いわゆる空飛ぶクルマの機運醸成に力を入れる枚方市(大阪府)は、空クルを枚方市で実現させた場合の使い道や利用時の効果などを検討する協議体「枚方市空飛ぶクルマビジネス共創部会」を設置した。活動を通じ関連産業創出の可能性を探る。6月14日には関連事業者や団体など民間の17機関が参加して第1回の会合を開いた。枚方市は今後、共創部会の加盟機関と連携を図りながら検討を進める。枚方市がいちはやく空クル協議体を発足させたことで、他の自治体の取り組みを促す可能性がある。
枚方市が設置した空クル共創部会は、地域資源をいかしたビジネス創出を目指す「ひらかた万博共創プラットフォーム」の一環として設置した。会長に北大阪商工会議所、副会長に枚方信用金庫が選ばれた。メンバーには2025年に開催される大阪・関西万博の空飛ぶクルマ関連事業に関わる機関や、東京を拠点に活動する機関も含まれ、第1回の会合にはオンライン参加も含め多くのメンバーが顔をそろえた。
枚方市は万博機運や空飛ぶクルマ機運の醸成に積極的だ。「万博」の名をかぶせた地域資源活用型ビジネス創出事業「ひらかた万博共創プラットフォーム」を2022年9月に発足させ地域活動とともに万博の盛り上げに取り組んでいる。空クル共創部会もこのプラットフォームを土台として創設された。
枚方市ではすでに空飛ぶクルマに関わる取組が展開されている。2022年12月11日には株式会社SkyDriveが主催した「親子で学ぶ空飛ぶクルマのある未来」、「空飛ぶクルマの社会実装に向けたビジネス座談会」が市内で開かれ、会場は多くの来場者でにぎわった。伏見隆市長も参加した。
2023年3月2日には中国の空飛ぶクルマメーカーEhang(イーハン)の2人乗り機体「Ehang216」のデモフライトを実施し、ときおり風速7m/秒を超える風が吹く中安定した飛行を見せた。人を載せての飛行ではなかったものの、万博会場の主要会場である大阪府内で空クルが飛行したのはこのときがはじめてとなった。この日はデモフライトに続いてセミナーも開かれ、伏見隆市長が「“空飛ぶクルマのあるまち・枚方”を実現させたい」とアピールした。
3月20日には、空飛ぶクルマ事業に関わっている事業者を招いた「空飛ぶクルマビジネス勉強会」も開催した。伏見市長のあいさつではじまった勉強会は、登壇した兼松株式会社の中村康平氏が空飛ぶクルマの概要と現状をていねいに紹介し、中央復建コンサルタンツ株式会社の松島敏和氏が枚方市がと空飛ぶクルマの相性のよさを将来展望とデータをまじえて解説した。この勉強会で協議体設立の提案があり、今回の共創部会に結び付いた。
万博の開催が近づくにつれ市町村単位での空飛ぶクルマに関連する活動も活発化することが予想される中、枚方市がいちはやく民間主導の協議体を起動させたことは他の自治体の活動促進にもつながりそうだ。
大阪府枚方市は3月2日、中国の空飛ぶクルマメーカーEhang(イーハン)の2人乗り機体「Ehang216」のデモフライトを実施した。デモ飛行では人は乗せず、かわりに人の体重に近い80㎏のコメを積んで飛行させた。時折、風速7m/秒を超える風が吹く中だったが、機体はあおられることもなく安定した飛行を見せた。2025年に開催される大阪・関西万博の主会場を抱える大阪府内で、空飛ぶクルマの飛行実験が行われたのは初めてだ。デモフライトに続いて開催したセミナーでは、枚方市の伏見隆市長が「“空飛ぶクルマのあるまち・枚方”を実現させたい」とアピール。セミナーに登壇したDRONE FUND最高公共政策責任者の高橋伸太郎氏は、「枚方市は空飛ぶクルマの京阪奈における輸送ネットワークの拠点としての可能性がある」と枚方が空飛ぶクルマに取り組む重要性を指摘した。
デモフライトは3月2日、市内を流れる淀川の河川敷に広がる公園の一角で行われた。機体はドローンやAAV(Autonomous Aerial Vehicle、いわゆる「空飛ぶクルマ」のひとつ)開発で知られる中国の億航智能(英語表記Ehang、イーハン)が開発したEhang216で、一般社団法人MASC(岡山県倉敷市)が保有している機体だ。飛行は座席には誰も乗らない無人の状態で2度、行われた。1度目は地上30メートルまで上昇後、しばらく空中で静止し、機体の向きを180度転回させて、着陸させた。2度目は人のかわりに80㎏のコメを乗せて離陸したあと、淀川の河川上空を約930mにわたり、5分間飛行した。
デモンストレーションの間は強い風に見舞われ、一時、風速7.6m/秒の風も吹いたが、機体はやや揺れる程度で風にあおられることもなくゆったりと上昇、すいすいと飛行した。また、離陸時は飛行時の音については、周囲からは「30mまで上昇してしまえば、機体がそこにあることが確認できる程度の音」「離陸時にまったく静かというわけではないが、ヘリとは比べると圧倒的に小さい」などと話す声が聞こえた。伏見市長も「音は気にならなかった」と、デモフライトのあとのセミナーの中で話した。
枚方市は 2025 年に開催される大阪・関西万博に向けて、万博開催をきっかけにした地域経済の活性化と地元への愛着の向上を目的に、幅広い取り組みを実施する「ひらかた万博」を推進している。中でも空飛ぶクルマを重視していて、社会実装による地域の人々の生活の質の向上や新しい事業の開拓を期待している。昨年12月11日に市が開催したセミナーで伏見市長は「枚方は京街道の枚方宿として東海道で56番目の宿場にあたり、淀川で物資の運搬も盛んで歴史的にも交通の要衝。万博会場となる大阪中心部と京都の中間点でもあり、空飛ぶクルマが離発着する拠点としてふさわしい」などと猛アピールをしていた。
デモフライト後に開催されたセミナーでは、DRONE FUNDの高橋伸太郎氏、空飛ぶクルマを開発する株式会社SkyDrive(愛知県豊田氏)の金子岳史氏、デモフライトを担当した一般社団法人MASC事務局長の坂ノ上博史氏が登壇し、枚方市の可能性などについて見解を披露した。
DRONE FUNDの高橋氏は「万博の成果を大阪湾岸エリアだけでなく、関西地方・日本・世界全体に広げるためには、今の段階から社会システム・産業エコシステムの視点から、空飛ぶクルマについて議論を進めておくことが必要。そのためまずは京阪奈エリアへの広がりを考えることが重要だ。枚方市は立地、歴史、資源において京阪奈を結ぶ重要拠点となり得る。このため、空飛ぶクルマの京阪奈における輸送ネットワークの拠点としての可能性がある」と分析した。また「今から10年後、15年後の未来を見据えた都市計画を進めるか気にしないかで、結果は大きな差として表れる」と述べ、未来を見据えた都市計画を今から進めることを提案した。
SkyDriveの金子氏は、動画をまじえて機体を紹介しながら「裏側では大きな壁にぶつかりながら開発を進めている」と知られざる苦労の一端を披露。「空飛ぶクルマが実現することは、それにふさわしい都市デザインの考え方にも波及する。そしてもっとも大事なのは、空飛ぶクルマは、ありさえすればいいことがおっこるような、魔法の杖ではないということ。何に使いたいのか、どう活用するのかをどれだけ具体的にイメージするかが試される」と、創造力、想像力の結集を呼び掛けた。
MASC事務局長の坂ノ上氏は、セミナー前に開催されたデモフライトの様子や、フライトさせた機体について、8本のアームがあり、それぞれ2組のプロペラが上下に取り付けられ、合計16組のプロペラがあることが、機体名の「216」の由来であるなどの紹介をしながら報告した。途中、デモフライト実現に協力したEhangセールスディレクターのダレン・シャオ氏を壇上にあげて紹介すると、シャオ氏は「Ehangはすでに3万3,000回、人を乗せた飛行実験を実施している。安全性が高く、環境負荷も低減できるので、安心して空の移動のあるシティライフを楽しめる。特に枚方は京都、大阪、奈良の中継点になり得る、導入するには最適な都市」と分析を披露した。
枚方市の伏見市長は、いち早く空飛ぶ車の事実上の誘致に名乗りをあげた理由について「空飛ぶクルマには大きな魅力がある。ただ、魅力があることが広く伝わると、どの自治体も一斉に手をあげることになる。その前に手を挙げておきたかった。それによって実現を近づけたい」と話している。枚方市は今後も、活動を積極化する方針だ。