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  • 2019.6.24

    画像認識からROI向上、臓器移植まで~ドローンテクノロジー最前線

    account_circle村山 繁
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      ドローンを取り巻くテクノロジーは目まぐるしく進化し、多様化している。最近注目されている技術のうち、画像認識、ビッグデータや、そのROI向上効果などについてフリーライター、松浦アサキ氏がまとめた。その記事を以下で紹介する。(村山繁)

    ドローンと親和性の高いテクノロジーとその進化

      ドローンに関連するテクノロジーが飛躍的に進歩し続けている。特に親和性の高いテクノロジーのいくつかを紹介し、解決を待つ課題に対するソリューションとしてドローンが活用される可能性について展望してみたい。(フリーライター 松浦アサキ)

     

    ドローン × 画像認識 ~最新動向にみる進化

     

      テクノロジーの中でも画像認識技術はドローンと親和性が高い。

      画像認識技術の最新動向について考えるとき、カメラの進化を無視することはできない。

      ドローンメーカーとして日本国内でよく知られる中国のDJIはこれまで自社独自でドローン搭載用のカメラ開発をしてきた。しかし、2017年にDJIははじめての月面着陸の際に使用されたカメラを製造したことで知られるハッセルブラッド社(Hasselblad社)買収したことが注目された。産業用、プロカメラマン向けに広く支持されるカメラメーカーを取り込むことで空撮需要に向き合う同社の強い意向を示した。

      空撮ニーズの高まりを受けて、モデル開発の最先端を走る企業もまた中国にある。ドローンの機体開発、カスタマイズ研究で最も勢いのある中国に対して、多くの米国企業が進出し共に開発を進めていることがこの背景にある。

      米CNN社とVantage Robotics社が共同開発し、群衆上空の撮影許可を得たモデルとして発売されたSnap Droneは、人を含めた画像撮影を可能にするという観点で、産業用途での活用の広がりが期待されている。


    Snap Drone

      空撮したデータを解析する技術のひとつが、画像認識技術だ。これは画像を取り込み、事前の機械学習に基づいた識別、画像分類や状況判断を自動化するテクノロジーだ。識別・分類が短時間で、正確にできるため、工場の生産ラインでの品質管理や設備の予知保全からセキュリティ、小売、医療分野にまで活用の幅が広がっている。

      画像識別と分類では、ネットで「チワワとマフィンが似すぎている」という写真が話題になったことがあるが、画像認識ではこの両者の違いを事前に数十パターン学習しておくことで正確に識別できるという。機械学習には様々な角度から撮影した画像の準備が必要だが、ここでは数十パターンでよい。

      具体的な活用例として北海道大学大学院農学研究院と北見工業大学、東洋農機(北海道帯広市)、農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センターが、「かぼちゃの自動収穫」をドローンで取得した画像とAI・ロボットを組み合わせることで実現したことで知られている。この取り組みではドローンで生育時の画像データを取得、分析することで収穫時期や収穫量の予測をし、ドローンで取得した位置情報と画像認識データを組み合わせて、ロボットの収穫自動化をプログラミングできる。画像認識技術を収穫に応用した事例で、ほかの作物にも適用できる見込みだそうだ。今後人手不足と高齢化が進む農家の課題に対するソリューションのシステムとして開発を進めるいう。

      人の顔を認識・識別するドローンソリューションの実用化がめば、顧客ごとにカスタマイズされたサービス提供や小売の販促をドローンが行うことも可能になる。2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2025年大阪万博のころにはドローンによる入場管理システムや防犯システムなどが開発され空中を飛んでいる、という情景も想像しうる。

      ドローンに画像認識のための機械学習を実装するためにはさまざまな手段がある。話題のRaspberry Piとオープンソース画像認識APIを組み合わせることで、ドローンで撮影したデータを分析することも可能だ。最近発表されたRaspberry PiアドオンモジュールであるMAIX M1AI (Speed Studio社)を使うと、機械学習、ニューラルコンピューティング実装も可能となる。※Raspberry Piをはじめ、ドローンDCギヤードモータなどのオンラインはこちらから。

    ビッグデータ活用 最前線

      「ビッグデータ」は、身の回りのあらゆる環境についてセンサーで取得したデータの集合で、分析されて活用されることで生活の利便性の向上に貢献するなど、価値が高まる。ウェアラブル端末からとれる生体情報やIoTに代表される環境情報の取得・分析テクノロジーの進化により新たな研究が進み、日々革新的な製品とソリューションが生み出される。

      ドローンでは、機体にセンサーを搭載することで温度・湿度情報の取得ができる。位置情報や画像データを重ね合わせることもできるため、ドローンはビッグデータ取得ツールとしての期待を寄せられている。

      Parrot社のParrot Bebop-Pro Thermal は、機体にFLIR One Proサーマルカメラと14MPカメラを搭載したドローンである。熱センサーによる感知が可能で、野外施設の異常監視に活用できる。


    Parrot Bebop-Pro Thermal

      ドローンがビッグデータ取得で注目される理由として、その移動性・正確性が挙げられる。

      2019年5月23日に経済産業省から発表されたニュースリリースによると、準天頂衛星システム「みちびき」を活用したドローン実証実験が成功したという。衛星の高精度測位情報をドローンの自立飛行制御に活用することで、1m四方以下へのターゲットへの着陸が可能となった。ドローンは無人でありながら的確な場所へ飛行し、情報を取得するための進化を日々続けている。

      また、ドローンはオープンソースプラットフォームの親和性が高いことも挙げられる。不特定多数の多くの情報を集めるには、多くの人と知恵が集まるプラットフォームは欠かせない。故に誰でも手軽に操縦できるドローンと、自由に利用できるオープンソースプラットフォームは相性も良い。

      ドローンとオープンソースプラットフォーム利用の一例として青山学院大学教授兼NPO法人クライシスマッパーズ・理事長を務める古橋大地氏が関わるプロジェクト、「ドローンバード」の活動が挙げられる。

      災害時の人道支援で利用されるクライシスマップを作成する活動で、迅速な画像入手としてドローンを活用している。生身の人間がすぐには向かえない危険地にも素早く入り情報を持って帰れるため、ボランティア活動と親和性があり、誰でも操縦できるというメリットがオープンプラットフォーム参加者拡大の背中押しとなっている。

    ドローンで投資効率向上や腎臓移植も

      ドローンによるビッグデータ活用について、インテルは調査レポートの中で、あるプラントの事例を紹介している。ここでドローンを導入して点検、保全を行ったところ投資回収率が7,308%になったという。従来は点検、保全のためにプラントの操業停止と再開、足場の建設と撤去が必要なうえ、調査員の人件費もかかっていたが、ドローンでは省くことができる部分が大きく、追加経費を少なく抑えられることから、このようなROIが算出された。

      医療分野での活用として、2019年4月、米国メリーランド大学の研究チームが作ったドローンが、臓器移植のために腎臓の空輸に成功したニュースが記憶に新しい。この時の飛行は距離は2.8マイル、飛行時間は10分と活躍場面は長くないが、臓器提供を迅速、正確に実現する第一歩として称賛されている。

      2019年5月カナダの研究員らがマダガスカルで、結核治療のためにドローンを活用する実施調査に成功した。遠隔地の患者のもとにドローンを向かわせ、病原菌のサンプルを取得し持ち帰り、研究員らが分析したうえで患者に最適な薬をドローンに運搬させて処方した。
    タンザニアの「竹で作ったドローン」の事業も示唆に富む。3Dプリンターで作られた部品も使い。開発者は2時間ほどで作りあげたという。かかった費用はモーター、レシーバー、電源類などで150米ドルほど。機体の竹はコストゼロという。先進国のドローンは高額で、壊れたら修理費もかかる。竹なら壊れてもすぐに、安く、パーツが手に入る。

      タンザニアでは、将来的なテクノロジー発展のためNGOによるIT教育が進んでいる。タンザニアのNGO団体Uhurulabsを運営するMbuya氏によると特に注目しているテクノロジーが「ブロックチェーン、3Dプリンター、そしてドローン」だという。

    Uhurulabsによるテクノロジー教育支援の様子 (撮影:Evan Ackerman氏)

      日本にも解決すべき社会課題は山積している。今後、こうした課題の解決がドローンを活用することで導きだされる可能性が高まっている。

      参考:IEEE SPECTRUM “Tanzania Builds a Drone Industry From Local Know-How and Bamboo”

    フリーライター:松浦アサキ
    経営戦略・経営組織論を専門とする。卒業後、大手外資IT企業にてアナリティクス、データベース、機械学習ソリューション提案を担当。2017年4月日本初の商用データサイエンティストコラボレーションプラットフォーム導入を実現、同社よりグローバル表彰。他にも、AI活用をテーマにした外部トークイベントの企画、実行を手掛ける。現在はフリーライターとして、月30本以上の記事執筆、月間78万/PVのメディア記事、連載の執筆および編集を行う。前職の経験を生かしたIT関連記事だけでなく、東南アジア・欧州在留経験にもとづく情報発信に携わるなど、経験も豊富。

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。