埼玉県は8月29日、さいたま市大宮区の総合コンベンション施設、大宮ソニックシティで「第1回ロボティクスセミナー」を開催した。埼玉県が2026年度の開所を目指して整備を進めているロボット開発支援施設「SAITAMAロボティクスセンター(仮称)」(埼玉県鶴ヶ島市)の概要や準備状況を紹介したほか、ロボット政策を担う経済産業省や、ロボット工学の永谷圭司東京大学大学院工学系研究科特任教授、ロボットやドローンの開発で知られる株式会社アトラックラボ(埼玉県)の伊豆智幸代表取締役らも登壇し、最新動向を報告したり、見解を披露したりした。
セミナーは埼玉県が、2026年度の開所を目指している「SAITAMAロボティクスセンター(仮称)」の周知や利用促進、機運醸成を目ざして開催した。ロボット開発、活用などに携わっている企業や、今後参入する予定の企業が対象で、会場はほぼ満席となった。
センターは、埼玉県が首都圏中央連絡自動車道の圏央鶴ヶ島インターチェンジ(埼玉県鶴ヶ島市三ツ木)の隣接地に整備する。移転した埼玉県農業大学校などの跡地r隣地で、12万平方メートルほどの敷地に、ネット付きドローン飛行場や、模擬市街地フィールド、レンタルラボ、コワーキングスペース、屋内実証フィールドを整備することが検討されている。農林水産、建設、物流、移動などサービスロボットの開発を中心に、対象分野の範囲に方向付けを行う見通しだ。
センターの場所は都心から直線で約45㎞圏と類似施設と比べアクセスが容易で、埼玉県はセンターに隣接する産業用地への企業誘致にも力を入れている。
セミナーでは埼玉県の村井秀成産業労働部次世代産業幹が「先端産業を誘致し、社会課題解決に資するロボット開発拠点として『SAITAMAロボティクスセンター』の整備を進めています。現状ではそうはなっておりませんが、『ロボットといえば埼玉』と言われるように取り組んで参ります」とセンターの担う役割の大きさを説明した。
また東大大学院の永谷圭司特任教授が、東日本大震災で爆発した原子力発電所の建屋内部を調査するロボットを開発したケースや、火山災害対応、プラント点検対応などの具体例を紹介しながら、ロボットを開発するうえでの、テストフィールドの重要性を解説した。
永谷氏は「ロボット開発の工程である、妄想、シミュレーション、模型、模擬環境、実環境のうち、テストフィールドは模擬環境部分を担います。『SAITAMAロボティクスセンター』には、研究所と現場の橋渡しを期待したい」と述べた。
アトラックラボの伊豆智幸代表取締役は、手掛けている技術をロボット制御、遠隔制御、ロケーションアナリティクスに分類し、デリバリー用搬送車、ハウス栽培のイチゴをカウントする園芸用ロボット、疾病者搬送車両、気象観測用高高度ドローンなど、それぞれの技術を活用して開発したロボットについて、動画を投影しながら紹介した。
伊豆氏はセミナーで、「技術は外注すれば手に入ります。まずは世の中の困りごとを探してください。それを解決することで、あすからでもサービスロボットの運用事業者になれます」と、課題解決の入り口をつかむことを提案した。
このほか経済産業省製造産業局産業機械課ロボット政策室の秦野耕一調査員がロボット運用に適したロボットフレンドリーな環境の実現をテーマに講演し、経産省商務・サービスグループ物流企画室の脇谷恭輔係長は、自動配送ロボットの社会実装に向けた取り組みを紹介した。
セミナーにはロボット、ITなどの関連産業の関係者を中心に約60人が来場した。セミナーの様子は、申込者を対象に9月14日までオンデマンド配信を提供する。これまでに約300人の視聴の申し込みがあるという。配信最終日の9月14日まで、こちらのサイトから申し込める。
映像制作の株式会社Surfrider(東京)が千葉県市原市に、ドローンやラジコン飛行機などの飛行場「市原ドローンフィールド (Ichihara Drone Field、I.D.F)を開設した。6月26日にはオープニングイベントが行われ、腕利きのパイロットによるデモフライトなどが行われた。都心近接の立地と、約20万㎡の広大な敷地を、新型機の開発やフライト技術のトレーニングなどに生かす。ドローンレーシングチームRABBITS-FPV代表のえりんぬ(中川絵梨さん)がアドバイザーとして運営に携わり、土日を中心に利用者を受け入れる。
「市原ドローンフィールド」は、JR内房線・小湊鉄道五井駅から東に約10キロの中山間地に広がる丘陵地で、電柱などの構造物がない。都心からは1時間FPVレースSurfriderがテレビや映画などの撮影に使っていて、都心から1時間圏内とアクセスがよく、まとまった広さが確保できるため、合戦シーンなど大掛かりな撮影に重宝している。
この場所をドローンの開発や試験飛行に生かしてもらうため、ドローンフィールドとして活用することにした。FPVレース用のエリア、有視界飛行エリアが設けられ、原則として予約して利用できる。レース用ゲート、障害物なども設置してあり、このエリアだけで3万平方メートルほどを確保した。機体性能を発揮したフルスピードでの直線飛行も、急降下、急上昇も可能だ。今後、地域の人材育成などへの活用も検討する。
6月26日のオープニングイベントでは、開設を聞きつけた愛好家や事業者が、ラジコン飛行機を持ち寄り、使い心地を試した。腕利きのパイロットによるデモンストレーションも行われ、スゴ技の連続に来場者から拍手があがった。
会場では、FPVドローン展示販売店GSRTA(ジーエス アールティーエー、千葉県船橋市:https://www.gs-rta.com/)もテントを広げ、さまざまな機体を展示して来場者が足を止め見入っていた。同店はドローンのショップとしては珍しい実店舗として関係者の間で知られ、初心者から愛好者まで多くの利用者が頼る。この日も「市原で飛ばして壊した場合には帰りに立ち寄ってほしい」などとアピールした。
またあげパンの名店「Café&Bar」(埼玉県日高市)がキッチンカーを出し、名物のあんバターあげパンをその場で揚げて提供するなどして彩りを添えた。
Surfriderの松家健代表は「機体開発の方々から、首都圏近郊で広い土地を確保したいという声をよく耳にしていました。都心から1時間でこられるので、そんな方々のお役にたてればと思っています。確認したい飛行性能に応じて、構造物をつくる相談も受けられるので、そんな声も効かせてほしいと思っています」と話している。
アドバイザーのえりんぬは「手探りで運営をすることになりますが、利用者の声に耳を傾けて改善を重ねていきたいです」と利用者に使いやすいフィールドを目指す考えを表明した。
■市原ドローンフィールドの公式サイト(今後予約情報を更新)
■問い合わせ先は松家(マツカ)さんまで
:info@surfrider.biz
石油元売り最大手のENEOSホールディングス株式会社は1月20日、首都圏にあるプラントの遊休設備を有効活用し、ドローンを飛ばせる「実証フィールド」として運用する方針を明らかにした。4月をめどに運用を開始するとしている。同社はドローン事業を展開する株式会社センシンロボティクス(東京)に出資するなど連携関係を持ち、「実証フィールド」の整備や運営でも共同で対応する。ドローンをプラント点検などに活用するにあたっては、実証環境の確保が問題のひとつとなっている。ENEOSが実証フィールド運営に乗り出せば、首都圏の中で実証環境を確保でき利便性が高まるとみられる。
ENEOSホールディングス執行役員の矢崎靖典未来事業推進部長が、この日行われたオンラインカンファレンス「FUSE」に登壇し、「プラントの一部の遊休施設を活用し、ドローンショーケース兼ドローン実証フィールドを(2021年)4月ぐらいに使ってもらえるようにしたい」と述べた。
矢崎氏は「ドローンはインフラといえるまで使われるべきもの。生活のすみずみまで使えるインフラにするのはどうでしょう、という世界観をもっている。われわれとしてできることの一環で、プラントの遊休設備の活用がある」と説明した。
矢崎氏と同じセッションに登壇していたセンシンロボティクスの北村卓也社長は「ドローンは飛行すれば落ちるリスクがあり、飛行にあたって規制もある。都市部の事業者が実証するには1時間半ほどの対応可能なフィールドに出かける必要がある」と説明。ENEOSの遊休設備の実証フィールド化について、「実際の設備を使えると、老朽化オブジェクトの点検などを想定し、配管、貯留タンク、煙突などで技術を磨ける。いきなりの本番環境ではなく、実証フィールドで試してから運用することができればメリットは大きい」と述べた。
実証フィールドが解説されるENEOSの設備や運用形態などについての言及はなかった。ENEOSは首都圏に根岸製油所(横浜市)、横浜製造所(同)、千葉製油所(千葉県市原市)、川崎製油所(川崎市)などを持つ。いずれかに設置された場合、首都圏の事業主にとっては利用しやすい立地となる。