• 2019.8.19

    【JUIDA5周年】「機体登録制度で安心の制度化を」 鈴木真二理事長インタビュー

    account_circle村山 繁

    一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)の鈴木真二理事長は、JUIDAが「創立5周年記念シンポジウム・交流会」を8月19日に開催するのを前に、DroneTribuneのインタビューに応じ、黎明期を振り返り、今後を展望しました。「ここまで大きくなるとは思っていませんでした」と成長速度が予想を上回ったことを明かす一方、今後の取り組みの方向について「機体登録で安心の制度化を」と明確に示しました。

    2015年の改正航空法 交付は鈴木理事長の誕生日

    インタビューに応じる鈴木真二理事長

      ――JUIDAの創設から理事長として歩んできました

      鈴木理事長 創設した当時は、これほどドローンに深く関わることになるとは、思ってもみませんでした。ドローンに「空飛ぶクルマ」が入ってきていて、ドローンというカテゴリーそのものも変化しています。これまでも大きく変化してきましたが、これからも今までとは異なった大きな変化が起こるのだと思います。

      ――どんな5年でしたか
      鈴木理事長 ドローンが今の電動マルチコプターとして広がりだしたのは2010年以降です。その後DJIのPhantomシリーズが出て、Amazonが宅配にドローンを使うと動画を流し始めたのが2013年12月1日で、2014年ごろには、今後はドローンが広がるとみていました。当時、ユーザーの立場の団体がなく、「作りましょう」と声をかけられて、「ではやりましょう」みたいな話から始まりました。最初は10人ほどの規模でのスタート。会員が1万人規模になるなど予想できませんでした。

      ――目指していたのは?
      鈴木理事長 ドローンと呼ばれているものが、ちゃんと、安全に使える環境づくりです。それには、ネットワークがないと困るだろうということではじめました。とはいえ、ネットワークがどれほど広がるか、までは予想していませんでした。そもそも当時は、「小型無人航空機」というカテゴリーがなかったので、暗中模索で動いていました。

      ――当初は不審がられました
      鈴木理事長 ありましたね。ドローンを持って歩いていると、不審なものを持っているように見られたり、「何やってるんだ」って言われたり、通報されたり、などという話がたくさんありました。ただしわれわれは、業務用のツールとして定着するだろうな、と思っていました。社会にネガティブなとらえ方があることを知ったのはJUIDAを設立した後です。そこで、ドローンが不審なものとして受け止められることがないよう、使うための安全ガイドラインの必要性を感じて、事業者や国交省航空局、経産省などに入って頂いて、意見交換を始めたんです。2015年1月あたりから、何回か会合をやって、議論をし始めた2015年4月22日、首相官邸で不審なドローンが落下しているのが見つかった。いやこの日はですね、国交省航空局の松本大樹安全企画課長(当時)の誕生日だったんです。松本課長の功績は大きくて、大変なご尽力をされました。その松本課長の誕生日に、首相官邸の屋上でドローンが見つかった。私はその日、あるところで講演をしていたのですが、連絡が入ってNHKのニュースに出ることになりました。その日の夜のニュース番組、翌朝のニュース番組、午前11時まで、帰らずに出ることになりました。『おはよう日本』にも出ました。その日は渋谷の放送センターに近いホテルで仮眠してそのまま、という、そんな出来事がありました。

      ――ドローンにとっては大きな出来事でした
      鈴木理事長 ドローンを国民が広く知るきっかけとなったと思います。

      ――航空法改正のきっかけにもなりました
      鈴木理事長 そうなんですが、当初はすぐに法改正なんて、できるわけないよねって思っていました。特に航空法改正は時間がかかると聞いていたこともあって、すぐに小型無人機の制度ができるとは思ってもみなかったわけであります。ところがそれが実現する。それにはそれまで議論を重ねていたことが生きるわけです。このときの改正法、施行は2015年12月10日なんですが、交付されたのは9月11日でして、この日って、私の誕生日なんです。松本さんがいつもおっしゃっていました。「事件が起きたのははわたしの誕生日、交付されたのが鈴木先生の誕生日」って。(笑い)

    よかったことと、こうなっていればよかったな、と思うこと

      ――JUIDA設立の5年間には質的、量的にいろんな変化があったと思いますが、その変化について、こうなってくれてよかったと思うことと、こうなっていればよかったと思うことは?
      鈴木理事長 やはりよかったことは、航空法の改正が迅速だったこと。何をしてはいけないかが明確になったことで、利用者が使いやすくなった面があります。持っているだけで通報された経験をお持ちの方も、それを守ればいいわけです。

      ――こうなっていればよかった、ということはありますか
      鈴木理事長 逆に法制度がほかよりもはやく進んだひずみ、とでもいいますか。そんな面もあります。今、議論されているのは機体の登録制度です。ドローンは今、自動車のようにナンバープレートをつけているわけではなく、どこかに落ちていても、誰のものだからわからない。海外からの旅行に来られた方が、ルールを知らないまま飛ばして話題になることがありますが、機体の登録や、業務用機体の審査など、管理された状況に関する制度があれば、問題にはならないわけです。そうはいっても、すべてが整うまで待っていては時間ばかりかかるので、とりあえず飛ばし方の部分の制度化を先行したわけです。そこがほかより早く整備されたがゆえに、未整備部分が問題視されています。そこをJUIDAとしても取り組んでいかないといけないと思っています。手始めが機体の登録制度。誰がどのドローンをもっているかわかるようにする。放置してあっても誰の自動車だかわかるようになっているのと同じです。それがあると所有者が責任をもって管理する環境が整います。

      ――必要性の説明が大切ですね。安全性を高める、とか・・・
      鈴木理事長 安全ということよりも、安心して使える、ということでしょうか。安心を制度化する意味で必要だと思っています。不正な使い方をする人への抑止効果もあると思います。が出てくると思う。少なくともブレーキがかかるでしょう。今は場所によってはどこでもだれでもとばせるのですが、それが、ある種の不安になっている面もあります。登録はある種の規制強化ではありますが、安心の制度化です。自動車には車検制度があります。隣に走っているクルマはちゃんと整備されたクルマなわけです。安心してクルマを使える背景になっています。。前を走っているクルマが突然、停まるかもしれない環境では安心して走れないですよね。ドローンにもその安心がないといけない。その第一歩が登録です。つきつめていくと、ちゃんと整備しているのか、ということにもなってくるので、さらに制度作りが必要かもしれません。利用を広げる意味でも、あまりにも怖がってもいけないのでバランスが大事です。

      ――利用も広がりました。空撮、測量、点検、農業。
      鈴木理事長 農業は昔からラジコンヘリによる農薬散布という長い歴史をもっています。ここはすでに市民権を得ているところでしょう。点検、測量は新しく始まったところ。空撮も広がりました。今目にする上空からの映像はほとんどがドローンですね。10年前にはほとんどなかったですが、いまや日常的ですね。

      ――次に起きるのは?
      鈴木理事長 私は人間の根源に、自由に空を飛びたいという、思いがあると思っています。ビジネスとして事業化が進むことの一方で、純粋に、空を飛べる体験がもっと、広がっていいと。その意味で自由に飛ばせるフィールドがもっと提供されればいいなと思っています。大分県湯布院町で、ドローンの方々だけが泊まれる日を設けている温泉旅館を運営しておられる方がいらっしゃいますね。(=「ドローンの宿 時のかけら)。これはすごいな。と思いました。敷地を持つ寺社仏閣などが飛ばせる場所を提供して頂けたりしたらいいな、とも思います。「空を自由に飛べるということは素晴らしいことだ」と共有してくれるといい。

    「ドローンの宿」はJAPAN DRONEでもブースを出展し、多くの来場者でにぎわった
    自社仏閣では「ドローン禁止」の看板を掲げるところもある

    スクールで、初めての人が空飛ぶ体験を

      ――初めての人がドローンに触れる入口のひとつにスクールがあります
      鈴木理事長 スクールの意義は導入教育にあると思っています。使ったことがない人が、標準化されたカリキュラムのもとで、もっとも効率のいい教育を受けて、ちゃんと動かせるようになり、どういうところに気を付けたらいいかを分かる。その次にはもっと専門的で高次なことをやりたいということもあるでしょうから、そこはJUIDAの中で議論をしていますが、底辺を広げることに貢献していると思います。もっと多くの人が、空を飛ぶ体験ができればいいと思っています。

      ――学ぶという意味では、事故から学ぶことの重要性も多く聞きます
      鈴木理事長 重要です。安全を維持する上では事故から学ぶ文化が必要です。事故を起こした人への責任追及では済まされません。その文化を作ることもわれわれの重要な使命だと思っています。事故にならなくても、ちょっと怖い目にあった、というときには、ちゃんとそれを届け出て、それをみんなで共有できることが必要。事故になる前にヒントがあります。「ハインリッヒの法則」というのがありますね(=ひとつの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するという労働災害の経験則)。ささいなことの中から、重大なことの芽を発見するということが事故を防ぐ重要な手段ということで、こんなあぶないことをしちゃったよ、みたいなことが、共有できる環境を整えなくてはいけないと考えていまして、JUIDAが取り組む課題のひとつです。あぶないからやめてしまえ、では進化がない。

      ――ところで鈴木理事長は空への憧れから研究の道に入ったのでしたね
      鈴木理事長 私自身は飛行機に乗ると酔っちゃったりするので、小さい飛行機は乗れないんですけどね。旅客機はいいんですけど。そういう意味で自由に操縦することはかないませんでしたけれど、飛行機に携わる仕事ができた、という意味では、子供のころからの夢がかなったと思っています。

      ――ドローンにも携わることを決めたのは、空を飛ぶから、っていうのは本当ですか
      鈴木理事長 はい。それだけの話(笑い)。もともと飛行機が子供のころから好きで、大学の航空学科に入ったんですけど、入ってみると安全に対する、非常に重い責任を負わないといけない、といったところに直面します。『マッハの恐怖』(柳田邦男氏の航空事故の原因を究明したノンフィクション)という本が出てそれを読むと、空を飛ぶのを、カッコいい、ということでこの道を目指したことに、ちょっと反省をするわけです。もっと重い事実だな、と。そこで安全をいかに維持、向上させるか、というところに取り組まないといけないな、と思いまして、それで落ちない飛行機を研究しようと思ってずっときたわけです。単に飛ぶ、ではなく、安全に飛ぶを追求したいわけです。有人機と無人機とは違うわけですが、私の中の存在感としては、あまり違わないです。飛ぶことを自由にコントロールするという意味において。同じような存在です。

      ――JUIDAとしてほかに取り組むことは
      鈴木理事長 実はもうひとつ、JUIDAでやろうとしていることがあります。いま、ドローンの技術、テクノロジー、創意工夫などを共有する場がないのです。学会、技術論文集、発表、というアカデミアの世界があるのですが、ドローンでは育っていない。技術の発表先がほとんどないのです。すそ野を広げることも大事ですが、技術のレベルをあげること、頂点を高くするということも必要。そういった技術を発表する場として、ドローンの技術ジャーナルのようなものを作ることに取り組みたいと思っています。

      ――ドローンの業界をリードし得るプレイヤーがどんんどん登場し、買活しています。伝えたいことは
      鈴木理事長 心強い限りで、どんどん活躍して頂きたいです。伝えたいことがあるとすれば、ビジネスには競争がありますので自社の利益を追求することになるのですが、それだけでは社会全体に広がらない側面もあるということ。みんなで築くプラットフォームなり文化なりも視野に入れて頂ければいい。みんなで基盤を作って、みんなで広げられればいいと思います。

      ――ありがとうございました。

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
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