ那須から全国に広がることを願っています」と期待を寄せた。

    Hello DRONE Projectの発表会に登壇した(左から)千葉功太郎さん、湯浅浩一郎さん、五十嵐弘樹さん、熊田雅之さん

    カップル向けウエディング演出をデモ 参加者から「これは楽しい」の声

    カップルと友達がドローンの運んできた食材でパーティー

     このあとのデモンストレーションでは、ふもとから直線距離で800m離れた、標高が100m高い見晴らしのいい場所のコテージまでドローンで、ピザや食材などを運ぶ様子をお披露目した。着陸地点のコテージには、モニター画面が設置され、ブルーイノベーションのBEPを活用した管理画面や、KDDIのスマートドローン運行管理システムの画面で、離陸点の状況や、機体の位置を確認しながら、ドローンの到着を待った。

     使用機体はACSLの「PF2」とプロドローンの「PD6B-Type3」。機体の特性に応じて使い分けた。運用はほぼ自動。管理者の合図でドローンが離陸すると、間もなくプロペラの音が聞こえ、機体が姿を見せると見守っていた参加者が一斉に指をさした。

     この日はデモンストレーションのために、俳優が演じるカップルが登場。コテージ前をウェディング会場のように装飾し、ドローンが運んできたバーベキューの食材を、カップルのお友達が持って祝福に訪れ、いっしょにバーベキューに取り掛かるという設定で、その様子が再現されると、見ている関係者の間から「絵にかいたようなあこがれのウェディング」「これは楽しいよね」などの声があがった。

     ドローンによる配送サービスの具体的な内容はこれから詰めていく。当面は今後、モニターを募ってさまざまな角度から検証を重ねる。将来的には利用者がコテージにいながら、ドローンサービスをリクエストする仕組みを構築することを展望している。サービスは来春の導入を予定している。モニターは12月23日から募集をはじめる。

    ドローンが飛んできた
    ドローンが運んできた食材。肉もあります
    ドローンの荷物をあける瞬間
    ドローンはここに飛んできます。字幕より分かりやすいと評判の事前解説
    ブルーイノベーションの熊田雅之さん
    発表会の会場
    ドローン配達の実施に伴ってオリジナルの注意喚起看板も用意した

    ナスコンバレー井上高志代表理事「駅から別荘地までドローンタクシーを」 栃木県福田知事「空から那須を見て欲しい」

    一般社団法人ナスコンバレー協議会の代表理事として説明するLIFULL代表取締役の井上高志さん

     「Hello DRONE Project」の発表に続き、一般社団法人ナスコンバレー協議会も同じ会場で発足の発表会を開いた。ナスコンバレーはテクノロジーで価値創出する企業が集積する米シリコンバレーになぞらえ、那須地域を価値創出の実験エリアにすることを目指す取り組みで、10月1日に発足した。この日の欲祖発表会では、趣旨や運営方法のほか、具体的なプロジェクトについても言及があった。具体的なプロジェクトのひとつが、ドローンだ。

     ナスコンバレー協議会の代表理事に就任した株式会社LIFULLの井上高志代表取締役は、「那須エリアをリビングラボと位置付けてイノベーションを進めたいと考えています。そのひとつがドローンで、私有地だからこそ使える利点をいかして実験を重ねたい。また将来的には那須塩原の駅からこの別荘地のエリアまで、ドローンで利用者を運びたいと思っています」と話した。

     協議会には発起人の起業家や、舞台となる栃木県の福田富一知事、那須エリアの那須町、那須塩原市、大田原市の各首長らも参加。それぞれがあいさつをした。栃木県の福田知事は、井上代表理事のドローンタクシー構想について、「ぜひ実現させてほしい。那須は空から見ると美しいんです。それを多くの人に堪能してほしい」と展望した。

    ナスコンバレーの発表会であいさつする福田富一栃木県知事
    ナスコンバレー発起人が登壇。左端が代表理事の井上高志株式会社LIFULL代表取締役
    ナスコンバレーの発表に登壇した那須エリアの首長。左端演台は栃木県の福田 富一知事。順に那須町の平山幸宏町長、那須塩原市の渡辺美知太郎市長、大田原市の津久井富雄市長

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
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