古河電気工業株式会社(東京都千代田区大手町)とグループ会社の古河産業株式会社(東京都港区新橋)は特殊大型ドローンで12㎏の飲料水を往復12㎞にわたり自動で運搬する実験を実施したと発表した。運用したドローンは株式会社DroneWorkSystem(福島県いわき市)が開発した最大49㎏積載可能な「EAGLE-49」で、今後は今回の課題の洗い出しを進め、美郷町の防災・減災推進を支える。また古河電工は今後、新規事業分野へのドローンの活用の可能性を検討する見込みだ。
運搬実験は10月25日、島根県邑智郡美郷町で災害時の救援物資運搬を想定した。実験では備蓄用飲料水など総重量12kgの荷物を積み、往復12㎞を自動飛行させるミッションを設定し、想定した通りのミッションを遂行した。今後は実験結果を検証し、課題や改善点を洗い出す。
EAGLE-49は6つのローターを備える回転翼ドローンで、重い荷物を吊るして運ぶ運用に対応する特徴を備える。長尺の木材やパイプなど長さのあるものや液体で満たされた一斗缶など、49㎏までの運搬に対応する。吊り下げた荷物の揺れが飛行に影響することを避けるため、「振り子揺れ防止機能」や縦揺れ防止機能も備えていることが特徴で、2023年5月に千葉・幕張メッセで開催された「CSPI-EXPO」や、2023年9月に長崎市の出島メッセ長崎で開催された「第2回ドローンサミット」、2023年11月に福島県郡山市で開かれた「ロボット・航空宇宙フェスタふくしま2023」などでも展示され、多くの来場者が足を止めて見入っていた。
今回発表された運用例は、重い物を空で運ぶ必要性のある場合の具体的な事例となる。古河電工はドローンの活用について「新規事業分野への活用の可能性についても検討しています」と話している。
古河電工による発表は以下の通り。
● 島根県美郷町と災害時を想定した特殊大型ドローンによる救援物資の運搬に関する実証実験を実施 ● 往復12kmを自動航行し、備蓄用飲料水(総重量12kg)の長距離運搬に成功 ● 本実験で抽出された課題の解決などに取り組み、美郷町の防災・減災に向けたインフラ整備を推進
古河電気工業株式会社(東京都千代田区大手町)とグループ会社の古河産業株式会社(本社:東京都港区新橋)は、島根県邑智郡美郷町と災害時を想定した特殊大型ドローンによる救援物資の長距離運搬に関する実証実験を本年10月に完了しました。
■背景
自然災害が頻発・激甚化するなか、美郷町が位置する中山間地域では、災害時に孤立する恐れがある地域が多数存在することから、ドローンを活用して救援物資を運搬する仕組みを整備するなど対策が急がれています。
当社は2020年11月に美郷町と包括的連携協定を締結し、2022年からは古河産業と「林業イノベーション実証事業」において、特殊大型ドローンにより苗木や資材を急傾斜地などに運搬する実証実験を実施するなど、ドローンに関する実績や知見を活かして中山間地域の課題解決を支援しています。
■内容
今回の実証実験では、美郷町内を流れる江の川が氾濫して道路が通行止めになったという想定のもと、特殊大型ドローンによる救援物資の長距離運搬を行いました。特殊大型ドローンは、美郷町防災公園と吾郷公民館の往復12km(江の川上空を中心としたルート)を自動航行し、総重量12kgの備蓄用飲料水を運搬することに成功しました。LTE回線・自動航行用プラットフォームを活用した自動航行により、背の高い樹木や送電線などを回避しながら片道10分の予定に対して誤差範囲でトラブルなく飛行することができました。
今後は、本実験で抽出された課題の解決などに取り組むことで、美郷町の防災・減災に向けたインフラ整備を推進してまいります。
<実証実験概要>
日時:2023年10月25日(水)
場所:島根県邑智郡美郷町
内容:
・特殊大型ドローン(最大49kgの物資運搬が可能)により総重量12kgの備蓄用飲料水を運搬
・美郷町防災公園と吾郷公民館の往復12km(江の川上空を中心としたルート)を自動航行
・到着地点の公民館で飲料水を取り出し、常備しているバッテリに交換、出発地点の防災公園に戻る
<関連ニュースリリース>
林業の省力化に向けた特殊大型ドローン活用による実証実験を開始
https://www.furukawa.co.jp/release/2022/kenkai_20220908.html
古河電工と島根県美郷町 包括的連携に関する協定を締結
https://www.furukawa.co.jp/release/2020/kei_20201125.html
■古河電工グループのSDGsへの取り組み
当社グループは、国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」を念頭に置き、2030年をターゲットとした「古河電工グループ ビジョン2030」を策定して、「地球環境を守り、安全・安心・快適な生活を実現するため、情報/エネルギー/モビリティが融合した社会基盤を創る。」に向けた取り組みを進めています。ビジョン2030の達成に向けて、中長期的な企業価値向上を目指すESG経営をOpen,Agile,Innovativeに推進し、SDGsの達成に貢献します。
古河電工グループの古河産業株式会社(東京)と測量、空撮などオペレーションの実力者集団として知られる有限会社KELEK(ケレック、東京)、機体技術、開発で豊富な実績を持つ五百部商事有限会社(栃木県)で構成するドローン開発チーム「FDS」は9月29日、49㎏までの荷物を運ぶドローン試作機のバージョン3(第三世代機)を完成させた。バージョン3は8ローターを水平に配置した回転翼機で、旧バージョン機からモーターを変更し、積み荷の運び方も見直した。完成当日には、工業用の塗料の入ったスチール製の一斗缶を模擬した砂充填一斗缶2つをくるんだうえで機体に吊るして浮上させるなど、要求されている性能を備えていることを確認した。今後、苗や塗料の運搬など主に山の中などの現場向けに向けて運用試験に入る。現場への商用実装を目指しながら、さらなる性能向上を目指して開発を続ける。
機体は栃木県鹿沼市の五百部商鹿沼工場(栃木県鹿沼市)で9月29日に完成し、午後に試運転を実施した。向上敷地内のフライトエリアで、初飛行を実施した。1辺2.5メートル四方の躯体に回転翼8つを水平に配置した機体を、初めは無積載で、次に約20㎏の一斗缶ひとつを積載し、そして積載するものを一斗缶ふたつに増やして飛行させた。
荷物は機体から吊り下げる方法で持ち上げた。荷物であるふたつの一斗缶をくるんでワイヤーをくくりつけ、機体に取り付けられた吊り具にかける。機体が浮上するにつれてワイヤーがピンとはり、そのまま荷物をぶらさげるように吊り上げて浮上した。この間、機体の飛行は滑らかで、まだ十分な余力があるように見えた。試運転を終え機体が着陸すると「バージョンアップ、完成!」「イケますね!」などの声が上がった。
機体は、この日の実験のような塗料の運搬や、林業での苗木運搬など、山の中での重労働を強いられる現場での運用を想定している。塗料運搬は電量会社の点検作業方面から要望があるという。また山荘への物資運搬も視野に入る。今後、自治体などと実証実験を重ね、実用を目指す。来年度には、「濃密な」実験も予定されているという。
49㎏運搬ドローン開発は古河産業が企画した。同社新規事業統括部門共創プロジェクト推進部の佐々木慶部長は、「山の中で重いものを運搬しなければいけない仕事があって、かなり苦労をされています。林業として苗木を運んだり、電力会社が塗料を運んだり。力自慢の作業員に頼ってきた作業も、高齢化が進み難しくなりました。ヘリに運搬を頼むこともあるのですが、コスト面で折り合いにくい。そんな話を聞いていたので、機体開発の五百部商事に相談をしたら、機体は作れるという。オペレーションのKELEKとも話をして、重いものを運ぶ運搬機のプロジェクトを始めることにしました。この3社がFDS(Future Drone Systems)として活動しています」という。
試作の初号機は、ワゴン車で運搬できるようにプロペラを上下に重ねるようにした8発機だった。しかし山特有の風が飛行に影響を与えがちなため、機体の安定性を高める必要性があると確認できた。このためプロペラの配置を水平に変更するなどして揚力を高めた。荷物も当初は、中央に抱えるようにしていたが、長さのあるものを運ぶと揺れが制御に影響することが判明し、吊り下げる形へ変更した。荷物を取り付けたり切り離したりする吊り具を工夫したり、モジュールの位置を見直したりと改善を重ね、この日完成したバージョン3は、高出力モーターも搭載した。
バージョン3の飛行の様子を見た佐々木さんは、「機能を十分に発揮できると思います」と現場での運用に期待を寄せた。
古河産業など手掛ける機体は、山の中で重いものを運ぶ場面で活躍することを見据えている。佐々木さんはその理由を「運搬のボリュームゾーンはBtoCであったり長距離配送であったりするとは思います。でもそこにはAmazonや楽天が取り組まれると聞いています。一方で、ボリュームゾーンではなくても、山の中には明確なお困りごとがあります。そのお困りごとを解決して、本当に喜んで頂ける機体を作るほうが、数ある選択肢のひとつになるよりも私には充実感があるようです」と笑う。
そして「これは仲間がいて初めてできること。やりたいことが共有できる仲間がいることがとてもありがたいこと。この機体で成果を出しつつ、さらに改善していきます」と次の展開を見据えている。フル積載時の飛行時間の拡大など、望みは高い。