平成の時代をもって「DroneTimes」はサイトをクローズし、令和の幕開けとともに、この「DroneTribune」はオープンした。まずは新たなドローン関連の情報サイトがオープンしたことに喜びを示したい。と同時に「DroneTimes」の時代を振り返りながら、現在の日本のドローン産業が置かれている地平を見ていきたいと思う。
「DroneTimes」は正式には2017年の2月にオープンしたが、その前年の2016年8月1日、ドローンに特化したニュースサイトとして仮オープンした。
日本におけるドローンの認知は、首相官邸への落下という事件から始まったが、その後、2015年12月10日の航空法改正の施行を受けて、ドローンの産業化にむけてのルールとしての土台が決まり、様々な方向でドローンの検討が進んでいった。
2016年3月にはインプレス総合研究所から、「ドローンビジネス調査報告書2016 」(この2016が最初の報告書で、2017、2018、2019と毎年出版されている)が出版された。(筆者はこの調査報告書のメインの執筆にずっと携わっている)
その「ドローンビジネス調査報告書2016 」で、“2016年度は、業務利用でいけば、現状の農薬散布や通常空撮に合わせ、観光地のマーケティングを目的とした風景空撮、「i-Construction」に伴う公共道路工事での三次元測量、橋梁やトンネルでの目視検査での利用、メガソーラーでのパネル点検といった市場が立ち上がってくることが予想される。その後、個々の分野においてのルール作りや技術向上が伴っていきながら、その市場が拡大していくだけでなく、新しい技術の登場により、新たな分野での市場が立ち上がっていくことが想定される”としていた。
その後、農薬散布や空撮といった分野においては、それまでの産業用無人ヘリや有人ヘリといったところからのコスト削減や手軽さといったメリットにおいて、既存業務からのシフトやその利用範囲の拡大といった点で、ドローンの活用が増えてきた。農薬散布に関しては、まだ、産業用無人ヘリが実施している面積には遠く及ばないが、空撮に関しては、映画、TV、CM、ニュースなどでドローンの映像が盛んに使われている。特に手軽になったという点においては、TVのバラエティでの活用はここ数年で相当数増えた。(朝日放送テレビの「ポツンと一軒家」などはドローンの登場で生まれた番組といってもよいのではなかろうか)
そして、メガソーラーでのパネル点検といった市場は予想通りに立ち上がった。しかし、ここにある橋梁やトンネル、構造物の検査といった市場は、まだ立ち上がっているとはいえないだろう。当然、そこには技術上の難しさというものもあるのだけれど、その問題に加えてソリューションの形をなしていないということがある。メガソーラーでのパネル点検に関しては、エナジー・ソリューションズが、「DroneEye」というドローンに搭載した熱赤外線カメラで検査するだけではなく、自動航行やモジュール検査報告書といった点検業務をソリューション化したサービスとして提供したことが大きく、また、それを自社サービスというだけではなく、パートナーモデルとして展開していったことも大きい。これは今後様々なドローンのソリューションサービスを展開していきたい企業にとって示唆にいまだに示唆に富んでいる。
http://www.energy-itsol.com/service/droneeye.html
その後、屋根の点検に関して、CLUEやテラドローンなどからソリューションが発表され、2018年ぐらいから定着してきている。
その他、日本国内において、2018年までに業務として立ち上がってきているのは、損害保険会社での災害時査定調査といったものがあるだろう。そして、「i-Construction」も公共道路工事におけるルールとしては、かなり広まってきているけれど、それを現場が十全に活用しているかといえば、まだまだ遠いだろう。
「平成」までは上に記したような市場において、その業務としての立ち上がりは示してきたが、それ以外は実証実験から、分野によっては実用検討段階に入ってきたものもあるといった状態だろう。
特に2015年~2018年度ぐらいまで「国プロ」といった国の研究開発予算をベースとした実証実験に頼っていたこともあり、「国プロ」に関しては、日本全体における社会課題の解決に向けての技術向上といった面はあるが、その一方でコストやビジネス性の考慮が少なくなりがちという要素もあり、社会実装にむけて工夫を強いられている。
2017年度ぐらいから、民間でのドローン関連の投資も進んできており、各民間企業のドローンを産業化するための実証実験も多く行われてきた。ただし、「国プロ」と違って、民間においては、その実証実験の検証結果をベースに一定期間ごとに企業が評価し、その中でその効果があるといった判断の上、実用化のステップが踏まれていく。
その他、産業として立ち上がったのは「操縦スクール」というものがあったが、実際の業務活用がまだ進んでいないといった点や、実用化の過程において、そのスキルのかい離(航行アプリケーションや業務知識などの不足)がみられることもあり、多くの「操縦スクール」がその方針の見直しを迫られている。
ここに示してきたように「DroneTimes」の時代は、業務としてのドローン活用は一部の分野であり、実証実験が主体であったことは間違いない。
そういった意味では、メディアも含めたドローン産業のエコシステム(お金が回る仕組み)は未熟であったといえる。中国や欧米でも、エコシステムが回り出したとはいいがたい部分もあるけれど、それでも、もう少し広い分野において、ドローンの業務活用が進んできている。この日本での遅れにおいて、私自身を含むドローン関連者は反省をしなければならないだろう。
令和が始まり、「DroneTribune」の時代が始まった。
何としてもドローン産業のエコシステムを構築していかねばならない。
ここにおいて、重要な視点は2つである。
まず、1つが、今できること、そこにあることから積極的に使っていくということである。
ドローンも業務活用という点からみれば、その道具に過ぎない。日本ではその製品化やサービス化といった点において、レベルの高さや完全性というものを求めすぎる傾向がある。ドローンもその他のAIなどの技術と同様に、日々技術向上をしていく世界である。いつまでも完成などに到達しないといってもよいだろう。ドローンも現状の状態でも十分に活用可能な部分は多いだろう。また、そこにおいて、世界の技術を積極的に取り入れるべきだ。特にアプリケーションやソリューションという点においては、世界はどんどん進んできている。
2つめは、業務に対してのソリューションという視点だ。ドローンを道具と見立てた時に、何を改善・解決するものなのかという視点だ。そして、そこにはその投資に対する見返り(ROI:Return of Investment)を明確にしておく必要がある。
特にドローンは、フィールドに関わるもの、農林水産業や建築・土木、そして、各地方(物流や災害対策など)で使われる場合も多いし、そこでのソリューションも多い。
けれども、そこに欠落しがちなのは、使う側からみたROIの視点である。ドローンを公共事業にしてはならない。この財源が枯渇している国で、そこに頼れば未来はない。その財源を助けるものにいかに出来るか。コスト削減や付加価値向上といった視点であり、ドローンのサービスやソリューションの提供する企業は、具体的にその提案を作成し、それによって事業推進していくことが重要だ。
令和の号砲とともに、そのスタートが切られ、「DroneTribune」にはそういったニュースが多く掲載され、そして、その事業を拡大させるために、広告を出稿していくといった循環が築かれんことを望む。(寄稿)
すのはら・ひさのり ドローン・ジャパン株式会社取締役会長、一般社団法人セキュアドローン協議会会長、一般社団法人ドローン自動飛行開発協会代表理事。ドローンの業務活用や農業活用のコンサルティングを行っている。三井物産のIT系子会社三井物産デジタル、日本マイクロソフトを経て、2016年にドローン・ジャパン株式会社を創業し現職。2016年からはドローンエンジニア養成塾も企画。