ICTの利用促進を目指す「e-messe kanazawa 2021(=イーメッセ、第36回いしかわ情報システムフェア)が7月16日、石川県金沢市の石川県産業展示館で開幕し、ドローンに馴染み深い技術、研究成果の関の展示、デモンストレーション、セミナーなどが行われている。初日の16日には、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)デジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)の南政樹プログラムディレクターら、ドローンの専門家3人が登壇するセミナーが開催された。南氏は「シン・ドローン前提社会」を提言した。このほかの2人もサービス精神旺盛で、1時間のセミナーに、3人あわせて合計120枚超のスライドを繰り出し、ときおり飛ばしながら、事例や経験も盛り込んだ内容が山盛りのトークを繰り広げた。
南氏らは16日、e-messe kanazawa 2021の開幕初日に、「北陸から世界へ、ドローン活用のこれから!」のセミナーで登壇した。南氏のほかに、地元、金沢に拠点を構える株式会社金沢エンジニアリングシステム(KES)開発部主幹技師で一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)ドローンWG主査も務める小林康博氏、同様に2020年に金沢で起業したショー仕立てのエンターテインメントサービスを提供する株式会社ドローンショー代表取締役社長の山本雄貴氏が席を並べた。司会のITライター、弓月ひろみ氏が「短いセミナーなのでぎゅっと濃縮した形になるかも」と前置きをすると、それに呼応するように3人は要素をつめこんだ早口トークを展開した。
この中で小林氏はサイバー空間とフィジカル空間の融合を目指すSociety 5.0(ソサイエティ5.0)の主要テーマのうち「移動」の実現を研究していると自己紹介。そのほかに地元でのコミュニティ活動を展開していることを周知した。JASAの活動の具体例としては長﨑・五島列島での取り組みを紹介した。山本氏は4年前に東京から出身地の金沢に移住し、「東京ではまねできない新しい産業を石川でたちあげたい」と起業の経緯を説明。複数の機体をひとつのプログラムで飛ばして空に文字や絵を描くショーを展開していて、「いろいろなところでショーを実施したい」と話した。
南氏は「出身が野々市市」と地元との結びつきを説明して話を切り出した。南氏は会場滞在中に地元関係者から声をかけられたり、電話やメールでの連絡が入ったりする場面があるなど、地元とのつながりも深い。
セミナーで南氏は、2021年4月から仕事の軸足をIPAに置いていると説明。「仕事のテーマはアーキテクチャ。ドローン産業全体の設計を目指しています」と切り出した。ドローン産業の振興を目指す人々が口にする「ドローン前提社会」も、南氏が「インターネット前提社会」をアレンジし、「いつでも、どこでも、だれでもドローンを利用できる社会」として提唱したことが起点になっている。DRONE FUNDの掲げる「ドローン・エアモビリティ前提社会」も、南氏の「ドローン前提社会」が起源だ。なお南氏はドローンについて「空に限らず自律移動ロボット全体と定義しています」と説明した。
南氏は自身の問題意識について「人・モノ・情報の移動を強化、拡張する考え方で新しい社会をデザインすることを考えています」と説明し、具体的な社会課題が人口減少、ニューノーマル、Society 5.0など広範囲に及ぶことを紹介。創設の準備が進むデジタル庁の方針である「だれもとり残さない」を目指していることを伝えた。
Society 5.0については、Society 4.0との違いを説明。「インターネットまでがSociety 4.0。それをフィジカルと融合させるのがSociety 5.0で、(境界部分を指さし)この部分を深堀したい」と述べた。
なお、ここまでは冒頭5分の「自己紹介」での話題。あらかじめ時間の制約を各自が認識していたため、かなりの早口で内容をつめた展開となり、司会の弓月氏が「ものすごい駆け足で自己紹介頂き、ありがとうございます」と会場を沸かせる一幕もあった。
このあと、ドローンの種類、ルール、利用などについてテーマごとに意見交換が進んだ。
小林氏は農林水産省、国土交通省など各府省でドローンが活躍している様子や、それぞれのドローンの定義、今後の展開などを解説。「ビジネスはここ(各府省の取り組み)に相乗りしてみるのも一手」と提案した。山本氏は「(ドローンが活用されている事業の)メインは空撮、点検などですが、災害でも活躍していることが話題になっています。われわれの取り組むエンタメはまだまだこれから。ドローンに対する偏見を取り除くためにも楽しく見て頂けるようにショーを展開したい」と抱負を述べた。
南氏はドローンを飛行させる環境について、屋内、屋外に分けて、それぞれの違いを説明した。異なる点として、風の影響、日光による撮影環境への影響、降雨・降雪、測位情報の取り方などを列挙し、「GNSSに頼れない屋内では、ステレオカメラの活用、360度カメラの活用などさまざまな方法があります。センサから取り込んだデータをコンピュータで処理するセンサーフュージョンで、高度な処理が可能になります」と説明。ドローンが生み出す音や、風についても「風切り音はしますし、小さなドローンでも風がきます」などと考慮すべき要素にあげた。
さらに南氏はドローンの使い方について、「産業としての使い方、移動体としての使い方、の二つがあると思います」と体系化。そのうえで屋外の使い方の事例として、足場を組まずに済ませる点検の実現に役立つことなどを紹介した。「高所作業員は安全確保のためにフルハーネス(墜落制止用器具)の着用義務がある。ドローンが使えれば作業員を重労働から解放できる可能性があります。プラント点検でもドローンは使えるが防爆の厳しい基準をクリアしなければいけない。クリアしさえすれば点検現場の安全確保に貢献できます」と可能性を指摘した。また屋内の利用では「倉庫内のピッキング、栽培用ハウスの中での農業利用。上下水道の管路内点検、住宅での室内でのAIスピーカー利用」などを紹介した。
またDRONE FUNDが作成したイラストを「これ、ぼくが一番好きな使い方なのですが」としながら、「お弁当を忘れた子供にお弁当を届けるドローン。よくみるとドローンがもってきたモニターに映し出されたお母さんに、お弁当を忘れた男の子が起こられています。こんなふうに日常生活に入り込めばいいな、と思っています」と述べた。
ドローンが登場するビジネスについて南氏は、機体、ソフトウェア、サービス、教育、メディアなどの企業が「ものすごく広い」と外観。そのうえでとくにハードウェア、ソフトウェア、サービスの事業を、垂直統合型サービスと、水平分業できるオープンソースのサービスとに分類した。独自のアーキテクチャで一世を風靡した電子機器が、その後、風当たりが強くなり販売されなくなった経緯などを例示し「ドローンにも似たことが起こるのではないかと考えています」と話した。
さらに米小売り大手ウォルマート、イスラエルのeコマースAHA、ルワンダやガーナで血液輸送などの事業を展開している米Ziplineなどの配送、輸送ビジネスを紹介し、「実はこれらは、日本よりもはるかに厳しい制約の中でビジネスが起こっていることをご理解頂きたいと思います」(南氏)などと説明し、会場の好奇心を喚起した。
このあとも北陸のドローン事情、マシンの事情、課題やその解決法などをテーマに多角的な意見が続出。
「サービス事業を展開するときにそれに適した機体の調達が超絶、難しい。なぜならカスタマイズできないから」(小林氏)
「組込みソフト産業は自動車産業に関わる人が多い。そのエンジニアが空に目を向けることができる」、「自動車産業ではサプライヤーが世界を牛耳っている実態がある。そこに注目をすべき」(同)
「日本が勝負できる分野には、内燃機関、カーボン素材、アクチュエイター、ESC、バッテリ、センサなどがある」(同)
「トラブルの事例に、白煙があがったとか、ネジが緩んで機体がゆれて墜落したなどがあります。もし日本のメーカーが本気でまじめに取り組めばこういった事態にはならないと思います。自動車が作れているのですから」(同)
「提供するサービスに適した機体は、オープンソースを使い自前で作っているのが現実」、「ショーをやるための許可で相談を持ち掛けたら、100台の飛行経路の提出を求められたことがあります」(山本氏)
「そもそも操縦士とは誰だ、といった議論があります。自動操縦の場合、そのボタンを押す人だ、という回答を頂いたことがあるのですが、目視外飛行の場合は、いろいろ準備をして、最後にスタートのボタンを押した人が操縦士?みたいな話をしたことがあります」(同)
南氏は、法制度について来年6月の制度改正について、機体認証「一種」「二種」、飛行国家資格「一等」「二等」などについて概観したうえで、「日本の法律はひとつの機体に少なくとも1人の操縦者がいることを前提にしています。1人が複数を自動操縦で飛ばすなどの状況には、おいついでいないので、議論はこの先も続くことになります」と説明した。そのうえで「想定しているのは安全かつ効率的な多頻度、高精度、多数の同時運用ができる社会。そうなったときに、勝ち筋が見えてくるのではないかと思っています」と展望した。
また、南氏はこれから考えるべきテーマについて言及。「たとえば、たくさんの宅配ドローンが飛んできたさいにはどうするのか。着陸地に降りる順番の決め方を考えておく必要が出てくると思います」と例示したうえで、「どんどん飛ばすだけでなく、人の移動を人に頼らずできるようになるために、住む場所に関わらずすべての人が等しくサービスを受けられるために、また、社会の安心・安全を維持し、人とドローンが一緒に働ける世の中であるために、ドローン単体ではなく、ドローンを使った社会全体についてどうあるべきか。これをシン・ドローン前提社会として考えていきたいと思っています」と結んだ。
e-messe kanazawa 2021の会場では、セミナーに登壇した山本氏が率いる株式会社ドローンショーが、非GNSS環境下の屋内で、手のひらサイズのドローン5機が音楽にあわせて動くショーを披露した。また数多くのブースが研究成果を披露していて、北陸先端科学技術大学院大学はプロペラの一部にシリコンを使うことで、回転中に障害物にあたった場合にプロペラ側が曲がることで対象を傷つけず、回転も続くプロペラの研究成果を紹介していた。NTTドコモ、北陸大学のものづくりラボ、北國銀行、VRショッピングモール、eスポーツなどで、関心を寄せる来場者が次々と来場していた。
e-messe kanazawa 2021は、ICT/IoT利活用促進、新ビジネス提案や北陸地域の情報化推進のために、一般社団法人石川県情報システム工業会が主催している、総務省北陸総合通信局、経済産業省中部経済産業局、石川県、石川県警察本部、金沢市、公益財団法人石川県産業創出支援機構、一般社団法人全国地域情報産業団体連合会、一般社団法人富山県情報産業協会、一般社団法人福井県情報システム工業会、NHK金沢放送局、北國新聞社、北陸放送が後援。17日まで開催している。
建設設備大手の三機工業株式会社(東京)は7月11日、グループ会社、有限会社キャド・ケンドロ(仙台市)と共同で狭小空間ドローン開発の株式会社リベラウェア(Liberaware、千葉市)のドローンとレーザースキャナを併用した既存設備の3Dモデル化するデジタル化手法を確立したと発表した。Liberawareも同日、三機工業に「IBIS2」を「導入した」と発表した。
三機工業は設備更新や模様替えなどのさいに、現場を3Dモデリングし、現状を把握してから取り組む。完成後の更新や追加工事で現状が図面通りになっていないことが多く、作業の妨げになるおそれがあるためだ。しかし天井裏などでダクトや配管が込み入っている場合に、すべての設備にはレーザーが届き切らずに十分な3Dモデルができあがらない場合がある。こうした課題を乗り越える手法の開発を進めているところ、今回、ドローンとレーザースキャナを併用してデジタル化する手法を開発した。
同社が実施した実用化検証では、IBIS2とレーザースキャナを併用した場合、従来の3Dスキャン手法と比べ、機械室などの天井の無い空間の場合、認識できた建築部材が約135%、天井の一部が解体された天井裏空間で約400%向上したという。
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丸紅株式会社(東京)は7月8日、大阪・関西万博でデモフライトを披露する計画を公表している英ヴァーティカルエアロスペース社(Vertical Aerospace Group Ltd.)開発の5人乗りAAM「VX4」について実施を「見送る」と発表した。英国で行われているVX4試験機での有人飛行試験で判断したという。
丸紅は発表の中で「現在英国で行われているVertical社製VX4試験機による有人飛行試験の進捗状況から、大阪・関西万博でのデモフライトへの対応を見送ることとなりました」と伝えた。VX4のキャビンを再現したモデル空間は予定通り万博会場に出展し、8月から搭乗体験を実施する予定という。
また丸紅が万博で飛ばすもうひとつの機体、米LIFT AIRCRAFT社(以下、「LIFT社」)製の1人乗り機「HEXA」については、デモフライトを近く再開させる方向で調整中だ。HEXAは4月26日のデモフライト中に部品が落下したためデモフライトを中断して原因究明を続けている。
その結果「モーター搭載箇所の部品について、サプライヤーが仕様と異なる素材の部品を誤って供給していたことが判明」したと説明し、「当該部品の交換およびその他重要部品の再点検を完了した上で、再発防止策として、LIFT社において部品の受領・品質管理について包括的な監査を実施し、必要な工程について改善したことを確認しました。関係機関の許可を以て、今後大阪・関西万博でテストフライトを実施し、十分に最終確認を行った後、安全を最優先として関係機関および関係各社と協議・判断し、デモフライトの再開に関しては改めてお知らせいたします」と伝えている。
丸紅は大阪・関西万博でのAAM運航事業者4グループのひとつだ。
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英ロックバンド、オアシスの再結成後初のコンサート会場となるウェールズの首都カーディフのプリンシパリティ・スタジアムで現地時間7月2日、ドローンで形作られた「OASIS」のロゴが浮かび上がった。ツアーは7月4日に始まり、11月まで世界各国をまわる。ツアー初日を翌々日に控えたドローンの演出はオアシスの公式アカウントで公開されている。
ドローンのロゴは公演開始前に上空に描かれ、オアシスの再結成ツアー開催を祝福し、喜ぶファンの気分の高揚に貢献した。
オアシスは1991年にマンチェスターで結成され、7000万枚以上のアルバムを売ったロックバンドだ。2009年に解散したが昨年2024年に再結成した。再結成後初のコンサートツアーが7月4日にはじまり、北米、南米、オーストラリア、韓国など各地をまわる。2025年は11月23日のサンパウロ公演で幕を閉じる予定だ。日本公演も10月に予定されている。チケットはいったん予定枚数の販売を完了したが、機材席の解放による追加販売が決定し、7月12日正午に抽選の受付を開始する予定だという。
音楽シーンとドローンとは、MV撮影、ライブ映像撮影、演出としての屋内ドローンショーなどの例があるなど縁があり、今後も活用の幅が広がる可能性がある。
公式アカウントが公開した動画はこちら
AAM開発の米ジョビー・アビエーションは6月30日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでパイロットが搭乗し、垂直離着陸の固定翼飛行を実施した。ジョビーは「2026年に最初の乗客を運ぶ」と2026年のサービス開始を目指している。ジョビーは開催中の大阪関西万博で「運航事業者」にもなっている。
ジョビーによるドバイでの飛行は、「piloted, vertical-takeoff-and-landing wingborne flights」で、パイロットが乗り、垂直離着陸をしたうえで、機体の固定翼で移動した飛行で、「eVTOL分野では初めての取り組み」としている。ジョビーはこの飛行を通じて、ドバイ地域での商用市場準備の取り組みを開始したことも明らかにした。ジョビーは直接運航、航空機販売、地域パートナーシップを商業化戦略の3本柱と位置付けていて、今回の試験飛行が「重要な一歩」と話している。
試験飛行はドバイ道路交通局、ドバイ民間航空局、UAE民間航空総局と連携して実施された。またドバイ道路交通局長官兼理事会会長のマタール・アル・タイヤー会長が立ち会った。
ジョビーは、ドバイ国際空港(DXB)、ペルシア湾の人工島であるパーム・ジュメイラ、現在建設が進められている世界第2の面積の人工のマリーナであるドバイ・マリーナ、超高層ビルブルジュハリファで知られるドバイ・ダウンタウンでの商業サービス導入を目指している。バーティポートはすでに建設が進められている。
ジョビーはDXBからパーム・ジュメイラまでをエアタクシーサービスで移動した場合、移動時間は12分で、45分かかる車での移動時間が大幅に短縮されると見込んでいる。
ジョビーがエアタクシーサービスで使う機体は電動で、パイロット1人と最大4人の乗客を乗せ、最高時速200マイル(約320km)で輸送できる設計と説明していて、ジョビーは「短時間の通勤、小旅行、地域間のシームレスな移動のために、より速く、より静かで、より便利な空の旅を提供します」と話している。
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東京株式市場グロース市場で7月2日、ACSL株がストップ安となった。午前9時29分にいったん1187円で寄り付いたがその後も売りが殺到し、再び取引の成立したない売り気配で推移した。ACSLは前日の7月1日、前CEOによる不適切取引判明を発表していて嫌気を誘ったとみられる。
ACSL株は取引き開始前から売り注文を集めていて、取引開始がはじまったしばらく値が付かないまま推移した。午前9時29分に値幅制限いっぱいいの、前日終値比300円安のストップ安となる1187円で取引が成立したが、その後も売りは止まらず、再び取引が成立しない展開が続いた。
ACSLが7月1日に発表した「お知らせ」はこちら
株式会社ACSLは7月1日、今年4月30日に退任した鷲谷聡之前代表取締役CEOが不適切な取引を行っていたとして、全容解明のため外部の弁護士と社外取締役の4人で構成する特別調査委員会を設置したと発表した。ACSLは業績に与える影響は精査中で、過年度業績への影響はないと見込んでいる。特別調査委員会7月中旬をめどに最終報告書をまとめる見込みだ。
ACSLによると前CEOによる「個人的な経済状況に関する懸念」が3月に浮上し、4月に社内調査に着手した。調査で「(前CEOが)代表取締役の立場を個人的に悪用して、2025 年3月から、一部業者との間で実態のない不適切な取引を行っていた事実が判明」したという。ACSLは全容解明、厳正な対処、再発防止策構築を目的に7月1日の取締役会で特別調査委員会設置を決議した。
ACSLは「特別調査委員会による調査に全面的に協力し、早急に調査を進めてまいります。また、特別調査委員会による調査の結果、明らかとなった事実関係等につきましても、受領次第速やかに開示いたします」とコメントしている。
ACSLの発表はこちら。