ドローン事業をNTT東日本系のドローン新会社、NTT e-Drone Technologyに譲渡することを発表した株式会社エンルート(埼玉県朝霞市)に在籍する社員は、全員が1月31日付けで退職することが分かった。早期退職制度などを適用する。エンルートの会社は2月1日以降も存続し、昨年発覚した不正受給関連の事業など譲渡以外の業務にあたる。業務には親会社であるスカパーJSATグループからの出向担当者などが当たる。
エンルートには、現在50人弱の社員が在籍している。社員は1月31日付けで退社する。当日が日曜日のため、多くの社員にとって1月29日がエンルート社員としての最終出勤日になるとみられる。退職する社員のうち機体開発などに携わってきたメンバーには、e-Droneに就職し、同社の社員として2月1日以降もドローン事業の中核を担うメンバーもいる。
e-Drone が始動したあとも、会社としてのエンルートは存続する。現在のエンルートの社屋はe-Drone の本社となるが、エンルート本社の所在地は現在のまま残す。1月末に社員が退社したあとのエンルートの業務は、親会社であるスカパーJSATグループ出向者らが担う。不正受給関連の事業など譲渡以外の業務にあたる。
エンルートはAC101、EC101の主力2機種をのぞき、ドローンの製造、開発を12月末で打ち切った。保守サポートも、部品入手難などを理由に多くを12月末で修了している。産業用ドローンの「CH940」、「PG390」、「PG560」、「PG700」やその他の特注機は2021年3月末日まで続ける。ただ、エンルートが譲渡する事業の中に、保守サポートも含まれるため今後、このサポート業務もエンルートではなく、事業を引き継ぐe-Drone側で受け持つ可能性がある。エンルート経営管理部は「お客さまへを最優先で対応することに変わりはありません」と話している。
日本製ドローンの開発を手掛けてきた株式会社エンルート(埼玉県朝霞市)は1月18日、同社のドローン事業を、新しく発足するNTT東日本系の株式会社NTT e-Drone Technology に譲渡すると明らかにした。新会社e-Droneは現在のエンルートの社屋に本社を構え、2月1日から事業を開始する。昨年発覚したエンルートの助成金不正受給に関わる対応は譲渡される事業に含めず、引き続きエンルート側で対応する。また譲渡後のエンルートの事業については「親会社であるスカパーJSATグループの中で見直しを図る」としており、ドローン事業からは事実上の撤退となる公算だ。2006年10月の設立から日本のドローン産業をけん引してきたエンルートは、ドローンの表舞台から姿を消すことになりそうだ。
エンルートはこの日、「2021年1月31日をもちまして、ドローン事業及びこれらに附帯関連する事業の一部を、株式会社NTT e-Drone Technology(以下「事業譲受会社」)へ譲渡することになりましたのでお知らせいたします。ここに永年にわたり賜りましたご愛顧、ご厚情に対しまして衷心より御礼申し上げます。」と表明した。
親会社の株式会社スカパーJSATホールディングスも同日、連結子会社にあたるエンルートからe-Droneへの事業譲渡を発表。この中で「当社グループはNTTグループやパートナーとの連携で、引き続き衛星通信とドローンの連携を促進し、山間・島しょ部等の通信不感帯や見通し外飛行における技術的課題の解決、画像解析等のソリューションの提供等、サービス領域のさらなる拡大に取り組む」(一部抜粋)と表明。また業績への譲渡が業績に与える影響を「軽微です」と公表した。
エンルートによると、譲渡するのは、ドローンの機体開発、製造、販売、保守・点検、スクール運営、飛行データ管理、農薬散布、データ収集・加工など。発表では「事業の一部」と表現されているが、継続可能なドローン事業はe-Droneが引き継ぎ、継続しない事業は整理され、不正受給処理対応関係は当面の間エンルートが担う、という対応になるとみられる。
また今回の事業譲渡では、エンルートの社員がそのままe-Drone の社員になることにはなっていない。2月以降はエンルートで開発、製造に関わっていた担当者を中心にe-Droneで開発を担う見通しだ。
エンルートについては親会社の株式会社スカパーJSATホールディングスが1年以上前の2019年ごろから同社の経営健全化、資本政策などを検討し、NTT東日本側に事業譲渡を持ちかけていた。しかし2020年にエンルートが国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に採択された事業で助成金、委託費の受給をめぐる不正が発覚し、2020年2月に社長を交代するなど経営を一新。またその後に行った調査で、農林水産省や国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)関係でも不正が見つかったため、受給した資金を返納し、9か月の指名停止処分を受け、事業譲渡に踏み切るタイミングがこの時期になった。
エンルートは今回の事業譲渡に先立ち、先月(2020年12月)末に、既存の機体の大半について生産終了に踏み切った。同社は部品調達が困難になったことを理由にあげている。製造販売を修了したのは、農業用ドローン「AC940D」「AC1500」、産業用ドローン「QC730」、「QC730TS」、「CH940」、「PG390」、「PG560」、「PG700」で、いずれも国土交通省の「飛行申請で書類の一部を省略できる機体」の一覧に掲載が認められている。この生産終了により、エンルートが生産するドローンは農業用ドローン「AC101」と、産業用ドローン「EC101」に集約。今回の事業譲渡により新会社e-Droneも農業に力を入れる方針を表明しており、引き継ぎ機体は新会社の事業に合致する。
新会社e-Droneは、エンルートの事業譲渡が公表された1月18日の同日、東日本電信電話株式会社(NTT東日本、株式会社オプティム、株式会社WorldLink & Company(京都市)の3社が設立を発表した。エンルートの開発系のメンバーを中心に30人程度で構成し、当面は農業用ドローン分野が事業の中心となる。資本金は4.9億円。筆頭株主はNTT東日本で2021年度は売上10億円、5年後に40億円規模を目指す。e-Droneを設立した 3社はこの日の記者発表会し、ドローン市場への期待などを表明している。
■エンルートの「当社の一部事業譲渡に関するお知らせ」はこちら。
■スカパーJSATの「当社連結子会社の一部事業譲渡に関するお知らせ」はこちら。
■NTT東日本の「ドローン分野における新会社設立及び事業開始について」はこちら。