ドローン、エアモビリティ系スタートアップ特化型のファンド、DRONE FUND(本社・東京)は2017年6月1日に発足し、2020年6月1日に3周年を迎えました。少子化、高齢化といった構造的な課題解決に欠かせないドローンのテクノロジーを、資金、知見、環境整備のすべてで支える活動は、日本のドロ ーン前提社会実現のけん引役となっており、さらなる活躍が期待されています。千葉功太郎代表パートナーは、このタイミングで自家用操縦士の取得も発表しました。2022年度の「レベル4」解禁、2023年度の「空飛ぶクルマ」の解禁に向けて議論の活発化が確実な中、パイロット免許取得で得た知見は、技術面、政策面、制度面に加え、ミーティングでの説得力などあらゆる場面で大きな力となりそうです。ただ、千葉さんのライセンス取得への道は精神的にも肉体的にも険しく、「心が折れて、後悔しまくってました」と振り返るほどでした。
千葉さんが、操縦士免許取得を目指すと決めたのは、テレビCMを観てビジネスジェット「HondaJet Elite」を買うと決めた時と同時でした。もともと機械は自分で操縦する、という考えの持ち主。クルマと同じように買ったら自分で操縦する気でいました。「当たり前のつもりでいたのですが、それが後悔の始まりでもありました」。
最初に門をたたいたハワイのスクールでは、分厚いマニュアルを渡され圧倒されます。量が多いだけでなく、基礎知識がないところからのスタートなので、字面を拾ったところで頭に入らない。加えて教官が厳しいスタイルで接してくるタイプだったため、圧力も強い。教官の質問に答えられないと「なんでこんなことが分からないんですか?教科書くらい理解してください」と容赦なく怒られました。そのため「分からないし怒られるしで4日で心が折れ、1週間後には恥ずかしながら『やめます』って言おうかと思うところまでいきました」と言います。
それでもやめなかったのは、自分自身で空を飛ぶことが楽しかったから。当初、仕事の合間にハワイに出向いて訓練し、短期取得を目指していました。しかし、しっかり学ぶ必要があると考えなおし、世界でも最も厳格といわれる日本で学び直すことを決めました。自分を追い込むために飛行機も買いました。それがDRONE FUNDのイメージキャラクター、美空かなたちゃんのイラストに覆われた、パイパー・エアクラフトの単発機です。さらに千葉さんの国内飛行免許取得に向けた訓練教官には、元航空自衛隊でF15戦闘機のパイロットをしていた、まさに航空界のエリートである船場太教官が内定。「まさに猫に小判でしたが、退路はなくなりました」と振り返ります。また訓練空港は航空自衛隊小牧基地として知られる名古屋空港が決定。名古屋への「通学」が始まります。
2018年7月末、千葉さんは「DRON FUND2号」の発表にのぞみ、会場となった竜ヶ崎飛行場(茨城県龍ヶ崎市)で飛行機「かなたちゃん号」をお披露目しました。この年の12月には念願のHondaJet Eliteの日本1号機を手に入れることになり、こちらもメディアに公開しました。メディアに公開したのは、「自分を追い込むためでした」(千葉さん)。そして、実際に、追いつめられる経験を積み重ねることになります。
千葉さんは、日本で操縦を学び始めてから免許を取得するまで、のべ150時間のフライト訓練と383回の離発着を重ねました。規定では40時間以上あれば免許の基準に合致しますが、「とてもそんな時間では取れそうにありませんでした。遠回りしたかもしれません」と話します。
千葉さんが挑んだのは、自家用操縦士のうち「VFR単発機」と呼ばれる、地面を見て飛ぶスタイルです。ほかに「VFR双発機」、計器だけで飛行できる「IFR」、さらに機種ごとのライセンスがあります。「かなたちゃん号」は「VFR単発機」の免許で操縦できますが、HondaJet Eliteを操縦するには、機種ごとのライセンスまで取得する必要があります。
千葉さんは「VFR単発機」取得への挑戦を振り返ると、この間に大きく5つのヤマ場があったといいます。第一は、ゼロからの挑戦期、第二が筆記試験、第三が初の単独飛行である「ファーストソロフライト」、第四が試験本番に向けた訓練の仕上げ、第五が試験当日です。
第一段階では、ゼロからスタートして、視界の悪い空中で飛行機を操縦することによって体に起きる空間識失調(VERTIGO=ヴァーティゴ)の体験が大きかったといいます。この状態になると感覚がまひして、機体の動きを理解できなくなります。水平に飛んでいると感じていても、機体は下降している、ということがあり、危険な状態です。このため教官は「異変を感じたら、自分の感覚を捨てろ、計器を信じろ」と繰り返し叩き込んだといいます。
第二段階のヤマ場は国家試験の筆記試験でした。自家用操縦士の免許を取得するには、航空気象、航空工学、航空法規、航空通信、航空航法の5科目の試験に合格することが必要です。そのうえ、実地試験で単独飛行をするためには、特殊航空無線技士をもっていなければいけないので、実質6科目の勉強をする必要があります。仕事をしながら本格的な受験生の勉強もこなすことになり、脳みそをいじめ抜くような苦しい日々が続きました。千葉さんは「最終的に効果的だったのは過去問をひたすら解くことでした」と振り返ります。なお千葉さんは、必要な6科目に加え、「第二種陸上特殊技士」も「ついでに」受験して合格しました。
第三段階のヤマ場は、横に教官が座らずに、初めて完全に一人で空を飛ぶ「ファーストソロフライト」です。隣にいるのが当たり前の教官がいなくなる恐怖。千葉さんは「死をリアルに感じた」と言います。
なお、ファーストソロフライトに関連して、千葉さんが大きな出来事として刷り込まれているのが、教官から「ソロフライトの前に、不安なことはありますか」と当日本番直前に尋ねられたときのことです。このとき千葉さんは、「上空でエンジンが止まったら、死ぬんですか」と尋ねたそうです。すると教官は「では1回それをやってみましょう」と言い、空中でエンジンを止める体験するはめになってしまいました。離陸して1000フィートまで上昇し、滑走路近くでエンジン出力を切る(スロットルをアイドルにする)。エンジンが切られた状態の飛行機を、教官の指示に合わせて滑空状態で操縦しながら滑走路に対して直角に接近して、最後に滑走路方向に姿勢をかえて着陸。「不安を解消するためにやって頂けたことなんですが、そりゃ怖いですよ。空中で本当にエンジンをスパっと切られると、あとはただ『うおおおっ』て言いながら死にもの狂いでした」。もちろん、空港の管制官の許可を得ての特別な訓練です。
「ファーストソロフライト」はどのパイロットにとっても、最も思い出深い一日にあげる記念日だそうです。このあと単独飛行を無事に成功させて戻ってきた千葉さんを、教官は、日本式で水をかけて祝ってくれたそうです。この瞬間は千葉さんにとっても「本当に感動した瞬間です」と言います。
第四段階は試験本番に向けた練習で、試験に向けて難易度がさらに高くなっていきました。試験までにソロフライトを10時間、積み重ねる必要があり、さらに「エアワーク」と呼ばれる特殊な飛行と、「ナビゲーション」と呼ばれる空港間の長距離飛行をGPS利用なしで安全に時間通りに飛行する2つの飛行試験に向けた訓練を行います。
エアワークは、操縦士が計器だけをみて機体を操縦する計器飛行と、エンジンを空中でアイドルにして、機体を「失速」させて、落下から通常姿勢に戻す特殊飛行訓練などで構成されます。例えば計器飛行の異常姿勢からの回復操作では、空中で外が見えない目隠しメガネをされ、「目を瞑って操縦桿から手を離してください」と言われ、教官が飛行姿勢をわざと大きく崩します。機体の姿勢が崩れたところで、姿勢を立て直すよう指示が出され、操縦士は計器だけを見ながら体制を立て直します。さらに失速訓練では、実際に空中飛行時にエンジンをアイドル(出力をほぼ止める)にして、機体の揚力が消えるまで姿勢維持すると、ある瞬間に機首がガクンと下がり落下を始めます。そこから冷静に手順通り機体を立て直します。「いつも命がけですが、これも命がけ」と、命がけの緊張度の高い訓練が続きます。
「ナビゲーション」では、予め計画した精密な長距離飛行計画の実施途中に、突然予定外の目的地を告げられ、それに対応します。目的地が変わると、航路を確定させるために紙の地図に定規で線を引くことにもなっています。地図は操縦士の膝の上にあり、それを開き、かつ定規で線をひくとなると、手放し操縦をしなければならなくなります。それを手際よくできるかどうかカギとなるそうです。なお、追い打ちをかけるのが、教官からの高まるプレッシャーです。「それまで鍛えられてきたはずのメンタルが、ここにきてさらに折られる思いをします。最後の2、3日は本当にきつかった」と振り返ります。
そして最後のヤマ場が試験本番。試験は口頭試問と、2種類の実地試験。2種類はエアワークとナビゲーションです。この口頭試問が「耐えがたいプレッシャーをかけてくる」難しい質問の波状攻撃なうえ、千葉さんの場合「試験勉強でいう山カンがはずれて」焦った受験となりました。口頭試問に合格して、受験資格を獲得した実地試験は、強風による悪天候で予定がかわり、さらに新型コロナウイルスの影響をみながら日程も調整し、試験本番にパフォーマンスを最大に発揮できるかどうかの管理も試されながらの受験となりました。結果として、エアワーク、ナビゲーションとも「奇跡的にうまくいって」合格したといいます。
合格は「とにかくうれしかったし、教官をはじめ、大勢の協力があってのことなので、ほっとしました」と話しています。
この間がどれだけの極限状態であったかは、千葉さんのメモから読み取れます。
千葉さんの試験前のメモには「守るべきこと」として、数点の箇条書きがあります。
その最初が、「あくまでもマイペースを守る」です。
千葉さんによると、空では「足し算ができなくなるほどアホになる」といいます。多くのことを同時に考えてこなさなければならないうえ、イレギュラーなことが当たり前に起こるため「CPUがフル稼働でそれ以上は考えられない状況。ふだんの10%もアタマが使えません。放っておけば、自分のペースを守れない。事故は多くの場合、パニックに陥ったときにおこります。マイペースを保つ、ということは、命を守ることに直結するんです」。
そしてもうひとつ、「色気を出さない」とも書いてあります。
これは、「こうできたらカッコよさそう」などと考えてはいけないという戒めだそうです。着陸が難しそうなら躊躇なくやり直さなければいけません。また、聞き取れなかった交信は必ず聞き返して理解する、ということも含むそうです。「航空管制無線が聞き取れなかったにもかかわらず、自分には直接、関係のないであろうと思い込み、分かったフリをしたことがありました。そうしたら教官からめちゃめちゃ怒られました」。
こうした経験から何を得たのでしょうか。
千葉さんは「いくつもありますが」と言いながら、メンタルが強くなったこと、空から俯瞰する地理感覚や、相対座標という感覚を手に入れたこと、パイロットだからこそ一目置かれる立場に入れたこと、などをあげてみせました。空の利用をめぐる議論の中でも、自家用操縦士の免許を持つドローンの立場からの発信は、ドローン・エアモビリティ前提社会を目指すうえでより説得力を持ちそうです。HondaJet Eliteを操縦したい、という「軽いノリ」から始まった壮絶な免許取得への挑戦は、千葉さんに新たな視点を授けたことは確実です。
なお、千葉さんが今回取得した「VFR単発機」の免許では、千葉さんが目指す「HondaJet Elite」を単独で操縦することはできません。ここを尋ねると、「それができるように免許を取ろうと思っています」と即答しました。「『VFR双発機』はできれば年度内に。3年以内に機種別を取得してHondaJetEliteを操縦したいと思っています」。
門をたたいてから「後悔しまくっていた」「心が折れた」と振り返るほどの壮絶な免許取得のストーリーには、まだ続きがありそうです。
東京都内に竣工した大規模物流施設「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」に、ドローンの実証実験が可能な施設「板橋ドローンフィールド(板橋DF)」が誕生し、10月2日にお披露目された。LOGIFRONT東京板橋は三井不動産株式会社、日鉄興和不動産株式会社が開発した地元と協議を重ねて竣工した「街づくり型物流施設」でドローンフィールドは物流施設に寄せられる新産業創出機能に対する期待を担う。ドローンフィールドは一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)、ブルーイノベーション株式会社が監修した。飛行用ネットフィールドやドローンポートが備わり、稼働中の物流施設を使った実験も可能で、都心の実験場の開設で、高頻度の実験が可能になる。会員制コミュニティも運用し共創を加速させる。
LOGIFRONT東京板橋と板橋DFは9月30日に竣工し、10月2日に竣工式典と説明会が行われた。説明会では日鉄興和不動産の加藤由純執行役員、三井不動産の篠塚寛之執行役員、板橋区の坂本健区長が参加した。加藤氏、篠塚氏が施設を説明し、坂本区長があいさつをした。施設内では内覧会でドローンのデモフイライトが行われ、ここでは三井不動産ロジスティクス事業部の小菅健太郎氏が概要を説明、JUIDAの鈴木真二理事長があいさつをした。ブルーイノベーションの熊田貴之代表取締役社長も登壇した。
板橋DFはドローン飛行用のネットフィールド、ドローン事業者用R&D区画、交流スペースを備える。物流施設に併設していることから、施設を実験会場として活用することも想定していて、施設の外壁を使った点検や配送などの垂直飛行、屋上にはりめぐらされた太陽光パネルの点検、接地されているドローンポートの活用、AGV(自動搬送車)との連携などが想定されている。ドローンオペレーター輩出で実績をもつドローンスクール、KDDIスマートドローンアカデミー(東京)が東京板橋校を構え、人材育成にあたることも発表された。
このうちネットフィールドは、敷地内の広場に整備された広さ約650㎡、高さ14mのネットに囲まれた設備で、この中では申請をせずにドローンを飛ばせる。KDDIスマートドローンアカデミー東京板橋校の講習会場にもなる。敷かれている芝はフットサルコート仕様で、時間帯によって地域住民の健康増進にも開放される。
ネットフィールドに近い入り口から建物に入るとすぐ、ネットフィールドをのぞむ位置にドローン事業者の交流を目指して設置された交流施設「ドローンラウンジ」がある。大型モニター付きのミーティングルームなどが備わり、ネットワーキングイベントにも使える。
この日はデモフライトも行われ、施設内では物流施設内で照明を落とし、光が届きにくい場所で球体ドローンELIOS3などの機体を飛行させる様子や、建物の外壁を点検するような飛行を公開した。
説明会では、東京大学と三井不動産の産学共創協定に基づく「三井不動産東大ラボ」が主体となる共同研究としてGPSに依存しないドローン位置特定技術、高層マンションなどでの垂直配送実現性検証や、ブルーイノベーションが主体となる長距離、長時間、自動航行に対応する高性能ドローンポートの開発などが含まれることが紹介された。
三井不動産の篠塚執行役員は「都心での高頻度な実験が進みにくい課題を解決することが可能となります。ドローン技術のイノベーションが起こることを期待しています。またここで検証された技術が配送、建物管理、災害時対応などの分野で課題解決につながることを期待しております」と述べた。
監修を担当したJUIDAの鈴木真二理事長は「ドローン産業の発展に少しでもお役にたてることを期待しております」とあいさつした。
板橋DFの入るLOGIFRONT東京板橋は、三井不動産、日鉄興和不動産が手掛ける大規模街づくり型物流施設で、物流拠点として高い機能と豊かなデザインを備えながら、地元の要望を取り入れた街に開かれた施設で、三井御不動産の篠塚執行役員は「街づくり型物流施設の集大成」と位置付けた。
板橋区との協議では、災害に強いまちづくり、地域に開かれた憩いの場の整備、新産業機能の要望を取り入れ、近くを流れる荒川、新河岸川の氾濫などの災害を想定し、住民の対比場所の確保、支援物資の補完場所の確保なども設けていることが特徴だ。あいさつした板橋区の坂本健区長は「防災力向上に多大な貢献を頂いております」と謝辞を述べた。
開発したのは日本製鉄の製鉄所があった場所で、フロアプレート約36000㎡、屋上に設置した太陽光パネルは4MV、敷地の河川敷として公開空地を設定して地域にも開放した。
ドローンフィールドとの相乗効果について、今回の説明会で物流用途や防災用途でのグ遺体的な実装計画には触れられなかったが、大型物流施設に併設されたフィールドであり、大型河川の流域に位置し、防災に高い問題意識を持つ板橋区にあることなどから、ドローンの実装にも高い期待がかかりそうだ。
第3回ドローンサミットが10月1日、札幌札幌コンベンションセンターで開幕した。会期は2日間。32の関連ブースが来場者を迎える。講演などのステージ催事も多く催される。初日の10月1日は北海道内外から多くのドローン関係者が訪れた。会期は2日まで。
第3回ドローンサミットは経済産業省、国土交通省、北海道が主催。地元北海道のデジタル技術見本市、「北海道ミライづくりフォーラム」と同時開催となる。ドローンサミットは2022年に神戸、2023年の長崎に続く開催。展示のほかデモフライト、識者や事業者による講演、セミナーなども開催される。
初日にはSkyDriveや大阪府などが登壇する「空飛ぶクルマのミライ~大阪・関西万博とその後の社会実装の展望~」、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)による「能登半島地震における災害時支援報告と今後に向けて」などが行われた。2日目も全国新スマート物流推進協議会などによる「ドローン物流を組み込んだ新たな社会インフラの現在地と今後の展開」、DRONE FUNDや北海道大学、NEDOなどが登壇する「北海道の空の未来とは ~エアモビリティ前提社会に向けて~」などいくつものステージが会場を彩る。
(写真はいずれも田口直樹氏が撮影)
トレーニング用の小型ドローンとコントローラーがセットになった新・練習機セット「DRONE STAR TRAINING」を開発した株式会社ORSO(東京)が、開発中の「実地試験トレーニングマット」の試作品の使い勝手を試せる「特別試操会」を9月27日、東京・内神田で開いた。国家資格の実地試験対策を想定した試験コースを約3分の1サイズでプリントしたマットと、操縦技能修得を成否を分けると言われる「8の字」に特化したマットの2種類の試作品が用意され、スクール講師、事業者、愛好家らがDRONE STAR TRAININGを操縦しながらマットの使い勝手を試した。参加者からは「受講生向けの自宅練習にいい」「講習の空き時間にも使える」「科学教育でも導入できそう」などの感想や意見が相次いだ。ORSOは今回の意見や感想も参考にして製品化を進め、11月中の発売を目指す。
トレーニングマットはドローンを飛ばすコースがプリントされたマットで、新・練習機セット「DRONE STAR TRAINING」を使って、国家資格取得に必要な技能を効率的に習得することを主な目的としてORSOが開発している。6月に開催されたドローンの展示会JapanDroneでDRONE STAR TRAININGを公開したさいに会場に設置したところ、DRONE STAR TRAININGとともに「あのマットも欲しい」という声が相次いで寄せられ、市販化に向けて開発を進めることになった。
この日はAタイプとBタイプの2種類の試作品がお披露目された。Aタイプは国家資格の実地試験コースをイメージしたもので、約3分の1に縮小したコースがプリントされている。ふたつに分かれているマットをマジックテープでつなげて使う仕様で、広げると4.8m×2.5mになる。収納や運搬のさいには、ふたつに分けて丸めれば、折り目をつけずに1.3mの筒に収まる。素材はDRONE STAR TRAININGの機体を飛ばしたさいにダウンウォッシュで浮き上がることなく、それでいて、持ち運びのさいにかさばり過ぎないようなものを選んだ。
スクエア飛行、8の字飛行、異常事態における飛行などに対応し、パイロンが置かれる場所なども図示されている。数字がふられていて試験や練習で想定される「『3』から『4』に移動してください」などの指示に従う練習も可能だ。特別試操会を主催したORSOの高宮悠太郎DRONE STAR事業部長は「エレベーター、エルロンを同時に動かす練習などにいかしてもらうことを想定しました」と説明した。
またBタイプは、操縦技能の習得で難関とされる「8の字」部分を抜き出したコースがプリントされているマット。3m×1.5mとAタイプよりひとまわり小さく、計算上は江戸間の6畳におさまる。高宮部長は「さらに小さい場所に設置できるよう、難しいといわれる部分の練習に特化したタイプです」と説明した。長方形をたてに3分割されていて、すべてをつないでも、中央を抜いて左右をつないでも使える。左右をつなげることで円周上を飛ばす練習に使うことができる。また3つに分割したマットをまるめれば、1.1mの筒に収納できる。
いずれのマットも実地試験コースの3分の1サイズになっているのは、DRONE STAR TRAININGの機体サイズが、国家資格の試験に使われる機体のたて、よこともに3分の1程度であることなどを考えたためだという。
試操会では、約10人の参加者が次々とAタイプ、Bタイプのマットの上で飛行し使い勝手を試した。参加者からは「受講生に課題を与えるさいに使いやすい」「自宅練習用に貸し出すこともできそう」「講習の効果を高めやすい」などと、国家資格取得に向けた効果を期待する声が多く聞かれ、ORSOスタッフがメモをしたり掘り下げるための質問をしたりした。中には「プログラミングなどサイエンスの講習にも使えそう」など、使い勝手の向上や用途の拡大につながりそうな改善点や意見、感想もあった。
高宮部長は「今回みなさまから頂いた意見を参考に試作品を製品化し、11月の発売を目指します」と話した。
一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)が能登半島の豪雨災害への対応を開始した。自衛隊と連携し孤立集落へのドローンによる物資配送などにあたる。株式会社NEXT DELIVERY(小菅村<山梨県>)、株式会社ACSL(東京)がすでに現地入りし、株式会社エアロジーラボ(AGL、箕面市<大阪府>)、株式会社SkyDrive(豊田市<愛知県>)が近く合流する。ブルーイノベーション株式会社(東京)も一両日中に加わる。
JUIDAは9月23日に被害の大きい輪島市に入った。翌9月24日にはNEXT DELIVERY、ACSLが合流した。株式会社エアロジーラボ(箕面市<大阪府>)、株式会社SkyDrive(豊田市<愛知県>)も9月25日中に現地入りし、ブルーイノベーション株式会社も追って合流する見通しだ。
このうち事業者として現地にもっともはやく合流したNEXT DELIVERYは小菅村、小松市(石川県)のそれぞれから現地で運用していた物流用機Air Truckを持ちこんだ。2機を持ちこんだのは、孤立集落への物資配送の輸送頻度が高くなることが見込まれるためだ。1月に発生した能登半島地震の震災対応のさいには小菅村の機体を持ちこみ、医薬品の輸送で被災地を支援した。同社はドローン配送を平時と有事の両面で活用するフェーズフリー活用に取り組んでいる。
輪島市中心部では9月21日午前9時10分までの1時間に120ミリの大雨が記録され、気象庁が輪島市、珠洲市、能登町に大雨特別警報を発表した。その後22日午前10時10分、気象庁金沢地方気象台が大雨特別警報を大雨警報に切り替えたと発表した。
国土交通省は9月22日午後3時に輪島市、珠洲市、穴水町、能登町を国土交通大臣による航空法第132条の85による緊急用務空域公示第2号に指定した。ドクターヘリや救急搬送などの活動を妨げることにならないよう、国、地方などの要請を受けていないドローンは現地での飛行させることができない。一方、孤立集落への物資搬送などにドローンの活用は期待されていて、石川県は9月24日、JUIDAに対し支援を要請した。
JUIDAは石川県の要請より前に現地への急行を準備し、9月23日には現地に入りし、自衛隊など関係機関と調整を開始。24日の石川県からの要請を受けて具体的な取り組みを進めることになった。25日にはひとつの孤立集落への物資輸送を開始する準備を進めていたが、幸いにもこの集落への陸路が開通したためこの集落への配送は陸路にまかせ、ドローン配送は別の集落への取り組みに切り替えることを決め、次の対応を練っている。
JUIDAのもとにはドローン事業者から協力の申し入れも届いており、JUIDAが現地の需要とすりあわせながら、対応を検討している。
能登地方では9月25日も不明者の捜索が続けられ、この日輪島市で3人がみつかり、いずれも死亡が確認されたことから、豪雨の死者は計11人となった。午後4時現在、5人の行方がわかっていない。また輪島市、珠洲市、能登町の16カ所の集落が孤立し、157人が取り残されている。
山梨県は、富士山麓に広がる青木ヶ原樹海での夜間パトロールにドローンを活用する取り組みを始めた。自殺防止対策の一環で、ドローンの運用は海岸警備や夜間警備の実績を持つ株式会社JDRONE(ジェイドローン、東京)が担う。9月18日は富士河口湖町の景勝地、富岳風穴の隣接地にドローンやモニターを設置し、自動飛行のデモンストレーションや最初の取り組みを行った。国の天然記念物である青木ヶ原樹海は、観光名所が多く海外からの観光客も多く訪れる。一方で自殺多発地帯としても知られ、山梨県は見回りなどの対応を強化している。ドローンでの見回りは夜間の見回りと人影を発見したさいの声掛けを担う。
初日の9月18日には、富岳風穴の隣接地に拠点を整備した。見回り用にサーマルカメラを搭載したドローンDJI Matriceシリーズを用意し、自動充電ポートDJI Dock 2、DJI Dock 1に配備。スピーカーなど防災対応の装備をJDRONEが独自にカスタマイズしたセキュリティ用ドローンも待機させた。またドローンから届いた映像を受信するモニターなども準備した。
デモンストレーションではで見回り用ドローンがDJI Dock 2から離陸し、樹海上空を飛行した。この日はデモンストレーション用に樹海内をスタッフが歩きまわっていた。モニターにはドローンから送られてきた映像が温度の違いで白、黒の濃淡で表示された、とくに温度の高いところは赤で示された。ドローンの離陸から数分で、モニター内に不自然に動き回る白く動く点が確認できた。今度はスピーカーを備えたセキュリティードローンが離陸し、白い点が見えた地点に向かって上空から、散策路をはずれないよう促すメッセージなどを流した。メッセージは山梨県が専門家に相談したうえで練った。また上空から流す音声は入力を切り替えることで、肉声で呼びかけることができるようにもなる。
今回のプロジェクトでドローン運用の実務を担うことになったJDRONEは、海水浴客の不測の事態を警備するパトロールなどドローンを使った警備で実績を持つ。また2023年に吸収合併した当時の株式会社ヘキサメディアは、2021年に甲州市で果実盗難対策として不審者、不審車両を上空からドローンで発見、特定し盗難抑止につなげる取り組みを実施している。今回もこうした豊富な経験が生かせる。
山梨県によると、この事業の目的は「自殺企図者の保護」だ。県は対策として日中の時間帯には365日、パトロール員が自動車での巡回と遊歩道の徒歩での巡回を行っていて、保護の実績もあがっている。ドローンは、パトロール員の巡回が終了した夜間の見回りを担う。自殺企図者を発見したさいにはパトロール員に連絡をとって保護にあたる。必要に応じ警察とも連携する。
2023年に山梨県内で自殺とみられる死者が発見されたのは215人。人口10万人あたりの自殺者数26.8で2年連続全国最悪だ。3割は居住地が山梨県外であることもわかっている。
山梨県健康増進課の知見圭子課長は「ドローンによるパトロールを含めて様々な方面からアプローチし、自殺防止に取り組んでいきたいと考えています。青木ヶ原は自然が多様で名所も多く魅力あふれる場所です。こうした魅力で知られることを期待しています」と話している。
ドローン配送を既存物流と融合させる「新スマート物流」を進めている株式会社NEXT DELIVERY(小菅村<山梨県>)など3社は、山梨県と、新スマート物流の広域化と県全域での整備と、災害時に物資輸送などを担う平時と有事との両用化を推進し、地域物流インフラを強靭化する連携協定に締結した。新スマート物流は2021年に山梨県小菅村で発足し、これまでに市町村単位での連携で実績を積み上げ全国各地に広がってきた。今回の山梨県との締結は、新スマート物流の都道府県単位で協定としては初めてで、山梨県の長崎幸太郎知事は、県内生まれのプロジェクトで協定を締結することに「子供が立派になって戻ってきてくれたよう」と目を細めた。
協定の締結式は8月28日に、山梨県庁内で行われた。山梨県と協定を締結したのはNEXT DELIVERYのほか、セイノーラストワンマイル株式会社(東京)、富岳通運株式会社(甲府市)の3社。締結式では各社の代表が協定に署名し、抱負を述べた。
協定は「山梨県におけるフェーズフリーな地域物流インフラの構築を促進し、もって県民生活や地域経済基盤の強靱化に資すること」が目的で、2024年問題など地域の物流課題、災害時の物資輸送など防災インフラづくりなどで協力して進めることが記されている。具体的な内容や進め方は今後、3社と県が検討を進める。
NEXT DELIVERYの田路圭輔代表取締役は6月28日に修正された防災基本計画が、「交通の途絶等により地域が孤立した場合でも食料・飲料水・医薬品等の救援物資の緊急輸送が可能となるよう、無人航空機等の輸送手段の確保に努めるものとし」など、ドローンの積極活用が明記されたことを引き合いに「平時、緊急時をまたいでドローンをしっかり活用する国の方針は心強く思いました。小菅村、丹波山村(ともに山梨県)で始めた新スマート物流を山梨県全域に広げ、緊急時にもしっかり地域を支えるインフラにしたいと思っています」と決意を述べた。
また、「新スマート物流のアップデートには山梨県のお力添えが不可欠だと思っています。最初に提携したかったのは、小菅村での活動のベースである山梨県でしたので、一番早く協定を結んで頂きました」と付け加えた。
山梨県の長崎知事はこれを受けて「大変、親孝行な子供をもって幸せだと思います」と笑顔を見せた。さらに「山梨県には災害がおきると孤立集落になるおそれのある場所があります。医薬品や食品の輸送などの課題がありますので、その解消をどうするか。有事対応が前提ですが、平時に使い慣れていないと機能しないとも思います。(離発着場となる)ドローンポートは孤立の恐れのあるところに設置する必要があると思います。これは急いでやりたい。設置した住民に『ここにドローンが来ますからびっくりしないでくださいね』と伝えて、普段使いもしていただいて。災害がおきたときにも物流にあてられるようにしたいですね」と述べた。
協定締結を受けて公表されたプレスリリースの内容は以下の通り
~県民生活や地域経済基盤の強靱化を目指して~
写真向かって左より山梨県知事 長崎幸太郎、NEXT DELIVERY 代表取締役 田路圭輔、セイノーラストワンマイル 代表取締役社長 河合秀治、富岳通運 代表取締役 浅沼 克秀
山梨県(知事:長崎幸太郎)と株式会社NEXT DELIVERY(本社:山梨県小菅村、代表取締役:田路 圭輔、以下NEXT DELIVERY)、セイノーラストワンマイル株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:河合 秀治、以下 セイノーラストワンマイル)および富岳通運株式会社(山梨県甲府市、代表取締役:浅沼 克秀、以下富岳通運)は、2024年8月28日に、山梨県におけるフェーズフリーな地域物流インフラの構築に向けた連携協定を締結いたしました。
NEXT DELIVERYの親会社である株式会社エアロネクスト(以下 エアロネクスト)とセイノーホールディングス株式会社(以下 セイノーHD)は、トラックや軽バン等の陸上配送にドローン輸送を組み合わせて物流を効率化する新スマート物流SkyHub®を、山梨県の第1期TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業による試験的運用を経て、2021年10月から日本で初めて小菅村にて社会実装し、現在では北海道上士幌町や福井県敦賀市をはじめ全国10ヶ所で展開しています。
その後NEXTDELIVERY、セイノーHD、富岳通運等は、2024年問題対策として各社のリレー方式で物流の効率化を図る共同配送を、2023年8月から小菅村・丹波山村においていち早く開始しています。中山間地域の物流において、大手物流会社含む複数社での共同配送を実施する事業は全国でも珍しい事例です。
富岳通運は、2022年8月に山梨県と災害時における山梨中央ロジパークの施設使用に係る連携協定を締結するとともに、県下27市町村と災害時の連携協定を締結しています。
エアロネクストとNEXT DELIVERYは、2024年1月に起きた能登半島地震において、孤立集落・避難所へのドローンによる医薬品の物資輸送を国内で初めて実施した経験を踏まえ、平時、有事を問わず、ドローンを活用したフェーズフリー型統合ソリューションの構築が必須であり、そのためにはこれまで推進してきた新スマート物流SkyHub®が基盤になりえると考え、国や自治体と前向きな会話を始めています。
今回、4者が相互の連携・協力により、山梨県における2024年問題など平常時の地域の物流ネットワークの強化や買い物弱者対策、並びに災害時の被災地への迅速な物資輸送を可能とするフェーズフリーな地域物流インフラの構築を促進し、県民生活や地域経済基盤の強靱化を図ってまいります。
<連携協定の概要>
1.締結日 2024年8月28日
2.協定の目的
本協定は、山梨県におけるフェーズフリーな地域物流インフラの構築を促進し、もって県民生活や地域経済基盤の強靱化に資することを目的とする。
3.協定の内容
上記目的を達成するため、以下の事項について相互に連携・協力する。
(1)2024年問題など地域の物流課題の解決に関すること
(2)災害時の物資輸送など防災インフラづくりに関すること
(3)その他、目的を達成するために必要な事項
8月28日に実施された連携協定締結式において、代表4者が以下のとおりコメントしています。
<山梨県知事 長崎幸太郎のコメント>
NEXT DELIVER、セイノーラストワンマイル、富岳通運の3者の皆さまと連携協定を締結することができ、心より感謝申し上げます。山梨県小菅村での実証実験からスタートした「新スマート物流」は、すでに全国各地に展開されており、このたびのフェーズフリーな地域物流インフラの構築は、山間部など人口減少エリアを数多く抱える本県にとって、非常に重要な課題であります。また、先般の「南海トラフ地震臨時情報」を機に災害への備えを見直すなかで、ドローンの活用が非常に有効なものと改めて認識したところです。このたびの協定は山梨県にとっても大変意義深いものであり、3社の皆さまと県民生活の強靱化に向けた取り組みを加速して参ります。
<NEXT DELIVERY代表取締役 田路 圭輔のコメント>
2021年1月に小菅村にNEXT DELIVERYを設立し、ドローン配送をスタートしたのも山梨県、共同配送をスタートしたのも山梨県で、山梨県は様々な新スマート物流の取り組みの起点になってきました。この度、山梨県とこのような新たな取り組みをスタートできることを本当に光栄に思います。地元の運送会社様との連携をベースにして、平常時と緊急時をフェーズフリーに利活用できる地域物流インフラを構築していく今回のプロジェクトを全都道府県に拡げていきたいと思います。
<セイノーラストワンマイル代表取締役社長 河合 秀治のコメント>
セイノーHDは、幹線輸送の強みを活かしたラストワンマイル配送領域において、生活様式の変化や構造変化に対応すると共に、買い物弱者対策、生活困窮家庭対策等の社会課題解決型ラストワンマイルの構築を積極的に推進・拡大しております。山梨県小菅村、丹波山村においては、物流会社が抱える2024年問題や地域課題に対して、富岳通運様をはじめとする物流各社様と連携して共同配送を構築、また、この配送インフラを緊急時は物資輸送に利活用できるしくみとしています。今後も同じ課題をもつ全国の地域にこの小菅・丹波山モデルを展開し、住民の皆様が持続的に安心して暮せる環境づくり、住民サービスの維持、向上を進めてまいります。
<富岳通運 代表取締役 浅沼 克秀のコメント>
提携協定を契機に、更なる地域の物流ネットワーク構築及び課題解決に向けた取り組みを協同して参りますのでよろしくお願い致します。