下水道管路の劣化を見つけ、必要な補修を施すまでの作業を途切れなくつなぐための共同研究が埼玉県で進む。埼玉県と関係事業者の官民8社が3月10日、協定書に調印した。埼玉県朝霞市に本社を構える株式会社NTT e-Drone Technologyも名を連ねた。8者は今後、埼玉県内の主に大規模管を対象に、2028年3月末までの2年間で、点検、解析、補修、情報管理を一体化させて統合する管理システムの設計に挑む。下水道管渠をめぐっては2025年1月に八潮i市(埼玉県)で発生した道路陥没の原因と推定されたことから、従来の水質改善に加え、管理の維持・管理が研究対象として比重が高まっていて、全国展開も見据える。
協定書に調印したのは、埼玉県、公益財団法人埼玉県下水道公社と、NTT東日本株式会社埼玉事業部、株式会社NTT e-Drone Technology、NTTインフラネット株式会社、国際航業株式会社、株式会社染めQ(そめきゅう)テクノロジィ、日特建設株式会社の8者。NTT東日本埼玉事業部を統括役に、民間6社が分断された情報と工程の全体をつなぐ「工程一体化DXモデル」を設計し、運用し、定着させる。
下水道管路の点検は、点検、解析、補修などの個別の専門作業に分かれて行われていることが一般的だ。それぞれの専門事業者が独自の仕様で個別最適を図っていて、別の専門事業者との連携に課題が残ることが長らく指摘されてきた。八潮の陥没事故で原因究明委員会が今年2月に提出した最終報告では「施設管理における情報共有・体制のあり方の改善」「施設管理における情報共有・体制のあり方の改善」「新技術の開発」などが提言されており、それを受けた形で今回、埼玉県が「埼玉県下水道管路マネジメントシステムの共同研究」の公募につながった。
なお、最終報告に盛り込まれた「新技術の開発」に「期待される技術開発」のひとつとして、「飛行式ドローンの性能が向上しており、活用の標準化を検討すること」と盛り込まれており、イードローンはその役割を果たすことになるとみられる。
協定書の調印式で埼玉県の大野元裕知事は、「下水道管路において、特に地中の深いところにある大規模管路において、流れが速い、水が止められない、硫化水素等のため長時間の活動ができない、などの制約に伴うさまざまな課題が明らかとなりました。課題解決にはAI、センサー技術、ドローンなど新たな技術の確立が必要ですが、現時点ではわが国にはしっかりとした管路点検、管路周辺の空間測定方法、抜本的な補修技術は存在せず、埼玉県のみならず日本全体で何が起こっても不思議ではない状況です。そういった中、埼玉県として新たな技術の確立に向けて限りなく努力を払う決意をしたといころです。事故が起きた県としての責任として、ここをフィールドに一刻も早く、可能な限り安全なシステムを作っていく必要があると思っています」と危機感と使命感をにじませながらあいさつした。
NTT東日本執行役員で埼玉事業部長の小池哲哉氏は、現状の下水道管路の維持管理について、「点検調査、解析、補修、情報管理など工程ごとの専門性を持つ実施主体が別々の仕組みで動いている現状があり、プロセスが分断されている」と分析し、「ここを見直さない限りDX、予防保全策などを講じても部分最適におわる」と指摘。「人手に頼る維持管理から工程と情報を一気通貫でつなぐ仕組みへと転換するタイミング」と考察したうえで「工程一体化DXモデル」の構築を提唱した。
小池氏は2年間の研究期間の成果を、実装、県全域への浸透、全国化と段階的に拡大することで、日本全体の下水道管理マネジメントの効率化を意識した取り組みであると説明した。
また調印式にイードローンの滝澤正宏代表取締役社長は会場に持ち寄った屋内点検向けの球体ドローンELIOS 3を持ち、「小指で持ち上げられるほど軽く、ガードに覆われていて周囲を傷つけるリスクがない。今回のプロジェクトでは人が立ち入ると危険になる場所でもドローンを使うことで安心を提供できることをめざしていきたいと思っています」などとあいさつした。ELIOS 3はGPSの届かない屋内でも飛行しながら3Dマップをリアルタイム表示する。イードローンが開発した「eドローンAI」を活用することでひびの自動検出が可能になる。
下水道管には家庭の汚水を流す内径1センチのものから内径が10メートルを超えるものまでさまざまなある。総延長でもっとも主流なのは内径2センチの管だ。この場合、下水管の点検にドローンは使えないが、埋設場所が浅く、更新や新たな管との置き替えが比較的容易だ。一方、いったんトラブルが発生すると深刻な事態を招くのが、流量が多く、水の流れを止めることが難しく、地中深くに埋設され、硫化水素の発生リスクなどからなどから点検が困難な大口径の下水管だ。八潮の道路陥没現場にあった下水管も内径4.75メートルの大規模管だった。今回の研究も古く大規模な管が主な研究対象だ。
埼玉県内の下水道管路の総延長は約467.7キロメートル(2023年答弁)で、埼玉県は研究事業の対象は、敷設から30年以上が経過した内径2メートル以上の大規模管約155キロメートルだという。
このほかナノ統合技術で補修や補強実績を持つ染めQ、吹き付け技術で定評のある日特建設、3D化、地理情報システム(GIS)技術で知られる国際航業が連携することで、埼玉モデルの構築に力を入れることになる。




ブルーイノベーション株式会社(東京)は、埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故を受け、国土交通省が地方自治体に要請した「下水道管路の全国特別重点調査」の一環として、栃木県野木町で行われた雨水管点検に屋内点検ドローンELIOS3を投入した。調査は渡辺建設株式会社(宇都宮市)が請け負い、ブルーイノベーションと連携をとって実施、作業員が管路内に立ち入ることなく安全を確保するとともに、工期短縮にもつなげた。
野木町での調査は昨年(2025年)12月中旬に行われた。国交省がその年の3月18日に地方自治体に対して要請した「下水道管路の全国特別重点調査」に基づき野木町が実施した。国交省は調査対象を「社会的影響が大きく、大規模陥没が発生しやすい管路」と定めていて、例示された条件である「完成から30年経過、管径2m以上」などに該当する雨水管を調査した。
国交省は調査方法について「潜行目視またはドローン・テレビカメラ等による調査」と言及していた。「潜行目視」とは管路内に調査員が直接管内に入り、照明を使って壁面のひび割れ(クラック)、腐食、木の根の侵入、土砂の堆積状況を調査員の目で確認する方法だ。詳細な状況把握が可能だが、酸欠、有毒ガス、増水などのリスクがある現場のため、調査員の安全確保として十分な換気などの管理が必要だ。雨水管の場合は点検の可否や安全性が天候に左右される。点検の現地で天候に問題がなくても上流で雨が降っていれば点検現場がその後、増水に見舞われる危険がある。ドローンを使えば調査員が中に入ることがなくリスクを大幅に減らせる。ドローンの機能も大幅に向上していることから、調査業務を請け負った渡辺建設がブルーイノベーションに参加を呼び掛けた。
野木町の雨水管の調査にELIOS3を使ったことで、調査員を増水リスクなどの危険に直面させることなく作業を終えることができた。渡辺建設はDroneTribuneの取材に対し「下水道点検では作業員など5~6人が管路に入ることがあります。安全であるとは言えない空間での調査ですので人が入らなくてすむとなると大きなメリットです」とドローン活用のメリットを説明した。
調査を発注した野木町もDroneTribuneの取材に対し「発注はドローンの使用を前提ではありませんでした。受注者からの提案でドローンを使うことになり、安全確保のメリットは大きいと感じました。(町内には)ドローンが飛行できる大きな管径の管路は多くはありませんが、今後も機会があれば検討することになるかもしれません」と話した。
またブルーイノベーションは1月13日に発表したプレスリリースで、通常なら5日間の工期が2日に短縮できたと伝えている。DroneTribuneが確認したところ渡辺建設も「それは事実です」と話している。工期短縮もドローン活用のメリットとして認知が広がる可能性がある。
一方で、点検機能を満たすドローンの台数が需要にこたえられるだけ十分かどうか、ドローン点検のコストを各自治体が負担できるか、などが課題となる可能性がある。
全国の下水道約49万㎞の約95.5%は口径450mm以下の管が占めていると言われる。そうなるとドローンで点検できる下水管はわずかということになる。
ブルーイノベーションのELIOS3は機体サイズが480mmだ。管径がこれより大きいと飛ばせない。株式会社LiberawareのIBIS2はシリーズや機体が約200㎜と小さいが点検管経としては500㎜以上が推奨されている。日本の下水道の大部分は直径200mm〜450mmで、ドローンも人も立ち入れず、主に自走式テレビカメラ車や引込式カメラが点検を担う。
一方で2025年1月に道路陥没を起こした八潮市の下水管は最大管径が4.75mだった。管径2m以上の大口径管の中でもさらに巨大な部類で日本国内の下水管総延長の0.1%にも満たないレアな下水管だ。これを前提に下水管全体へのドローンの導入を主張するのは現時点では非現実的だ。
しかしながら大口径の管路ほど大都市近郊にある事実がある。問題が起きれば、より多くの人々に影響を及ぼす。八潮の事故では約120万人の周辺住民が生活用水の使用制限を受けた。これよりも大きな管径の下水管に問題が起きればさらに大きな影響が出るとも想像しうる。東京には内径12.5mの下水管や、内径8mの下水管がある。奈良県から大阪府へ流れる大和川上流流域下水道にも数メートル級の大口径管が使われている。
下水道管の老朽化や損傷が原因の道路陥没は、2022年度に2607件発生した。老朽化した下水道管が破損したり、硫化水素の発生でコンクリートが腐食したりしたことが主な原因だ。野木町の点検対象は雨水管で幸い大規模補修の必要性は確認されなかった。一方、硫化水素が発生しやすい汚水管や合流管、とりわけ古いコンクリート製の汚水管は陥没リスクが高いうえ、硫化水素の発生は人の安全性も脅かす。大きな汚水管は総延長に占める割合こそわずかではあっても点検の重要性は重大だ。ドローンの優先度が高いと言われる理由だ。
下水道管の老朽化リスクが日常生活に忍び寄る中、下水道とドローンなどへの関心はさらに高まりそうだ。


埼玉県の大野元裕知事は5月1日、八潮市内の県道で陥没しトラックが転落した事故で、2月にドローンが発見した通り、地下10m、現場から下流に30mの地点で、残されていたトラックの運転席部分に男性の姿が見られたことを明らかにした。同日、消防隊員らが立ち入って確認した。翌5月2日、午前5時前から消防などが男性を引き上げ、その場で死亡を確認した。
陥没事故は1月28日に発生した。救出作業は二次被害のリスクが想定されたことなどから難航した。陥没から8日後の2月5日に、ブルーイノベーション株式会社(東京)や株式会社Liberaware(リベラウェア、千葉市)のドローンが地下の様子を確認することを試みた。その結果、Liberawareの超狭小空間点検ドローンIBIS2が陥没場所から離れた下水管内でトラックの「キャビンのようなもの」を見つけた。これが、その後の救出活動の方針の軸となるなど転機となった。現在、みつかった男性が運転手であるかどうかの確認を進めている。
道路陥没のリスクが高まっていることに関連し、今後、県などによる災害対応の課題や改善点の洗い出しが進められることが期待される。特に、ドローンの活用については、早期の投入要請ができなかったのかどうかなど初期対応を含めた課題、改善点の洗い出しが不可欠とみられる。ドローンに関する基礎知識の共有の是非なども議題になりそうだ。
また陥没事故発生以来、各地で国、地方の担当者などが参加する連絡会議が招集されるなど対応の必要性が高まっており、点検の強化など災害防止対策の見直し、実施が求められることになる。
なお、DroneTribuneは見つかった男性、ご遺族にご冥福をお祈り申し上げます。また、救出、復旧に尽力してこられた関係者、これから復旧にあたられる関係者に敬意を表し、そのために不自由な生活を強いられた地元のみなさまにお見舞い申し上げます。
