住友商事株式会社、ダイハツ工業株式会社、三井住友ファイナンス&リース株式会社(東京、SMFL)の3社は1月14日、農業用ドローンの設計・製造・販売を手掛ける株式会社ナイルワークス(東京)の第三者割当増資を引き受けたと発表した。ナイルワークスの第三者割当増資を引き受けるのは住友商事にとっては2017年、2019年に続き3回目、ダイハツ、SMFLは初めてだ。
ナイルワークスは、「空からの精密農業」を掲げ、自動飛行する農業用ドローンの開発や、ドローンに搭載した専用カメラによる生育診断など農業のデジタル化の推進を手がけている。これらを通じて農作業の負担軽減、工数圧縮を果たすことを通じて、農業従事者の安全を確保し、美味しい作物を低コストで生産出来る環境を整えることを目指す。
今回の増資引き受けを通じ、住友商事はグローバルかつ幅広い業界から蓄積した事業経営ノウハウでナイルワークスのさらなる成長を支援する。ダイハツは農家への軽トラック販売で培った知見・技術を生かし、ナイルワークスを支え、農家に役立つソリューションを提供します。SMFLはリース・ファイナンス機能を生かし、農業生産現場のニーズに適合したリースなどのファイナンスプランの展開で農業用ドローンの普及を支援するとしている。3社とも、他の既存株主とともにナイルワークスを多面的に支援する方針だ。
PC製造やEMS事業を手掛けるVAIO株式会社(長野県安曇野市)は4月9日、ドローン機体開発の子会社、VFR株式会社(東京)の営業を開始したと発表した。VAIOが培ってきたコンピューティングの技術や、2018年以降、国内外のドローン事業者との協業で蓄積してきたドローンの設計、生産などのノウハウを「空飛ぶコンピューターともいわれるドローンの開発」に生かす。当面はテレワークで業務を進め、問い合わせや協業の相談は相談窓口( info@vfr.co.jp )で応じる。
VFRは国内外のパートナーとの共創をベースに、用途に最適化された機体、コンポーネント、ソリューションを提供する。ドローン事業者などからの、設計、製造、修理を請け負うほか、自社製ドローンの企画、設計、製造、販売、修理、保守、点検、輸出入も視野に入る。VAIOのチーフイノベーションオフィサー(CINO)留目真伸氏が代表取締役社長として経営を率いる。「VAIOが作り上げてきたコンピューティングの世界を地上だけでなく空や海などにも拡大」する。
事業はドローン事業者向け、サービサー向け、エンドユーザー向け、全ドローン産業関係者向けの4領域で展開する。ドローン事業者向けには、ドローンの設計・開発・製造を提供する。サービサー向けにはドローンの機体提供、ソフトウェア開発、ソリューション共創を展開し、エンドユーザー向けにドローンを活用したソリューションの提供を進める。さらに全ドローン産業関係者向けに、エコシステム共創を手がける方針だ。
母体のVAIOは2018年からドローン市場で事業を進めている。これまでに、株式会社ナイルワークスの農業用大型ドローン「Nile-T19」の量産、株式会社エアロエクストの重心制御技術4D Gravityの原理試作支援、中国の産業用ドローン大手MMCとの事業検討などを進めてきた。ドローン事業への本格参入し、成長加速のためVFRを設立した経緯がある。
農業用ドローンの株式会社ナイルワークス(東京、柳下洋社長)は5月24日、新型ドローン「Nile-T19」の出荷を開始した。機体を製造したPC企画、製造、開発、EMS事業などで知られるVAIO株式会社(長野県、吉田秀俊社長)で初出荷が行われた。ナイルワークスの柳下洋社長はあいさつの中で「この技術で世界の農家を変えたい」と意気込むと、生産拠点であるVAIOの吉田秀俊社長も「この日を迎えられて感無量」と応じた。
この日出荷された「Nile-T19」の機体はナイルワークスが「完全自動飛行型」を誇る自信作。圃場の形をタブレットに登録すると飛行経路を自動生成し、タブレット上の「開始」ボタンを押せば離陸から着陸までが自動だ。機体は作物の上空を30~50センチメートルの至近距離で飛行し、薬剤散布のさい飛散量を抑制する。8リットルの薬剤が積むことができ、1ヘクタールを15分で散布ができるなど、従来に比べ負担が大幅に軽くなる。
機体の大きさは幅1820ミリメートル、奥行き1410ミリメートル、高さ823ミリメートルで、重量はバッテリーを含めて18キログラムだ。アームを4本持つクアッドコプタータイプ。ただ、それぞれのアームには回転の向きが反対の2つずつ4組ついており、計8つのプロペラを備える。このプロペラが飛行と農薬や肥糧の散布を担う。プロペラ周囲は機体に固定されたプロペラガードが覆い安全性を高めている。
加速度3軸、角速度3軸、地時期3軸、気圧、ソナー、RTK-GNSSなど12種類のセンサーを搭載。独自に開発したナイルワークスフライトコントローラーが飛行を制御し、機体の実際の位置と目標地点との誤差を2センチメートル以内に細かく制御できる。薬剤の散布のON、OFFの切り替えのタイミングや散布吐出量は飛行速度と算出された薬剤の必要量に応じて自動調節できる。
生育状況を監視するカメラも搭載していて、至近距離から圃場データを収集。作物の生育状況を一株ずつ診断できる。角度の高い収量予測や精度の高い可変量施肥、除草剤や殺菌剤のピンポイント散布の実用に向けた準備も進めている。
基本セットは、Nile-T19本体(生育監視カメラ付きの機体)1機、バッテリー2個、充電器1台、基地局1セット、測量機1セット、基地局・測量機用バッテリー2個、基地局・測量機用バッテリー充電器1台、操縦者用タブレットだ。
この日の出荷式では、関係者が生産拠点であるVAIOの工場を見学し、製品が確実に組み上がる仕組みや、作業員による丁寧な作業ぶりを確認した。その後、出荷前に行われる飛行試験のデモンストレーションを見学した。デモンストレーションでは、関係者が見守る中、オペレーターがタブレットの「開始」ボタンを押すと、Nile T-19の機体が自動で高さ3メートルほどに浮上し、高度を維持したままあらかじめ生成されたルートをたどって着陸した。その後、初出荷の機体を収めたコンテナを積んだトラックが、引き渡し先にむけて出発した。
出荷式でナイルワークスの柳下社長は「“技術者魂”というものがあります。それは利用者に伝わるものです。私はかつて安曇野で生産されたNEWSといコンピューターを手にしたとき、開発者の利用者に対する思いをひしひしと感じました。ところで私はいつも『日本の農業を世界の最先端にする』と言っています。その思いに賛同して頂いたみなさんがNile-T19に関わって頂きました。これを手にする農家のみなさんに、その思いが伝わると信じています」とあいさつした。
また生産拠点となったVAIOの吉田社長も「昨年にこのお話をいただき、それから10か月で飛行する姿を見ることができました。この日を迎えられ感無量です」と応じた。
出荷式のあと、報道陣の取材に応じた柳下社長は、機体の生産計画について「2019年度が100台、2020年度が500台、2021年が2000台」と説明。2021年ごろには海外展開も視野に入ると展望を述べた。機体は現在、液剤の散布に対応しているが、粒剤への対応も進めている。また病気検出の即時性の向上、移動などの利便性のさらなる追求、小麦への転用などへの転用の実装にも取り組んでいて、「散布だけではなく、適時、適切に判断し、適切に自動で作業をすることこそドローンの仕事」と意気込みを語った。