• 2019.7.2

    「防災広域シンポジウム」に鈴木真二氏、南政樹氏ら登壇、南氏の現場経験に高い関心

    account_circle村山 繁

      一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)と、日本ドローン産業事業共同体(JDIC)は6月27日、自然災害が起きやすい時期の到来にあわせ、ドローンの防災活用を考えるシンポジウム「第1回ドローン広域防災ネットワーク推進会議」を開催し、JUIDAの鈴木真二理事長、慶應義塾大学ドローン社会共創コンソーシアムの南政樹副代表らが登壇した。とりわけ南氏の現場経験は来場者の大きな関心を誘い、講演後もあいさつを求める来場者の列が途切れなかった。トルビズオンの増本衛社長、一般社団法人ドローン撮影クリエイターズ協会(DPCA)の上原陽一代表理事も自社サービスの有効利用などを説明した。

    鈴木氏「アクシデント、インシデントの情報収集を」

    講演するJUIDAの鈴木真二理事長

      鈴木理事長は、ドローンが1930年代に軍用の標的(いわゆる標的機)として登場し、100年もたたないうちに用途が拡大している現状を紹介したのち、欧米での災害利用について説明した。とくに災害発生後にいち早く駆け付ける組織がドローンも活用していて、これに伴い、技術開発、運用マニュアル策定、法整備などの必要性が声まっていると紹介した。

      ドローンを災害対応に利用するさいの課題として、環境整備の必要性について、無線利用、空域管理、登録制度などの側面から列挙し、国内でも研究開発の取り組みが進んでいることや、「アクシデント、インシデントの情報収集が必要」と訴えた。そのうえで「ドローンは大型化が進んでいるうえ、人が乗れる空飛ぶクルマの開発も行われており、今後も大きな進化を遂げる」と期待を表明した。

    南氏が被災地の声を傾ける重要性指摘 平時の使い手が有事に活躍する“屯田兵”提唱

    西日本豪雨のさいの被災地での活動について説明する慶大SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム南政樹副代表

      慶大ドローン社会共創コンソーシアムの南政樹副代表は、ドローンに取り組み始めたきっかけが東日本大震災であったことを紹介したうえで、昨年の西日本豪雨では大きな被害がでた岡山県倉敷市真備町にドローンを持ち込んださいの経験を紹介。被災地の自治体が出動要請を出したら出動をするつもりで準備している事業主は多いが、「実際には出動要請は来ないと思っていたほうがいい。なぜなら市役所(など自治体の役場)は、それどころではないから。西日本豪雨のとき広島市は飛行禁止で飛ばせなかった。真備町は、自衛隊関係者が(真備町のある)倉敷市役所の中で航空管制をしてくれたおかげで飛ばすことができ、状況把握をすることができた」と話した。

      また被災地でのドローンに対するニーズは、発災直後は「救命」だが、一定時間後は生活を取り戻すための「復旧」に、その後に活力を取り戻す「復興」へと局面が変化すると分析した。それにあわせた取り組みも、現地、自治体、現地対策本部、被災者など属性ごとにことなるニーズに対応することの重要性を説いた。さらに、同時期であっても、立場によってニーズに差がある可能性も紹介。たとえば、行政には災害対策基本法の責務を果たすためのニーズがある一方、避難している住民などには、自宅や周辺の状況把握を強く求めていて、それぞれの声に耳を傾けることの重要性を説明した。

      対応の具体例として、ドローンを飛ばして取得したデータを行政サイドと共有するさい、役所側がパソコンに外部のUSBメモリーを取り付けることに抵抗を示して共有が迅速に進まないことがあると説明。「こういうときには動画よりも写真のほうがいいし、なんであれば紙ベースで示したほうが効果的なこともある」などと対応のヒントも示した。同時に、自宅周辺の現状を心配する被災者、避難住民向けには「動画のほうが有効であることが多い」と話した。

      またドローンの担い手を確保策について、平時に使っていないものは有事に活用できないという前提にたち、「いざというときに災害対策としてドローンを活用できる“ドローン屯田兵”の普及、拡大、増強を」と提唱した。

      南氏の講演は来場者の関心を大きく誘い、講演終了後や、会場出入口であいさつや意見交換のための長い行列ができた。

    講演後には南氏のもとにあいさつの行列ができた

    トルビズオンが「Sora:Share」、DPCAが「ドローン災害調査撮影技能士」提案

    講演するトルビズオンの増本衛社長

      DPCAのインストラクターでもあり、九州ドローンコンソーシアム代表理事も務めるトルビズオンの増本社長は、ドローンが飛ばせる権利を確保するため、土地の所有者が保有する上空の権利を売買する「Sora:Share(ソラシェア)」という事業を説明。ドローンに対する社会の厳しい目が残る中、「社会のドローンに対する受容性をどう高めるかに取り組んでいる」と説明した。  

      DPCAの上原陽一代表理事は、地方自治体と防災協定を数多く締結している実績や、それに伴い数多くの災害現場への出動経験を紹介し、「現場にいくたびに、もっとできることはないか、と無力感を覚える」と話し、それが問題意識となって、災害現場でオペレーションができる人材を育てる「ドローン災害調査撮影技能士」を創設したと説明。防災体制強化のために広域ネットワークの構築の必要性を訴えた。このほか司会を務めたDPCAの上田雄太氏が、自身で製作した動画を公開し、映像の持つ「伝える」という機能の有効性について問いかけた。

      シンポジウムは、一般社団法人ドローン撮影クリエイターズ協会(DPCA)、一般社団法人 地域再生・防災ドローン利活用推進協会(RUSEA)、ドローンテクノサポートで構成するJDICと、JUIDAの共催で行われ、DroneTribuneも「協力」の立場で参加した。

    講演するDPCAの上原陽一代表理事
    会場となった東大工学部2号館213号室は多くの来場者で埋まった

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
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