節目としての2025年
2025年は日本の次世代エアモビリティ産業(空飛ぶクルマ、ドローン)にとって重要な節目の年になる。
大阪・関西万博では、空飛ぶクルマのデモンストレーションが行われる。空の移動革命に向けたロードマップでも、万博は重要なマイルストーンとして位置付けられている。
今年は、航空法で無人航空機が定義されてから10年を迎える。民生用マルチコプターの普及や首相官邸無人機落下事件(2015年4月)などを背景に、小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会の設立や改正航空法の施行など、日本でドローンのルール形成が本格化した。日本のドローン関連の団体は、この時期に創立したところが多い。
次世代エアモビリティが産業として発展するためには、次の10年に向けたビジョン・世界観を共有していくことが重要である。次の10年間はAIなどのテクノロジーが私たちの経済活動、社会活動に溶け込むことになる。
日本は、人口減少やインフラ老朽化、気候変動、大規模災害などのリスクに直面しているが、新しいテクノロジーの実装は持続的な経済成長の実現に貢献できる可能性がある。石破政権は地方創生2.0の中で新しい技術の活用を進める方針を示している。
次世代エアモビリティは地域社会を支える新しいインフラや産業として、分散型ネットワーク社会の実現に貢献できる可能性がある。持続可能なエコシステムを形成するためには、(1)産業構造の構築や、(2)重要技術の研究開発、(3)グローバルとローカルでの事業展開、(4)制度設計・ルール形成の推進、(5)専門的な人材育成を進めることが柱として重要になる。
(1)産業構造の設計
業務用の次世代エアモビリティの産業構造として、セクターと提供する機能をベースに設計する方法が考えられる。
セクターは、民間・学術・公共・防衛の四つに分類する。
・民間:事業者による活動(ドローンの利活用の例:点検、建設・土木、物流、農林水産業、警備、空撮、エンターテイメント、空飛ぶクルマの利活用の例:輸送)
・学術:教育機関による活動(例:実習・訓練、学術研究)
・公共:政府機関や自治体の活動(例:警察、消防、海上警備)
・防衛:自衛隊の活動(例:各種事態への対応、災害派遣)
提供する機能は、サービス、アプリケーション、機体・ハードウェア、管制・通信・地上インフラ、周辺領域などのレイヤーで分類する。
近年、日本でもデュアルユース技術への関心が高まっており、ドローンも重点分野の一つとして注目されている。そうした中で、具体的に市場を開拓していくためには、産業全体の構造を示した上で、各企業が強みとなる分野を成長させていくことが重要になる。
(2)重要技術の研究開発
次世代エアモビリティの事業化を進めるためには、安全性・経済性・環境性を満たすことが求められる。機体開発や運航管理などが技術開発の対象となる。
航空産業は統合的なイノベーション産業としての側面があり、開発した技術は他の分野でも応用できる可能性がある。経済安全保障戦略としても重要性が高い分野である。
日本で次世代エアモビリティ分野で研究開発するためには、航空やロボット分野の人材を中心に、製造業や社会インフラなど日本が強い分野の知見を活かすことや、グローバルな開発チームを編成することなどが考えられる。
(3)グローバルとローカルでの事業展開
日本の次世代エアモビリティ産業が成長するためには、グローバルとローカルでの事業戦略を考えていく必要がある。
具体的な例として、エアロネクストは、モンゴルのウランバートル市内で、ドローンや次世代輸送配送管理システムを活用したスマート物流の都市型モデルの実装を進めている。国内では戦略子会社のNEXT DELIVERYが、小菅村モデルの普及に向け、ドローン配送の事業化を進めている。小菅村では、ドローンの活用や、物流倉庫への荷物の集約など、山間部における新しい物流の取り組みが行われている。
新興国におけるインフラの構築と、人口減少社会における国内のインフラの再構築をセットで進めることは、日本の成長戦略として有力な選択肢になる。事業展開として、機体・システム事業者と、各地の社会インフラ事業者が連携し、サービス展開する方法がある。
(4)制度設計・ルール形成の推進
日本では次世代エアモビリティ分野の制度設計は、ロードマップに基づき進められている。空飛ぶクルマは「空の移動革命に向けたロードマップ」、ドローンは「空の産業革命に向けたロードマップ」が公開されている。
空飛ぶクルマは万博に向けた準備、ドローンはレベル4(有人地帯における目視外飛行)の導入などが進められてきた。岸田政権ではデジタル技術の実装に向けた規制改革が行われた。
次のステップとして、空飛ぶクルマについては商用運航に向けた制度(例:機体、技能証明、空域・運航管理、離着陸場)の具体化が重要になる。ドローンについては利活用の拡大に向けて、運航管理システム(UTM)の導入、ドローン航路の整備、機体・型式認証制度の運用改善、災害時における運用などが重要なテーマとなる。
(5)専門的な人材の育成
先端的な技術の開発や実装をするためには、人材育成を重点的に行なっていくことが求められる。21世紀に入り、デジタル技術の発展が進んでいるが、産業活動や社会活動においてどのように活用するかは人間が判断することが求められる。
大学や高専などの高等教育機関は、学生向けの教育、企業との共同研究、社会人向けのリカレント教育、海外の教育機関との共同プログラムの展開をセットで行い、地方創生の拠点として発展を目指す方法がある。
地域の産業活動を担う人材を育成するためには、専門高校(例:農業高校、工業高校、水産・海洋高校、商業高校)で、現場作業におけるフィールドロボットの利活用について実習を行うことも施策の候補になる。
今回の記事では、日本の次世代エアモビリティ産業にとって2025年が重要な節目であることを示した上で、次の10年に向けたビジョン・世界観を共有することの重要性について提案を行った。
次世代エアモビリティを産業として持続的に発展させるためには、産業構造の設計や、重要技術の研究開発、グローバルとローカルでの事業展開、制度設計・ルール形成の推進、専門的な人材の育成を行っていくことが重要になる。
2020年9月16日、日本では安倍政権が退陣し、菅内閣が発足した。日本では、20世紀の段階から、農薬散布を目的とした、産業用無人ヘリコプターの開発や実装が行われてきた。しかし、無人航空機が政策分野として本格的に立ち上がったのは、安倍政権になってからである。そのため、今回は、新しい政権が発足する節目のタイミングで、産業用ドローンの社会実装戦略について記事を寄稿する。
現在、日本では、人口構造の変化(人口減少・高齢化)や、インフラ老朽化、大規模災害、新型感染症のリスクに直面している。こうした課題を解決するためには、新しいテクノロジーの実装や、社会システムの再構築が必要である。
ドローン(無人航空機)を活用した場合、空からの産業活動が可能となるメリットがある。具体的には、インフラ点検や、建設・土木、測量、警備、環境調査、農業、森林管理、漁業・水産資源管理、環境調査、災害対応、保険調査などの分野で、社会実装が始まっている。
産業分野において、ドローンには三つの役割があると考えられる。一つ目は、カメラ・センサーとしての役割である。情報収集・意思決定のサポートを行う。二つ目は、ロボットとしての役割である。作業のサポートを行う。三つ目は、モビリティとしての役割である。移動のサポートを行う。これら三つの役割を通じて、フィールド業務の自動化・リモート化への貢献が期待されている。
日本では、ドローンといえば、小型民生用マルチコプターを思い浮かべることが多いが、産業目的で使う場合、用途に応じて、機体の種類を使い分けていく必要がある。機体の構造・飛行方法などで分類した場合、回転翼機(シングルローター、マルチコプター)、固定翼機、VTOL機、飛行船・気球型などが存在する。
市場環境でみた場合、日本では市場規模の拡大や制度設計が進み始めている。インプレスの調査では、2019年度の日本国内のドローン産業の市場規模は1,409億円である。2018年度の931億円から478億円(前年度比51%増)増加している。制度設計については、2022年度のレベル4(有人地帯の目視外飛行)の実装に向けて、官民協議会などで制度設計に向けた議論が進められている。
しかし、今後、産業として成長を加速させるためには、社会実装戦略について再構築する必要がある。実証実験のフェーズから、実装段階のフェーズに移行させるためには、業務プロセスの一部を置き換えるのではなく、フィールド業務の自動化やリモート化を前提に、プロセス全体の再構築を進めることが求められる。
制度設計についても、空全体の産業戦略の視点で、ルール形成を行っていくことが不可欠である。現在、空の産業革命に向けたロードマップは、小型無人機の低高度における利用を想定し、四つのレベルで設計されている。しかし、小型無人機だけでなく、エアモビリティ やHAPS(成層圏プラットフォーム)などの実装を行うためには、低高度から高高度までを含めた空の利活用について再設計を進めていくことが求められる。統合的な空のプラットフォームとして、新しいレベル(レベル5)のコンセプトを提案する方法も考えられる。
現在、ドローン産業は、重要なターニングポイントを迎えている。社会的な課題の解決に貢献し、産業として成長するためには、新たな進化が必要な時期にきている。新型感染症の拡大を背景に、新しい社会を求める動きも出てきている。こうした変化に対応していくためには、自らコンセプトを提示し、行動していくことが重要である。(寄稿)