楽天グループ株式会社(東京都世田谷区)と日本郵便株式会社(東京都千代田区)の合弁企業、JP楽天ロジスティクス株式会社(東京都千代田区)が9月末に配信したプレスリリースがドローンの関係者の間で話題になった。標題は「山岳エリアにおける配送の実用化に向けた実証実験を実施」で強調された表現はない。しかし本文を読むと、山間地の離陸地点から標高が約1600m高い目的地まで、地元事業者を中心に2人体制で、7㎏の荷物をドローンで運び、しかも自動で届けたあと離陸点までドローンを帰還させている。難易度は低くない。登山者を受け入れる山小屋が飲み水や食料などを調達することは、必要な作業だが大変な重労働だ。担い手の確保も難しい。ドローンの取り組みはこの難題の解決に道を開きそうに見える。JP楽天ロジスティクスドローン・UGV事業部の向井秀明ジェネラルマネージャーにインタビューをすると、主に4点の成果があったことと、この取り組みに使った機体が、台湾大手の機体をカスタマイズして使ったことが分かった。向井氏は「今回の取り組みでインフラ化の『やり方の型』を見つけた」と話す。
JP楽天ロジスティクスが参加した実験は、2021年8月から9月までの2か月間、長野県白馬村の山岳エリアで行われた。実施主体はJP楽天ロジスティクスを含めて11の企業、団体、自治体で構成する「白馬村山岳ドローン物流実用化協議会」だ。構成する企業・団体は、JP楽天ロジスティクスのほか、株式会社白馬館、一般財団法人白馬村振興公社、株式会社からまつ、白馬村、株式会社MountLibra、株式会社eロボティクス、株式会社丸和運輸機関、株式会社カナモト、有限会社KELEK、株式会社先端力学シミュレーション研究所だ。
実験は、山岳エリアでの物資輸送の課題を、ドローンを活用して解決を目指す取り組みで、JP楽天ロジスティクスが配送ソリューションの提供を担った。
実験は、白馬岳の標高1250mの登山口にある宿舎「猿倉荘」から、標高2730mの白馬岳頂上宿舎や、標高2832mの「白馬山荘」までの、生鮮食品や飲料、医療物資などの運搬。往復10㎞、標高差は最大1582m、積み荷は最大7㎏。パイロット任務や運航管理を地元事業者が主体で担う体制にした。また2020年8月に白馬村で行った前回の実験では7人の補助員を配置するなど10人以上の体制で運用していたが、今回は補助員の配置をせずに2人体制で運用に臨み、それを成功させた。
このドローン配送の成功は、運用体制の省人化、大幅なコスト削減の実現にめどをつけた。また発表では、「新機体を用い」たことも明かしている。さらに許可承認を受けたうえで、対地高度1m以下の高さから積み荷を切り離して落下させる物件投下による配送も実施した。補助者を配置しない目視外飛行での物件投下による往復配送の実現は、本実証実験が国内で初の事例とも伝えている。
この実験をどう見ているのか。JP楽天ロジスティクスドローン・UGV事業部の向井秀明ジェネラルマネージャーに聞いた。
――この発表には複数の見るべき要素が詰まっていると感じた。実験の成果を整理すると?
「どちらかと言えば、一見、地味な発表だと思います。ふだん山に行かない方も多いと思います。ただ、業界や実情をご存知の方には『実用化が見え始めたのではないか』と思って頂けそうなことを詰め込みました」
――どんな性格を持った実験だったのでしょう
「実施したのは標高2832mの高地に向けて荷物を運ぶミッションです。ヘリを使うか、歩いて7時間かけて運ぶか、という選択肢しかないところで、ドローンという新たな選択肢を試した重要なイベントでした。新たな配送インフラとなるかどうかという大きな意味を持っています。高低差約1600mを往復飛行させたのですが、従来はドローンで7㎏運び終えたあと、離陸地点まで飛んで戻るのは難しかった。それを成功させた意味でも重要だったと思っています」
――改めて取り組みの意義を教えてください
「大きく4つありました。一つ目が省人化です。ドローンの取り組みはさまざま行われていますが、それを見た人は『こんなに人が必要なんですね』と口にします。必要な人員が多いと1配送のコストが高くなります。インフラ化したいのに人手をかけていてはなり立ちません。いかに少人数にするかが重要です。現時点では1人体制は難しい。最低2人は必要です。それであればこの2人でどう実現するか。それをこの1年間、チームで考え抜きました。白馬で10人以上の人手をかけ運んでいたところを、目視外・補助者なし飛行のレベル3の承認を受けて、さらにドローンの機体性能や、遠隔監視システムなども大幅に向上させて、今回ついに、2人運用体制で配送を成功させることができたわけです。事情をご存知の方が見ると、2人で運用できるのならコストが見合うのではないか、などと思って頂けると思います」
――地元の事業者が主体で運用させた、というお話でした
「そこが二つ目の意義です。現時点であれば楽天のメンバーが現地に赴いて運用すればよいのですが、今後インフラ化するにあたっては、毎回楽天が出張して運用する体制にするわけにはいきませんし、専門家しか使えないソリューションであってもいけません。地元のドローン事業者、将来的には未経験の山小屋のスタッフさんや、地元の運送業者が導入できるようにすることにこそ意味があります。今回は、地元の事業者さんに適切なトレーニングを提供し、運用できるかどうかを試しました。それに成功したことが今回の大きな成果でした」
――「地元で」「2人で」可能なソリューションであれば導入のハードルが下がりそうです
「その『2人で』を実現させるには、往復飛行ができることが大事なのです。それが三つ目の意義です。それまでは離陸場所、着陸場所のそれぞれに人を配置していました。なぜなら着陸場所でドローンのバッテリーを交換しなければならなかったからです。しかしバッテリー交換なしで往復飛行できるようになったことで、標高2800mの目的地に人を配置する必要がなくなりました。ドローンの専門家は離陸側にさえいればいい。それを今回はしっかり実現できました。実はこれを実現させるために、長距離を飛べて、重い物が運べる信頼性の高いドローンの開発を進めてきました。その開発が進み、本実証における飛行に成功したということも、このリリースに隠れている事実です」
――発表には「新機体」とだけ、あっさりと表現されていました
「『新機体』の正体は、台湾のCIRC(コアトロビック・インテリジェント・ロボティクス・コーポレーション、中光電智能機器人、https://www.coretronic-robotics.com/)製のドローンがベースです。台湾では非常に有名なメーカーで量産機器も作っています。生産品質が量産品質ですので今回採用しました。過酷な飛ばし方をさせるので、そのままで使うのではなく共同開発をしたドローンです」
――さて、3つの大きな成果を教えて頂きました
「もうひとつありまして、それが往復飛行を実現できた大きな要素です。3月の法改正です。従来は目視外・補助者無しの飛行では、物件を投下してはならない、となっていましたが、物流をするうえでは障害になります。なぜなら着陸場所に草があったり、石があったりして、着陸をすることが危険になるケースがあるからです。またドローンは『地面効果』の影響で着陸直前にもっとも不安定になります。法改正により1メートル以下からの物件投下が許可されたことで、ドローンが安定している中で、安全に荷物を下ろすことができるようになりました。さらにバッテリーの消費も節約できます。これが可能になったことで、十分にバッテリーを残せるようになりました」
――4つの成果を得られるまでを振り返ってどんな感想をお持ちですか
「今回の取り組みで、実証実験から実用化に向けて大きくギアが切り替わったとわれわれは感じています。取り組みの間は、ずっと実用化の扉を開くために必ず成功させよう、と声をかけあってきた経緯もあります。われわれとしての本丸はラストワンマイル配送です。第三者上空飛行の解禁スケジュールもある程度みえはじめていますが、それまで十二分なノウハウを蓄えておきたい。そのノウハウを蓄えるために、山小屋で実用化を展望できる取り組みが進められたことは大きいと思っています。山小屋のサービスクオリティーが向上し、登山客が増え、登山道の整備が進む、雇用も生まれる、という形で地方創生が進むことを願っていますし、たとえばヘリからドローンへの代替が進むことでカーボンニュートラルが進むことにも期待します。われわれは今回の取り組みで、インフラ化するための『やり方の型』を見つけましたので、料金を頂戴して運用する実用化につながることを目指します。そこが見えたことこそが、今年の実証の非常に大きな成果だと思っています。それと、白馬の登山シーズンには当たり前のようにドローンが飛んでいるようになればいいですね」
――白馬の風景にドローンが溶け込む日が来そうですね。楽しみです。ありがとうございました
■JP楽天ロジスティクスの実証実験の概要 ・実施期間 : 2021年8月から9月までの約2カ月間 ・配送ルート: 「猿倉荘」(標高1250m)から離陸し、 白馬岳頂上宿舎(標高2730m)および「白馬山荘」(標高2832m)に配送 ・飛行距離 : 往復約10km、高低差約1600mの配送 ・配送物資 : 生鮮食品、飲料、医療物資他(最大7kg) ・運営主体 : 白馬村山岳ドローン物流実用化協議会 ・ソリューション提供 : JP楽天ロジスティクス株式会社 ・実行 : 地元事業者
防災、事業継続、セキュリティなど危機管理に関連する技術を紹介する「危機管理産業展(RISCON TOKYO)2024」(株式会社東京ビッグサイト主催)、テロ対策技術を紹介する「テロ対策特殊装備展(SEECAT)’24」(東京都主催)、新技術、新製品を御披露目する「エヌプラス(N-Plus)2024」の「特別企画展フライングカーテクノロジー」(エヌプラス実行委員会 、 フライングカーテクノロジー実行委員会主催)が10月9日、東京ビッグサイトで始まった。ドローンやエアモビリティの関連技術、製品も展示され、セミナーなどステージ企画も多くの来場者を集めている。いずれも11月11日まで。SEECATへの入場は完全事前登録制だ。
RISCONは危機管理技術のトレードショーで、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA、東京)、株式会社JDRONE(東京)、株式会社Liberaware(千葉市)など多くの関連事業者が技術を持ち寄っている。ステージ企画でもドローンやエアモビリティ関係の第一人者が登壇し、初日の9日には、株式会社manisoniasの下田亮氏が能登半島地震で被災した沿岸部海底を調査した経緯やそのときに仕様した技術などを紹介した。
下田氏は空のドローン、水中ドローンを使い分けてデータを取得し、それらを組み合わせて地形図を作るなどして、地震による海底被害の調査に取り組んだ。下田氏は「調査した海底では、あるはずの海藻が根こそぎ引きはがされていた。魚などの産卵場所が少なくなっていることが考えられ、調査結果は漁業者が対策を相談するさいの資料になると思う」などと、調査の意義を報告した。また、光が乏しい水中の画像を鮮明化する技術を、同社の海上自衛隊OBが新たに「ivcs」として開発したことも紹介し、この技術を使う前後の画像を比較して示したりした。会場は多くの来場者が詰めかけ、講演を時間より早めに終えたあと会場からの質問も受け付けるなど盛況だった。
N-Plusの特別企画展フライングカーテクノロジーでも多くの展示、講演が企画され初日から多くの来場者が詰めかけた。
「空飛ぶクルマの現状と課題」を演題にした基調講演では、慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)顧問の中野冠フライングカーテクノロジー実行委員長がコーディネートし、株式会社SkyDriveの福澤知浩代表取締役CEO、テトラ・アビエーション株式会社の中井佑代表取締役が登壇した。
中野氏は、通説を疑ってみることを提唱し、「空飛ぶクルマ」に関わる騒音、利便性、環境などいくつもの「疑わしい通説」を列挙し盲目的に信じ込むことに警鐘を鳴らした。SkyDriveの福澤氏は開発している機体を大阪・関西万博でフライトさせる目標に向けて活動を続ける中で、「万博では飛行場でもない場所で複数の機体、それも2種どころではない機体が飛ぶことが予定されていて、そうなれば世界で初めてです。商用運航ができないことがニュースで大きく取りあげられていますが、実は世界でも画期的なことをしようとしているのです」と万博での飛行の意義を強調した。テトラの中井氏は「移動時間を短くすることを目指し開発をしている。現在開発中の機体は今年度末に試作機が出来る予定」などと計画が進んでいることを説明した。
10日以降も多くの来場者が見込まれる。
東京都内に竣工した大規模物流施設「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」に、ドローンの実証実験が可能な施設「板橋ドローンフィールド(板橋DF)」が誕生し、10月2日にお披露目された。LOGIFRONT東京板橋は三井不動産株式会社、日鉄興和不動産株式会社が開発した地元と協議を重ねて竣工した「街づくり型物流施設」でドローンフィールドは物流施設に寄せられる新産業創出機能に対する期待を担う。ドローンフィールドは一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)、ブルーイノベーション株式会社が監修した。飛行用ネットフィールドやドローンポートが備わり、稼働中の物流施設を使った実験も可能で、都心の実験場の開設で、高頻度の実験が可能になる。会員制コミュニティも運用し共創を加速させる。
LOGIFRONT東京板橋と板橋DFは9月30日に竣工し、10月2日に竣工式典と説明会が行われた。説明会では日鉄興和不動産の加藤由純執行役員、三井不動産の篠塚寛之執行役員、板橋区の坂本健区長が参加した。加藤氏、篠塚氏が施設を説明し、坂本区長があいさつをした。施設内では内覧会でドローンのデモフイライトが行われ、ここでは三井不動産ロジスティクス事業部の小菅健太郎氏が概要を説明、JUIDAの鈴木真二理事長があいさつをした。ブルーイノベーションの熊田貴之代表取締役社長も登壇した。
板橋DFはドローン飛行用のネットフィールド、ドローン事業者用R&D区画、交流スペースを備える。物流施設に併設していることから、施設を実験会場として活用することも想定していて、施設の外壁を使った点検や配送などの垂直飛行、屋上にはりめぐらされた太陽光パネルの点検、接地されているドローンポートの活用、AGV(自動搬送車)との連携などが想定されている。ドローンオペレーター輩出で実績をもつドローンスクール、KDDIスマートドローンアカデミー(東京)が東京板橋校を構え、人材育成にあたることも発表された。
このうちネットフィールドは、敷地内の広場に整備された広さ約650㎡、高さ14mのネットに囲まれた設備で、この中では申請をせずにドローンを飛ばせる。KDDIスマートドローンアカデミー東京板橋校の講習会場にもなる。敷かれている芝はフットサルコート仕様で、時間帯によって地域住民の健康増進にも開放される。
ネットフィールドに近い入り口から建物に入るとすぐ、ネットフィールドをのぞむ位置にドローン事業者の交流を目指して設置された交流施設「ドローンラウンジ」がある。大型モニター付きのミーティングルームなどが備わり、ネットワーキングイベントにも使える。
この日はデモフライトも行われ、施設内では物流施設内で照明を落とし、光が届きにくい場所で球体ドローンELIOS3などの機体を飛行させる様子や、建物の外壁を点検するような飛行を公開した。
説明会では、東京大学と三井不動産の産学共創協定に基づく「三井不動産東大ラボ」が主体となる共同研究としてGPSに依存しないドローン位置特定技術、高層マンションなどでの垂直配送実現性検証や、ブルーイノベーションが主体となる長距離、長時間、自動航行に対応する高性能ドローンポートの開発などが含まれることが紹介された。
三井不動産の篠塚執行役員は「都心での高頻度な実験が進みにくい課題を解決することが可能となります。ドローン技術のイノベーションが起こることを期待しています。またここで検証された技術が配送、建物管理、災害時対応などの分野で課題解決につながることを期待しております」と述べた。
監修を担当したJUIDAの鈴木真二理事長は「ドローン産業の発展に少しでもお役にたてることを期待しております」とあいさつした。
板橋DFの入るLOGIFRONT東京板橋は、三井不動産、日鉄興和不動産が手掛ける大規模街づくり型物流施設で、物流拠点として高い機能と豊かなデザインを備えながら、地元の要望を取り入れた街に開かれた施設で、三井御不動産の篠塚執行役員は「街づくり型物流施設の集大成」と位置付けた。
板橋区との協議では、災害に強いまちづくり、地域に開かれた憩いの場の整備、新産業機能の要望を取り入れ、近くを流れる荒川、新河岸川の氾濫などの災害を想定し、住民の対比場所の確保、支援物資の補完場所の確保なども設けていることが特徴だ。あいさつした板橋区の坂本健区長は「防災力向上に多大な貢献を頂いております」と謝辞を述べた。
開発したのは日本製鉄の製鉄所があった場所で、フロアプレート約36000㎡、屋上に設置した太陽光パネルは4MV、敷地の河川敷として公開空地を設定して地域にも開放した。
ドローンフィールドとの相乗効果について、今回の説明会で物流用途や防災用途でのグ遺体的な実装計画には触れられなかったが、大型物流施設に併設されたフィールドであり、大型河川の流域に位置し、防災に高い問題意識を持つ板橋区にあることなどから、ドローンの実装にも高い期待がかかりそうだ。
第3回ドローンサミットが10月1日、札幌札幌コンベンションセンターで開幕した。会期は2日間。32の関連ブースが来場者を迎える。講演などのステージ催事も多く催される。初日の10月1日は北海道内外から多くのドローン関係者が訪れた。会期は2日まで。
第3回ドローンサミットは経済産業省、国土交通省、北海道が主催。地元北海道のデジタル技術見本市、「北海道ミライづくりフォーラム」と同時開催となる。ドローンサミットは2022年に神戸、2023年の長崎に続く開催。展示のほかデモフライト、識者や事業者による講演、セミナーなども開催される。
初日にはSkyDriveや大阪府などが登壇する「空飛ぶクルマのミライ~大阪・関西万博とその後の社会実装の展望~」、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)による「能登半島地震における災害時支援報告と今後に向けて」などが行われた。2日目も全国新スマート物流推進協議会などによる「ドローン物流を組み込んだ新たな社会インフラの現在地と今後の展開」、DRONE FUNDや北海道大学、NEDOなどが登壇する「北海道の空の未来とは ~エアモビリティ前提社会に向けて~」などいくつものステージが会場を彩る。
(写真はいずれも田口直樹氏が撮影)
トレーニング用の小型ドローンとコントローラーがセットになった新・練習機セット「DRONE STAR TRAINING」を開発した株式会社ORSO(東京)が、開発中の「実地試験トレーニングマット」の試作品の使い勝手を試せる「特別試操会」を9月27日、東京・内神田で開いた。国家資格の実地試験対策を想定した試験コースを約3分の1サイズでプリントしたマットと、操縦技能修得を成否を分けると言われる「8の字」に特化したマットの2種類の試作品が用意され、スクール講師、事業者、愛好家らがDRONE STAR TRAININGを操縦しながらマットの使い勝手を試した。参加者からは「受講生向けの自宅練習にいい」「講習の空き時間にも使える」「科学教育でも導入できそう」などの感想や意見が相次いだ。ORSOは今回の意見や感想も参考にして製品化を進め、11月中の発売を目指す。
トレーニングマットはドローンを飛ばすコースがプリントされたマットで、新・練習機セット「DRONE STAR TRAINING」を使って、国家資格取得に必要な技能を効率的に習得することを主な目的としてORSOが開発している。6月に開催されたドローンの展示会JapanDroneでDRONE STAR TRAININGを公開したさいに会場に設置したところ、DRONE STAR TRAININGとともに「あのマットも欲しい」という声が相次いで寄せられ、市販化に向けて開発を進めることになった。
この日はAタイプとBタイプの2種類の試作品がお披露目された。Aタイプは国家資格の実地試験コースをイメージしたもので、約3分の1に縮小したコースがプリントされている。ふたつに分かれているマットをマジックテープでつなげて使う仕様で、広げると4.8m×2.5mになる。収納や運搬のさいには、ふたつに分けて丸めれば、折り目をつけずに1.3mの筒に収まる。素材はDRONE STAR TRAININGの機体を飛ばしたさいにダウンウォッシュで浮き上がることなく、それでいて、持ち運びのさいにかさばり過ぎないようなものを選んだ。
スクエア飛行、8の字飛行、異常事態における飛行などに対応し、パイロンが置かれる場所なども図示されている。数字がふられていて試験や練習で想定される「『3』から『4』に移動してください」などの指示に従う練習も可能だ。特別試操会を主催したORSOの高宮悠太郎DRONE STAR事業部長は「エレベーター、エルロンを同時に動かす練習などにいかしてもらうことを想定しました」と説明した。
またBタイプは、操縦技能の習得で難関とされる「8の字」部分を抜き出したコースがプリントされているマット。3m×1.5mとAタイプよりひとまわり小さく、計算上は江戸間の6畳におさまる。高宮部長は「さらに小さい場所に設置できるよう、難しいといわれる部分の練習に特化したタイプです」と説明した。長方形をたてに3分割されていて、すべてをつないでも、中央を抜いて左右をつないでも使える。左右をつなげることで円周上を飛ばす練習に使うことができる。また3つに分割したマットをまるめれば、1.1mの筒に収納できる。
いずれのマットも実地試験コースの3分の1サイズになっているのは、DRONE STAR TRAININGの機体サイズが、国家資格の試験に使われる機体のたて、よこともに3分の1程度であることなどを考えたためだという。
試操会では、約10人の参加者が次々とAタイプ、Bタイプのマットの上で飛行し使い勝手を試した。参加者からは「受講生に課題を与えるさいに使いやすい」「自宅練習用に貸し出すこともできそう」「講習の効果を高めやすい」などと、国家資格取得に向けた効果を期待する声が多く聞かれ、ORSOスタッフがメモをしたり掘り下げるための質問をしたりした。中には「プログラミングなどサイエンスの講習にも使えそう」など、使い勝手の向上や用途の拡大につながりそうな改善点や意見、感想もあった。
高宮部長は「今回みなさまから頂いた意見を参考に試作品を製品化し、11月の発売を目指します」と話した。
一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)が能登半島の豪雨災害への対応を開始した。自衛隊と連携し孤立集落へのドローンによる物資配送などにあたる。株式会社NEXT DELIVERY(小菅村<山梨県>)、株式会社ACSL(東京)がすでに現地入りし、株式会社エアロジーラボ(AGL、箕面市<大阪府>)、株式会社SkyDrive(豊田市<愛知県>)が近く合流する。ブルーイノベーション株式会社(東京)も一両日中に加わる。
JUIDAは9月23日に被害の大きい輪島市に入った。翌9月24日にはNEXT DELIVERY、ACSLが合流した。株式会社エアロジーラボ(箕面市<大阪府>)、株式会社SkyDrive(豊田市<愛知県>)も9月25日中に現地入りし、ブルーイノベーション株式会社も追って合流する見通しだ。
このうち事業者として現地にもっともはやく合流したNEXT DELIVERYは小菅村、小松市(石川県)のそれぞれから現地で運用していた物流用機Air Truckを持ちこんだ。2機を持ちこんだのは、孤立集落への物資配送の輸送頻度が高くなることが見込まれるためだ。1月に発生した能登半島地震の震災対応のさいには小菅村の機体を持ちこみ、医薬品の輸送で被災地を支援した。同社はドローン配送を平時と有事の両面で活用するフェーズフリー活用に取り組んでいる。
輪島市中心部では9月21日午前9時10分までの1時間に120ミリの大雨が記録され、気象庁が輪島市、珠洲市、能登町に大雨特別警報を発表した。その後22日午前10時10分、気象庁金沢地方気象台が大雨特別警報を大雨警報に切り替えたと発表した。
国土交通省は9月22日午後3時に輪島市、珠洲市、穴水町、能登町を国土交通大臣による航空法第132条の85による緊急用務空域公示第2号に指定した。ドクターヘリや救急搬送などの活動を妨げることにならないよう、国、地方などの要請を受けていないドローンは現地での飛行させることができない。一方、孤立集落への物資搬送などにドローンの活用は期待されていて、石川県は9月24日、JUIDAに対し支援を要請した。
JUIDAは石川県の要請より前に現地への急行を準備し、9月23日には現地に入りし、自衛隊など関係機関と調整を開始。24日の石川県からの要請を受けて具体的な取り組みを進めることになった。25日にはひとつの孤立集落への物資輸送を開始する準備を進めていたが、幸いにもこの集落への陸路が開通したためこの集落への配送は陸路にまかせ、ドローン配送は別の集落への取り組みに切り替えることを決め、次の対応を練っている。
JUIDAのもとにはドローン事業者から協力の申し入れも届いており、JUIDAが現地の需要とすりあわせながら、対応を検討している。
能登地方では9月25日も不明者の捜索が続けられ、この日輪島市で3人がみつかり、いずれも死亡が確認されたことから、豪雨の死者は計11人となった。午後4時現在、5人の行方がわかっていない。また輪島市、珠洲市、能登町の16カ所の集落が孤立し、157人が取り残されている。
山梨県は、富士山麓に広がる青木ヶ原樹海での夜間パトロールにドローンを活用する取り組みを始めた。自殺防止対策の一環で、ドローンの運用は海岸警備や夜間警備の実績を持つ株式会社JDRONE(ジェイドローン、東京)が担う。9月18日は富士河口湖町の景勝地、富岳風穴の隣接地にドローンやモニターを設置し、自動飛行のデモンストレーションや最初の取り組みを行った。国の天然記念物である青木ヶ原樹海は、観光名所が多く海外からの観光客も多く訪れる。一方で自殺多発地帯としても知られ、山梨県は見回りなどの対応を強化している。ドローンでの見回りは夜間の見回りと人影を発見したさいの声掛けを担う。
初日の9月18日には、富岳風穴の隣接地に拠点を整備した。見回り用にサーマルカメラを搭載したドローンDJI Matriceシリーズを用意し、自動充電ポートDJI Dock 2、DJI Dock 1に配備。スピーカーなど防災対応の装備をJDRONEが独自にカスタマイズしたセキュリティ用ドローンも待機させた。またドローンから届いた映像を受信するモニターなども準備した。
デモンストレーションではで見回り用ドローンがDJI Dock 2から離陸し、樹海上空を飛行した。この日はデモンストレーション用に樹海内をスタッフが歩きまわっていた。モニターにはドローンから送られてきた映像が温度の違いで白、黒の濃淡で表示された、とくに温度の高いところは赤で示された。ドローンの離陸から数分で、モニター内に不自然に動き回る白く動く点が確認できた。今度はスピーカーを備えたセキュリティードローンが離陸し、白い点が見えた地点に向かって上空から、散策路をはずれないよう促すメッセージなどを流した。メッセージは山梨県が専門家に相談したうえで練った。また上空から流す音声は入力を切り替えることで、肉声で呼びかけることができるようにもなる。
今回のプロジェクトでドローン運用の実務を担うことになったJDRONEは、海水浴客の不測の事態を警備するパトロールなどドローンを使った警備で実績を持つ。また2023年に吸収合併した当時の株式会社ヘキサメディアは、2021年に甲州市で果実盗難対策として不審者、不審車両を上空からドローンで発見、特定し盗難抑止につなげる取り組みを実施している。今回もこうした豊富な経験が生かせる。
山梨県によると、この事業の目的は「自殺企図者の保護」だ。県は対策として日中の時間帯には365日、パトロール員が自動車での巡回と遊歩道の徒歩での巡回を行っていて、保護の実績もあがっている。ドローンは、パトロール員の巡回が終了した夜間の見回りを担う。自殺企図者を発見したさいにはパトロール員に連絡をとって保護にあたる。必要に応じ警察とも連携する。
2023年に山梨県内で自殺とみられる死者が発見されたのは215人。人口10万人あたりの自殺者数26.8で2年連続全国最悪だ。3割は居住地が山梨県外であることもわかっている。
山梨県健康増進課の知見圭子課長は「ドローンによるパトロールを含めて様々な方面からアプローチし、自殺防止に取り組んでいきたいと考えています。青木ヶ原は自然が多様で名所も多く魅力あふれる場所です。こうした魅力で知られることを期待しています」と話している。