• 2019.5.31

    6月1日は“DroneFund設立記念日” 2017年に発足して2年

    account_circle村山 繁

     日本発のドローン系スタートアップ特化型のファンド、DroneFundが創設されて6月1日で2年になります。2017年5月30日、個人投資家の千葉功太郎さんが創設を発表し、翌々日である6月1日にDroneFundが正式に発足しました。現在、DroneFundはドローンのエコシステムにとって重要なだけでなく、日本経済にとって重要となっています。経済の血液である資金が、ドローンのエコシステムに注がれる流れを築いたインパクトは大きく、6月1日は、日本のドローン経済記念日いっても過言ではありません。DroneFundの2年を振り返りました。(DronTribune編集長 村山繁)

    1号は16億円 2号は世界最大規模の52億円 空も海もカバー

    2017年5月30日の創設発表会でドローンを飛ばしながら発表にのぞむ千葉功太郎氏

     DroneFund(正式名称:千葉道場ドローン部1号投資事業有限責任組合)の設立発表は2017年5月30日、東京・永田町のホールで開催され多くの報道陣が集まりました。当時(たった2年前ですが)は、ドローンのエコシステム作りへの関心は高まりつつあったものの、リスクを引き受けて資金を提供する動きが活発ではなく、刺激剤の登場を求めている状況でした。そこにさっそうと登場したのがDroneFundでした。集まった報道陣の多さに注目度の大きさを示していました。

     DroneFund創設を発表した千葉功太郎さんは、その年の春、ドローン関係者が集まった合宿で、6月のファンド創設を予告していました。それまでとそれ以降、準備を入念に重ねて臨んだ発表会でした。

     発表会で語られた内容は、2017年度中に10億円の積み上げを目指すこと、知財管理に力を入れること、ファンドの運用を通じて実現した未来の姿など、いずれも誰かの頭の中にしかなかったものが、言葉、イメージ、金額、組織として具体的に示された画期的な発表でした。投資ステージごとにアーリー、シードなら1000万円~5000万円レベルなど基準が明確で、専門家集団のアドバイザリーボードがあり、特許の共同出願など知財管理をたばねる「Drone IP Lab」もあり、居合わせた多くの報道陣が納得の表情を浮かべていたことを思い出します。そして肝心のファンド規模は結局、翌2018年2月に、目標を大幅に上回る16億円でファイナルクローズしたことが公表されました。

     DroneFundの挑戦はここからさらに加速します。

     16億円のファイナルクローズを発表してから半年たらずの2018年7月31日、千葉さんは「DroneFund2号の設立する」という発表をしました。発表会場は、茨城県龍ヶ崎市にある川田工業が所有する、龍ヶ崎飛行場。バスをチャーターしたうえで報道陣の足回りも確保してまで開催した発表会に、報道陣は千葉さんの「2号」に寄せる強い思いを会場到着前から強く感じとる機会となりました。(ちなみにバスの中で、乗り合わせたササモモさんとずーっとしゃべりっぱなしであったことは秘密です。なにしろササモモさんがずーっとしゃべっていたので、誰かが聞いてあげないと気の毒でしたので。はい)

     発表はやはり、異次元でした。

     会場である空港は貸し切り、千葉さん個人所有する飛行機が置かれ、DroneFundや慶応義塾大学ドローン社会共創コンソーシアムなどが提唱している「ドローン前提社会」をイメージしたイラストが次々と表示されて世界観を想像しやすくする工夫がなされ、イラストに登場する高校生の公式キャラクター「美空かなた」ちゃんに扮した俳優でモデルの諸江雪乃さんがMCをつとめ、ファンドのアドバイザリーボードのメンバーで、マイクロソフトエバンジェリストの西脇資哲さんが発表会をサポートする手厚い体制で発表会が行われました。

     発表された2号の概要も、まずその規模で発表会参加者の度肝を抜きました。総額は「30億円~50億円」。1号ファンドが半年前に16億円でファイナルクローズしたばかりのタイミングで、その2倍以上の資金を集めるという高いハードルを課す挑戦的な目標を設定し、公表したわけです。そしてもうひとつ、1号からの変化がありました。それは出資によって実現する世界観に「エアモビリティー社会」が加わったことです。「空飛ぶクルマ」や「ドローンタクシー」など、移動の自由に貢献する手段を幅広く支援しようとするファンドの姿勢をさらに明確にしたことで、未来像をぐっと引き寄せる効果をもたらしました。

     ここから資金集めと出資の快進撃が続きます。出資、資本提携先としては、米クラウドサービスDroneDeploy、ノルウェーのGRIFFアビエーション、マレーシアのソリューションカンパニー、エアロダイン(Aerodyne)グループ、エネルギーデバイスのスペースリンク、農業用ドローンのナイルワークス、空飛ぶクルマのSkyDrive、テトラ・アビエーションと続き、つい最近、今年5月28日には水中ドローンのFullDepthへの出資も公表されました。そして2号ファンドが調達総額は今年2019年5月7日、「52億円となった」と公表されました。龍ヶ崎飛行場での異次元発表会で示した「30億円~50億円」の高い天井を超えた金額をまとめあげたことになります。

     この間、DroneFundは新体制を発表。ファンド創設時から手を携えてきた大前創希さんが千葉さんと同格の共同代表パートナーとなり、Fundも千葉さんもさらに機動的に活動できるようになりました。千葉さんは2018年12月、ホンダのビジネスジェット機、ホンダジェットエリートの最初の顧客となる発表会で空域移動の重要性を訴え、出資先である自立制御システム研究所(ACSL)の上場を見届け、空の異動革命に関わる官民協議会に出席してエアモビリティー実現の工程表公表に参画するなど、空への参画を強めています。

     日本では令和に時代が切り替わり、ドローンへのリテラシーの高い層が着実に増えてきました。これからさらに増えることが予想され、日本のドローン経済はこれから成長期を迎えます。政府は5月24日に発表した月例経済報告で総括判断の表現を「弱さがみられるものの緩やかに回復」と引き下げました。景気全体に活気が乏しくても、ドローン経済は周囲とは異なる成長を遂げ、日本経済全体の機体を担う立場になることが展望できます。

     

     DroneFund設立記念日である6月1日を前に、これまでを振り返ってみました。DroneTribuneはこれからもドローン前提社会を構築する動きを歓迎します。
    DroneFund: http://dronefund.vc/

    2017年5月30日のDroneFund創設発表会見で
    2018年7月31日、2号ファンド創設の発表は茨城県の龍ヶ崎飛行場で行われた。イラストが多様されドローンに馴染みの薄い層にもドローン前提社会の世界観がイメージしやすい工夫が凝らされた
    2018年12月、ホンダのビジネスジェット、エリートの第1号顧客として発表会に登壇した千葉さん
    ホンダジェットの発表会のさいにも空の移動の重要性を訴えた
    空の移動革命に関わる官民協議会に出席した千葉さん(着物の後ろ姿)は、正面の世耕経産相の話に耳を傾ける

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    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
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