• 2021.7.17

    IPA DADCの南氏「シン・ドローン前提社会」提言 金沢の「e-messe」セミナーに登壇

    account_circle村山 繁

     ICTの利用促進を目指す「e-messe kanazawa 2021(=イーメッセ、第36回いしかわ情報システムフェア)が7月16日、石川県金沢市の石川県産業展示館で開幕し、ドローンに馴染み深い技術、研究成果の関の展示、デモンストレーション、セミナーなどが行われている。初日の16日には、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)デジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)の南政樹プログラムディレクターら、ドローンの専門家3人が登壇するセミナーが開催された。南氏は「シン・ドローン前提社会」を提言した。このほかの2人もサービス精神旺盛で、1時間のセミナーに、3人あわせて合計120枚超のスライドを繰り出し、ときおり飛ばしながら、事例や経験も盛り込んだ内容が山盛りのトークを繰り広げた。

    KES小林氏、ドローンショー山本氏と3人で120枚超/hの高速スライド(笑)

    e-messe kanazawa 2021のセミナーに登壇した、(左から)独立行政法人情報処理推進機構(IPA)デジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)の南政樹プログラムディレクター、株式会社ドローンショーの山本雄貴代表取締役社長、株式会社金沢エンジニアリングシステム開発部主幹技師で一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)ドローンWG主査、小林康博氏。3人の肩書を一度で記憶できたるかどうかクイズの問題にできそう。右は司会の弓月ひろみ氏

     南氏らは16日、e-messe kanazawa 2021の開幕初日に、「北陸から世界へ、ドローン活用のこれから!」のセミナーで登壇した。南氏のほかに、地元、金沢に拠点を構える株式会社金沢エンジニアリングシステム(KES)開発部主幹技師で一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)ドローンWG主査も務める小林康博氏、同様に2020年に金沢で起業したショー仕立てのエンターテインメントサービスを提供する株式会社ドローンショー代表取締役社長の山本雄貴氏が席を並べた。司会のITライター、弓月ひろみ氏が「短いセミナーなのでぎゅっと濃縮した形になるかも」と前置きをすると、それに呼応するように3人は要素をつめこんだ早口トークを展開した。

     この中で小林氏はサイバー空間とフィジカル空間の融合を目指すSociety 5.0(ソサイエティ5.0)の主要テーマのうち「移動」の実現を研究していると自己紹介。そのほかに地元でのコミュニティ活動を展開していることを周知した。JASAの活動の具体例としては長﨑・五島列島での取り組みを紹介した。山本氏は4年前に東京から出身地の金沢に移住し、「東京ではまねできない新しい産業を石川でたちあげたい」と起業の経緯を説明。複数の機体をひとつのプログラムで飛ばして空に文字や絵を描くショーを展開していて、「いろいろなところでショーを実施したい」と話した。

     南氏は「出身が野々市市」と地元との結びつきを説明して話を切り出した。南氏は会場滞在中に地元関係者から声をかけられたり、電話やメールでの連絡が入ったりする場面があるなど、地元とのつながりも深い。

     セミナーで南氏は、2021年4月から仕事の軸足をIPAに置いていると説明。「仕事のテーマはアーキテクチャ。ドローン産業全体の設計を目指しています」と切り出した。ドローン産業の振興を目指す人々が口にする「ドローン前提社会」も、南氏が「インターネット前提社会」をアレンジし、「いつでも、どこでも、だれでもドローンを利用できる社会」として提唱したことが起点になっている。DRONE FUNDの掲げる「ドローン・エアモビリティ前提社会」も、南氏の「ドローン前提社会」が起源だ。なお南氏はドローンについて「空に限らず自律移動ロボット全体と定義しています」と説明した。

     南氏は自身の問題意識について「人・モノ・情報の移動を強化、拡張する考え方で新しい社会をデザインすることを考えています」と説明し、具体的な社会課題が人口減少、ニューノーマル、Society 5.0など広範囲に及ぶことを紹介。創設の準備が進むデジタル庁の方針である「だれもとり残さない」を目指していることを伝えた。

     Society 5.0については、Society 4.0との違いを説明。「インターネットまでがSociety 4.0。それをフィジカルと融合させるのがSociety 5.0で、(境界部分を指さし)この部分を深堀したい」と述べた。

     なお、ここまでは冒頭5分の「自己紹介」での話題。あらかじめ時間の制約を各自が認識していたため、かなりの早口で内容をつめた展開となり、司会の弓月氏が「ものすごい駆け足で自己紹介頂き、ありがとうございます」と会場を沸かせる一幕もあった。

    重労働から解放し、日常生活に溶け込むまで

    マイクを持つドローンショーの山本氏。右は金沢エンジニアリングシステムズの小林氏

     このあと、ドローンの種類、ルール、利用などについてテーマごとに意見交換が進んだ。

     小林氏は農林水産省、国土交通省など各府省でドローンが活躍している様子や、それぞれのドローンの定義、今後の展開などを解説。「ビジネスはここ(各府省の取り組み)に相乗りしてみるのも一手」と提案した。山本氏は「(ドローンが活用されている事業の)メインは空撮、点検などですが、災害でも活躍していることが話題になっています。われわれの取り組むエンタメはまだまだこれから。ドローンに対する偏見を取り除くためにも楽しく見て頂けるようにショーを展開したい」と抱負を述べた。

     南氏はドローンを飛行させる環境について、屋内、屋外に分けて、それぞれの違いを説明した。異なる点として、風の影響、日光による撮影環境への影響、降雨・降雪、測位情報の取り方などを列挙し、「GNSSに頼れない屋内では、ステレオカメラの活用、360度カメラの活用などさまざまな方法があります。センサから取り込んだデータをコンピュータで処理するセンサーフュージョンで、高度な処理が可能になります」と説明。ドローンが生み出す音や、風についても「風切り音はしますし、小さなドローンでも風がきます」などと考慮すべき要素にあげた。

     さらに南氏はドローンの使い方について、「産業としての使い方、移動体としての使い方、の二つがあると思います」と体系化。そのうえで屋外の使い方の事例として、足場を組まずに済ませる点検の実現に役立つことなどを紹介した。「高所作業員は安全確保のためにフルハーネス(墜落制止用器具)の着用義務がある。ドローンが使えれば作業員を重労働から解放できる可能性があります。プラント点検でもドローンは使えるが防爆の厳しい基準をクリアしなければいけない。クリアしさえすれば点検現場の安全確保に貢献できます」と可能性を指摘した。また屋内の利用では「倉庫内のピッキング、栽培用ハウスの中での農業利用。上下水道の管路内点検、住宅での室内でのAIスピーカー利用」などを紹介した。

     またDRONE FUNDが作成したイラストを「これ、ぼくが一番好きな使い方なのですが」としながら、「お弁当を忘れた子供にお弁当を届けるドローン。よくみるとドローンがもってきたモニターに映し出されたお母さんに、お弁当を忘れた男の子が起こられています。こんなふうに日常生活に入り込めばいいな、と思っています」と述べた。

    社会全体を考えるシン・ドローン前提社会の考察を

    飛ばす社会全体を考えることを提唱するIPA DADCの南政樹氏(左)。右やドローンショーの山本氏

     ドローンが登場するビジネスについて南氏は、機体、ソフトウェア、サービス、教育、メディアなどの企業が「ものすごく広い」と外観。そのうえでとくにハードウェア、ソフトウェア、サービスの事業を、垂直統合型サービスと、水平分業できるオープンソースのサービスとに分類した。独自のアーキテクチャで一世を風靡した電子機器が、その後、風当たりが強くなり販売されなくなった経緯などを例示し「ドローンにも似たことが起こるのではないかと考えています」と話した。

     さらに米小売り大手ウォルマート、イスラエルのeコマースAHA、ルワンダやガーナで血液輸送などの事業を展開している米Ziplineなどの配送、輸送ビジネスを紹介し、「実はこれらは、日本よりもはるかに厳しい制約の中でビジネスが起こっていることをご理解頂きたいと思います」(南氏)などと説明し、会場の好奇心を喚起した。

     このあとも北陸のドローン事情、マシンの事情、課題やその解決法などをテーマに多角的な意見が続出。

     「サービス事業を展開するときにそれに適した機体の調達が超絶、難しい。なぜならカスタマイズできないから」(小林氏)

     「組込みソフト産業は自動車産業に関わる人が多い。そのエンジニアが空に目を向けることができる」、「自動車産業ではサプライヤーが世界を牛耳っている実態がある。そこに注目をすべき」(同)

     「日本が勝負できる分野には、内燃機関、カーボン素材、アクチュエイター、ESC、バッテリ、センサなどがある」(同)

     「トラブルの事例に、白煙があがったとか、ネジが緩んで機体がゆれて墜落したなどがあります。もし日本のメーカーが本気でまじめに取り組めばこういった事態にはならないと思います。自動車が作れているのですから」(同)

     「提供するサービスに適した機体は、オープンソースを使い自前で作っているのが現実」、「ショーをやるための許可で相談を持ち掛けたら、100台の飛行経路の提出を求められたことがあります」(山本氏)

     「そもそも操縦士とは誰だ、といった議論があります。自動操縦の場合、そのボタンを押す人だ、という回答を頂いたことがあるのですが、目視外飛行の場合は、いろいろ準備をして、最後にスタートのボタンを押した人が操縦士?みたいな話をしたことがあります」(同)

     南氏は、法制度について来年6月の制度改正について、機体認証「一種」「二種」、飛行国家資格「一等」「二等」などについて概観したうえで、「日本の法律はひとつの機体に少なくとも1人の操縦者がいることを前提にしています。1人が複数を自動操縦で飛ばすなどの状況には、おいついでいないので、議論はこの先も続くことになります」と説明した。そのうえで「想定しているのは安全かつ効率的な多頻度、高精度、多数の同時運用ができる社会。そうなったときに、勝ち筋が見えてくるのではないかと思っています」と展望した。

     また、南氏はこれから考えるべきテーマについて言及。「たとえば、たくさんの宅配ドローンが飛んできたさいにはどうするのか。着陸地に降りる順番の決め方を考えておく必要が出てくると思います」と例示したうえで、「どんどん飛ばすだけでなく、人の移動を人に頼らずできるようになるために、住む場所に関わらずすべての人が等しくサービスを受けられるために、また、社会の安心・安全を維持し、人とドローンが一緒に働ける世の中であるために、ドローン単体ではなく、ドローンを使った社会全体についてどうあるべきか。これをシン・ドローン前提社会として考えていきたいと思っています」と結んだ。

    ドローンのセミナーでは登壇者はしばしば馴染みのある機体を持ち込む

    非GNSS環境で屋内ドローンショーも

    測位信号が届かない屋内で披露されたインドアドローンショー

     e-messe kanazawa 2021の会場では、セミナーに登壇した山本氏が率いる株式会社ドローンショーが、非GNSS環境下の屋内で、手のひらサイズのドローン5機が音楽にあわせて動くショーを披露した。また数多くのブースが研究成果を披露していて、北陸先端科学技術大学院大学はプロペラの一部にシリコンを使うことで、回転中に障害物にあたった場合にプロペラ側が曲がることで対象を傷つけず、回転も続くプロペラの研究成果を紹介していた。NTTドコモ、北陸大学のものづくりラボ、北國銀行、VRショッピングモール、eスポーツなどで、関心を寄せる来場者が次々と来場していた。

     e-messe kanazawa 2021は、ICT/IoT利活用促進、新ビジネス提案や北陸地域の情報化推進のために、一般社団法人石川県情報システム工業会が主催している、総務省北陸総合通信局、経済産業省中部経済産業局、石川県、石川県警察本部、金沢市、公益財団法人石川県産業創出支援機構、一般社団法人全国地域情報産業団体連合会、一般社団法人富山県情報産業協会、一般社団法人福井県情報システム工業会、NHK金沢放送局、北國新聞社、北陸放送が後援。17日まで開催している。

    会場を俯瞰。華やかなブースが目立つ
    eSPORTSも行われている
    eSPORTS対戦中
    各ブースが工夫
    5G,VRと馴染み深い展示がもりだくさん
    台座のセンサーで人をすり抜ける、ぶつかりそうであればとまる
    会場にはいくつものキッチンカー。人気店は正午過ぎに売り切れる。隣の店から「この店は大人気だから。この時間の売り切れでも遅いくらい」の声も
    北陸先端科学技術大学院大学ではプロペラを展示している。一部がシリコンでできていて。回転中に当たっても大ケガにならないようにぐにゃっと曲がり、すぐに元に戻る

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
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