“空飛ぶクルマ”の開発で知られる株式会社SkyDrive(東京)など5社は8月6日、神戸市灘区の六甲山で、日用品をドローンで自動配送をする実証実験を実施した。洋菓子、医薬品などを「鉢巻展望台」から「六甲山記念碑台」までSkyDriveのカーゴドローンで運び、費用、輸送時間を含めた配送品質を評価し、ドローンによる物資輸送の実装につなげる。
SkyDriveは空飛ぶクルマの開発で培ったドローンの技術で、重量の大きな荷物の配送に特化したドローンの開発を進めている。実験は同社のほか、セイノーホールディングス株式会社(岐阜県大垣市)、株式会社阪急阪神百貨店(大阪市)の神戸店である神戸阪急(神戸市)、株式会社トルビズオン(福岡市)、成ワ薬品株式会社(神戸市)が実施。神戸市が協力した。
実験の背景には物流が抱える課題意識がある。物流では、荷物を希望の時間に届ける運用が進む一方、地形が希望を満たす障害となり、費用がかさんだり、配達ができなかったりする課題が残る。今回は同様の課題を抱える六甲山エリアで、麓から山上までドローンで自動配送し、費用、輸送などの軽減につながるかどうかを検証した。
荷物は小売店商品、飲食物(米飯、洋菓子)、医薬品。商品温度管理調査、一般用医薬品(第2類)の配送、六甲山上空での携帯電話の有効性、社会受容性(土地所有者、近隣居住者の理解)などをテーマに掲げた。
SkyDriveは今後、山間部での配送サービスの実用化を目指すとともに、2022年にも解禁される有人地帯での目視外飛行の実現を視野に、都市部でドローンによる宅配サービスの実用化も目指すとしている。
■今回の実験での各立場の役割 ・SkyDrive:運搬用ドローンの提供と現地でのオペレーション ・セイノーHD:物流業、配送物の温度管理 ・神戸阪急:運搬する飲食物の提供(米飯、洋菓子) ・トルビズオン:プロジェクトマネジメント、飛行ルートの地権者調整(空の道設計) ・成ワ薬品 :運搬する医薬商品の提供(第二類一般医薬品) ・神戸市:自治体所有地の提供、地権者との調整
■参加者の談話
<神戸市・松崎太亮企画調整局つなぐラボスマートシティ担当課長>
神戸市は、先進的な技術を活用して、人間中心の目線で社会的な課題の解決を目指す「Be Smart KOBE」プロジェクトを推進しています。今回の実証実験は、本プロジェクトおよび「六甲山上スマートシティ構想(本年5月発表)」に位置付けており、民間事業者が主体となったドローンによる搬送が、物流業界の人手不足の解消や環境問題への対応、ラストワンマイル配送による感染症リスクの低減など、新たな市民サービスやビジネスモデルとして創出されることを期待します。
<セイノーHD・加藤徳人オープンイノベーション推進室課長>
今回の六甲山のように、輸送ハードルが高い、または非効率な地域は日本各地に点在しています。こうした地域でドローン等の新たなテクノロジーを活用したロジテック・イノベーションは、物流事業者の業務の自動化、省人化を図るなど、業務効率化への期待だけは無く、地域社会の様々な社会課題を解決し得ると考えております。SkyDrive様には、より次元の高い安全・安心のドローン輸送を実現できる機体の開発はもとより、「空飛ぶクルマ」の開発にも大きく期待しております。
<株式会社トルビズオン・増本衛CEO>
本実証実験では「混載型ドローン配送(日用品、冷蔵品、医薬品、自治体書類等)」を達成することができ、満足しております。今までの実験結果から、sora:shareが目指す社会受容性向上のコストを含む事業モデルをペイしながら、持続可能なものとするには、混載可能な機体の導入が必須であると感じていました。空飛ぶクルマの技術を基礎とする貴社のカーゴドローンは、安全性の確保、高重量対応という点で高く評価できます。「社会に広く受容されるドローン事業モデル」を共創していくパートナーとして、今後も連携を続けさせて頂ければと思います。
一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)と、日本ドローン産業事業共同体(JDIC)は6月27日、自然災害が起きやすい時期の到来にあわせ、ドローンの防災活用を考えるシンポジウム「第1回ドローン広域防災ネットワーク推進会議」を開催し、JUIDAの鈴木真二理事長、慶應義塾大学ドローン社会共創コンソーシアムの南政樹副代表らが登壇した。とりわけ南氏の現場経験は来場者の大きな関心を誘い、講演後もあいさつを求める来場者の列が途切れなかった。トルビズオンの増本衛社長、一般社団法人ドローン撮影クリエイターズ協会(DPCA)の上原陽一代表理事も自社サービスの有効利用などを説明した。
鈴木理事長は、ドローンが1930年代に軍用の標的(いわゆる標的機)として登場し、100年もたたないうちに用途が拡大している現状を紹介したのち、欧米での災害利用について説明した。とくに災害発生後にいち早く駆け付ける組織がドローンも活用していて、これに伴い、技術開発、運用マニュアル策定、法整備などの必要性が声まっていると紹介した。
ドローンを災害対応に利用するさいの課題として、環境整備の必要性について、無線利用、空域管理、登録制度などの側面から列挙し、国内でも研究開発の取り組みが進んでいることや、「アクシデント、インシデントの情報収集が必要」と訴えた。そのうえで「ドローンは大型化が進んでいるうえ、人が乗れる空飛ぶクルマの開発も行われており、今後も大きな進化を遂げる」と期待を表明した。
慶大ドローン社会共創コンソーシアムの南政樹副代表は、ドローンに取り組み始めたきっかけが東日本大震災であったことを紹介したうえで、昨年の西日本豪雨では大きな被害がでた岡山県倉敷市真備町にドローンを持ち込んださいの経験を紹介。被災地の自治体が出動要請を出したら出動をするつもりで準備している事業主は多いが、「実際には出動要請は来ないと思っていたほうがいい。なぜなら市役所(など自治体の役場)は、それどころではないから。西日本豪雨のとき広島市は飛行禁止で飛ばせなかった。真備町は、自衛隊関係者が(真備町のある)倉敷市役所の中で航空管制をしてくれたおかげで飛ばすことができ、状況把握をすることができた」と話した。
また被災地でのドローンに対するニーズは、発災直後は「救命」だが、一定時間後は生活を取り戻すための「復旧」に、その後に活力を取り戻す「復興」へと局面が変化すると分析した。それにあわせた取り組みも、現地、自治体、現地対策本部、被災者など属性ごとにことなるニーズに対応することの重要性を説いた。さらに、同時期であっても、立場によってニーズに差がある可能性も紹介。たとえば、行政には災害対策基本法の責務を果たすためのニーズがある一方、避難している住民などには、自宅や周辺の状況把握を強く求めていて、それぞれの声に耳を傾けることの重要性を説明した。
対応の具体例として、ドローンを飛ばして取得したデータを行政サイドと共有するさい、役所側がパソコンに外部のUSBメモリーを取り付けることに抵抗を示して共有が迅速に進まないことがあると説明。「こういうときには動画よりも写真のほうがいいし、なんであれば紙ベースで示したほうが効果的なこともある」などと対応のヒントも示した。同時に、自宅周辺の現状を心配する被災者、避難住民向けには「動画のほうが有効であることが多い」と話した。
またドローンの担い手を確保策について、平時に使っていないものは有事に活用できないという前提にたち、「いざというときに災害対策としてドローンを活用できる“ドローン屯田兵”の普及、拡大、増強を」と提唱した。
南氏の講演は来場者の関心を大きく誘い、講演終了後や、会場出入口であいさつや意見交換のための長い行列ができた。
DPCAのインストラクターでもあり、九州ドローンコンソーシアム代表理事も務めるトルビズオンの増本社長は、ドローンが飛ばせる権利を確保するため、土地の所有者が保有する上空の権利を売買する「Sora:Share(ソラシェア)」という事業を説明。ドローンに対する社会の厳しい目が残る中、「社会のドローンに対する受容性をどう高めるかに取り組んでいる」と説明した。
DPCAの上原陽一代表理事は、地方自治体と防災協定を数多く締結している実績や、それに伴い数多くの災害現場への出動経験を紹介し、「現場にいくたびに、もっとできることはないか、と無力感を覚える」と話し、それが問題意識となって、災害現場でオペレーションができる人材を育てる「ドローン災害調査撮影技能士」を創設したと説明。防災体制強化のために広域ネットワークの構築の必要性を訴えた。このほか司会を務めたDPCAの上田雄太氏が、自身で製作した動画を公開し、映像の持つ「伝える」という機能の有効性について問いかけた。
シンポジウムは、一般社団法人ドローン撮影クリエイターズ協会(DPCA)、一般社団法人 地域再生・防災ドローン利活用推進協会(RUSEA)、ドローンテクノサポートで構成するJDICと、JUIDAの共催で行われ、DroneTribuneも「協力」の立場で参加した。