ホバーバイク開発で知られるドローン、エアモビリティーのスタートアップ、株式会社A.L.I.Technologies(東京)の経営が暗礁に乗り上げている。資金難から代金の支払いや従業員への給与の支払いなどが6月以降滞っている。段階的にリストラが進み、7月末時点で正社員の4分の3が会社を離れた。7月31日には労働基準監督署から給与未払いを解消するよう是正勧告を受けた。残ったスタッフは対応に奔走するが、A.L.I.株を100%保有する親会社で米株式市場ナスダック(NASDAQ)に上場するAERWINS Technologies Inc.が立ちはだかる。出資話もあるが、AERWINSの役員会が提案を受け入れず出資が実現していない。AERWINSの役員は5人いる。チェアマンであるキーラン・シドゥー(Kiran Sidhu)氏ら米国人役員4人が株式の希薄化懸念を理由に出資に難色を示しているという。緊急事態が続く中、当面は米国親会社の判断が命運のカギを握る。
A.L.I.の従業員は8月初旬現在、約 20人だ。春先まで85人の正社員に加え派遣、業務委託などを含め148人が働いていた。資金不足で6月から給与が支払えなくなった。出張などに伴う交通費など経費や、厚生年金保険料など社会保険料も納められなくなった。A.L.I.は従業員を抱えきれなくなりリストラを実施した。出向者は出身母体の企業に引き上げた。正社員も段階的に解雇された。現在の20人も無給状態が続く。今後さらにリストラが進むとみられる。
7月31日には管轄する労働基準監督署から未払いの解消などに関する是正勧告を受けた。期限は9月15日だ。それまでに事態を打開する必要がある。解消できない場合、書類送検される可能性がある。
資金難をめぐるトラブルは会社内部にとどまらない。取引の代金も支払えなくなった。A.L.I.から事業を受託したある事業者は、5月に4泊5日と、2泊3日の2回、ドローンの運航やオルソ画像作成などの業務を請け負った。料金は6月末に支払われる予定だった。連絡がなかったためA.L.I.の担当社員に確認の連絡をいれた。社内で確認すると回答をもらったが、振り込まれなかった。その後、その社員はリストラに伴い退職した。後任の担当者も7月に退職した。さらにかわった担当者から資金難について説明があったが、現在も振り込まれていない。
自治体の取り組みが停止したケースもある。ある自治体はA.L.I.が代理店となってドローンを導入することになっていた。もともと6月末までに納品される計画だった。しかし6月に入ってA.L.I.の担当者から予定通りの遂行が難しくなったことについて連絡を受けた。この自治体は災害対応のためにドローンを導入する計画だった。A.L.I.はこの自治体に、国内製のドローンにA.L.I.独自技術の運航管理システムを搭載して納める計画だった。しかし資金難に直面し、ドローンの製造事業者から機体の引き渡しを受けられなくなった。自治体は現在、計画の修正を余儀なくされている。
A.L.I.の資金難が表面化したのは2月だ。2月6日、米親会社AERWINSが、米ナスダックに前年8月に上場していた特別買収目的会社(SPAC)のPONO CAPITALと合併した。AERWINSはこの合併で米ナスダックの上場企業となった。合併会社の名前もAERWINSとなった。
ところが合併相手だったPONOから、一般の出資者が合併を機に一斉に資金を引き揚げた。事業を持たないSPACでは、SPACに出資した一般投資家は合併相手を見極め、株式の保有について判断する権利がある。事業運営者は株式の償還をすることはできないが、一般投資家は償還できる点がSPACの仕組みの特徴でもある。AERWINSの場合はSPACの一般投資家が資金を引き揚げ99%が償還された。 SPACスキームで集められた総額1億1650億ドルは160万ドルにしぼんだ。A.L.I.は親会社のAERWINS上場で期待した資金獲得のあてがはずれた。(※この段落を8月9日に一部修正)
株価も急降下した。2月6日午前9時半(日本時間6日23時半)米市場で取引開始後に1株あたり6.39ドルの初値を付けた。少しもみあったあと売り優勢の展開となり、上場から1か月後の3月7日には1ドルを割り、その後はほぼ一貫して1ドルを割り込んだ水準で推移している。8月3日は0.28ドルで取引を終えた。
事業に急変があったわけではない。A.L.I.の基幹事業はホバーバイク開発とドローンの運航管理プラットフォーム「C.O.S.M.O.S.」だ。ホバーバイク「XTURISMO」は国内外でのデモ飛行で注目された。2022年3月29日には北海道日本ハムファイターズの本拠地開幕戦で新庄剛志監督がこれに乗って登場する派手な演出が話題になった。C.O.S.M.O.S.は既存のドローンに搭載した実証実験が重ねられるなど地道な実績を積み上げていた。
一方で高コスト構造を問題視する声は以前からあった。ホバーバイクは利用環境のルールが未整備なうえ、市販価格が1台7770万円と高価で、注文が殺到する状況ではない。市場の要求に対応するため開発費の上積み要求も強かった。関係者によると人件費に加え、販売の目処がそこまで立っていないホバーバイクについて、先行した上場前からの量産発注で材料費が積み上がり、毎月2億円程度の費用がかさんでいたという。C.O.S.M.O.S.事業は堅調ながら採算性改善の起爆剤になるほどの売上はなく、その資金対策は絶えず経営上の課題だったという。
A.L.I.は、多くの新技術系企業と同様に、資金を外部からの調達に頼ってきた。米ナスダックに上場していたSPACとの合併は資金獲得が中心的な目的のひとつだった。ところが2月の合併で見込んだ金額を手に入れることはできず、資金難の表面化につながった。A.L.I.は高コスト構造の改善と、金策に追われることになった。
出資を打診し、ほぼ断られ続ける中で、A.L.I.の実績や技術力など「持っているもの」に関心を寄せたのが、米国の起業家、キーラン・シドゥー氏だ。シドゥー氏は巨額の出資の可能性を伝え、役員ポストを求めた。A.L.I.の米親会社AERWINSの役員は上場時に2人の日本人取締役と3人の社外取締役で構成されていた。このあと入れ替わりが続き、5月にシドゥー氏ら3人が名を連ねた。7月に日本人1人が退任し、そこに米国人が座り、5人中4人が外国人勢の現在の体制になった。
しかしシドゥー氏らが就任して以来、大きな金策は行われていない。小出しで転換社債の発行などはあったものの、就任前にほのめかしていた巨額出資は実行されていない。資金は行き詰まり、従業員の給与や、業者への支払いが滞ることになった。高コスト体質改善のためのリストラも実施することになった。
現在、社内では未払い解消のため、国内外で出資先の打診に奔走している。前向きな声が少ない中、将来性を考えて出資に前向きな姿勢を示す投資家もいる。ところが親会社は難色を示す。理由は既存の株式の希薄化だという。米国本社の意向により、日本のA.L.I.の代表も解任されている。
7月31日には労働基準監督署がA.L.I.に対し、未払いを是正するよう求める行政指導を出した。期限は9月15日に設定された。A.L.I.は労働基準監督署に、資金難であることや、決定権が米親会社にあるなどの説明をしたうえで、最善を尽くすと伝えた。
現在、AERWINSの役員同士での話し合いが連日続いている。株式の希薄化懸念に一定の合理性がある中、A.L.I.の残された金策の手立ては限りなく少なくなっている。当面はAERWINSの役員会の合意を取り付けられるかどうかが焦点となる。
A.L.I.は7月31日、リストラで同社を去った給与未払いの従業員に向けて現状を説明した。弁護士を含め事情を知る3人が、現状の資金の状況、交渉の経緯などを説明した。説明会は1時間程度。30人ほどが集まった。元従業員の1人は、「みんな概ね事情は把握しているので、説明をおだやかに聞いていた。くわしい説明を求める要望はあったが、説明者に対して怒声が飛ぶような荒れた場面はなかった」という。A.L.I.はSPACを活用して米国市場に上場した日本で初めての企業だ。関係者の1人は「少なくとも教訓は残したい」と話す。
ホバーバイクの開発で知られる株式会社A.L.I. Technologies(東京)の米国法人で同社株式を100%保有する親会社、AERWINS Technologies Incの株式の取引が2月6日午前9時半(日本時間6日23時半)、米ナスダック市場で始まり、取引開始後に6.39ドルの初値を付けた。AERWINSはそれまで未上場だったが、すでに上場しているSPAC(特別目的買収会社)のPONO Capital Corp(米デラウェア州)と2月4日付で合併したことにより、2月6日以降、PONOからAERWINSに名称を変え、市場でAERWINS株として市場の取引が始まった。
米AERWINSが合併したPONOはSPACと呼ばれる事業会社の買収を目的とした会社でナスダック市場には上場済み。2月4日の取引では11.05ドルでこの日の取引を終えていた。未上場のAERWINSと合併し、その手続きが2月4日に終了したことから、週明けの2月6日以降、「AWIN」をティッカーシンボル(銘柄を識別するための証券コード)として、NASDAQ市場で取引されることになった。CEO、会長にはShuhei KOMATSU(小松周平)氏が就任している。
PONOの上場にはDRONE FUND創業者でエンジェル投資家の千葉功太郎氏が関わっており、昨年(2022年)8月には、PONOの第二弾となるSPAC、「PONO CAPITAL TWO」(ティッカー、PTWOU)も上場させている。今後PONO同様、未上場企業の買収で上場させるDe-SPACを進めるとみられる。
参考:「PONO CAPITAL TWOがNASDAQ上場」の記事はこちら
2月4日にA.L.I.が発表したDe-SPAC完了の発表は以下の通り。
株式会社A.L.I. Technologies(東京都港区:代表取締役社長 片野大輔、以下「A.L.I.」)は、A.L.I.の米国法人であるAERWINS Technologies Inc(米デラウェア:Chairman & CEO Shuhei KOMATSU、以下「AERWINS」)と、SPAC(特別目的買収会社)のPONO Capital Corp(米デラウェア:CEO Dustin SHINDO : Ticker Code “PONO”)が、当事者間のDe-SPAC契約による企業合併が完了したことをお知らせいたします。
この合併により、AERWINSの株式が、NASDAQ(National Association of Securities Dealers Automated Quotations)にて、「AWIN」のティッカーシンボルで米国ニューヨーク時間の2023年2月6日から取引開始予定です。
詳しくは、AERWINSのIRページを参照ください。
https://aerwins.us/investor-relations/
De-SPACによるNASDAQ上場は、日本国内史上初の事例であり、日本勢で唯一の上場エアモビリティカンパニーとなります。また、日本の製造業系スタートアップ企業で米国上場を果たした初めての事例とも言えます。
また、合併手続き完了に伴い、AERWINSのCEO(最高経営責任者)/会長/取締役として、Shuhei KOMATSUが就任いたしました。取締役メンバーは下記の通りです。
■取締役
伊東 大地
■社外取締役
山田 希彦
Steve Iwamura
Dr. Mike Sayama
さらに、AERWINSの役員に就任したメンバーは下記の通りです。
■CFO(Chief Financial Officer)
岡部 健介
■CPO(Chief Product Officer)
三浦 和夫
■Global Markets Executive Officer
伊東 大地
<A.L.I. Technologies 代表取締役社長 片野大輔>
当社のお客様、お取引先様、株主様をはじめ、創業以来支えてくださったすべてのステークホルダーの皆様のご支援、ご高配に心より御礼申し上げます。私の人生の夢は、日本発の技術力で世界を席巻する会社を作ることです。今回の米国上場によって、ようやくグローバル展開のスタートラインに立てたと思います。ここから皆様の期待に恥じぬよう頑張って参ります。
<AERWINS CEO Shuhei KOMATSU>
I think Japan is originally a manufacturing country. Precision is rooted based on Japanese culture. We will continue to pursue the possibility of new mobility with the culture of Japanese to be global company. I understand it is a big responsibility, but to talk about the ideal, I recognize that it is necessary to have the ability and I will devote myself to it every day.
<PONO Capital Corp / DIRECTOR 千葉功太郎氏>
今回のAERWINSの上場は、「日本のスタートアップを、SPACという枠組みを通じてニューヨークへ連れて行く日本史上初の大プロジェクト」と位置付けています。また、当社のようなディープテック企業は、米NASDAQに上場し、海外投資家に評価いただいた方が、よりグローバルでの成長と活躍が見込めるでしょう。米国ハワイ本社のPONO Capital のボードメンバーは、私を除きハワイ在住の日系アメリカ人です。「日本人と日系米国人とのコラボによって、ニューヨークへの架け橋になる」ことを願っております。
企業合併に関する詳細は、2022年9月7日のNASDAQからの発表を参照してください。
なお、AERWINSの株式はSBI証券、マネックス証券、他、国内からもご購入いただけます。(五十音順)
SBI証券 https://www.sbisec.co.jp/
マネックス証券 https://www.monex.co.jp/
当社は、「空中域(地面と空のあいだ、人の生活範囲の空中)から社会の仕組みを変えていく」をスローガンに、実用型ホバーバイク「XTURISMO」、エアモビリティプラットフォームとなる管制アプリケーション「COSMOS*」を展開しています。A.L.I. Technologiesは、既存の発想に捉われず、エアモビリティ(有人・無人)社会の実現に必要なシステムをグローバルに発信する日本発のスタートアップ企業として、イノベーションを起こし続けてまいります。今後も、「Establish the Theory」というセオリーや常識に囚われないミッションの実現に向けて、さらなる事業拡大と企業価値の向上に努めてまいりますので、引き続き変わらぬご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
*COSMOS: Centralized Operating System for Managing Open Sky