ドローン開発のエアロセンス株式会社(東京)は9月28日、茨城県守谷市でVTOL機「エアロボウイング」と4K中継向け有線給電の回転翼機「エアロボオンエア」の飛行を実演した。エアロボオンエアは光ファイバーなどの複合ケーブルを機体につなぎ、外部電源から電源を受けてバッテリー切れを気にすることなく安定して飛行し、機体のカメラで撮影した4K映像をほぼ遅延なくディスプレイに映し出す高い中継性能を披露した。エアロボウイングは、垂直に浮き上がると、姿勢をかえず高速で水平飛行をし、短時間で広範囲の測量を済ます能力を示した。
実演会にはエアロセンスの佐部浩太郎社長や、技術、営業などの実務担当者が参加。佐部社長は自動航行のミッションをつくるなど作業にあたったほか、集まった関心層、事業者層など約20人の前で、機体の仕様や特徴、運用上の利点について説明した。
エアロボオンエアは、4ローターの回転翼機。外部電源とケーブルで接続して使う。ケーブルの重量が機体の一か所に集中しないよう、力を分散させる付属部品を取り付けて、飛行に干渉しない設計になっている。ケーブルは約100メートルで、機体は原則、この範囲で稼働可能だ。ケーブルの引き出し口から垂直に上昇すれば地上から100メートルの上空に滞在できることになる。この日も機体を飛行させると、するすると安定して上昇し、上空50メートルで安定して静止する様子を見せた。
特筆すべきは、機体から送られてくる映像の品質だ。4Kカメラからの映像はケーブルを通じて、ディスプレイに鮮明な映像を映し出す。独自に開発したジンバルが機体の揺れを吸収し、映し出された映像には揺れがまったくみられない。ドローンに撮影されたさいに手を振るなどをすると、目の前のディスプレイの映像がほぼ遅延なく映し出されることが確認できる。この日の実演でも映像に「これはきれい」「安定してますね」などと言いながら参加者がディスプレイをのぞき込む姿がみられた。すでに音楽イベントやスポーツイベントの中継などで活用実績がある。
2020年3月には全面刷新し、機体に搭載している電源降圧モジュールの小型化などで630gの軽量化と、耐風性能の7m/sから10m/sへの向上を果たした。防滴防塵性能も「IP43」に引き上げており、災害時の状況を時間の経過をたどりながら確認するさいに頼れる。
建設などの無人化施工現場で、建設機械の操作に必要な映像機材としても活用されている。建設機械を遠隔操作するオペレーターに、現場のなめらかな映像を届けることで、従来課題とされている建設機械の動きの確認や、周辺確認を可能にした。
佐部社長は「外部電源を使えるため被災地の推移を見守り続けることができる。その様子は鮮明な映像でリアルタイムに確認でき、カメラを動かしたり、ズームにしたりすることができます。災害頻発エリアなどの防災対策にお役に立てるとも考えています」と話した。
エアロボウイングは、流線形の固定翼に5つの回転翼が取り付けられているVTOL機。4つのプロペラが浮上を可能にし、尾翼部分のプロペラで水平飛行の推進力を得る。バッテリー2本を搭載し約40分飛べる。時速70~75㎞が巡行速度で、1回の飛行で最大約50㎞飛べる。翼が脱着式で専用のボックスに入れて持ち運ぶことが可能だ。使用時には翼、回転翼などを取り付け、電源を入れる。
機体の動きは予めミッションをセットアップして定める。機体側のセンサーが正確に作動するよう準備をすれば、あとは始動の指示を出せば、離着陸も含めて自動で離陸し、指示した所定の高さまであがると水平飛行にうつる。飛行は滑らかで、この日は飛行エリア上空を8の字を描いた。広範囲の測量や、地形確認、3Dモデル作成などに有効だ。機体の重心に荷物を収納することもできるほか、マルチスペクトルの複眼カメラを搭載し大規模圃場での精密農業などの用途も想定する。
この日の実演では飛行エリアを8の字を描くように飛行するミッションを設定。飛行前のセンサーの働きを調整するキャリブレーション作業のさいには、佐部社長が、「今はGPS、加速度センサー、ジャイロ、地軸計、気圧計といったセンサーをすべて統合して自分の位置を把握することができるよう、お互いをチェックしあう照合作業をしています。これでOKとなれば、自律で飛ばせることになります」などと解説。調整し終えると、機体は4つのプロペラで垂直に離陸し、高度40メートルで静止し、水平飛行に移ると、一気に加速して滑るように安定飛行を見せた。
佐部社長は、「2.4GHzの通信で接続されていて、オンボードの映像はこちらに表示しています。このように周囲の状況を確認しながら飛行できます」「LTEモジュールも搭載していまして、両方同時に使うことができます」などと説明をすると、取り囲んだ参加者たちが頷きながら、空を見上げていた。
エアロセンスは今後もデモフライトなどを通じて機体とシステムの有効活用を模索し、中継、監視、災害、点検、農業など各産業への貢献する方針だ。
兵庫県の齋藤元彦知事は9月22日の定例会見で、10月1日に兵庫県猪名川町内でドローンを片道12㎞の飛行をさせる実証実験を行うと発表した。エアロセンス株式会社のVTOL機「エアロボウイングAS-VT01」を使う予定で、会見会場に機体が持ち込まれ、会見出席者に披露した。会見の席で斎藤知事は「災害時に道路がまひしても、医療用物資などを早急に届けることができるシステムを構築したい」などと述べ、期待を寄せた。
実験は兵庫県猪名川町役場と猪名川沿いに12キロ上流にある医療法人晴風園今井病院杉生診療所との間で行う。地震で道路の運送が困難になった診療所に輸血用血液を運ぶなどのシナリオを想定している。
兵庫県は「兵庫県地域創生戦略」の「多自然地域一日生活圏維持プロジェクト」で、大阪市立大学都市防災教育研究センター(CERD)、ドローン関連企業、地域自治体と連携した輸送の実証実験に取り組んでいて、3月には猪名川町で2キロの距離の配送実験を回転翼機で実施した。今回はそれを踏まえて距離を延ばしたうえ、VTOLを使う。
兵庫県と日本コンピューターネット株式会社(大阪市)、CERDが主催し、猪名川町、今井病院、ドローン・テクノサポート株式会社(神戸市)、エアロセンスが協力する。
記者会見で斎藤知事は、「社会実装に近づけるため、医薬品を運ぶなどのミッションを設定したいと思っています。飛行時間は片道10分程度。10キロを超えるのはなかなかのトライアルだと思います。災害時に道路がまひしても医療用物資などを早急に届けることができるシステムを構築したいと考えています」と述べた。
5G、AI、ドローンなどテクノロジーの利活用に前向きな姿勢を示す自治体トップが増える中、斎藤知事はこの日はドローンの取り組みのほか、ローカル5Gをスポーツのコーチングなどに役立てる実証実験の実施も発表しており、自治体のテクノロジー活用の促進効果と、地域住民が享受できる価値の増大に期待がかかる。
エアロセンス株式会社(東京都文京区)は8月6日、都内で新型VTOL機の発表会を開いた。「AEROBO wing(AS-VT01)=エアロボウイング」と名付けられた固定翼産業用ドローンは、1kg までの荷物を搭載して垂直離着陸を行い、最大時速100kmで航続距離は50kmとなる。発表会に登壇した佐部浩太郎代表取締役社長は、1年間で100台の販売を目指すと語った。
今年で設立から5周年を迎えたエアロセンス。佐部浩太郎代表取締役社長は新型VTOL機「AEROBO wing(AS-VT01)」について「FRPで空力性能に優れたデザインにし、チルトローターと推進ローターをあえて別に装備することで、パラシュートが不要な安全な飛行が可能になる」と説明する。
同社では、これまでにもVTOL機の開発に取り組んでおり、従来機は、単一のローターが回転する構造で、離着陸と水平飛行を担っていた。それに対して、新型機では、マルチコプターのように離着陸用の4つのローターと、水平飛行用の1つのローターを備えた。その結果、旧型機に比べて安定したホバリングを実現し、緊急時の対応も安全性が増したという。
また、新設計の機体は軽量かつ強靭なFRP製。羽を取り外せばコンパクトになり、輸送、運送の利便性が高まった。会場では、軽さを示すために佐部社長が機体を持ち上げてみせた。
新型VTOL機「AEROBO wing(AS-VT01)」は、これまで同社が提供してきたマルチコプターのAS-MC03-Tに比べて、航続距離は50kmと5倍になり、1kgのペイロードで空撮や測量が可能になる。佐部社長は「鬼怒川の2kmに及ぶ河川のモニタリングに、これまでは3日で30フライトが必要だったが、エアロボウイングなら20分で完了します。精密農業や測量など、1回のフライトで広域を飛行できるので、効果の出るソリューションを提供できます」と話す。
「AEROBO WING(AS-VT01)」の導入には、本体の価格に加えて、測量などで利用するカメラと、飛行制御のためのPCやソフトウェアも必要になる。また、年間の保守料は、本体価格の1割となる50万円を予定している。
【AEROBO wingの主な仕様】 機体名称 AS-VT01 外形寸法 プロペラなし(mm) 2130 x 1200 x 450 本体重量(バッテリー込み)(kg) 8.54kg 最大離陸重量(kg) 9.54kg 最大搭載可能重量(kg) 1kg 最大使用可能時間(分) 40 分 最大飛行距離(km) 50km 最高速度(km/h) 100km/h 巡航速度(km/h) 75km/h 飛行可能風速(m/s) 10m/s 飛行制御 飛行計画による自動航行、またはマニュアル飛行 改正航空法 対応済み。全国包括申請にも対応 安全機能 飛行中の自動航行/マニュアル操作切り替え LED 灯火(赤/緑/白) 飛行禁止領域への侵入防止設定(ジオフェンス機能) 自動帰還(無線切断、バッテリー残量低下時) 自動着陸(GPS 異常、バッテリー残量低下時) 障害物検出/通知 フライトコントローラー 自社製フライトコントローラー +高性能アプリケーションプロセッサ(Linux) センサー GPS、IMU、カメラ、他 拡張端子 USB,UART、他
質疑応答では、1kgというペイロードに対する疑問に対し、佐部社長は「いきなり30kgからではなく、1kgから安全性を確認して広げていきたい」と説明した。ちなみに、空撮用のカメラは固定式で、高速なシャッタースピードにより速い速度で移動しても、正確な撮影が可能だという。今後は、カメラ用のジンバルも開発していく計画がある。海外の高性能なVTOL機に比べほぼ半分の価格となり、国内生産という点からも、産業分野で高い需要があるとエアロセンスでは期待している。