ラトビアのドローンメーカー、FIXAR社が開発した「FIXAR 007」の飛行デモンストレーションが8月、滋賀県高島市の琵琶湖畔で行われた。回転翼と固定翼の併用機で、機体タイプはカタログに垂直離着陸をする「VTOL」であることが記されているが、垂直よりもやや角度をつけて軽やかに飛び立つ独特の離陸スタイルを披露した。デモンストレーションのためにラトビア本国から来日した同社デモエンジニア、イルマー・トーリン氏は、「設計でフォーカスした点は、コストパフォーマンスにすぐれ、シンプルで信頼できる機体であること」と紹介した。主催した株式会社World Link&Company(SkyLink Japan、京都市)は、「日本に向いた機体ではないかな、と思っています」と話している。
飛行が披露されたのはオリジナルのFIXAR 007に、LTE対応の改良を加えた「FIXAR 007+LTE」。カスタマイズはWorld Link&Companyが担った。
翼長は162㎝で、フレームに4つのモーターが取り付けられ、そこに回転翼がつけられている。4つのモーターの回転軸はいずれも地面に対し斜めに取り付けられている。チルトする機構は備えておらず、斜めのまま角度が固定されたプロペラは大きな特徴だ。飛行中の左右の傾きを制御するエルロンも、進行方向を左向き、右向きに制御するラダーもない。制御はすべてプロペラが担う。このためフラップがあれば必要となるサーボモータが不要だ。稼働部を減らすことを徹底的に追求したシンプルな構造となっている。
「ないもの」はほかにもある。たとえばコンパスがない。機体の飛行方向などの把握には、ピトー管で測定した風速とGPSを使う。
プロポも本来は、ない。同社が独自開発した「FIXAR xGroundControlソフトウェア」を使いパソコン上で飛行ルートなどのミッションを作れば、離陸してミッションをこなす。人での操縦を想定していないためプロポが設定されていない。ただし日本向けには、操縦者が機体制御の責任を持てるようにするため、プロポに対応させている。
ミッションをつくる「FIXAR xGroundControlソフトウェア」は、飛行ルートを設定するさいに、画面上で平面に高さも加えた3次元でつくれることが特徴だ。斜面を含む地形を空撮したり測量したりする場合、対象の地形を地図から選び、飛行の高さなど必要な情報を入力すると、ソフトウェアが3次元でラインを生成する。生成したルートを手入力で修正することも可能だ。
実演では、特別な演出もなく機体が地面に置かれたところからスタートした。見学者が取り囲んで見守る中、「起動します」の合図とともにプロペラが回転しはじめた。と思ったら、数秒で機首を上空に向けて勢いよく、軽やかに飛び上がった。ふわりとゆっくり浮上する様子を予想していたが、それとはまったく違い、直線を斜め上にすっと引くような上昇軌道を描いた。ロケット花火の打ち上げに似ていると話している見学者がいた。
上昇しきると静止することなくそのまま水平飛行の態勢に移行した。上空100mを巡行していても、ややプロペラ音が聞こえるのは、マルチコプターと似ている。飛行音は上空をすべるように飛ぶWingcopterなどとは趣が異なる。
機体は数分後、測量のミッションを終えて、ほぼ元の位置に戻ってきた。着陸時には目標地点上空で、ホバリングをしながら態勢を整える。首を斜め上にもたげた離陸時と同じ姿勢をとり、そのまま斜め上を向いたままゆっくりとおりてくる独特な着陸スタイルだ。着地も手動の補助なしでほぼ離陸場所に降りた。
最大離陸重量は7㎏でこのうち5㎏は本体とバッテリーのため、それ以外に2㎏までの荷物が積める。離陸150gのペイロードなら75㎞飛行でき、400~500gのカメラを使えば45㎞から50㎞の空撮が可能(直線ルートなら55㎞)という。ペイロードめいっぱいの2㎏のLiDARを搭載すると25㎞飛べる。
どこまでもシンプルを追求した機体は、収納もシンプルだ。ふだんは専用の容器に納められていて、容器をあけると、本体と左右の翼が出てくる。それだけだ。組み立ては固定翼を本体に取り付けたら終わる。
FIXARのイルマー氏は、シンプルの追求はラトビアの厳しい寒さに関係があると説明する。「厳しい寒さの中で飛行させようとしても凍結して飛ばせないことがしばしば起こります。このため、凍結して不具合を起こす場所を、そもそも減らすことを考えてできあがったのがこの機体です」と説明する。
WorldLink&Companyの渡辺一生執行役員は、「その結果、取り扱いが簡単になりました。測量需要の旺盛な日本に向いている機体だと思っています」と話した。日本仕様は4GLTEに対応する。価格は「同じクラスのほかのVTOL機の半分ぐらい」という。
測量などの現場作業で、ドローンはもはや定番の道具だ。千葉・幕張メッセで5月25日に開幕した「第4回建設・測量生産性向上展」(主催、建設・測量生産性向上展実行委員会)では多くのブースで陸、海、空のドローンを出展し、そのことを証明している。展示会では中国の水中ドローンメーカーCHASINGの「CHASING M2 PRO MAX」やラトビアのメーカーFIXARの「FIXAR 007」が初めてお披露目されるなど、この日にあわせて公開を準備してきた技術も多い見ごたえがある。定番化した道具は今後、技術の高さや使い勝手のよさを競うことになりそうだ。
株式会社スペースワン(福島県郡山市)は水中ドローン「M2 PRO」の進化版として登場したばかりの「CHASING M2 PRO MAX」を公開した。一般向けに公開されるのはこの展示会が初めてだ。として展示した。知床の観光船「KAZU1」が曳航中に再沈没した深さ180mを超える水深200mまでの最大潜航能力を持ち、8つのスラスター(水中用のプロペラ)はそれぞれ大きくなり、モーター出力も前モデルと比較して30%向上。前後左右、チルト、横回転など水中で360度の移動ができる。稼働半径は最大400mだ。
太陽光の届かない水の中での活動に欠かせない照明も強化された。ひとつ4000ルーメンの明るさを持つLEDフィルライトを2つ外付けする。本体から腕が伸びたように設置することで照らす角度を最適化し、本体のカメラが映し出す映像にか、水中のプランクトンなどが反射する悪影響を軽減する。アクセサリーを取り付けやすくしたドッキングステーションが内蔵されるなど操作性も向上した。
株式会社World Link&Company(京都市)は、ドローン開発が盛んなラトビアの回転翼(プロペラ)と固定翼の融合型の機体、「FIXAR 007」を公開した。同社に「一週間ほど前に届いたばかり」で一般には初公開だ。回転翼で浮上し、上空で水平飛行に切り替わるVTOL(またはSTOL)で、プロポ操作による操縦を前提としない自動航行機だ。
最大の特徴は機体の構造がシンプルなこと。翼に機械的な稼働部がなく、回転翼、固定翼ともチルト(角度をかえる機構)がない。回転翼は地面に向けて真下ではなく、角度をつけてとりつけられていて、離陸時には角度をつけて飛び上がる。このため垂直に飛び上がることを前提としたVTOLに分類するより、STOLではないか、と言われることもある。ただし既存STOLのように離陸のために滑走設備は不要だ。
「既存機の半額」「セッティングに2分」「ミッション設定が3Dで可能」など多くの特徴を持つ。プロポの附属はなく必要に応じFUTABAなどを使うことになる。ペイロードが2㎏なので用途は限定的で「広範囲の飛行が必要な測量などに向いていると考える。セッティングが手軽なので日本市場で受け入れられやすいでのではないでしょうか」と担当者は話している。
同社のブースにはACSLのPF―2、ソニーのAirpeak S1などの話題機も展示されている。
展示会では株式会社ジュンテクノサービス、金井度量衡株式会社、株式会社Ace-1ほか多くのブースでドローンや、ドローンを活用したソリューションの展示、説明が行われている。展示会は27日まで。