• 2022.2.15

    「勝浦タンタンメン」をスープこぼさずあつあつでドローン配送 エアロネクストなど商店街活性化の実証実験

    account_circle村山 繁

     飛行中も荷室が傾かない技術を搭載したドローンが2月11日、千葉・勝浦のご当地グルメ「勝浦タンタンメン」のスープ、具材、麺のセットを、配送拠点から1.7㎞離れた配送先の別荘地「ミレーニア勝浦」まで運んだ。勝浦タンタンメンはスープがこぼれることなどなく届けられ、口に運んだ子供が「アツっ」と声をあげたことで、あつあつのまま届いたことも伝わった。関係者は今後、実装に向けた課題を洗い出し、検証する。

    「自動で無人で安全で気兼ねなく利用できそう」の声

     勝浦タンタンメン配送は、千葉・勝浦エリアの買い物難民の解消、商店街の活性化などを目的とした実証実験の一環だ。実験は2月9~11日に、運輸大手西濃運輸グループの持株会社、セイノーホールディングス株式会社(岐阜県大垣市)、ドローンの機体技術開発と製造、運用を手掛ける株式会社エアロネクスト(東京)、エアロネクストの物流子会社株式会社NEXT DELIVERY(山梨県小菅村)が、住友商事株式会社(東京)、勝浦市商工会の協力を受けて実施した。11日の実験が公開され、この日は勝浦市の土屋元市長も駆けつけた。

     公開ルートは、平成29年3月に閉校した旧興津中学校の校舎を転用した興津集会所から、分譲別荘地「ミレーニア勝浦」までの約1.7㎞。当初は別ルートを想定していたが、想定ルート上に風速24m/秒を観測したことなどを考慮して変更した。興津集会所では機体にコメ、ミソ、カツオ節などの食料品約2㎏を積んだ箱を機体の屋根をあけて格納。荷物を機体の裏側に潜り込むことなく詰める様子に、見学者が「あれなら簡単ですね」と話し合う様子が見見られた。コンピューターで設定したルートを機体に転送したのちに離陸させると、安定して浮上し、目的地に向けて進路を変えた。

     公開の参加者一行は、離陸場面の見学後に、着陸側の別荘地「ミレーニア勝浦」に移動。ミレーニア興津集会所でのスタッフから無線で「離陸」の連絡が入ると、関係者や、あらかじめドローンの飛来を聞かされていた別荘地の人々が上空を見上げ、数分でドローンが上空に表れた。機体が所定の場所に着陸すると住民から拍手が上がった。機体は荷物を自動で切り離すと、すぐに浮上し帰還した。

     ドローンが届けた箱は子供たちが待つガーデンテーブルに運ばれた。スタッフが中から、テイクアウト用のどんぶり容器に入ったスープ、具材、麺を取り出すと子供たちから「わあ」と歓声が上がった。スープの容器をあけると湯気が立ち上った。それぞれをあわせて、一口目を運んだ子供は思わず「アツっ」と声をあげ、周囲の大人たちが「やっぱりあつあつのまま届くんだ」と言葉を交わし合っていた。

     なお運ばれたタンタンメンは、ご当地グルメの祭典「B-1グランプリ」で2015年に優勝にあたる「ゴールドグランプリ」獲得に導いた地元企業組合が組織するチーム「熱血!!勝浦タンタンメン船団」の正会員として勝浦タンタンメンを提供している「まんまる亭」のメニュー。子供がすする姿を見ていた大人から「食べたくなってきちゃった」の声が漏れ、笑いを誘った。

     ドローンの飛行中は、住民や関係者が着陸場所付近への立ち入りを制限したり、道路上空を飛行するさいには安全管理者が道路を走る車の往来などを確認したりと安全対策がとられた。離陸から着陸、帰還までの間、関係者や住民がドローンに対して違和感を唱える声などはあがらず、利用してみることで違和感が減らせる可能性も示した。

     実験を見ていた別荘地の住民の1人は、「勝浦タンタンメンを食べるとなると、クルマでお店に出掛ける必要があります。配達してもらう方法もありますが、きょうのようにドローンで安全に自動であつあつを運んでもらえるのであれば、無人なので運転手さんに運んで頂かなくてよいので気兼ねせずにすみますし、とてもいいと思います」と期待を膨らませた。

     実験の様子を見守っていた勝浦市商工会の小高伸太会長は「これから非常に楽しみです。これが進んで、もっと細かく配送ができるようになると、商店街の活性化にもつながると思います。夢がありますよね。これが第一歩だと思います」と目を細めていた。

     エアロネクスト、セイノーHD、NEXT DELIVERYは、ドローンを既存物流に組み込むスマート物流事業「SkyHub」を展開していて、配送インフラとして配送拠点「ドローンデポ」、配送先の離発着地「ドローンスタンド」の整備を進めるなどして、実装に向けた取り組みを山梨県小菅村などで進めている。勝浦の実験では、ドローンデポを3カ所、ドローンスタンド8カ所を仮に設定し、3日間の実験に臨んだ。

     使った機体はエアロネクストが開発した、荷室が傾かない同社独自の重心制御技術「4D GRAVITY」を搭載した物流専用機。田路圭輔CEOは「進むときの前掲姿勢による空気抵抗を計算したデザインで、空気抵抗が少ないためエネルギーの消費効率がよく、より早く、より遠くに、より重い物を、安定して運べます。あらかじめ設定した経路を自動で離陸、飛行、着陸、切り離し、帰還できますので無人化、省人化の側面から地域課題の解決につなげたいと思って取り組んでいます。洗い出すべき課題、取り組むべきことは多くありますが、着実に実装に向けて進んでいきます」と話していた。

    思わず「あつっ!」と声が上がり、あつあつで届いたことが証明された
    こぼれずに届いたスープ、具材、麺をまぜて食事の準備が整う
    着陸体制にはいるドローンを見上げる関係者と住民
    着陸後は自動で荷下ろしをして自動で離陸する
    実権のため期間中だけ仮設「ドローンデポ」となった興津集会所から離陸する荷物を積んだドローン
    機体のデザインを説明するエアロネクストの田路圭輔CEO(左)と、傾きを再現するために機体を支えるセイノーHDの河合秀治執行役員(右)
    勝浦市役所で記念撮影に収まる実験関係者。撮影時のみマスクオフ。左からセイノーHD河合秀治執行役員、勝浦市の土屋元市長、勝浦市商工会の小高伸太会長、エアロネクストの田路圭輔CEO、住友商事の多々良一郎航空事業開発部長
    離陸場所となった旧興津中学校を転用した興津集会所

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
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