JP楽天ロジスティクス の記事一覧:2件
  • 2022.1.17

    千葉・幕張の105m超高層マンションにドローン配送 JP楽天が大規模災害想定の実験

    account_circle村山 繁
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     楽天グループ株式会社と日本郵便株式会社の合弁会社で、ドローン配送事業を担うJP楽天ロジスティクス株式会社が、千葉市・幕張新都市の海沿いにそびえる高さ105mの31階建て超高層マンションで、大規模災害を想定したドローンによる救援物資配送を実施したと発表した。大型コンベンションセンター「幕張メッセ」、ホテル、ショッピングエリア、住宅など都市機能の集合するエリアの超高層ビルを会場にしたドローンの飛行を実現させたことで、今後、都心部各地でのドローン利用に関する議論にはずみがつく可能性がある。

    医薬品など救援物資をJP楽天とCIRCとの共同開発機で 実験実現の背景に行政と地域との良好な関係

     実験が行われたのは2021年12月2021年12月1日(水)から16日(木)にかけて行われた。会場は千葉市美浜区の「THE 幕張 BAYFRONT TOWER & RESIDENCE」のタワー棟屋上ヘリポートで、ふだんは立ち入り禁止だ。大規模災害の発生で地上の物流網が機能不全に陥ったことを想定した。

     実験では住民がスマホで楽天の専用アプリから、救急箱、医薬品の発想を注文。注文を確認すると、千葉県市川市の物流施設「プロロジスパーク市川3」の駐車場流倉庫に待機するスタッフが、品物を箱詰めしてドローンに据え付ける。ボタンを1度押すとドローンが自動飛行し、東京湾の上空を高さ約50mで飛行し、マンション接近時に150mまで浮上したうえで、100m超の超高層マンション屋上に着陸した。飛行距離は約12㎞、飛行時間は約17分。着陸したドローンから住民が荷物を受け取り、空からの配送が機能する可能性を確認した。

     使用した機体は台湾のドローン製造大手、Coretronic Intelligent Robotics Corporation(台湾新竹市 、CIRC=中光電智能機器人)の機体をベースにJP楽天ロジスティクスと共同開発した配送専用の機体で、4本のアームの先に上下にプロペラがつく回転翼機。最大積載量 じは7kgで、飛行中の情報をリアルタイムで取得できるような改良が施されたという。

     今回実験が実現できた背景には、地域と行政との信頼関係が大きい。実験の会場周辺地域は、国家戦略特区である千葉市とテクノロジーに関わる実験に協力するなど良好な関係を築いており、今回の実験も昨年春ごろに行われた別の実験を進める中で浮上し、マンション側に丁寧な説明を重ねた。JP楽天は千葉市が進める「千葉市ドローン宅配等分科会技術検討会」に参加する形で今回の実験を実現させた。JP楽天ロジスティクスドローン・UGV事業部の向井秀明ジェネラルマネージャーも「千葉市とは2018年から二人三脚でさまざまな取り組みを進めてきました。その中で、ドローンが大通り上空を飛行するにはどうしたらいいかなど、ひとつひとつの課題を検証してきました。このたびの物流倉庫から超高層マンションの屋上まで配送ができたと思っています」と話している。

     JP楽天は2016年に楽天としてドローン配送事業を手掛け始めた当初から完全自動を追求してきた。物資をドローンに搭載するところまでは人が行うものの、そのあとは一回ボタン操作をすると自動で飛ぶことで利用者の利便性につなげようとしてきた。JP楽天の向井マネージャーは「自動で離陸し、設定どおりに飛行し、荷物を切り離して帰ってくる(今回の実験は片道)。トラックの物流は常に人と荷物が一緒だが、ドローンであれば自動対応するので少人化にもつながるソリューションです」と話す。

     国内には阪神淡路大震災(1995年)の1月17日、東日本大震災の3月11日(2011年)、防災の日の9月1日(1923年の関東大震災)など防災、災害対策に思いを寄せるきっかけとなる日があり、こうした日をきっかけに、ドローン利活用の推進も含めた議論を行政と地域で活性化させる機運が高まりそうだ。

     都市部超高層マンションに向けたドローンによるオンデマンド配送は今回が国内で初めてだ。JP楽天の向井マネージャーは「今後も本実証実験で得た都市部に向けたドローン配送の知見を生かし、ドローンを活用した配送サービスの実現に向けて取り組んでまいります」と話している。

    千葉・幕張の超高層マンション付近を飛ぶドローン
    荷物を積んだドローンがマンション屋上に着陸
    利用者がスマホで専用サイトから注文する
    注文に使う専用サイト。過積載を避ける必要があるため「重さ」が明示されている
    今回の配送実験で用いられた機体。JP楽天と台湾CIRCが共同開発した配送専用機だ

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
  • 2021.12.10

    標高差1600mのドローン配送成功でインフラ化にめど JP楽天ロジスティクス向井秀明氏インタビュー

    account_circle村山 繁
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     楽天グループ株式会社(東京都世田谷区)と日本郵便株式会社(東京都千代田区)の合弁企業、JP楽天ロジスティクス株式会社(東京都千代田区)が9月末に配信したプレスリリースがドローンの関係者の間で話題になった。標題は「山岳エリアにおける配送の実用化に向けた実証実験を実施」で強調された表現はない。しかし本文を読むと、山間地の離陸地点から標高が約1600m高い目的地まで、地元事業者を中心に2人体制で、7㎏の荷物をドローンで運び、しかも自動で届けたあと離陸点までドローンを帰還させている。難易度は低くない。登山者を受け入れる山小屋が飲み水や食料などを調達することは、必要な作業だが大変な重労働だ。担い手の確保も難しい。ドローンの取り組みはこの難題の解決に道を開きそうに見える。JP楽天ロジスティクスドローン・UGV事業部の向井秀明ジェネラルマネージャーにインタビューをすると、主に4点の成果があったことと、この取り組みに使った機体が、台湾大手の機体をカスタマイズして使ったことが分かった。向井氏は「今回の取り組みでインフラ化の『やり方の型』を見つけた」と話す。

    標高差約1600m、距離10㎞のドローン配送を2人体制で

     JP楽天ロジスティクスが参加した実験は、2021年8月から9月までの2か月間、長野県白馬村の山岳エリアで行われた。実施主体はJP楽天ロジスティクスを含めて11の企業、団体、自治体で構成する「白馬村山岳ドローン物流実用化協議会」だ。構成する企業・団体は、JP楽天ロジスティクスのほか、株式会社白馬館、一般財団法人白馬村振興公社、株式会社からまつ、白馬村、株式会社MountLibra、株式会社eロボティクス、株式会社丸和運輸機関、株式会社カナモト、有限会社KELEK、株式会社先端力学シミュレーション研究所だ。

     実験は、山岳エリアでの物資輸送の課題を、ドローンを活用して解決を目指す取り組みで、JP楽天ロジスティクスが配送ソリューションの提供を担った。

     実験は、白馬岳の標高1250mの登山口にある宿舎「猿倉荘」から、標高2730mの白馬岳頂上宿舎や、標高2832mの「白馬山荘」までの、生鮮食品や飲料、医療物資などの運搬。往復10㎞、標高差は最大1582m、積み荷は最大7㎏。パイロット任務や運航管理を地元事業者が主体で担う体制にした。また2020年8月に白馬村で行った前回の実験では7人の補助員を配置するなど10人以上の体制で運用していたが、今回は補助員の配置をせずに2人体制で運用に臨み、それを成功させた。

     このドローン配送の成功は、運用体制の省人化、大幅なコスト削減の実現にめどをつけた。また発表では、「新機体を用い」たことも明かしている。さらに許可承認を受けたうえで、対地高度1m以下の高さから積み荷を切り離して落下させる物件投下による配送も実施した。補助者を配置しない目視外飛行での物件投下による往復配送の実現は、本実証実験が国内で初の事例とも伝えている。

    ドローンに配送ボックスをセット

     ■向井氏「実用化へギアが変わった」 機体は台湾大手

    この実験をどう見ているのか。JP楽天ロジスティクスドローン・UGV事業部の向井秀明ジェネラルマネージャーに聞いた。

    ――この発表には複数の見るべき要素が詰まっていると感じた。実験の成果を整理すると?

     「どちらかと言えば、一見、地味な発表だと思います。ふだん山に行かない方も多いと思います。ただ、業界や実情をご存知の方には『実用化が見え始めたのではないか』と思って頂けそうなことを詰め込みました」

    ――どんな性格を持った実験だったのでしょう

     「実施したのは標高2832mの高地に向けて荷物を運ぶミッションです。ヘリを使うか、歩いて7時間かけて運ぶか、という選択肢しかないところで、ドローンという新たな選択肢を試した重要なイベントでした。新たな配送インフラとなるかどうかという大きな意味を持っています。高低差約1600mを往復飛行させたのですが、従来はドローンで7㎏運び終えたあと、離陸地点まで飛んで戻るのは難しかった。それを成功させた意味でも重要だったと思っています」

    ――改めて取り組みの意義を教えてください

     「大きく4つありました。一つ目が省人化です。ドローンの取り組みはさまざま行われていますが、それを見た人は『こんなに人が必要なんですね』と口にします。必要な人員が多いと1配送のコストが高くなります。インフラ化したいのに人手をかけていてはなり立ちません。いかに少人数にするかが重要です。現時点では1人体制は難しい。最低2人は必要です。それであればこの2人でどう実現するか。それをこの1年間、チームで考え抜きました。白馬で10人以上の人手をかけ運んでいたところを、目視外・補助者なし飛行のレベル3の承認を受けて、さらにドローンの機体性能や、遠隔監視システムなども大幅に向上させて、今回ついに、2人運用体制で配送を成功させることができたわけです。事情をご存知の方が見ると、2人で運用できるのならコストが見合うのではないか、などと思って頂けると思います」

    ――地元の事業者が主体で運用させた、というお話でした

     「そこが二つ目の意義です。現時点であれば楽天のメンバーが現地に赴いて運用すればよいのですが、今後インフラ化するにあたっては、毎回楽天が出張して運用する体制にするわけにはいきませんし、専門家しか使えないソリューションであってもいけません。地元のドローン事業者、将来的には未経験の山小屋のスタッフさんや、地元の運送業者が導入できるようにすることにこそ意味があります。今回は、地元の事業者さんに適切なトレーニングを提供し、運用できるかどうかを試しました。それに成功したことが今回の大きな成果でした」

    ――「地元で」「2人で」可能なソリューションであれば導入のハードルが下がりそうです

     「その『2人で』を実現させるには、往復飛行ができることが大事なのです。それが三つ目の意義です。それまでは離陸場所、着陸場所のそれぞれに人を配置していました。なぜなら着陸場所でドローンのバッテリーを交換しなければならなかったからです。しかしバッテリー交換なしで往復飛行できるようになったことで、標高2800mの目的地に人を配置する必要がなくなりました。ドローンの専門家は離陸側にさえいればいい。それを今回はしっかり実現できました。実はこれを実現させるために、長距離を飛べて、重い物が運べる信頼性の高いドローンの開発を進めてきました。その開発が進み、本実証における飛行に成功したということも、このリリースに隠れている事実です」

    インタビューに応じる向井秀明ジェネラルマネージャー

    ■“新機体”は台湾CIRC製ベースに共同開発した機体

    ――発表には「新機体」とだけ、あっさりと表現されていました

     「『新機体』の正体は、台湾のCIRC(コアトロビック・インテリジェント・ロボティクス・コーポレーション、中光電智能機器人、https://www.coretronic-robotics.com/)製のドローンがベースです。台湾では非常に有名なメーカーで量産機器も作っています。生産品質が量産品質ですので今回採用しました。過酷な飛ばし方をさせるので、そのままで使うのではなく共同開発をしたドローンです」

    ――さて、3つの大きな成果を教えて頂きました

     「もうひとつありまして、それが往復飛行を実現できた大きな要素です。3月の法改正です。従来は目視外・補助者無しの飛行では、物件を投下してはならない、となっていましたが、物流をするうえでは障害になります。なぜなら着陸場所に草があったり、石があったりして、着陸をすることが危険になるケースがあるからです。またドローンは『地面効果』の影響で着陸直前にもっとも不安定になります。法改正により1メートル以下からの物件投下が許可されたことで、ドローンが安定している中で、安全に荷物を下ろすことができるようになりました。さらにバッテリーの消費も節約できます。これが可能になったことで、十分にバッテリーを残せるようになりました」

    ――4つの成果を得られるまでを振り返ってどんな感想をお持ちですか

     「今回の取り組みで、実証実験から実用化に向けて大きくギアが切り替わったとわれわれは感じています。取り組みの間は、ずっと実用化の扉を開くために必ず成功させよう、と声をかけあってきた経緯もあります。われわれとしての本丸はラストワンマイル配送です。第三者上空飛行の解禁スケジュールもある程度みえはじめていますが、それまで十二分なノウハウを蓄えておきたい。そのノウハウを蓄えるために、山小屋で実用化を展望できる取り組みが進められたことは大きいと思っています。山小屋のサービスクオリティーが向上し、登山客が増え、登山道の整備が進む、雇用も生まれる、という形で地方創生が進むことを願っていますし、たとえばヘリからドローンへの代替が進むことでカーボンニュートラルが進むことにも期待します。われわれは今回の取り組みで、インフラ化するための『やり方の型』を見つけましたので、料金を頂戴して運用する実用化につながることを目指します。そこが見えたことこそが、今年の実証の非常に大きな成果だと思っています。それと、白馬の登山シーズンには当たり前のようにドローンが飛んでいるようになればいいですね」

    ――白馬の風景にドローンが溶け込む日が来そうですね。楽しみです。ありがとうございました

    ■JP楽天ロジスティクスの実証実験の概要
    ・実施期間 : 2021年8月から9月までの約2カ月間
    ・配送ルート: 「猿倉荘」(標高1250m)から離陸し、
            白馬岳頂上宿舎(標高2730m)および「白馬山荘」(標高2832m)に配送
    ・飛行距離 : 往復約10km、高低差約1600mの配送
    ・配送物資 : 生鮮食品、飲料、医療物資他(最大7kg)
    ・運営主体 : 白馬村山岳ドローン物流実用化協議会
    ・ソリューション提供
          : JP楽天ロジスティクス株式会社
    ・実行   : 地元事業者
    

    AUTHER

    村山 繁
    DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。