飛行中も荷室が傾かない技術を搭載したドローンが2月11日、千葉・勝浦のご当地グルメ「勝浦タンタンメン」のスープ、具材、麺のセットを、配送拠点から1.7㎞離れた配送先の別荘地「ミレーニア勝浦」まで運んだ。勝浦タンタンメンはスープがこぼれることなどなく届けられ、口に運んだ子供が「アツっ」と声をあげたことで、あつあつのまま届いたことも伝わった。関係者は今後、実装に向けた課題を洗い出し、検証する。
勝浦タンタンメン配送は、千葉・勝浦エリアの買い物難民の解消、商店街の活性化などを目的とした実証実験の一環だ。実験は2月9~11日に、運輸大手西濃運輸グループの持株会社、セイノーホールディングス株式会社(岐阜県大垣市)、ドローンの機体技術開発と製造、運用を手掛ける株式会社エアロネクスト(東京)、エアロネクストの物流子会社株式会社NEXT DELIVERY(山梨県小菅村)が、住友商事株式会社(東京)、勝浦市商工会の協力を受けて実施した。11日の実験が公開され、この日は勝浦市の土屋元市長も駆けつけた。
公開ルートは、平成29年3月に閉校した旧興津中学校の校舎を転用した興津集会所から、分譲別荘地「ミレーニア勝浦」までの約1.7㎞。当初は別ルートを想定していたが、想定ルート上に風速24m/秒を観測したことなどを考慮して変更した。興津集会所では機体にコメ、ミソ、カツオ節などの食料品約2㎏を積んだ箱を機体の屋根をあけて格納。荷物を機体の裏側に潜り込むことなく詰める様子に、見学者が「あれなら簡単ですね」と話し合う様子が見見られた。コンピューターで設定したルートを機体に転送したのちに離陸させると、安定して浮上し、目的地に向けて進路を変えた。
公開の参加者一行は、離陸場面の見学後に、着陸側の別荘地「ミレーニア勝浦」に移動。ミレーニア興津集会所でのスタッフから無線で「離陸」の連絡が入ると、関係者や、あらかじめドローンの飛来を聞かされていた別荘地の人々が上空を見上げ、数分でドローンが上空に表れた。機体が所定の場所に着陸すると住民から拍手が上がった。機体は荷物を自動で切り離すと、すぐに浮上し帰還した。
ドローンが届けた箱は子供たちが待つガーデンテーブルに運ばれた。スタッフが中から、テイクアウト用のどんぶり容器に入ったスープ、具材、麺を取り出すと子供たちから「わあ」と歓声が上がった。スープの容器をあけると湯気が立ち上った。それぞれをあわせて、一口目を運んだ子供は思わず「アツっ」と声をあげ、周囲の大人たちが「やっぱりあつあつのまま届くんだ」と言葉を交わし合っていた。
なお運ばれたタンタンメンは、ご当地グルメの祭典「B-1グランプリ」で2015年に優勝にあたる「ゴールドグランプリ」獲得に導いた地元企業組合が組織するチーム「熱血!!勝浦タンタンメン船団」の正会員として勝浦タンタンメンを提供している「まんまる亭」のメニュー。子供がすする姿を見ていた大人から「食べたくなってきちゃった」の声が漏れ、笑いを誘った。
ドローンの飛行中は、住民や関係者が着陸場所付近への立ち入りを制限したり、道路上空を飛行するさいには安全管理者が道路を走る車の往来などを確認したりと安全対策がとられた。離陸から着陸、帰還までの間、関係者や住民がドローンに対して違和感を唱える声などはあがらず、利用してみることで違和感が減らせる可能性も示した。
実験を見ていた別荘地の住民の1人は、「勝浦タンタンメンを食べるとなると、クルマでお店に出掛ける必要があります。配達してもらう方法もありますが、きょうのようにドローンで安全に自動であつあつを運んでもらえるのであれば、無人なので運転手さんに運んで頂かなくてよいので気兼ねせずにすみますし、とてもいいと思います」と期待を膨らませた。
実験の様子を見守っていた勝浦市商工会の小高伸太会長は「これから非常に楽しみです。これが進んで、もっと細かく配送ができるようになると、商店街の活性化にもつながると思います。夢がありますよね。これが第一歩だと思います」と目を細めていた。
エアロネクスト、セイノーHD、NEXT DELIVERYは、ドローンを既存物流に組み込むスマート物流事業「SkyHub」を展開していて、配送インフラとして配送拠点「ドローンデポ」、配送先の離発着地「ドローンスタンド」の整備を進めるなどして、実装に向けた取り組みを山梨県小菅村などで進めている。勝浦の実験では、ドローンデポを3カ所、ドローンスタンド8カ所を仮に設定し、3日間の実験に臨んだ。
使った機体はエアロネクストが開発した、荷室が傾かない同社独自の重心制御技術「4D GRAVITY」を搭載した物流専用機。田路圭輔CEOは「進むときの前掲姿勢による空気抵抗を計算したデザインで、空気抵抗が少ないためエネルギーの消費効率がよく、より早く、より遠くに、より重い物を、安定して運べます。あらかじめ設定した経路を自動で離陸、飛行、着陸、切り離し、帰還できますので無人化、省人化の側面から地域課題の解決につなげたいと思って取り組んでいます。洗い出すべき課題、取り組むべきことは多くありますが、着実に実装に向けて進んでいきます」と話していた。
大阪府の吉村洋文知事は11月26日、なんば駅前広場で開催2日目を迎えた「道頓堀リバーフェスティバル2023」(一般社団法人大阪活性化事業実行委員会主催)の会場を訪れ、メインステージの隣に設置、展示されたテトラ・アビエーション株式会社(東京)の1人乗りeVTOL機、Mk-5(マークファイブ)の座席に乗り込む場面があった。吉村知事はいわゆる空飛ぶクルマの実現に積極的で、たびたび「乗りたい」と発言していることで知られる。
吉村知事がテトラのMk-5に乗ったのは26日午前11時半ごろ。道頓堀リバーフェスティバルの2日目の主要行事「第13回よさこい大阪大会」のあいさつのためステージにあがり、「ここミナミは大阪の個性です。ミナミが元気なら大阪が元気になる。大阪が元気なら日本が元気になる。元気な大阪を引き継いでいきたい。そして2025年に大阪・関西万博をやります。批判されている部分もありますが、それを乗り越えてベイエリアで160か国が集まる未来を見据えた万博をやりたいと思います」と、空飛ぶクルマの実現が見込まれる大阪・関西万博をアピールし大きな拍手を浴びた。
吉村知事はあいさつ後にステージからおり、よさこいのパフォーマンスを見学したあと、ステージわきのMk-5に近寄りシートに乗り込んだ。様子を見ていた来場者から「吉村さーん」などと歓声があがり、吉村知事が声の方に向かって手を振った。
吉村知事は2021年9月14日、大阪府、大阪市、株式会社SkyDriveがいわゆる空飛ぶクルマについて「実現に向けた連携協定書」を締結したさい、大阪・天保山の調印式会場に置かれたSkyDriveの前モデル「SD03」に、松井一郎前大阪市長とともに乗りこんだ経験がある。このため吉村知事は国産2機の乗り心地を体験したことになる。
またこの日の会場では前日に続き、VRコーナーに多くの来場者が詰めかけ、参加者がVRゴーグルを装着して空クルの疑似体験を楽しんだ。
大阪・ミナミの玄関口、難波駅前に11月23日に誕生したばかりの「なんば駅前広場」で11月25日、「道頓堀リバーフェスティバル2023」(一般社団法人大阪活性化事業実行委員会主催)が始まり、メインステージのすぐ横にテトラ・アビエーション株式会社(東京)の1人乗りeVTOL機、Mk-5(マークファイブ)が展示され、フェスに訪れた多くの来場者の目を引いた。フェス会場内で行われているいわゆる空飛ぶクルマの疑似搭乗体験ができるVRコーナーにも参加者が集まり、関心の高さを示した。
テトラのMk-5はフェス会場のメインステージの横に設置され、ステージイベントの観覧者はMk-5の機体を背景にパフォーマンスを見る形だ。開幕500日前を控え、機運醸成に一役買った。会場周辺を往来する人々も足をとめてスマホで撮影するなどの姿が見られた。
VRコーナーは、大阪府が力を入れている空の移動革命社会受容性向上事業のひとつで、参加者はVRゴーグルを装着することで空クルの疑似体験ができる。ゴーグルで流される映像は5種類あり、大阪市内から関西国際空港まで渋滞を回避してストレスなく移動するコース、兵庫・淡路島から大阪・中之島までの快適通勤コースなどで、利用シーンを思い描きやすくなっている。対象は13歳以上。参加希望の場合時間枠を予約する必要があり、午前10時の開場以降、続々と予約枠が埋まっていた。
また空飛ぶクルマに関する情報をわかりやすく説明したパネルも設置してあり、足を止めた来場者に担当者がていねいに説明する姿もみられた。
25日のVR体験者は「これはいい。早く乗れるようになってほしい」と期待を寄せた。テトラ機を眺めていた来場者は「実物はかっこいい。いまのうちにこの大きさにあわせた駐車場を準備しないと」と話していた。
初日のステージのオープニングセレモニーには、主催者など多くの関係者が列席。お笑いタレントの間寛平さん、横山英幸大阪市長、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会の堺井啓公機運醸成局長もあいさつし会場を盛り上げた。
フェス会場の「なんば駅前広場」は、南海電車難波駅・高島屋大阪店となんばマルイ前のに地域主導で整備された広場で、11月23日に完成したばかり。「道頓堀リバーフェスティバル2023」はステージでのパフォーマンスや屋台が11月26日午後5時までにぎわいを演出する。
道頓堀リバーフェスティバル2023には大阪市商店会総連盟、産経新聞大阪本社、なんば安全安心にぎわいのまちづくり協議会が共催している。
一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は11月25日に都内で開催される学生向けの航空業界セミナー「航空技術産業セミナー」(公益社団法人日本航空技術協会など主催)に参加する。航空業界にとって急務な人材確保と、学生の航空業界への就職希望などを叶えることを目指すための開催で、JAXA、ANA、IHIなど航空宇宙関連企業や研究機関、官公庁などが参加する。JUIDAも学生に向けて取り組みをアピールし浸透を図る。
参加リストにはIHI、朝日航洋、JAXA、海上保安庁、川崎重工業、国土交通省航空局、ジェットスター、ジャムコ、スカイマーク、SUBARU、ANA、電子航法研究所、中日本航空、日本航空、日本飛行機、JUIDA、ピーチアビエーション、三菱重工業の18団体の名が並ぶ。場所は東京・飯田橋の会議場「ベルサール飯田橋ファースト」(東京都文京区後楽2-6-1住友不動産飯田橋ファーストタワーB1)で、12:30~18:30。
各機関が業務内容を紹介するブースを設置するほか、国交省航空局、川崎重工、ANAは特別講演も行う。日本航空技術協会によると、航空業界にフォーカスした学生向け産業セミナーの開催は今回が初めてという。
ロボット・航空宇宙に関連する製品や技術が一堂に集まる「ロボット・航空宇宙フェスタふくしま2023」は11月22日、福島県郡山市の展示場、ビッグパレットふくしまで開幕した。75のロボット関連企業・団体、56の航空宇宙企業・団体が出展するほか、第一線で活躍する論者が講演する。22日がビジネス向け、23日が一般向けで入場は無料。ステージでの講演はライブ配信する。
出展内容は年々充実していて、主催者が「進化が目覚ましい」と驚くほどだ。
株式会社スペースエンタテインメントラボラトリー(東京)は、翼幅約3mの飛行艇型ドローン「HAMADORI3000」翼幅約3mの「HAMADORI6000」のほかに、開発中の双胴船型飛行艇ドローンの20分の1モデルを展示している。荷物を機体の中央に積むためで、順調に開発が進んでいるという。
柳下技研株式会社と長岡商事株式会社は小型・高出力ガスタービン発電機搭載の荷重300kgのハイブリット大型ドローンの試作機を展示。ブースでは福島ロボットテストフィールドでダンベルのおもり300㎏をつんで飛行している動画を公開している。躯体の強度やFCの設置場所などに工夫をしたと話している。
テトラ・アビエーション株式会社はパーソナルeVTOL Mk-5の実機を展示。来場者に囲まれていた。実機展示については各地から声がかかり、今回の郡山での「ロボット・航空宇宙フェスタ」が23日に終了したあと、分解してトラックで積み、翌々日の25日に大阪・ミナミで開幕する「道頓堀リバーフェスティバル2023」に向かう。2025年の大阪・関西万博で飛行が見込まれているいわゆる「空飛ぶクルマ」の市民の認知度や受容性、機運を高める役割を担う。
このほか埼玉県産業労働部は埼玉県が圏央道圏央鶴ヶ島IC近くに整備を進めている複合実証フィールド「SAITAMA ロボティクスセンター(仮称)」の概要をパネルなどで紹介、Zip Infrastructure株式会社(秦野市<神奈川県>)は2024年度に南相馬市で実験予定の独自開発の自走式ロープウェイ「Zippar」を紹介している。株式会社ダイモン(東京)は2024年初頭に月に向かう超小型月面探査車YAOKIを展示し、学生たちに囲まれている。
田村市(福島県)を拠点に活動するドローン活用団体、ドローンコンソーシアムたむらと株式会社manisonias(田村市)は、センシング機材、ドローンによる空中散種機材や3D地形モデルなどを展示。一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)も、幅広い活動やライセンス制度などを説明する。
ステージも、3カ所に設置され講演が充実。初日は、インターステラテクノロジズ株式会社の稲川貴大代表取締役社長が「宇宙産業の展望と民間企業開発」、イームズロボティクス株式会社の曽谷英司代表取締役社長が「型式認証とドローン活用の最新動向」をテーマに講演するなど多くの講演が予定されている。
ステージの様子はライブ配信される。フェスタは23日まで
サイエンスを楽しむイベント「サイエンスアゴラ2023」(国立研究開発法人科学技術振興機構=JST=主催)の会場開催イベントが11月18日、東京・青海(あおみ)のテレコムセンターではじまり、ユーザー体験デザインの株式会社ORSO(オルソ、東京)が開発した重さ50.5gの部屋で楽しめるドローン、DRONE STAR PARTYを使ったプログラム飛行体験「小型ドローンでミッションにチャレンジ!」が親子連れなどに大人気だ。設定された着陸場所にたどりつけるようタブレットでプログラムし、実際に飛ばして試す体験に、参加した子供たちは没頭し、見守る親も手に汗を握り声援を送っている。サイエンスアゴラは19日まで。参加希望者で事前予約をしていない場合はキャンセル待ちを狙うことになる。
プログラム飛行体験は、研究知シェアリングを手掛ける株式会社A-Co-Labo(エコラボ、東京)と、DRONE STAR PARTY を開発したORSO、サイエンスアゴラを主催するJSTがテレコムセンター1階に設置したブースで実施している。大人も子供も参加できるが、参加者は主に小学生だ。事前予約を済ませた参加者が予定の時間に集まると、先生役のA-Co-Labo代表取締役CEOの原田久美子さんが、ドローンの仕組み、飛ばし方などを説明する。参加者用の席には1人1台、DRONE STAR PARTYとタブレットが置いてあり、参加者はドローンやタブレットに触れながら、原田さんの説明に耳を傾ける。
「飛び上がることを『りりく』といいます。タブレットにりりく、と書いてあるブロックありますか」
「前に進む前進もできるし、宙返りをするフリップもできます」
「計算機のような画面で数字をいれると、どのぐらい進むかを決めることができます」
「電波の関係や、空気の流れの関係でプログラムした通りにいかないこともあります」
「最後にかならず『ちゃくりく』をいれてくださいね。そうじゃないと飛びっぱなしになったいます。じゃあ、やってみましょう。できたら隣で実際に飛ばしてみましょう。今回は2回まで飛ばせます」
参加者はすぐに没頭する。親や見物者が成り行きを見守る。子供にサインをおくったり、助言したりする姿もみられた。
説明をはじめてから10分ほどで、飛行に挑む参加者が出始める。ふたつある飛行場所には、ORSOのスタッフが待機し、子供たちをサポート。「お、はやいね」「おっと、フリップがいっぱいはいってるね」などと盛り上げる。子供の横で様子を見る親もいれば、ネットの裏にまわって子供の雄姿を正面からおさえようとする親もいる。
飛ばしてみると、うまくいこうが、いくまいが親も子も「あー」などと声があがる。中には1回目でゴールにじょうずに着陸させることができる参加者もいて、そのときには拍手があがる。2回まで飛ばせるので、1回目で思い通りの軌道をたどらなかったら、プログラムを修正して再チャレンジができる。2回を飛ばし終えると参加者は「楽しかった。ありがとうございました」とスタッフに笑顔を残していく。
指導役のA-Co-Laboの原田代表は「体験に没頭している表情をみると、私も楽しくなります。楽しいと思ってもらえると嬉しい」と話している。
プログラム飛行体験で使われているDRONE STAR PARTYは、ORSOが「おうちで飛ばせる」を掲げて開発した直径12cm、重さ50.5gの小型ドローン。プロペラガードを標準で装備していて1回の最大飛行時間は7分。撮影可能なカメラもついている。この日の飛行体験中も、ドローンのカメラがとらえた動画が確認できる。
プログラム飛行体験「小型ドローンでミッションにチャレンジ!」の参加者は10月に募集し、募集開始から15分で全枠が埋まる人気ぶりだった。参加者は事前予約が必要だが、回によっては欠員がでることもある。ブースではキャンセル待ちを受け付けていて、18日も、欠員枠に参加したケースがあった。
サイエンスアゴラ2023は社会と科学をつなぐ5日間を掲げ、科学者のキャリア、いきもの、STEAM、ロボット・AI・プログラミング、健康、実験、数学など多角的なテーマを扱い150以上のプログラムを提供する。すでに10月にオンラインイベントが3日間開催されている。18、19日が会場での開催となる。入場は無料だ。
日用品大手の花王株式会社(東京)は11月9日、中津川市(岐阜県)で荷物を積んだドローン3機を自動で編隊飛行させ、そのうち1機から降ろされた荷物を自動配送ロボットに載せ替え、50mほど離れた目的地に無人で届ける自動ラストワンマイルの実証実験を行った。3機の編隊飛行は1機で載せきれない場合複数機にわけて貨物列車のように運ぶことを想定した。ドローンが荷物を下ろせる場所でおろしたあと、人の手を介して載せ替えることなく最終目的地まで運ぶ実用性や経済性、技術的な改善点などを探ることが目的で、実験は予定通りに進行した。今後、関係者が結果を解析する。実験にはイームズロボティクス株式会社(南相馬市<福島県>) ブルーイノベーション株式会社(東京)、NTTコミュニケーションズ株式会社(東京)が技術や知見を持ち寄った。
実験は国土交通省の国土交通省の「無人航空機等を活用したラストワンマイル配送実証事業」の採択を受けて、花王が統括した。無人で最終目的地まで届ける技術として、ブルーイノベーションのドローンポート情報管理システム「BEPポート|VIS」や自動配送ロボット運航を担った。ドローンはイームズロボティクスのヘキサコプターE6106を3機活用、1機をリーダー機、2機を追従機として編隊飛行させた。イームズは編隊飛行の経験を豊富に持つが、試験場ではなく、導入が検討される現場で一般道をまたぐルートで編隊飛行が行われたのは今回が初めてだ。またドローンの長距離飛行に必用な上空LTE技術をNTTコミュニケーションズが提供した。
実験会場は、地域の観光スポット、椛の湖(はなのこ)のほとりに広がる椛の湖オートキャンプ場で、荷物を受け取る目的地になった。物流用ドローンポートを搭載した自動走行ロボットもここで待機する。出発地点は直線距離で1,9㎞離れた中津川市立坂下小学校のグラウンドだ。標高差は200mあり、小学校から目的地のオートキャンプ場までは、180度折り返す急カーブがくねくねと4,6㎞にわたり続く。直線では105パーミル、陸路でも43パーミルといずれも急こう配だ。
実験では出発点の小学校のグラウンドで、ドローン3機に、日用品を中心に2㎏ずつの密が積み込まれた。飛行ルートは予め決められた。出発の合図とともに、3機が1機体ずつ、1秒ほどの間隔で離陸した。3機は上昇すると地表から110mの高さで目的地に向かった。標高差があるので、斜面をなぞるように高度をあげながら進んだ。
目的地では、実験の関係者、地元行政、議会関係者、離陸地となった坂下小学校の児童らが空を見上げドローンの到着を待った。週っ発の合図から3分ほどでプロペラの回転音と3機の姿を確認すると、小学生から「来た」「あそこだ」などの声があがり、関係者も場所を確認しあった。
機体は目的地上空でホバリングをしたあと下降を開始した。編隊飛行を船頭してきた1機が、目的地に待機していたドローンポート付き自動配送ロボットのうえに着陸すると、居合わせた生徒や関係者から拍手があがった。飛行時間は約5分だった。残る2機もすぐそばに着陸した。ポート上に着陸した機体は、積み荷を自動で切り離し、再び浮上してポートから離れた着陸した。荷物を受け取った自動配送ロボットは、決められたルレーンを50mほど走り、受け取り地点で止まり、任務を終えた。
最終目的地に荷物を運んだ自動配送ロボットは、ブルーイノベーションが開発したデバイス統合基盤技術BEP(べっぷ=Blue Earth Platformの略称)が組み込まれていることが特徴だ。物流用のドローンポートのシステムについては、国際標準化機構(ISO)が設備要件を国際標準規格ISO5491として発行しており、今回の実験では、ブルーイノベーションがISO5491に準拠して開発したドローンポート情報管理システム「BEPポート|VIS」を使った。関連する運航管理気象センサー、障害物検知、侵入検知などの機能を持つ。センサーから得た情報はVISで一元管理された。
ブルーイノベーションの田中建郎取締役は「今回の実験で満足することなく、今後もさらに利便性、安全性など改善を図っていきたい」と述べた。
イームズロボティクスの 曽谷英司代表取締役は「1台で運びきれない場合に、複数台を1人で運用できればより多くのものを運べる。機体開発や編隊飛行には現在も取り組んでおり、今後、1人が運用できる台数の拡大や、1台あたりの積載能力の大きい機体開発を通じて、ドローン物流が広がることを期待している」などと述べた。
今回の実験の会場となった中津川市は花王の創業者、長瀬富郎(ながせ ・とみろう)の生家の造り酒屋がある縁の深い場所だ。実験には恵那醸造(えなじょうぞう)株式会社の長瀬裕彦代表取締役も立ち会い、荷物の受け取り役を引き受けた。裕彦氏は「いまあるのも花王がここまでになってくれたから。その花王が地元で実験をしてくれるのは感慨深い」と話した。
今回の実験で花王のスタッフは、「かおぞら」と白く染め抜かれた色違いのジャケットを着用してのぞんだ。花王のドローン物流推進事業は、同社が「01KAO(ゼロワン花王)」と呼ぶ社内の2021年7月に導入した事業提案制度から発足した事業で、実質的に稼働をはじめた2022年以降、「かおそら」を使いドローン物流に取り組んでいる。今年(2023年)9月には養父市(兵庫県)で15㎏の荷物を空送する実験を実施した。
花王SCM門ロジスティクスセンターの山下太センター長は「花王は日用品メーカーとして多様化するニーズにこたえるために、マーケティング、生産、物流、販売の船体最適のサプライチェーンの構築に取り組んでいる。創業者、長瀬富郎の有名な言葉に『天祐は常に道を正して待つべし』があり、花王はそれを今も理念と考えている。今回はその志を持つメンバーがこのプロジェクトに集まっており、その気概と熱意を届けたい」と中津川での実験に寄せる思いを伝えた。
プロジェクトリーダーの一人、是澤信二氏は「花王は全国に工場、配送センターを構えており、これらの物流資産をドローン物流に生かしたいと考えている。工場やターミナルにドローンデポと呼ばれる基地を整備し、そこから一括で供給する物流を目指したい。2024年問題もあり、無人化にこだわりたい」と意気込みを伝えた。
もう一人のプロジェクトリーダー左藤真彦氏も「最終的に届くまで多くの人の手を介するいまの物流をできるだけ無人化したい。今回も荷下ろし、詰め替えの作業をせず、そのまま届ける。こうしたシンプルな物流を実装したい」と述べた。
実験には、事業者、メディアのほか国交省中部運輸局、経産省中部経済局、岐阜県、岐阜県議会、中津川市などが立ち合い、実験の様子を見守り、関係者の話に耳を傾けた。中津川市の青山節児市長は「私たちは環境に恵まれた土地で生まれ生活していると思っている。私はストレスマネジメントのできる地域と形容している。恵まれた環境が当たり前になる中、人口減少に歯止めはかからない。いなかでもしっかりと生活できるようになってほしいし、そのための取り組みには市としても積極的に参加したい。それを通じて自分たちの郷土にほこりを持って頂けるようになればいいと思っている」とあいさつした。また実験後には、「子供たちの歓声がすべてを物語っている。この地でカタチができていくと確信した」と感想を述べた。