東京・臨海部の大規模展示場、東京ビッグサイト(東京都江東区有明)で開催中の展示会「RISCON TOKYO」(危機管理産業展)と併催展「SEECAT」(テロ対策特殊装備展)で、ドローン関連のソリューションが、未発売のものも含めて数多く展示されている。警備や警戒のための長時間飛行を想定した有線給電のドローンが目立つ。開催は13日まで。なおSEECATの入場には事前審査が必要だ。
有線給電ドローンは、株式会社AileLinX(エールリンクス、広島県府中市)、日本海洋株式会社(東京都足立区東和)、エアロセンス株式会社(東京都北区)などが展示している。
AileLinXは上空30mから定点監視するための有線給電ドローン「HOVER EYE」を展示している。扱いやすさを追求し、専門家でない不慣れなスタッフでも、操作に困らない工夫をしたことが特徴だ。たとえば運用に使うタブレットの画面で「離陸スタート」をタッチすれば機体が浮かび、高さは画面右端の目盛りで調整できる。監視するためのカメラでみわたすために機体を回転させることもできる。ただし、定点監視が目的なので、昇降以外の前進、後退などの機能は持たない。
機体はケーブルを通じでポートから電源が供給される。ドローンがとらえた映像はケーブルではなく無線でタブレットに送信される。機体が30mの範囲で係留されている場合、操縦にライセンスは不要だ。
AileLinXは、ラジコンヘリコプター及び産業用無人航空機を開発してきたヒロボー株式会社(広島県府中市)と建設機械、工作機器、自動車部品を開発する株式会社北川鉄工所(広島県府中市)が2018年6月11日に設立したUAVメーカーだ。HOVER EYEについて上堀高和代表取締役は、「今後地元消防などと実証をしたうえで、近いうちに発売にこぎつけたいと考えています」と話している。AileLinXはRISCONにブースを出展している。
日本海洋は、フランスの係留ドローンメーカー、ELISTAIR社のドローン、ORIONシリーズや有線給電装置Light-Tv4、スロベニアのドローンメーカー、C-ASTRAL Aerospace社の偵察用eVTOL、SQAを展示している。有線給電装置Light-Tv4は、ドローンに電源を供給しながら通信も担う。1mあたり10.5gと軽いテザーや、DJI M300など20機種以上のドローンと互換性があることも特徴だ。偵察用eVTOL、SQAは連続して2.5時間以上の飛行が可能で最高速度は約100km/h。HD光学/HDサーマルジンバルカメラを搭載し、目標を追尾する機能を備える。日本海洋はSEECATに出展している。
なお、SQA をeVTOLと紹介したが、いわゆる「空飛ぶクルマ」ではない。乗用でない電動垂直離着陸ドローンだ。DroneTribuneは、「eVTOL」を電動で垂直離着陸する機体として扱っている。乗用か非乗用かといった用途で区別をしていない。今後も、乗用でなくても機体の種類としてeVTOLを用いることがありうる。乗用で用いるときには、「UAM」、「AAM」、「乗用eVTOL」、略語としての「空クル」などを文脈ごとに使い分ける。同様に「空飛ぶクルマ」の用語は電動でないエンジン搭載機や、離着陸に滑走を要する機体も含む。電動でない場合、いわゆる「空飛ぶクルマ」であっても「eVTOL」には含めない。展示会やイベント、シンポジウムで「空飛ぶクルマ」と「eVTOL」を同義で使っている場合が見受けられるが、DroneTribuneではできる限り読者が混乱せずにすむよう、それぞれを区別しながら示す工夫をすることにしている。
エアロセンスは常時給電で長時間の警備や中継に対応するエアロボオンエア(AS-MC03-W2)を展示している。頭上から吊り下げられた機体とケーブルをつなぐ巻き取り機エアロボリールは、ケーブルの繰り出し、充電、通信の最適化をはかるベースステーション機能を持ち、従来機より小型化されスタイリッシュになり、取り扱い性を強化した。
このほか帝国繊維株式会社(東京都中央区)も有線給電型のドローンをSEECATの自社ブースでデモ飛行させている。株式会社JDRONE(東京)はRISCONで、衛星通信遠距離自動飛行運用ができる無人ヘリコプター、YAMAHA FAZER R G2の機体を外側のカバーをはずして内部をみせる展示で客足を集めている。民間ドローン団体、日本UAS産業振興協議会(JUIDA)もブースを出展し、理事長を務める東京大学の鈴木真二名誉教授はRICONのステージで「ドローンのレベル4飛行社会実装、および空飛ぶクルマ運航実現に向けた課題と展望」の演題で講演をし、90人ほど用意された席を聴講者が埋め尽くした。
ジオサーフ株式会社(東京都大田区)はSEECATで固定翼機関連ソリューション、双日エアロスペース株式会社(東京都千代田区)はSEECATでフランスのProengin社が開発した有毒ガスなどのケミカル脅威検出器AP4Cの携帯型やドローン搭載型、クオリティソフト株式会社(和歌山県白浜町)はRISCONで上空から地上に声を届けるアナウンサードローンを展示するなど、ドローンに関わるソリューションが多く展示されている。ドローン以外でも、米カリフォルニア州を拠点にするソフトウェア開発のButlrが、人物の特定せずに人がいることを検知する小型のプラットフォームを展示注目されている。
展示会は株式会社東京ビッグサイトが主催し、東京都が特別協力している。開催は13日(金)まで。
ドローンの活用拡大に力を入れるPwCコンサルティング合同会社(東京)は、「ドローンを利用した次世代のビジネスの変革のすすめセミナー~規制緩和によるビジネス活用と考慮すべきリスク要因」と題したセミナーの中で、ドローンビジネスを推進する上でのリスク管理の重要性を指摘している。政府の規制緩和に伴いビジネスチャンスが広がる中で、最新情報のアップデートと合わせ、安全リスク管手法の導入や、プロジェクトマネジメントの体制整備が重要になるという。
PwCコンサルティングのシニアマネージャー、岩花修平氏、佐々木智広氏が「無人航空機のビジネス活用で考慮すべきリスクとその対策」についての考え方を披露した。岩花氏は「ドローンに関する市場の期待値は高いが、インシデントによる影響度を踏まえ、徹底したリスク管理により市場拡大につなげていくことが重要だ」と述べたうえで、安全リスク管理(SRM)プロセスによって、具体的にリスクをどう軽減するかを指南した。
安全リスク管理プロセスでは、ドローンの機体が及ぼすリスクと運用上想定されるリスクを洗い出し、影響度や発生確率でリスク評価し、対策を打つことでリスクを可能な限り提言することが重要になる。想定しうる事象を特定し、影響度や重要性を評価、影響を最小化または排除する手段を決定するためにこのアプローチを活用する。
この時、必要となるのは、重要度と発生可能性の組み合わせにより、リスクレベルを「高い」「中間」「低い」などの段階によって評価し、必要な対策、要件を決めること。リスクレベルが高い場合は、事前にリスクレベルを「中」もしくは「低」に引き下げておくことが求められ、リスクレベルが中間の場合は、安全マージンを増やすための安全要件が必要になる。リスクレベルが低いと評価された場合でも、最低限の安全目標は必要になるという。
具体的なリスクの低減方法としては、「安全性を評価する目標を定義」「実行可能なリスク低減対策のオプションを設定」「リスクのコントロール方法と安全要件を検討する」「予測される残余リスクを評価」「監視計画を作成」といった段階を踏んで進めることが重要になる。さらに、対策の効果の目標としては「残余リスクを検討するために測定可能な指標を設定」するほか、「安全リスク管理前のデータ分析は、実装後のデータと比較するためのベースとする」ことを確認した。
岩花氏は「危機管理力が高い企業ほど継続的に収益性が高いという調査があり、リスクマネジメント=経営力です」と述べ、リスク管理力向上の重要性を指摘した。
続いて登壇した佐々木氏は、ドローンを導入・活用し効果を創出するまでに乗り越えるべきリスクとして、「安全性」「コンプライアンス」「セキュリティ」「プロジェクトマネジメント」の4つを挙げた。とりわけ、「プロジェクトマネジメント」が極めて重要になるとの考え方を示し、業務要件を充足していない機体の導入や操縦士のスキル不足などに伴う品質問題、開発費の膨張による事業性の悪化などコストの問題、スケジュールの問題などのリスクの存在を指摘した。
この中で、ドローン活用に関するプロジェクトマネジメントを実施している企業の例をあげ、体制整備の具体的なケースについても紹介。佐々木氏は「ドローン活用に必要なケイパビリティ(能力)を有する専門家の参画が成功のカギとなる」と述べ、必須とされるコアケイパビリティを備えた体制整備についても解説した。
さらに、ドローン活用におけるプロジェクト・マネジメント・リスクに対処するには、ビジネス、プロセス・統制、テクノロジー、体制、データの5つの領域から網羅的にリスク対策を洗い出し、プロジェクトの各担当チームに割り振る役目が重要になるという。佐々木氏は、「リスク体制の構築」「プロセス・マニュアル整備」「インフラ整備」「運用定義」のステップを踏み、リスク対策の成熟度を高めることが重要になるとの見解を披露した。
セミナーでは、規制当局である国土交通省航空局安全部の専門官や法律実務の専門家も登壇し、ドローンに関するルールをめぐる最新の動向を紹介。国土交通省航空局安全部安全企画課の伊藤康浩専門官は「無人航空機に係る航空法の概要と環境整備に向けた取組」と題して基調講演、ドローン活用に関する規制やルールに関する最新情報について紹介した。
また、ドローンビジネスに関わる論文を発表しているTMI総合法律事務所の弁護士、波多江崇氏は「最新ドローン関連規制と実務」と題して講演し、ドローンに関する法的責任の整理やドローンを使ったビジネスを行う際の注意点などを解説した。
セミナーには、メーカー、ソリューションプロバイダーなどドローン関連事業を展開している企業や事業主、参入を検討中の企業や事業主、関係者など約50人が参加した。PwCコンサルティング合同会社テクノロジーコンサルティング事業部常務執行役パートナー、桂憲司氏は「ドローンというテクノロジーを使って、新しい世界をつくっていくとき、その世界のルールの背景にある考え方を理解することが重要になる」と話した。