• 2019.9.17

    【慶大×田村市】“よそ者”学生が作ったPR動画の発表に来場者から「感動」の声

    account_circle村山 繁

      慶大ドローン社会共創コンソーシアムは9月13日、福島県田村市役所で9月10日から取り組んできたフィールドワークの成果を発表した。学生ら16人が4グループに分かれ、それぞれのテーマで、テレビコマーシャルフィルム風の15秒の動画と、それよりも少し長い1分の動画に仕立てた。当日は発表を聞きつけた市民ら約25人が参観に訪れた。田村市からみれば“よそ者”の学生が作った映像は田村市への愛情にあふれ、来場者からは「すばらしい作品」「感動した」などの声が相次いだ。映像作品は今後、市の玄関口であるJR船引駅前のディスプレーで公開するほか、地元のドローン活動隊「ドローンコンソーシアムたむら」がSNSを活用するなどして、海外からの渡航者に対し「ドローンツーリズム」をアピールし呼び込みに力を入れる。

    発表学生は当日午前4時まで編集 「気兼ねなく飛ばせる強み」「ぜひまた来たい」と笑顔

      今回の発表会を企画した慶大ドローン社会共創コンソーシアムは、ドローンを活用した地域の産業振興に取り組んでいる。田村市では人材育成、農業への活用などを多角的に進めてきた。田村市がドローン関係者の間で、ドローンに理解のある受容性の高いまちとしての認知度が高まり、関係者が田村市を訪れる機会が増えているのもこうした地道な取り組みの積み重ねの成果でもある。慶大はこうした産業振興のサイクルを「たむらモデル」と位置づけ、地域振興の体系化に取り組んでいる。

      発表会の冒頭、慶大ドローン社会共創コンソーシアムの古谷知之代表が、「短期間ではありますが田村の各地に協力を頂きました。学生もそれをありがたく感じて、一生懸命動画を作りました」と経緯を説明した。実際、学生たちは発表当日の午前4時ごろまで編集作業に没頭していたという。南政樹副代表は一連の取り組みを「ドローンツーリズム」と位置づけていることを説明。田村市で取り組んできた人材育成、農業に次いで、ドローンを観光振興に役立てる取り組みであると伝え、「田村のみなさんには、こうした取り組みが続けていることを頭の片隅に置いて頂けると大変助かります」と地元の理解と協力を求めた。

      発表では参加大学生が4つのグループに分かれて実施。A班は海外からの渡航客誘致を目指し、ふたつの動画を製作した。ひとつは「景色」に焦点をあて、自作したBGMを背景に15秒でテレビのコマーシャルのインパクトを狙った作品で、もうひとつが、「見る人が“楽しい”を想像できるように」SNSでの拡散も念頭に1分に編集した動画だ。それぞれを発表したあと、「事前アポ。交流風景が取れたのではないか」と反省点をあげることも忘れなかった。

      ここで田村市の菅井友宏副市長が会場を訪れて登壇し、「慶應大学の学生のみなさんには、おこし頂き、ありがとうございました。田村市の名所、施設を見て頂きました。編集作業に少しだけ立ち会いましたが、真剣に議論を重ねておられました。住んでいるわれわれにさえ気づかない田村の魅力を気づかせてもらえるのではないかと期待しています」とあいさつした。

      このあと、B班は、ドローンのほかに小型カメラ、360度カメラも活用して、「ユニークなまち」と「人とのふれあい」を表現するように1分間に編集した作品を発表した。発表時に披露できなかったVR映像を、発表後に体験できることを説明し、声をかけてもらうよう会場に呼びかけた。C班は滝、川など「田村市の水」の魅力に絞って編集。班員がそれぞれの視点でまとめた。滝の勢い、穏やかさなど、水の表情を「ふだん見ている人では気づかない視点を見せられるように」15秒や1分の動画にまとめた。なおC班では石原匠さん(1年)が同じ素材を使いながら、市民や班員の笑顔をちりばめた作品に仕上げた。D班は外国から訪問者が抱くと推測される感情を「まだ見ぬ物語」として15秒にまとめることを試みた。映像から漏れたメイキング動画もBGMをつけて紹介した。タイ語のテロップを入れたものも作り、海外への拡散も意識した作りを強調した。

      これらの映像では、赤いそばの実がなる畑、神社、田んぼアート、食事どころ、天文台、鍾乳洞、風車、滝など多くの田村市の見どころが紹介され、観覧した市民からは「これをたった2,3日で作るなんて驚いた。どれも素晴らしい作品ばかり」、「一生懸命に取り組んでくれたことが映像からあふれていた。田村への愛情を感じて感動しました」などと話していた。

      会場からは「動画で魅力を発信する先鞭になるかもしれません」「田村市民でもよさをすべて知っているわけではありません。地元の子供たちが地元の良さを知り、やがて広くPRすることにつながると思いました。教育面でも活用を考えたい」などの発言があった。

      参加した学生の一人でドローンのサークルに所属している中村光一さん(環境情報学部2年)は「ドローンを飛ばしていると地元の人が寄ってきて『それいくらなの』と声をかけてくれ、とても暖かく感じました。ドローンについては、まだ特別な思いを持っている人もいるかと思いますが、触れる経験を重ねていけば特別なものではなくなると思っています。ネガテフィブな印象を持っている人がいらっしゃることも知っていますが、今回のような取り組みを重ねることで、特別なものから一般的なものにできると思っています」と述べた。発表前はほとんど眠れていなかったというが、「とても楽しい4日間。ぜひまたきたいです」と声をはずませた。

      那須蘭太郎さん(環境情報学部2年)も「飛ばせる場所が多いことはとてえがたい経験でした。ほかでも飛ばせますよ、というところはあるのですが、そこが気兼ねなく飛ばせる場所か、といえば、必ずしもそうでないことも多いのです。気を使ったフライトで撮影すると、映像にもダイナミックさが出なかったりすることがあります。でも田村市は違いました」と、ドローンに理解のある町ならではの価値を感じていた。また、ドローンを使える人を増やすために「ドローンは、機械に詳しくなくても、ITの知識がなくても、スマホと同じように使えることを伝えたいと思っています。ドローンが特別なものでく一般的なものになれば、楽しくて豊かになると思います。楽しいって大事なことなので、ぜひ『楽しい』を多くの人に味わってほしい」と話していた。

      編集作業の最終局面で笑顔に切り替えた石原さんは、「田村ではふだんできない経験ができました。もともと笑顔の力を発信したいということが自分もここ最近のテーマで、思い切って途中で切り替えました。笑顔の力を伝える方々が世の中にいらっしゃいますが、この機会にこの動画を創れたことで、そんな人に一歩でも近づければと思っています」と充実した表情を見せた。

      田村市は今後、動画をFBやHPほか、PRに活用できる場所で公開していく予定だ。

    A班の発表
    B班の発表
    C班の発表
    D班の発表
    あいさつをする古谷知之慶大ドローン社会共創コンソーシアム代表
    独創的な作品が発表された
    趣旨を説明する慶大ドローン社会共創コンソーシアム副代表
    田村市の菅井友宏副知事も駆けつけ、あいさつをした
    会場には多くの市民が訪れた
    発表を待つC班も緊張気味。中央は指導を担当した前場洋人さん。左手前が班のリーダー、中村光一さん。右は編集の最終段階でテーマを「笑顔」に転換した石原匠さん
    D班が発表前の最終チェック。指導をしたJINSOKUTSUの南博司代表も真剣。メンバーは笑顔

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
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