業務の自動化支援を手掛ける株式会社センシンロボティクス(東京都渋谷区)は、石油元売り大手、ENEOS株式会社(東京)の川崎製油所(川崎市)で、石油タンクや配管を自動で点検する実証実験を行ったと発表した。点検には、センシンの統合管理プラットフォーム「SENSYN FLIGHT CORE」などが用いられた。浮き屋根式タンクの点検では、ドローンで上空からタンク一基あたり5分で状況を確認した。通常は点検員がタンクにのぼり肉眼で点検するため、「点検内容によるが、10~15分程度」(ENEOS広報)かかる。このためこの技術が、時間短縮、安全性確保などで作業員に代わり得る技術であると確認できた。また肉眼では難しい配管劣化個所の特定を、サーマルカメラを用いることで自動でできることも確認した。
今回の実験について、センシン、ENEOSとも「成果があった」としている。
実験が行われたENEOS川崎製油所は、国内最大のエネルギー消費地である首都圏を供給先に抱える、国内最大級の石油精製拠点だ。危険物を貯蔵している設備もあるため厳重な管理が必要だ。センシンはこの点検で、ドローンと点検対象との距離を適切に保ちながら、安定した飛行を、自動で行うシステムを使って実施した。
軸となった技術は「SENSYN FLIGHT CORE」で、ドローンの専門知識や技能を備えていなくても、簡単な操作で作業を遂行できることを掲げている技術で、この点検でも操作性が評価された。
点検の対象となった浮き屋根式タンクは、原油から精製された揮発性の危険物などの貯蔵タンクに採用されているタンクで、危険物の液体のうえに落し蓋のように屋根がすきまなく設置することが特徴。危険物が空気に触れないため揮発せずに安全性が確保しやすい。一方、危険物が漏れ出すことがあってはならないため点検は欠かせない。点検では、浮き屋根の変形、劣化、危険物の漏れなどのほか、タンクのふちの部分と浮き屋根との隙間の状況などを、作業員が一基ずつタンクに上り、その時の状況にあわせて肉眼で確認する。ENEOSは「点検内容にもよるため単純比較はできませんが、人がタンクに登って確認する場合、1基あたり10~15分程度を要します」と話している。今回、センシンのシステムを活用したドローンによる点検では、上空から1基あたり5分程度の作業で対応でき、「目視による異常有無確認の代替手段として活用できることが分かりました」(センシン)と話している。
配管点検では可視とサーマルカメラを使い分け、外観から劣化状況を確認したうえで、サーマルカメラに切り替えて配管の劣化箇所の特定ができた。
センシンは、「ドローンやロボットには人間の能力を凌駕する得意分野があります。人間が得意な領域と分担するように業務を見直すことで、より安全で効率的な点検業務が実現すると考えご提案しています」と話している。
センシンの技術は、専門家に頼らずサービスの導入先が自前で運用できることに特徴がある。ENEOSでは川崎製油所のほか、大分製油所(大分市)、水島製油所(岡山県倉敷市)、堺製油所(堺市)、根岸製油所(横浜市)、麻里布製油所(山口県和木町)、鹿島製油所(茨城県神栖市、鹿島石油株式会社)、喜入基地(鹿児島県鹿児島市、ENEOS喜入基地株式会社)の8事業所で運用実績がある。センシンはこうした実績をふまえ、厳重な管理が必要な作業現場での作業員の負担権限、安全確保、点検品質の向上を技術面から支援し、石油プラントにおける保守点検業務の安全性向上・効率化の促進を図る方針だ。
ドローンによる業務の完全自動化を目指す株式会社センシンロボティクス(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:北村卓也、以下センシンロボティクス)と、産業用ドローンを開発する株式会社エアロネクスト(東京都渋谷区、代表取締役 CEO:田路 圭輔、以下エアロネクスト)は9月30日、産業用ドローンの次世代コンセプト「空飛ぶロボット(Flying Robots)」の具現化に向けた戦略的業務提携を締結したと発表した。エアロネクストが6月20日に提携した中国・深圳の産業用ドローン大手、MMCが生産した機体も完成し、両社は新たな段階を迎える。
今回の背景には、日本が抱える社会課題がある。少子高齢化による労働人口の減少や高騰する人件費、危険区域での作業者の安全確保などの課題に対して、両社が提携して開発する「空飛ぶロボット」という産業用ドローンで解決していく。日本の社会が抱える「物流」、「農業」、「警備」、「設備点検」、「災害対策」といった様々な分野での課題を「空飛ぶロボット」で対応していく取り組みだ。
両社が提携を推進した理由として、エアロネクストの田路圭輔CEOは「ドローンは、写真や動画の撮影など、用途がいわば『人間の目』としての役割に絞られ、しかも、短時間、短距離、また良好な時のみの、限定的な条件下で使用されている状況です。現在の産業用ドローンが『空飛ぶカメラ』という領域であるとすれば、次世代の産業用ドローンに求められるのはその機能を活用して人間の代わりに複数の何らかの仕事を行う『空飛ぶロボット』であり、自動航行プラットフォームの『SENSYN FLIGHT CORE』と重心制御技術の『4D GRAVITY®︎』を搭載した産業用ドローンを組み合わせることで、次世代コンセプトの『空飛ぶロボット』を現実化できる。両者がこの考えで一致して、今回の提携に至りました」と話す。
また、センシンロボティクスの北村卓也社長は「当社は、日本が抱える社会課題に対して、自動航行プラットフォーム『SENSYN FLIGHTCORE』を中心に、『ドローンの操縦や撮影された映像の確認作業を行うためのオペレータ(人力)の不足』や『その育成・確保にかかる工数』といった問題を解決するための様々なドローンソリューションを展開しています。センシンロボティクスが得意とする送電線、鉄塔、ダムなど広域にわたる社会インフラの保守・点検分野において、既存の産業用ドローンでは対応できなかった複雑な用途でも、エアロネクストが開発した『4DGRAVITY®︎』搭載ドローンを活用すれば、センシンロボティクスの顧客の具体的な要望に応じた提案・開発を行うことが可能になります」と提携の理由を語る。
エアロネクストが展開する重心制御技術の『4D GRAVITY®︎』を搭載する産業用ドローンは、複数のペイロードを搭載でき、ペイロードの搭載位置が本体の側面や上部であっても安定的な飛行が可能になる。安定性によるエネルギー効率の改善により、長時間、長距離の飛行も可能にする。そのため、一度の飛行中に『写真や動画を撮る』ほかに、複数の仕事をこなせる。だからこそ、重心制御技術「4D GRAVITY®︎」搭載の産業用ドローンで、次世代コンセプト「空飛ぶロボット」が現実化できるという。
センシンロボティクスの北村卓也社長と、エアロネクストの田路圭輔CEOは、お互いをベストなパートナーシップであると位置づけている。エアロネクストの田路氏は「産業用ドローンには、ニーズに応じた柔軟な機体が求められています。空撮に特化した機体では、様々な要求に対応できません。センシンロボティクスのサービスが求める機体を開発することで、『空飛ぶロボット』の実現を加速できるのです。われわれの技術でその開発を可能にしたいと考えています」と話す。
また、特別な知識や技術がなくてもドローンによる業務自動化を簡単に実現させる総合プラットフォームの『SENSYN FLIGHT CORE』を提供するセンシンロボティクスの北村卓也社長は「産業用ドローンには、空撮だけではなく、叩く、つまむ、吹く、持っていくなど、様々な機能が求められています。こうしたニーズに対して、重心制御技術の4D GRAVITYを搭載した産業用ドローンで、パラダイムシフトを実現したいと考えています」と展望を述べた。
エアロネクストが6月20日に提携した中国・深圳の産業用ドローンメーカー、MMCが生産した機体がすでに完成するなど、両者の目指す「空飛ぶロボット」の具現化への体制が急ピッチで整っており、今回の戦略的業務提携はドローンのビジネスを新たな段階に導くきっかけになりそうだ。