「一千年に一度の台風」。台風19号はまさにこの言葉が当てはまる災害でした。台風襲来の数日前からネットやテレビは、その危険性を訴えていました。当社は「水穴1番地」という所在地名が示す通り、降水量が300ミリを超えると阿武隈川に注ぎ込む支流の影響から建物の1階部分が水没する恐れがあります。今回の台風予想降水量は400ミリ。今まで聞いたことのない降水量に警戒心も高まりました。(福島ドローンスクール郡山校 鬼生田顕英=寄稿)
当社が避難を開始したのは10月12日午後。奇しくもその日はドローンスクール開催中でした。もちろんスクールは中断。受講生の安全を第一に考え帰宅を促しました。また、精密機械であるドローンは水没を最も警戒しなければならないため、社内保管場所から専用の車両に載せ替えました。経験から言えば、社屋正面に停車しておけば水に浸かる事はなく、またいざという時に車ごと避難させられると思っての行動でしたが、今回の台風はその予想を大きく上回るものでした。
10月12日午後から降り続いた雨は阿武隈川の警戒水位を容易に超え、支流河川の堤防を決壊させました。計り知れない量の水が社屋に入り込み、1階部分は水没。2階フロア1メートル付近まで浸水。1階の入り口サッシは「く」の字に曲げられ、関係資料の多くが流される事態となりました。
社屋正面の車も移動する間も無く水没。車内にあったドローンも同じく水没。早く機体を取り出したいという思いを嘲笑うかのように水位は下がらず、ようやく車内を確認できたのは台風が去った翌日の14日夕方でした。スクール運営のために揃えておいたPhantom4機がケースごと全滅する事態にただ唖然とするばかりでした。農業用ドローンMG-1は、たまたま開催されていた福島産業博に展示してあったために事なきを得ましたが、充電器とバッテリーが水没してしまいました。
しかし悪いことばかりではありません。近づくことのできない社屋の状況を確認するために一役買ったのもドローンでした。私用のMAVIC とPhantomが残っていたのです。台風一過とは言え風が強く、風力計を確認しながらのフライトでしたが、水没した会社の様子や阿武隈川周辺の状況を知ることができました。
さて、復旧作業に取り掛かりつつあった時に起こったのが、隣接するメッキ工場からの有毒物質流出事故でした。猛毒のシアン化ナトリウムが近くの側溝から検出されたのです。最も恐れたのがスタッフへの健康被害と風評です。前者については即座に保健所の健康調査を受けましたが、後者については時を待っていては誤解を生みかねません。咄嗟に思いついたのがSNSの活用です。これについても、ドローンで撮影した写真情報をweb上にアップすると言う経験が活かされました。迷う事なく情報を適切に発信することができたと思います。
台風から3週間ほど過ぎた現在、会社の復旧作業もヤマ場を迎えようとしています。スクールも私用のPhantomで急場を凌ぎつつ、水没した機体の修繕に取り掛かっています。
ありがたいことにスクール受講生の動きも止まる事なく稼働しています。水没した機体分、実技講習に不便を感じさせてしまうのが恐縮なのですが、継続できる事に感謝し今後の運営に活かしていきたいと思います。
ところで、今回の経験から学んだことが3つあります。
①保管場所について
自然災害が間近に迫っている際には、100%の安全を確保できる場所にドローンを保管する事。
②緊急時の対応について
緊急の撮影のためにバッテリー充電は完全に行っておく事。また、アプリのアップデートを確実に行っておく事。
③保険について
スクール運営においてドローン機体は大きな財産です。しかし、いわゆる車両保険に該当する保険に加入させていなかったことが今回の致命傷となりました。各保険会社様においては、ドローンの保険制度を更に充実して頂くことを切に希望します。
今回、災害時においてはドローンが有効であるということを再認識しました。災害状態を把握するため、多くの場面でドローンが利用されていたと思われます。スクールを運営する立場から言えば、より多くの方々にドローンを学んで頂き、緊急時に多くの人命を救う手段としての活用が進むことを祈念しております。また、今後はその願いを実現すべくスクールの運営に臨みたいと思います。
最後になりますが、今回の復旧に際しまして多くの方々から心温まるお見舞いとご声援を頂きました事を感謝申し上げますと共に、今後ともドローン社会の育成に微力ながら協力していく事を再興の宣言としまして筆を置きたいと思います。
<筆者>
鬼生田顕英(オニウダ・ケンエイ)
1969年生まれ
駒澤大学大学院(博士課程) 満期修了
大学院在学中より自動車学校勤務
2009年より代表取締役
2018年福島ドローンスクール郡山校開設
福島県郡山市出身
曹洞宗僧侶
10月12日から13日にかけて静岡県から東北にかけて日本列島を縦断し、多数の死者、行方不明者、河川の堤防決壊、土砂崩れなどの甚大な被害をもたらした台風19号の爪痕が残る被災地で、多くのドローン活動家、ドローン事業者が災害対応に活躍しています。本サイトはその方々の活躍に敬意を表し、心から支持するとともに、現地でのご苦労に対し、被災された方々、災害対応にあたっておられる方々にお見舞いを申し上げます。
ドローン研究と実装をけん引する慶應義塾大学SFC研究所・ドローン社会共創コンソーシアム(古谷知之代表)は、「災害ドローン救援隊 DRONE BIRD」を運営するNPO法人クライシスマッパーズ・ジャパン(東京都調布市)、災害ボランティア活動を展開するチーム藤沢、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)の認定スクールを運営するDアカデミー株式会社、ジオサーフ株式会社のメンバーや、フリーのドローンパイロット、稲田純次氏らとともに、甚大な被害に見舞われた神奈川県相模原市に発災直後から入り、実態調査を実施しています。
現地では、発災箇所を中心に、その周辺の状況をオルソ化できるようドローンから撮影し、被災箇所の詳細を把握するため映像撮影も実施しています。その結果、土砂災害、河川の氾濫、冠水、崩落が、現地に入る前に入手していた情報よりも、深刻な状況であることをつかみました。また、数箇所で地滑りを確認したため、周辺住民に避難を呼びかけ、県に情報を提供するなどをしました。
収集した情報は、GitHub, Google Drive、OpenAerialMap、国立研究開発法人科学技術研究所(本所:茨城県つくば市)のNIED-CRCなどで提供されます。
現地に入ったドローン社会共創コンソーシアムの南政樹副代表は、今後、被災地での支援活動が活発化するに伴い、ボランティアに対して円滑な情報提供の必要性が高まると想定。自治体や気象庁、国土地理院など公的なデータだけでなく、現地入りした事業者のデータがより大切になると指摘し、同様に災害活動で現地に入っているドローン事業者に対し、データの共有を呼び掛けています。
「福島ドローンスクール」を運営するほか、水中ドローンの普及にも力を入れている株式会社スペースワンは、本社を構える福島県郡山市や隣接する須賀川市が被災。13日朝から災害協定を締結している郡山市や須賀川市からの要請もあり、郡山エリア2班、須賀川エリア1班に分かれ、総動員で被害状況調査にあたりました。
郡山市内を流れる阿武隈川はこの台風で氾濫し、国土地理院によると阿武隈川と支流の逢瀬川と合流する地点の西側の住宅地が東西1.5キロほどの範囲で浸水したとみられています。浸水の深さはこのあたりで最大でおよそ3メートルで、福島県桑折町では深さは最大でおよそ5.2メートルに達しているとみられるといいいます。同社は撮影で得られた情報をそれぞれの自治体に提供するなどの活動を続けています。
自然災害や紛争地域で脅威にさらされている人びとに対する支援活動を行う認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(広島県神石高原町)は、千曲川沿いで浸水被害の大きかった長野市に、医者を含む医療チーム、レスキューチームを派遣し医療支援や、病院避難支援、避難所支援などを展開しています。
PWJレスキューチームと医療チームは上陸する前日から災害に備えて待機し、訓練を重ねていました。これまでの活動はPWJのHPで公開しています。
国際航業株式会社、パスコは共同して被害状況を把握するため、10月13日に株式会社パスコと共同で、茨城県、栃木県、埼玉県などを撮影。撮影した写真を同社HPで公開しています。